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寄稿文「消費者庁の未来と消費者庁職員である私たちの未来」

(消費者庁採用職員一同)

消費者庁設立後に生じた変化

消費者庁が設立されてから、2024年9月で15年を迎えます。
この間、消費者庁は次々と生じる多くの社会課題に直面し、その都度、試行錯誤をしながら取組を進めてきました。この中には、持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けた意識の高まりや、「コロナ禍」が契機の一つとなった急激なデジタルシフトなど、消費者庁設立後の社会情勢の変化に伴って新たに生じたり、緊急度や優先度が高まったりした課題も数多く存在します。他方、当然のことながら、消費者の生命・身体に係る重大事故等への対応や悪質事業者への対応、あるいは消費生活相談に係る地方公共団体の体制整備など、設立時から消費者庁に期待されていた取組の重要性が低下しているわけでもありません。つまり、社会経済が複雑化し、消費者が直面しうる課題が高度化・多様化するにつれ、消費者庁の活動領域は広がってきたといえます。
また、それらの社会課題に対応する政策手法も多岐にわたります。消費者への注意喚起や普及啓発、事業者への法執行、地方公共団体への情報提供や財政支援に留まらず、近年では行動経済学を活用したナッジの発想、事業者との連携・協働や共同規制の考え方、地方公共団体共通の業務システム基盤の整備といった手法も取り入れられるようになりました。
社会環境の変化が早く、先を見通しにくい状況にある現代において、こうした消費者庁の活動領域や政策手法の拡大は今後も続いていくと考えられます。
組織の変化に目を向ければ、定員は設立時の202名から465名(令和6年4月1日時点)まで増え、あわせて、その時々の重要課題に応じて組織構成も変化させてきました。また、実証フィールドを活用したモデルプロジェクトや国際消費者政策研究を行う新たな恒常的拠点として徳島県に新未来創造戦略本部を開設するなど、消費者庁の組織機能の充実も図ってきました。

次の消費者庁(私たち)の15年を考えよう

このような消費者庁の活動領域や政策手法、組織機能の拡大の結果、消費者庁の役割や「消費者行政」の意味するところを端的に表すことは、少し難しくなってきているかもしれません。とはいえ、消費者庁の未来は、「消費者行政」を志して消費者庁に入庁した私たちの未来そのものです。消費者庁設立15年を迎えるにあたり、これまでの15年を振り返り、今後の15年で消費者庁が果たすべき役割を私たち自身が今一度見据えるために、改めて「消費」の意義について考えてみたいと思います。

「消費」の意義―消費によって自分らしさを実現する

消費には様々な意味が込められることがあります。食料品や日用品などの生活必需品の購入から、ある時は自分自身や生活空間を飾ることで日常に彩りを与え、ある時は自分のワクワクやときめきに従って好きなものや好きなことを楽しみ、ある時は自分や自分の子供への投資として他人とは違う経験を求め、またある時は自分が関心を持つ社会課題に貢献している企業や商品を選ぶことで社会との繋がりを得ることもあります。特に、大量生産・大量消費の時代に比べ、価値観が多様化し、物の豊かさより心の豊かさが重視される現代では、消費によって自分らしさを実現する「自己実現」の意味合いはますます大きくなっていくと考えられます。

大切なことは、消費者が自分の望むものを望むように選択できるか

ここで大切になることは、一人ひとりが何を選ぶか・選んだかそれ自体ではなく、自分の価値観や求める心の豊かさに応じて望むものを望むように選択できる状態にあるか、ということです。数多ある商品・サービスの中で、自分にとって良いものを選択することができたという要素や、逆にある程度他律的に決められてもよいと思える商品・サービス領域であれば、その選択プロセスが効率的であったという要素が、その消費で得られる心の豊かさや、ひいては消費者の幸福感に繋がると考えられるからです。

消費者には情報やデジタルサービス等と上手に付き合うことが求められる

もっとも、社会には、消費に係る望ましい選択を阻害しうる要因が数多く存在します。加齢による認知機能の低下などがその一つであり、また、認知機能の低下などが生じていない消費者であっても、情報の客観的な信頼性や取引の妥当性・公正性に関する判断が困難な場面に直面しえます。例えば、パーソナライズされたレコメンデーションの影響、インターネット上に投稿される匿名の評価や口コミの影響、SNS上での第三者による発信や他人とのやりとりの影響、あるいは翻訳技術を介した海外からの情報やAIが(悪意や意図などを介在させずに)生成した情報による影響などもありうるでしょう。そして、それらの情報は、どのような仕組み・経緯で生成され、何故自分の眼前に表示されたのかが、消費者にとって一見して明らかではない場合もあります。さらに、この15年間でデジタルサービスや越境取引の様相が一変し、今後もその急速な進展が続いていくのだとすれば、この先の15年で消費者を取り巻く環境がまた大きく変わる可能性もあると考えられます。こうした様々な主体からの膨大な情報や次々と現れる新たなデジタルサービス等の中で、どのような情報・サービス等に接してどのように振る舞うのか、消費者には難しい判断が求められることになります。それと同時に、消費者がこうした情報やデジタルサービス等と上手に付き合うことができれば、これまで以上に効率的で効用の高い消費を選択することができたり、消費の過程を楽しんだりすることができ、消費による自己実現の更なる充実に繋がりうることは言うまでもありません。

消費者庁の役割―消費者がその力を発揮できるように、あらゆる場面であらゆる手法を尽くす

こうした将来像の中で、消費者庁は今後、どのような役割を果たすべきでしょうか。
大前提として、この先いくら社会経済が変化したとしても、「消費者が主役となって、安心して安全で豊かに暮らすことができる社会を実現する」という消費者庁の使命は、何ら変わるものではありません。そのため、商品・サービスに通常求められる安全性、事業者による表示や取引手法の適切性が担保されていることは当然であり、これらを欠くような事案には引き続き厳正に対処していく必要があります。
このような取組も含め、消費者庁は、変化が激しく先の見通せない時代の中で難しい判断を求められる消費者が、最大限その力を発揮できるよう、あらゆる場面で、あらゆる手法を尽くす組織であるべきと考えます。中でも、他の消費者による発信や人が介在しないAIによる発信等の一つ一つを全て規制することは決して現実的ではないことを踏まえれば、この玉石混淆の情報にあふれた社会と上手に付き合うための知恵を身につけ、場合によっては他の消費者を助けるために周囲に働きかけることができる消費者の育成は、今後の消費者庁の使命の中核をなすことになるでしょう。さらに、事業者がそうした自立した消費者をパートナーとして位置付け、消費者と事業者が協働して好循環を生み出していけるような環境づくりも、この時代に求められる消費者庁の役割であると考えられます。
では、このような役割を果たすうえで、今後の消費者庁が心がけるべき姿勢や取り入れるべき発想は何でしょうか。例えば以下のような観点が挙げられるかもしれません。

消費者庁に求められる姿勢1―正しい情報を機動的かつ効果的に発信する

第一に、情報の拡散や商品・サービスの移り変わりのスピードが非常に速く、また、様々な主体から様々な意図を持った情報が飛び交う現代においては、消費者庁が信頼できる行政機関として、その都度機動的に正しい情報を発信し続けていく意義は高まっているといえます。世の中の情報流通の速度に行政の発信が追い付かなければ、その間にトラブルに遭う消費者が増えていくおそれがあるためです。そのためには、デジタル技術の積極的な導入を通じて、消費者トラブルに関する情報収集及び分析に係る抜本的な業務効率化・迅速化が必要と考えられます。また、情報発信は、対象となるべき消費者に届き、実際に消費者によるトラブルの回避や早期の相談といった行動変容に繋がらなければ意味がありません。そうした観点から、情報の受け手の想定(ペルソナの設定)やカスタマージャーニーの想定の精緻化といった民間企業で取り入れられている発想・手法等も積極的に活用し、発信の効果をモニタリングしながら機動的に発信方法や内容を見直していくことも必要でしょう。

消費者庁に求められる姿勢2―課題解決のための対話、バックキャスティング的発想

第二に、機械的にできる業務や作業を効率化することで、在るべき未来の実現のために検討・対応すべき本質的な社会課題の解決に注力するというリソースの振り向けの発想を、我々職員が意識的に持つことも必要かもしれません。複雑な社会課題に立ち向かうためには、消費者庁職員が実際に様々な関係者と継続的に対話をし、法制度の見直しをはじめとした抜本的なアウトプットに繋げていく必要があります。執務室に座っているだけでは良い政策は作れません。世の中のあらゆる動きにアンテナを張り、消費者とも事業者とも学識者とも連携できる「フットワークの軽い消費者庁」であるべきではないかとも考えられます。
「今の状態に応じて何ができるか」を着実に積み上げるだけでなく、「望ましい未来から逆算して、今、何をすべきか」というバックキャスティング型の発想によってこの先の消費者庁を形作っていく。消費者が消費を通じて未来を選ぶことができるように、私たち職員一人ひとりは、このような視点を各々がそれぞれ持つことで、仕事を通じて自ら望ましい未来を作り上げていくことができます。

消費者庁は一人ひとりが笑顔でいられるかに焦点を当てる組織

消費者庁職員が、職員採用説明会や官庁訪問等の場面で、消費者庁の特徴を語る際によく使うフレーズがあります。それは、「消費者庁は自分たちの生活に身近な問題を扱う」ということです。科学技術が発展し、様々な社会課題が革新的なアイディアで解消され、希望であふれる数十年後の未来予想図が描かれる中で、消費者庁はそうした未来社会の中で彩り豊かな消費を実現することができているか、その街を歩く一人ひとりが笑顔でいられるかという点に焦点を当てていく組織です。

「風通しの良さ」と「多様な人材構成」を武器に

もう一点、消費者庁職員がよく口にする消費者庁の魅力があります。それは「風通しの良さ」と「多様な人材構成」です。数多ある社会課題の中から、何を消費者庁が取り上げるべき課題として設定するかが、消費者の安全・安心の確保に向けた一歩となります。消費者庁では、たとえ年次の若い職員であっても、自らが生活の中で得た消費者目線を活かして、自らが気付いた問題意識の解消に向けて、その力を発揮することができます。そして、それを実現する具体的な政策手法については、多様な人材構成の中で様々なバックグラウンドを持った職員が集まり、知恵を出し合うことができます。比較的フラットな関係性の中で、多角的な視点で迅速に政策の適切性・有効性を担保する―これこそがこの15年間で消費者庁が見つけた、今後の15年でも活かしていくべき大きな武器と言えるのではないでしょうか。

次の明るい15年に向けて、「さぁ、私たちは何をして消費者の幸せに貢献しよう」。
消費者庁に関わる全ての方と一緒に、考えていきませんか?

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