COLUMN 高齢者の認知機能障害に応じた消費者トラブルと対応策の検討に関する研究
日本の高齢化率は29.0%(注1)に達し、2025年には、高齢者の約5人に1人が認知症を発症するとの推計もあります(注2)。国民生活センターの報告では、認知症等の高齢者は一般の高齢者よりもトラブルや被害に遭いやすく、また、家族等がトラブルや被害に気付いたとしても契約時点で判断能力が不十分であったことの証明ができないために、トラブルの解決が困難になるケースがあること等が指摘されています(注3)。
そこで、国際消費者政策研究センター(注4)では、認知機能が低下している高齢者の消費者トラブルに注目し、「高齢者の認知機能障害に応じた消費者トラブルと対応策の検討に関する研究」を実施しました。本研究では、PIO-NETに登録された消費生活相談情報の分析と、高齢者にサービス提供や販売を行っている企業等を対象としたアンケート及びヒアリング調査を実施しました。
年齢層別の相談内容の特徴と企業が抱えている課題
消費生活相談情報の分析では、自然言語処理を用いて相談内容を数値化し、傾向分析を行いました。分析の結果、消費生活相談員が「判断不十分者契約(注5)」と判断した契約当事者の相談情報では、70歳代、80歳代、90歳代に共通する点として「認知症」という単語が目立ってみられ、認知機能低下を有しているケースが多いことが分かりました。年齢層別の特徴としては、70歳代では「キャッシング」、「信販会社」といった借金やクレジットでの契約に関連する単語がみられ、80歳代及び90歳代では「新聞」、「工事」といった高齢者が電話や訪問販売で勧誘されることの多い契約に関連する単語がみられました。このように、判断不十分者契約の相談内容からは、認知症等で認知機能が低下している人が、契約当事者としてトラブルや被害に遭うことが多く、その原因として、予期せぬ訪問販売により不要な契約を結んでしまうほか、悪質商法に巻き込まれやすい可能性もあることがうかがえます。さらに、AIによる深層学習を用いた分析の結果から、消費生活相談員が「判断不十分者契約」と判断していないケースの中にも、判断不十分者契約の可能性があるものが相当数存在している可能性も示されました。
また、企業等へのアンケート及びヒアリング調査からは、高齢顧客対応において企業が抱えている課題として、主に契約時の本人の意思確認や認知症の判断の難しさがあるということが分かりました。
本研究の成果として、プログレッシブ・レポート及びリサーチ・ディスカッション・ペーパーとしてまとめたほか、企業で高齢顧客対応をしている人に向けた対応ガイドも作成し、消費者庁ウェブサイトで公表しています。
高齢者の認知機能障害に応じた消費者トラブルと対応策の検討に関する研究
URL:https://www.caa.go.jp/policies/future/icprc/research_003/
担当:参事官(調査研究・国際担当)