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第1部 第2章 第2節 (2)段階ごとの分析

第1部 消費者問題の動向と消費者意識・行動

第2章 【特集】つくる責任、つかう責任、減らす責任~食品ロス削減--持続可能な社会のために~

第2節 食品ロス問題の解決に向けて

(2)段階ごとの分析

生産段階

食品が生産される段階において、品質や形状等の規格に当てはまらない規格外農林水産物や、過剰生産等により余ってしまった未利用の農林水産物が、市場に流通せずに廃棄されることがあります。一方で、規格外・未利用の農林水産物であっても、用途によっては問題なく利用することができる場合も多く、多様な需要と供給を結び付ける工夫によって、規格外・未利用の農林水産物を加工・販売等するなどにより、有効に活用することができます。

消費者庁「物価モニター調査」(2020年2月調査)によれば、規格外等の農水産物を購入したことがあると回答した人は約8割に上りました(図表I-2-2-5)。購入した理由については、「価格が安いから」、「見た目にはこだわらないから」、「規格品と味が変わらないから」という理由が上位となっており、購入しなかった理由については、「買えるところがないから」が多く(図表I-2-2-6)、身近に販売されているところがあれば、購入する人が増えていく可能性があることがうかがえます。

事例 パルシステム生活協同組合連合会

宅配の強みをいかして生産者と組合員をつなぎ食品ロスを削減

パルシステム生活協同組合連合会(以下「パルシステム」という。)は、首都圏を中心に約160万世帯が加入している生活協同組合で、全国の生協に先駆け個人宅配を始めました。パルシステムでは、定期的に組合員と接触の機会がある宅配の強みをいかし、産地の生産者、消費者である組合員、商品の調達や提供を行う生協職員が一体となり、互いの理解を深めながらそれぞれが持つ課題を解決する「協同」の具現化に取り組んでいます。

そもそも生協の宅配事業は、事業者の視点からは事前受注で数量を把握することができるため在庫リスクが少なく、また消費行動の視点からも店舗購入と比べて衝動買いが少ないなど食品ロスが発生しにくい仕組みといえますが、生産者や消費をする組合員との普段からのコミュニケーションがあったからこそ実現した食品ロス削減の取組もあります。

形がいびつだったり、傷がついていたりする規格外の農産物は、味や食感といった本来の品質には問題ありません。このような規格外農産物をうらごしやスティック状に加工し販売したところ、なかでも「うらごし野菜」シリーズは、離乳食やスープの素材として好評でした。いずれも栽培履歴が明らかな産地指定の食材を使用しているため、食品の安全性に関心の高い主婦層からも人気があります。

天候不順等の影響で等級が下がった農産物も積極的に活用しています。例えば、2008年、青森県でひょう害のため大量の「傷つきりんご」が発生した際は、傷つきりんごを原料としたジュースの利用を呼び掛けました。また、2016年に台風の影響で収穫された米が白濁する「シラタ米」が新潟県で多発した際には、炊き上がりの見た目や食味に大きな影響を与えないことを丁寧に伝えながら、利用を呼び掛けました。こうした取組は、生産者支援にもつながっています。

また、組合員の声から生まれたアイデアもあります。ブロッコリーは形やサイズをそろえるために、通常は茎の部分を中心に1株当たり45%ほど切り捨てるところ、長めに残すことで廃棄率を25%まで抑えることができました。同じ量の原料から商品化できる割合が増えたことで、食品製造事業者の経営的にもメリットが大きかったといいます。


組合員への理解を求めるお知らせ


茎長ブロッコリー

COLUMN4
社会的課題に対応するための学校給食の活用(文部科学省)

製造段階

食品を製造する段階では、加工トラブル・調理ミス、賞味・消費期限切れ、作り過ぎ、加工・調理くず、返品等が原因で食品ロスが発生しています。

食品原料の無駄のない利用や、製造工程、出荷工程における適正管理・鮮度保持によって、食品製造段階での食品ロスを減らすことができます。

また、食品の製造方法の見直しに加え、新たな容器包装資材の開発や、パッケージの構造の工夫、又はこれらの取組を組み合わせるなどの容器包装技術等を進化させ、賞味期限の延長等に取り組むことも、食品ロスの削減に効果的です(流通段階参照)。こうした取組は、既に事業者ごとに様々な工夫がなされており、農林水産省では、年々進化する容器包装技術を、消費者に広く紹介するとともに、食品関連事業者の更なる取組を促すため、2017年に「食品ロスの削減に資する容器包装の高機能化事例集」を公表しました。

さらに、食品衛生法(昭和22年法律第233号)に違反した又はその疑いのある食品等について、回収命令又は食品等事業者による自主回収が行われる場合がありますが、その際に過剰な回収につながらないよう、自主回収報告制度の対象となる食品等の範囲を示すことや、食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)違反があった場合に、表示部分にシールを貼り直すなど事業者が適切に表示の是正を実施し、過剰な回収とならないようにすることも、食品ロス削減に効果的といえます。

事例 株式会社ニチレイフーズ

AIを活用し、製造段階で廃棄ロスを削減

食品ロスは、サプライチェーンのあらゆるところで発生しますが、食品製造段階でも、既存検査機の性能上、本来「良品」である可能性のあるものも、やむを得ず廃棄する場合があります。

株式会社ニチレイフーズでは、唐揚げの原料となる鶏肉に混入する硬骨の検査精度を上げるため、人工知能(AI)を活用したX線検査装置を導入しました。従来はX線検査の際、硬骨部分だけでなく、唐揚げの重なり部分等も「硬骨」と認識し、本来問題ないものまで一定量廃棄していました。新たな検査装置では、AIに唐揚げの重なり部分を学習させることで、検査の精度を上げることができました。これにより、廃棄量を半減させることができたと同時に、以前より細かい硬骨まで排除できるようになりました。

同社技術戦略部シニアプロフェッショナルの塚本真也氏は、「製造段階でのロスは食品メーカーにとって、かねてからの課題であり、廃棄ロスを減らす工夫はしていた。AIを活用することによって、精緻な検査が可能となり、安全性を担保しつつフードロス削減につながっている」と話します。


AIを使ったX線検査


また、同社では、外箱の段ボールの傷や破れにより出荷できなくなった商品を使って社内で試食会を実施しているほか、フードバンクへ提供するなど、従業員の食品ロス削減意識の向上にも取り組んでいます。

同社ハミダス推進グループリーダーの吉野達也氏は、「従業員は、全員何らかの形で商品に関わっている。自分たちが作ったものが食べられずに捨てられてしまうことは問題だと皆感じていたようだ。今後もハミダス活動(※)を通じて、従業員の意識を醸成し、食品ロスの削減に取り組んでいきたい」と話します。


※ハミダス活動:従業員のハミダス気持ちをカタチにするニチレイフーズ独自の活動。

流通段階

食品が生産、製造されてから、小売事業者、飲食事業者を通じて消費者に届くまでには、様々なルートがあり、このサプライチェーン上でも食品ロスが発生します。その要因の一つに、製造業、卸売業、小売業による商慣習が挙げられます。複数の関係者が関わるため、個別事業者等の取組だけでは解決が難しく、サプライチェーン全体で解決していく必要があります。

農林水産省では、食品ロス問題をサプライチェーン全体で解決するため、2012年度から「食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム」(以下「商慣習検討WT」という。)を発足し、検討会の開催、調査研究、消費者への理解促進等を進めています。

1納品期限の緩和(3分の1ルールの見直し)

日本の食品業界には、賞味期限を3分割し、最初の3分の1の期限までに食品製造事業者や卸売事業者が小売事業者に納品する、いわゆる「3分の1ルール」という商慣習が存在します。期限内に納品できなかった商品は、ほかに販売できる先がない場合にはそのまま廃棄されることから、食品ロス発生の要因となっています。3分の1ルールは法律等で定められているものではなく、食品業界独特の商慣習です。

商慣習検討WTにおいて2013年度に行ったパイロットプロジェクトの結果によれば、飲料と賞味期間180日以上の菓子を対象に納品期限を3分の1から2分の1に見直した場合、食品製造業においては、鮮度対応生産(注84)等の未出荷廃棄が削減され、物流センターにおいては、納品期限切れ発生数量が減少し、返品も削減される一方で、小売店舗においては、店頭廃棄増等の問題はほぼないことが分かりました。また、その結果を用いて該当食品全体の拡大推計を行ったところ、飲料は約4万トン(約71億円)、菓子(注85)は約1,200トン(約16億円)の削減効果が見込まれました。

これらを踏まえ、農林水産省と経済産業省は、2017年に連名で卸・小売関係団体に、「飲料及び賞味期間180日以上の菓子」を推奨品目として納品期限の見直しの推進を依頼しました。2019年には、2018年度の実証実験の結果を踏まえ、推奨品目としてカップ麺を追加し、袋麺及びレトルト食品についても納品期限の緩和を検討すべき品目と位置付けるとともに上記品目以外も各小売事業者において検討を積極的に行うことを依頼する通知を発出しました。

納品期限を緩和している食品小売事業者は、2019年3月時点では39事業者でしたが、2020年3月時点では108事業者となりました(注86)。農林水産省では、更なる食品ロス削減に向け、2020年10月30日までに全国一斉で商慣習を見直すことを呼び掛ける運動を展開することとし、推奨3品目(飲料、賞味期間180日以上の菓子、カップ麺)の納品期限の緩和について食品小売事業者へ呼び掛けるとともに、食品製造事業者による賞味期限表示の大括り化についても取組を促しています。

2賞味期限の年月表示化

食品の流通の段階で、在庫を別の場所へ転送することがあります。この際、転送先に既に同じ商品が納品されている場合には、既に納品された商品よりも賞味期限の日付が前の商品を納品すること(日付逆転)ができず、手持ちの在庫をさばくことができない場合があります。賞味期限を年月表示(注87)にすることで、日付逆転の発生頻度を減らすことにより、手持ちの在庫を効率よくさばくことが可能となり、食品ロスの削減につなげることできます。

賞味期限の年月表示化は、食品ロスの削減のみならず、貨物の賞味期限ごとの小ロット化を防ぎ、物流業界の業務効率向上に有効であることから、「ホワイト物流」推進運動(注88)に資する取組でもあります。また、製造・卸売・小売段階においても、同じ賞味期限の商品をまとめて保管できることから、保管スペースが少なく済むほか、荷役業務や品だし業務等を効率化することもできます。

一方、年月表示化に伴い、「日」が切り捨てられることから、賞味期限が最大1か月短縮されるため、賞味期限の延長や、小売事業者に対する納品期限緩和の働き掛けが、賞味期限の年月表示化の取組の拡大に向けて重要となります。このため、賞味期限の短縮期間を抑えつつ、年月表示と類似の効果を得ることが可能な「日まとめ表示」(例えば、賞味期限を10日や15日単位で表示)を選択することも、食品ロス削減に有効といえます。

農林水産省では、2019年度に、賞味期限の年月表示化に取り組む事業者の拡大に向け、事業者から取組事例を紹介する「賞味期限の年月表示化セミナー」を全国各地で開催しました。

また、消費者庁では、2020年、農林水産省からの要請を受け、玄米及び精米について、食品ロス削減及び物流の合理化の観点から、調製時期、精米時期等として、年月日表示に加えて年月旬(上/中/下旬)表示ができるように改める食品表示基準の改正を行いました。

このように、流通段階での食品ロス削減の取組は、食品が定められた賞味期限内にきちんと消費されるように各関係者で連携して取り組むべきことであることから、個別事業者だけではなく業界全体で取り組む必要があり、「納品期限の緩和」と「賞味期限の年月表示化」と、いずれの取組にも有効な「賞味期限の延長」を併せて三位一体で推進しています(図表I-2-2-7)。

3日配品の適正発注の推進

日配品(注89)は、賞味・消費期限が短く、これに伴い、小売事業者が食品製造事業者に発注してから納品されるまでの「リードタイム」が比較的短いことがその一つの特徴です。

特に、製造に時間を要する食品については、食品製造事業者は、発注を受けてから製造するわけではなく、発注量を予測し、実際の発注量に確実に対応できるように常に多めに製造をすることから、リードタイムが短い場合に余剰生産、廃棄が発生しやすくなります。商慣習検討WTにおいて2018年度にパンメーカーを対象に行った調査によれば、前日発注の場合の未出荷廃棄金額率は0.91%であり、前々日発注等の場合(0.22%)と比べると、約0.7ポイント高いことが分かりました。

一方、小売事業者は販売予測や発注段階での在庫量に基づいて発注するため、リードタイムを長くするほど、この予測や在庫量とのズレが生じ、売れ残りが発生する可能性が高まります。

日配品の食品ロスを削減するためには、小売事業者での発注精度を高めた上で、食品製造事業者への発注を早期化し、食品製造事業者はなるべく確定情報に基づいた受注生産を行うことが望ましいといえます。

サプライチェーンの無駄を削減する取組(経済産業省)

経済産業省では、2014年度から2016年度にかけて、一般財団法人日本気象協会と連携し、気象情報等を活用して食品ロス等のサプライチェーンのムダを削減する「需要予測の精度向上・共有化による省エネ物流プロジェクト」を実施しました。同プロジェクトでは、需要予測の共有による食品ロスゼロの実現、需要予測の高度化による最終在庫削減、モーダルシフト(注90)によるCO2削減等の成果を上げ、一般財団法人日本気象協会は気象情報等を活用した需要予測のビジネス化を進めています。

また、2019年には、サプライチェーンに内在する様々な課題の解決と新たな価値の創造を実現するため、電子タグを活用したサプライチェーン情報共有システムの構築等の実証実験(注91)を行いました。同実験において、賞味期限・消費期限が迫った食品(パン等)の値段を下げるなどのダイナミックプライシング(注92)の消費者への通知を行ったところ、対象商品の買い上げ数、買い上げ率(商品を取り上げてから購入する割合)共に上昇し、ダイナミックプライシング実施時に、購入目的での買物が増えたことが分かりました(注93)

事例 損害保険ジャパン株式会社

食品ロス削減に寄与する費用保険

2019年11月、損害保険ジャパン株式会社は、貨物・運送保険の分野において、フードバンクと連携し、まだ食べられるにもかかわらず、様々な理由で市場価値を失った食品をフードバンクに寄贈することにより、食品ロスの削減に寄与する新たな仕組みを構築し、寄贈にかかる費用を補償する保険の販売を開始しました。

食品の輸送中に、段ボールの傷や容器のへこみ等、品質には問題がないのに正規の納品物として扱えなくなる場合があります。食品事業者としては、このような食品が横流しされ、ブランドイメージが損なわれることを恐れ、廃棄せざるを得ません。同保険では、食品輸送中の保険事故(保険金を支払う要件となる事故)によって発生したこのような食品を、品質管理責任者が処分方法(寄贈・廃棄)を選択した上で、フードバンクに寄贈した場合、これまで補償の対象となっていなかった、各食品事業者からフードバンクへの輸送費用及び輸送までの保管費用も含め、補償の対象としています。


食品ロス削減に寄与する費用保険の仕組み


「品質には問題がない食品を廃棄せざるを得ない」と判断することについて、『もったいない』という食品事業者からの声をきっかけに、SDGsへの強い思いのある社員が開発を始めたものです。NPOであるフードバンクとパートナーシップを結ぶという保険の仕組みも含め、業界初となっています。

同開発担当の社員は、「本商品の普及と共に、食品廃棄につながる保険事故を減らすためのロスプリベンション(損害防止)サービスの提供等、様々な方法で食品ロス削減に積極的に取り組んでいきたい」と語ります。

小売段階

小売段階では、主に、需要予測のズレ等による売れ残りによって食品ロスが発生します。

小売店舗では、あらかじめ消費者が購入しそうな商品を予測し、店舗に陳列させますが、予測には必ず誤差が伴うため、売れ残りが発生します。また、ある商品が欠品となると、その分消費者の購入機会を失うため、できるだけ欠品を出さないように余裕をもって商品を仕入れるのが一般的です。前項でも述べたとおり、需要予測の精緻化は小売事業者及び食品製造事業者における食品ロスを削減するためには重要な取組といえます。

また、できるだけ賞味・消費期限が近い商品から購入してもらい売れ残りを減らすことは、食品ロスの削減につながります。食品衛生には十分配慮の上、販売期限(店頭に陳列しておく期限)を延長することや、生鮮食品や弁当、おにぎり等の消費期限の迫った商品の見切り販売・ポイント付与等の消費者に経済的メリットのある売り切りの手法も食品ロスを削減する有効な方法といえます。

農林水産省では、2019年に、ICT(注94)やAI(注95)等の新技術を活用した食品ロス削減に効果的なビジネスを募集し、製造・卸売・小売・外食の各段階での需要予測に取り組む8事業者の取組を農林水産省ウェブサイトで紹介しています。

さらに、商慣習検討WTの中で2017年度に行った「食品ロスに関する消費者の理解促進に関する検討会」における検討を踏まえ、小売店舗用消費者啓発資材を作成しました(図表I-2-2-8)。

加えて、2019年10月の「食品ロス削減月間」に、全国の小売事業者に対し、ポスター等による消費者啓発活動の実施を呼び掛け、実際に取組を行った75事業者を農林水産省ウェブサイトで公表しました。事業者からは、見切り品の購入促進や消費者への啓発のみならず、店員の食品ロス削減意識の向上にもつながったとの意見が寄せられました。

小売段階における食品ロスの発生に対しては、消費者の意識や購買行動が大きな影響を与えていることから、小売段階での食品ロスを削減するためには、事業者、消費者双方が取り組んでいくことが重要であるといえます。

例えば、小売店舗では、できるだけ販売期限が近い商品から購入してもらうために棚の手前に販売期限が近い商品を陳列させることが一般的です。消費者が賞味・消費期限について正しく理解し、期限内に食べきれるのであれば、賞味・消費期限が近くても棚の手前から商品を購入することによって、小売段階における食品ロスを減らすことができます。

消費者庁「消費者意識基本調査」(2019年度)によれば、賞味期限と消費期限の意味の違いを「知っている」と回答した人は69.7%である一方、食品や食事について聞いたところ、「賞味期限・消費期限が近づいたものをあえて買う」に当てはまる(「かなり当てはまる」+「ある程度当てはまる」)と回答した人は、11.4%にとどまりました(図表I-2-2-9)。消費者は、賞味・消費期限の意味について、一定程度理解しているものの、実際に商品を選択する際には、鮮度志向が高いことが分かります。また、「賞味期限・消費期限が近づいていても、安くなっていれば買う」と鮮度よりも価格を要因として重視している人は、58.4%に上りました。消費期限が近づいた食品が値下げされていた場合、どのように行動するかを食品別に聞いたところ、「惣菜」、「調理パン」、「弁当」については、いずれも約7割の人が「買う」と回答したのに対して、「精肉」と「鮮魚」については、それぞれ57.1%と47.9%であり、生鮮食品に対しては、値下げされていても購入に慎重な人が一定数いることが分かりました(図表I-2-2-10)。

さらに、消費者庁「物価モニター調査」(2020年2月調査)で、欠品についての消費者の意識を聞いたところ、季節商品のように日常の生活においては必ずしも必要性が高くない食品や菓子、弁当等、代替品の自由度が比較的高いと考えられる食品については、「やむを得ない」と思う人が50%を超えている一方で、牛乳、調味料、生鮮食品では、25~35%程度と、欠品への寛容度が低いことが分かりました(図表I-2-2-11)。

事例 株式会社シノプス

日配食品・パン・惣菜にも対応した小売事業者向け需要予測型自動発注システム

株式会社シノプスは、「世界中の無駄を10%削減する」をビジョンに掲げ、消費者の需要に最も近い小売業の在庫最適を起点に、卸売業の在庫最適、さらにそれを受けて製造業や原材料業への在庫最適へと、需要側(消費者)の情報から流通全体を最適にするデマンドチェーン・マネジメントの考えを活用したシステムを提供しています。

同社が提供するスーパーマーケットを中心とした小売事業者向けの需要予測型自動発注システム「sinops-R6」は、自動発注システム業界では同社以外に導入実績がない、日配食品・パン・惣菜にも対応した需要予測システムで、現在55社の小売事業者で利用されています(2020年2月末時点)。売れ残りのロスと欠品による販売機会ロスはトレードオフの関係にあることから、小売店舗にとって在庫管理の最適化は重要であるといえますが、同システムでは、100以上のパラメーター(天候や来店客数、POSデータ(販売時点情報管理)、特売情報、カレンダー等)から、エキスパート型AIを用い、需要予測と在庫管理の最適な組合せを導きます。利用者であるスーパーマーケットは、発注作業の負担軽減による人手不足解消や欠品ロスを求めて導入することが多いですが、最近は同時に食品ロス削減にもつながることに注目されています。同システムを導入したことによって、発注時間は88%、欠品率は34.7%削減できるとともに、値引・廃棄ロスは19.1%の削減実績があります(同社調べ)。

同社取締役の島井幸太郎氏は、「これまで人が担ってきた発注業務等をsinopsによるAIが担うことで、各店舗で人だからこそできる消費者サービス等に注力できるようになればいい」と語ります。


sinopsの仕組み

事例 京都市

「販売期限の延長等による食品ロス削減効果に関する社会実験」

京都市では、2017年と2018年に、加工食品の販売期限の延長による食品ロス削減効果を検証するため、京都市内の食品スーパーにおいて社会実験を行いました。同実験では、一部の加工食品を対象商品として、各店舗で定められている販売期限を賞味期限・消費期限当日まで延長して販売し、商品廃棄数量等を実験前と比較しました。2018年には、前年から実施店舗を2倍の10店舗に拡大、実験期間を約1か月から約5か月に延長、賞味期限の長い加工食品を対象品目に追加し、効果検証を行いました。

2018年の社会実験の結果、廃棄数量は約3割の削減効果(前年同時期比較)があることが分かり、また、販売期限の延長が売上げに与えるマイナスの影響はないことが分かりました。品目別では、常温加工食品、日配品の幅広い品目で廃棄削減効果が確認できました。

また、社会実験を実施した店舗で消費者への店頭アンケート調査を実施したところ、「賞味期限・消費期限当日まで販売してもよい」との意見は、日配品で約9割、常温加工食品で約8割に上りました。


食品スーパーでの販売期限の延長に関する社会実験(京都市)(2018年度)

COLUMN5
季節食品の食品ロス削減の取組

外食での消費段階

外食での消費段階では、主に、提供された料理の食べ残し、調理段階での作り過ぎ(仕込み過ぎ)等によって食品ロスが発生します。

調理段階では、仕込んだ量が予想した販売量を上回り食品ロスが発生することがあることから、外食事業者においても需要予測の精緻化は食品ロス削減のために有効といえます。

外食産業では、食品廃棄物等に占める食品ロスの発生量が約62%と、業種別にみると最も高くなっています(図表I-2-2-1参照。)が、これは消費者の食べ残しによる廃棄が多いためであると考えられることから、まずは、提供された料理をおいしく食べきることが大切です。

消費者においては、小盛り・小分けメニューを活用しつつ、自らが食べることができる適正量に見合った注文をし、宴席等食べ残しが多く発生しがちな場において、「3010運動(注96)」等を実践していくことが効果的であると考えられます。

他方、外食事業者においては、消費者による食べ残しが減るような行動を促すよう、小盛り・小分けメニューの導入や、食べきりへの消費者へのインセンティブの導入等が食品ロス削減の取組として考えられます。外食という場面は、日常の食生活と密接に関わるものから、非日常の機会を楽しむものまで様々な形があることから、外食事業者がそれぞれのスタイルに合った取組をしていくことが重要です。

消費者庁、農林水産省、環境省及び厚生労働省は、2017年に飲食店等における食べ残し対策に取り組むに当たっての留意事項を衛生的な観点も含めて作成し、外食関係団体や地方公共団体等へ通知(注97)を行いました。さらに、消費者庁は、2019年に開催した「もったいないを行動に!食品ロス削減のための戦略企画会議(外食分野)」での議論を踏まえ、関係府省と連携し、新たな啓発資材として「外食時のおいしく『食べきり』ガイド」を作成し、公表しました。

また、消費者庁は、2020年に、中央府省の食堂等における「小盛りサイズメニュー」の提供等の取組について各府省から聴取しました。その結果、定食の御飯のサイズ別メニューの導入を始め、注文時の声掛けによって、御飯、麺類の量を減らしたり、握り寿司のシャリを小さくしたりするなど、柔軟にリクエストに対応できるようになっている食堂等があることが分かりました。一方で、対応が可能であることの表示がなされていない、又は、利用者にとって分かりにくいといった例もあったため、消費者庁では、各府省に対し、これまで以上に取組を率先して推進していくよう協力依頼を行いました。これを踏まえ、多くの食堂等において、小盛りの対応をしていることを周知する表示が行われました。

COLUMN6
おいしく食べきる運動を全国の地方公共団体で推進

また、どうしても食べきれなかった料理については、持ち帰り、家庭で食べきることができれば食品ロス削減につながります。もっとも、提供後に時間の経過した料理は、提供後すぐの状態の料理と比較して食中毒リスクが高まるため、食品衛生の観点から十分に配慮する必要があります(注98)。持ち帰り後の保存方法や食べ方は消費者の判断に委ねられているため、前述の留意事項においても、消費者と店舗の信頼関係の下で、消費者の自己責任の範囲で持ち帰ることとしています。事業者としては、持ち帰りができる旨の表示(ステッカー等)や、衛生上の注意事項の説明、消費者としては、自己責任で持ち帰る旨を表明するなど、持ち帰りが普及していくためには、事業者と消費者の双方のコミュニケーションが重要となります(図表I-2-2-12)。また、消費者が自己責任の範囲で持ち帰るには、持ち帰った料理を、長時間常温の状態に置かないことや、食べる際には火を通すなど、安全に食べることができる工夫をするとともに、実際に安全に食べられるかどうかを自己判断できる確かな知識を持つことが必要です。

消費者庁「物価モニター調査」(2020年1月調査)によれば、外食時の持ち帰りについて、消費者の約9割が賛成(「賛成」+「どちらかといえば賛成」)している一方で、実際に持ち帰ったことがある人は全体の2割程度にとどまっています(図表I-2-2-13)。

また、どのような状況であれば持ち帰ろうと思うか聞いたところ、持ち帰りについて賛成(「賛成」+「どちらかというと賛成」)という人では、「店内の目の付きやすい場所に『持ち帰りできます』と表示されている」、「店に持ち帰り用の容器が用意されている」、「店員から、『持ち帰りできます』と言われる」といった項目が上位となっており、飲食店とのコミュニケーションがあれば持ち帰ろうと思うことが分かります。一方で、持ち帰りについて反対(「反対」+「どちらかといえば反対」)という人では、「鮮度や衛生を保つ工夫が用意されている」や「店に持ち帰り用の容器が用意されている」状況であれば持ち帰ろうと思うという項目が上位となっており、衛生面に不安を感じていることがうかがえます(図表I-2-2-14)。

さらに、持ち帰りについて消費者がどのような考えかを聞いたところ、「残す(捨てる)のはもったいない」や「ごみの削減になり環境にもよい」といった肯定的な意見が多いことが分かりました。このような考えを持っている人が持ち帰りを実践できる環境を整えることで、今後持ち帰りの慣習が広がっていくことが期待されます(図表I-2-2-15)。

ドギーバッグ

「ドギーバッグ」とは、飲食店やパーティーで食べきれずに残してしまった料理を持ち帰るための容器のことです。元々は、客が、飼っている犬に食べさせるためと(言い訳をして)持ち帰ったことが、名前の由来とされており、米国では一般的に使われています。日本でも一部の地方公共団体や団体が持ち帰りの促進に取り組んでいますが、いまだ普及には至っていません。

環境省、消費者庁及び農林水産省は、2020年3月にドギーバッグ普及委員会と連携し、飲食店での食べ残しの持ち帰りを日本で普及、定着させるためのアイデアを募集する、「Newドギーバッグアイデアコンテスト」を開催しました(注99)(図表I-2-2-16)。

外食事業者と地方公共団体の連携(京都市)

地方公共団体と飲食事業者等が連携・協力し、食品ロス削減に取り組む運動も広がりつつあります。京都市では、「食品ロス削減等推進事業」において、「食べ残しゼロ」を目指す取組8項目のうち2項目以上を実施している飲食店・宿泊施設を、店舗ごとに「食べ残しゼロ推進店舗(飲食店・宿泊施設版)」として認定しています(図表I-2-2-17)。特に、「食べ残しの持ち帰り」については、「食べ残しゼロ推進店舗」認定制度実施要項において、持ち帰りに関する衛生上の注意事項や責任の所在を明確化する「食べ残しの持ち帰り」に関するガイドラインを作成するとともに、同推進店舗の中で希望する店舗に対しては、京都市オリジナルの持ち帰り容器を無料で提供することで、事業者が取組を行いやすい工夫をしています。

食品ロス削減に関心の高い事業者におけるデータであることに留意が必要ですが、京都市の「食べ残しゼロ推進店舗(飲食店・宿泊施設版)」ごとの取組を項目別にみると、「食材を使い切る工夫(93.9%)」や「ごみ排出時の水キリ等の工夫(74.8%)」といった、消費者と直接関わらない取組は行いやすい傾向がみられ、「食べ残しを出さない工夫(75.2%)」や「食べ残しの持ち帰りができる工夫(59.4%)」といった消費者と直接関わる取組を行っている事業者も一定程度存在することが分かります(図表I-2-2-18)。

家庭での消費段階

食品ロスの約46%に当たる284万トンは家庭から発生していると推計されています(図表I-2-2-1参照。)。食品のライフサイクルの後半に当たる家庭での消費段階においては、食品ロスの発生要因は多岐にわたるため、それぞれの要因に合った様々な対策が考えられます。同時に、消費者一人一人の意識と行動に委ねられている部分もあるため、食品ロスを削減していくためには、各々の消費者が、日常生活の中で食品ロスが社会的な課題であることを適切に理解・把握し、食材や保存、調理に関する日常生活の知識を始めとした食品ロスの削減のための知識を身に付け、実際に行動に移すことが大切であるといえます。

家庭においては、買ったりもらったりした食品が使い切れなかった場合や、保存している間に賞味期限・消費期限が切れてしまった場合等に食品ロスが発生します。家庭系食品ロスの内訳をみると、「食べ残し」が最も多く、次いで「直接廃棄」、「過剰除去」となっています(注100)(図表I-2-2-19)。

また、消費者庁が行った実証調査(注101)によれば、家庭で捨てられやすい食品は、「主食(ご飯、パン、麺類)」、「野菜」、「副菜」の順に多く、捨ててしまう理由は、「食べ残した」、「傷んでいた」、「賞味期限切れ」、「消費期限切れ」の順に多いことが分かりました(いずれも飲料を除く場合。)(図表I-2-2-20)。

これらの家庭で発生する食品ロスを減らしていくためには、それぞれの生活スタイルに合った方法で、行動に移していくことが大切です。ここでは、消費者による食品の消費行動を「買物」、「保存」、「調理」の三つの段階に分けて分析します。

1買物の場面

消費者が、食材や調理済みの食品を買う際に、少しのことを注意するだけで家庭での食品ロスを減らすことができます。そもそも不必要なものを買わなければ、使い切れずに食品ロスを発生させることもないため、例えば、買物に行く前に、家にある食材をチェックし、家にある食材を優先的に使うことを考え、買物メモを活用するなどして、使い切れる分だけ購入することが大切です。また、消費者が期限表示を正しく理解し、使用時期を考慮した買物をすることで、小売段階における食品ロスを削減することができることは前述のとおりです。

「消費者意識基本調査」において、消費者の買物時の意識を聞いたところ、必要以上の買物につながる「買物に行ってから買うものを考える」と「特売品だと予定より多く買ってしまう」に「当てはまる」(「かなり当てはまる」+「ある程度当てはまる」)という人の割合は共に4割を超えています。このことから、消費者が日頃の買物の意識を少し変えるだけで買い過ぎを防ぎ、家庭での食品ロスを減らすことができる可能性があります(図表I-2-2-21)。

2保存の場面

どこに食品を保存したかを忘れてしまったり、食材に適した保存方法を知らなかったりするために、保存した食品の賞味期限・消費期限が切れてしまい、結果として食品ロスとなってしまうことがあります。

食品を保存する際には、食品を種類別に分けて置く場所を決めておく、備蓄品の保存にローリングストック法(注102)を用いるなど、保存しているものを「見える化」することで、保存したことを忘れてしまったり、同じものを買ってしまったりすることを防ぐことができます(図表I-2-2-22)。

また、食材に応じて保存方法を工夫することで食材の鮮度を長く保ち、おいしく食べる、あるいは期限切れで放置してしまうことを防ぐことができます。例えば、食材によって最適な保存場所を選択する、下処理等保存に適した状態にしてから冷凍して長期間保存できるようにするなど、様々な工夫をすることによって、食材を使い切るまで状態良く保存することができます(図表I-2-2-23)。

「消費者意識基本調査」によれば、およそ半数以上の人が、このような保存方法を実践しているようですが、実践していない人も1~2割と少なからずおり、更なる普及啓発が必要といえます(図表I-2-2-24)。

さらに、期限表示や食品についての正しい理解も必要です。仮に賞味期限を過ぎた食品であっても、必ずしもすぐに食べられなくなるわけではないため、それぞれの食品が食べられるかどうかについては、個別に判断することが大切です。消費者庁「消費者意識基本調査」において、賞味期限が過ぎた食品についての行動を食品別に聞いたところ、「食べる」(「気にせず食べる」+「気になるが食べる」)という割合が最も高かったのは、「スナック菓子、カップ麺」であり、「色やにおい等を確認して、食べるか捨てるか判断する」と回答した人の割合が最も高かったのは、「乳製品などの冷蔵品(チーズ、ヨーグルトなど)」でした(図表I-2-2-25)。

3調理の場面

家庭で食品を調理する際に、調理の仕方が分からなかったり、そもそも食べることができることを知らなかったりすることで、工夫によっては食べることができる食材の部分(野菜の皮や葉、茎等)が、捨てられてしまうことがあります。このような場合、食材や調理方法についての正しい知識があれば、無駄なくおいしく食材を使い切ることができます。

また、食材や料理を余らせて、そのまま食べないで捨ててしまうこともあります。余ってしまった食材や料理を使って再度調理(リメイク)するなど、少しの工夫によって、これまで捨てられていた食材や料理を捨てることなく有効活用することができます。

日本には、2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された、日本人の伝統的な食文化である「和食」の文化があり、多様で新鮮な食材の持ち味を生かし、食材を余すことなく使い、具材の変化によって季節の移り変わりを味わう食文化が根付いています。例えば、味噌汁や鍋ものには、様々な食材を入れることができ、余った食材を入れて食べることで、家庭で食材をおいしく食べきることができるといえます。

このように、消費者が、食材や調理について工夫し、日々の食生活で実践することによって食品ロスを減らすことができます。

消費者庁のキッチン

消費者庁では、「食材を無駄にしないレシピ」を広く伝えるため、料理レシピサイト「クックパッド」の「消費者庁のキッチン」において、野菜の皮や茎を活用したレシピや余った料理をアレンジしたリメイクレシピ等の食品ロスの削減につながるレシピ、食材の保存方法等を紹介しています(図表I-2-2-26)。これまでに、各地方公共団体や、全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会、全国生活学校連絡協議会等の協力を得て、681のレシピを掲載しており(2020年3月末時点)、今後も食品ロス削減レシピを募集しています。

事例 一般財団法人ベターホーム協会

家庭での食材の保存・調理の知識を科学的根拠に基づき紹介

1963年に主婦たちの学習組織として発足したベターホーム協会は、料理教室や出版等を通じて、食分野における消費者教育に取り組んでいます。その中で、「食べ物を無駄にしない・使い切る」といった食品ロスの削減につながる提案や啓発を行ってきました。2008年から「食べもの大切運動」を開始、9月9日を「食べものを大切にする日」と定め、「ああ、もったいない!捨てないで!食べものを大切にしよう川柳」の作品募集等のイベントを行っています。


「食べもの大切運動」シンボルマーク「だいこんハート」


料理教室では、「6つの食の総合教育」すなわち「おいしく作る技術」、「知識」、「知恵」、「作法、心」、「食文化」、「環境(食べものを大切に)」の観点を実習内容に盛り込んでいます。単に料理の作り方を教えるだけでなく、捨ててしまいがちな部分、例えば、大根の葉やニンジンを型抜きでくり抜いた後の残りをうまく使うなど食材を無駄なく使い切る調理方法や、食材を長持ちさせる保存方法を教え、生活経験に根差した知恵が無理なく自然に身につくような工夫をしています。

2006年に、食料自給率の低下を背景に「大切な食べ物を無駄にしない読本」を出版し、食材の保存方法や余りがちな食材を無駄にしないアイデアを紹介しました(2007年「大切な食べ物を無駄にしない本」として改訂出版)。

2014年には「ポジティブフリージング読本」において、科学的知識に基づいた冷凍・解凍方法を紹介しました(2016年「冷凍保存マニュアル」として改訂出版)。

食材が余ったから冷凍するのではなく、あえて下味を付けたり茹でたりした後に冷凍することにより、栄養やおいしさを保ったまま食材を冷凍することができます。例えば、野菜を野菜室で保存しておくよりも、新鮮なうちに茹でて冷凍したほうが、食感は変わりますが、摂取できる栄養価は高いといった科学的な裏付けの下に、おいしく安全に冷凍保存・解凍する、「ポジティブ=前向き」で実用的な知恵とレシピが紹介されています。ポジティブフリージングは、食材を無駄にせず使い切ることができる上に、調理時間の短縮や家計の節約にもつながります。

同協会で広報を担当する塚田真理子氏は「当協会の料理教室には、料理の基本のほか、家庭で役立つ知識を求めて通う受講者も多い。調理に関する科学的な知識と理論を身に付ければ、様々な食材・料理に応用が利くようになる。食の基礎知識を教えるとともに食べ物を大切にする心を育むことが、当協会の役割と考えている」と話します。


食材の保存や調理に関する書籍(ベターホーム協会発行)

事例 クリエイティブクッキングバトル

家庭から出る食料廃棄を楽しく解消するエンターテイメント型フードロス解消イベント

クリエイティブクッキングバトル(以下「CCB」という。)は、レシピサービス「クックパッド」を運営するクックパッド株式会社等で構成されるCCB実行委員会が、2018年から始めたエンターテイメント型フードロス解消バトルイベントです。「ありモノからおいしい料理を作ることは生活の中で最もクリエイティブな行為である」をコンセプトに、残り食材を工夫して自由に料理する能力に焦点を当てて、参加チームが競い合います。

CCBのルールは独特です。各チームの参加者が、家で余った食材を持ち寄り、それらの食材はテーブルに並べられ、合図と同時に早いもの勝ちで取り合います。残った食材も無駄なく使われるようランダムに強制分配されます。野菜を皮ごと煮るなどできるだけ生ごみを出さない工夫をしながら45分間で調理し、「おいしさ」、「見た目」、「工夫」、「生ごみの量」の4項目で評価します。どんなに風変りな食材も使い切りが原則で、イベントのコンセプトから、「工夫」と「生ごみの量」の配点の比重を高くしています。

同実行委員会代表の横尾祐介氏は、「あるもので料理をしなければという制約があると、食材と正面から向き合うことで、食べ方のひらめきはもちろん、いつもの当たり前の行動に無駄があることに気付くきっかけになる」と話します。


クリエイティブクッキングバトルの流れ

家庭での食品ロス削減の取組と効果の分析

消費者庁では、2018年1月から2月まで、家庭における食品ロス削減に効果的な取組を検証することを目的として、徳島県の協力の下、「平成29年度食品ロスの削減に資する取組の実証調査」(以下「実証調査」という。)を実施しました。実証調査では、家庭で出る食品ロスを計量する経験だけで食品ロスを減少させる効果があることが分かりました。

徳島県における食品ロスの削減に資する取組の実証調査

計量するだけでも食品ロス削減の効果、取組によって節約にもつながる

本調査では、(注103)世帯のモニター家庭を、食品ロス削減の取組を実施する「介入群」と、実施しない「非介入群」とに分け、その両方に家庭から出た食品ロスの計量と記録を依頼(図表I-2-2-27)。4週間終了後に集計し、食品ロス量を比較しました。その結果、取組を実施したグループ(以下「介入群」という。)では、取組前に比べて、食品ロス量が約4割減少し、また、計量記録だけを実施したグループ(以下「非介入群」という。)でも、食品ロス量が約2割減少しました。この結果から、計量をするだけでも食品ロス削減の効果があることが分かりました。また、取組を実施した介入群では、食品ロスを金額換算したところ、1世帯1日当たり2.5円の節約につながることが分かりました。

フォローアップ調査

2019年10月、実証調査の協力世帯を対象に、「『平成29年度徳島県における食品ロスの削減に資する取組の実証調査』のフォローアップ調査」(以下「フォローアップ調査」という。)を実施し、食品ロス削減に対する意識・行動の変化、実証調査時に行った食品ロス削減の取組や食品ロス量の計量の継続状況等を調べました。

まず、実証調査終了後1年8か月が経過した時点での、食品ロス削減への意識面での変化は、介入群では、「意識は終了時点より高まった」とする世帯が42.9%、「変わらない」とする世帯が57.1%と、全世帯で、実証調査終了時と同等以上の意識を保っているとの結果でした。同様に非介入群でも、実証調査終了時に比べ、意識が高まった世帯が58.3%、変わらないとする世帯が33.3%で、実証調査終了時と同等以上の意識の高さとなりました(図表I-2-2-28)。

意識が以前より高まった人の理由では、「捨てている重さを目で見たので、今まで以上に気にかけるようになった」、「食品ロスに対する意識が高まったのは、自宅での計量によってその現実と向き合った時間があったから」など、計量作業を通じて、食品ロス削減の意識が形成されている様子がみられます。

一方で、実証調査終了以降、食品ロスの計量作業を行ったことがあるかとの問に対しては、介入群・非介入群いずれでも、約9割が一度も行っていないと回答しました。

主な理由としては、「面倒」、「手間がかかる」、「意識はしているが計量まではしていない」など、計量の手間が作業の継続を阻む要因となっていると考えられます(図表I-2-2-29)。

継続性のある食品ロス削減の取組とは

実証調査の際に、介入群には、食品ロス削減のための18の方法を提示し、各自が選択した方法で削減に取り組んでもらいました。フォローアップ調査で、現在の取組状況を聞いたところ、「いつもする」と「たまにする」と答えた合計数が多い順に、「家にある食材・食品をチェックする」、「使い切れる分だけ買う」、「食材の置き場所を決める」などが挙がりました。また、実証調査の際に、取り組んで「効果がある」との評価が高かった上位9項目が、フォローアップ調査で、実施数の多い取組9項目と一致していました(図表I-2-2-30)。

これらの結果から、実証調査で取り組んでみて効果があるとの実感が高かった取組は、その後の継続性も比較的高くなっているとも考えられます。

また、介入群に対して、食品ロス削減の取組を行っている理由について聞いたところ、「もったいない」を筆頭に「家計の節約となる」、「習慣となっている」などが上位に挙がりました(図表I-2-2-31)。

フォローアップ調査の結果から、食品ロス量を計るという作業を通じて食品ロス削減の意識が形成され、その意識はその後も継続することや、効果があると実感した取組は継続される可能性が高いことが分かりました。

食品ロス削減は、消費者の意識・行動により改善される部分もあるため、一人一人の取組が重要であると考えられます。

消費者のタイプ別分析と食品ロス削減の取組への活用

消費者に食品ロス削減の行動を促すためにも、消費者の意識を知ることは重要です。そこで、消費者庁では、2019年11月に実施した「消費者意識基本調査」において、消費者分類のための質問を設定し、その回答を基に、消費者を意識面・行動面での特徴に基づいて分類する試みを行いました。その結果、環境への意識と自己利益への意識という二つの軸で、消費者を四つのタイプに分類することができました。

二つの軸から消費者を四つのタイプに分類

今回の分析では、以下の二つの項目群を抽出しました。一つは、「容器や包装の少ないものを選ぶ」、「レジ袋をもらわない」など、環境に関する項目群、そしてもう一つは、「損得を考えて行動するほうだ」、「他人の評価が気になる」など、自己の利益や他人との関係性に関する項目群です(図表I-2-2-32)。

その結果、消費者を、「環境重視度」、「自己重視度」の二つの軸によって、四つのグループに分けることができました103(図表I-2-2-33)(分析手法の詳細は【参考分析】参照。)。

食品ロス削減関連質問への反応と啓発の方向性

食品ロス削減に関する質問への四つのグループの反応をみると、「買物をせず、残っている食材で料理をすることがある」、「食品に合った保存方法を考え、長持ちさせる」など、食品ロス削減につながる項目では、環境重視度の高い「バランス型」、「環境優先型」の肯定的反応が、他のグループよりも高くなっています(図表I-2-2-34)。これらの環境への意識の高い層には、食品ロス削減の取組が環境の保全に貢献すること等を効果的に伝える啓発が有効であると考えられます。

一方、環境への意識の低い層に対しても、啓発のヒントはあると考えられます。例えば、「賞味期限・消費期限が近づいていても、安くなっていれば買う」などの設問に対しては、「自己重視度」の高い「自己優先型」の肯定的反応が高くなっています。環境への意識が低くても、「自己重視度」の高い層には、食品ロス削減の取組が結果的に自己の利益につながることを啓発することで、食品ロス削減の行動に導くことが可能と考えられます。前述のフォローアップ調査(2019年10月)でも、取組を行っている理由の一つとして「家計の節約となる」が挙げられていることからも、取組継続のためには、実利につながる要素も必要と考えられます。

有効活用段階

これまで述べてきたように、食品の生産から消費に至る全ての段階で食品ロスが発生します。まずは廃棄される食品を発生させないことが大切ですが、それでも品質には問題ないものの廃棄されそうな食品が発生した場合には、生活困窮者や子ども食堂、被災地、その他食品を必要としているところに届け、有効活用することで、食品ロスの発生を防止することができます。

1フードバンク、フードドライブ

i.フードバンク、フードドライブとは

まだ十分に食べられる食品を、食品を必要としているところにつなぐ架け橋を担うものとして、「フードバンク活動」があります。フードバンク活動とは、「食品関連事業者その他の者から未利用食品等まだ食べることができる食品の提供を受けて貧困、災害等により必要な食べ物を十分に入手することができない者にこれを提供するための活動(注104)」をいいます。フードバンク活動は主に事業者から未利用食品の提供を受けることを想定していますが、同様の活動として、学校や職場、グループ等、様々な機関・団体が拠点となり一般家庭にある未利用食品を集め、集まった食品をフードバンク団体や福祉施設等に寄付する「フードドライブ活動」もあります。

フードバンク活動は米国で始まり、既に約50年の歴史があります。日本国内では、2000年に初めてフードバンクが設立されてから、2013年に41団体、2019年には120団体と増えてきており、44の都道府県で活動しています(図表I-2-2-35)。一方で、食品取扱量別にみると、2018年では、5割以上の団体が10トン以下にとどまっています。フードバンク活動が、今後より発展していくに当たり、どのような課題が存在するか、以下でみていきます(注105)

ii.フードバンク活動の課題

○基盤の確保

日本のフードバンクは、無償で食品の受け入れ、提供を行っていることが一般的であり、財政面を含め自立した基盤を確保することが課題です。多くのフードバンクでは、ボランティアを中心に活動していることが多く、人手や運営ノウハウも不足しているのが現状です。

また、事務所や食品保管用の倉庫、配送用車両等のインフラも十分に整っていないフードバンクが多く、事業者等から食品提供の申出があっても、設備の保管能力(冷蔵冷凍設備の有無を含む。)が追い付いていないために、食品を受け入れられないこともあります。

○認知度不足

フードバンクの活動は、賛同する事業者や消費者による食品の提供や寄付の上に成り立っています。これらの協力を得るためには、まずはフードバンクやその活動が知られていなければなりません。しかし、フードバンクの数が徐々に増えてきているとはいえ、いまだ社会的に広く認知されているとはいえません。フードバンク活動の認知度は、44.6%にとどまり(注106)、また、日頃の行動として「家庭で余っている食品を、地域の福祉団体などに寄付する」(フードドライブ)に当てはまる(「かなり当てはまる」+「ある程度当てはまる」)人は2.4%にとどまっています(注107)(図表I-2-2-36)(図表I-2-2-37)。

農林水産省では、2016年度から、食品を提供する側の事業者と、フードバンクのマッチングを図るため、フードバンク活動促進に向けた情報交換会を全国各地で開催しています。

また、農林水産省関東農政局では、2019年に食品提供事業者、フードバンク、食品提供先等の関係者の情報共有の場を設け、有機的なつながりを持つための「フードバンク活動推進のための情報共有プラットフォーム」を設置しています(図表I-2-2-38)。

○食品寄贈に伴うリスク

食品を提供する側の食品関連事業者にとって、自社の提供した食品により体調不良や食中毒等の事故、不正転売が発生した場合、法的リスクやブランドイメージの毀損といったリスクが生じ得ます。したがって、フードバンクに食品を提供する際に、衛生管理や法的責任の所在の明確化、トレーサビリティの確保といった食品関連事業者が安心して食品の提供を行える環境を整えることが重要です。

これを踏まえ、フードバンクの信頼性向上と食品取扱量の増加につなげるため、農林水産省では「フードバンク活動における食品の取扱い等に関する手引き」を作成し公表しています。同手引きでは、食品の提供又は譲渡における原則、提供食品の品質・衛生管理の注意点等を示すとともに、フードバンクと食品提供者、受取先との間で法的責任の所在等を明確化するために交わされる合意書の記載例を示しています。

公益財団法人流通経済研究所「フードバンク実態調査事業報告書」(2020年)によれば、食品取扱量の多いフードバンクほど、食品提供者・受取先との契約書・合意書の締結が行われており、フードバンクの食品取扱量拡大に有効と考えられます(図表I-2-2-39)。

○様々な主体との連携

フードバンクが持続的に活動していくためには、地方公共団体、事業者や消費者との連携も重要です。食品関連事業者とフードバンク関係団体とのマッチングや提供される食品の情報共有、消費者等に向けたフードドライブ活動の推進等、地方公共団体における関係者間の連携のための取組を始めとするフードバンク活動への支援や、事業者等によるフードバンク活動団体の取組への広範な支援をすることによって、効率的な運営をすることができます。

また、2015年から生活困窮者支援制度が始まったことにより、生活保護に至る手前の段階の人への支援や子ども食堂等を通じた生活困窮家庭の子供への学習支援等、フードバンクの活動の幅は広がり、社会福祉分野を始めとする行政との連携が重要になっているといえます。

以上のように、フードバンク活動は、貧困対策や被災地支援等様々な社会的課題の解決に向けた意義のある取組である上に、食品ロスの削減においても有効な取組です。食品ロス削減推進法の中ではフードバンク活動に対する支援策を講ずることとされ、基本方針において、国民にフードバンク活動への理解を促進するとともに、地方公共団体が策定する食品ロスの削減の推進に関する計画において、同活動へ必要な支援を検討、実施することとされています。

2各段階の需給をつなぐマッチング

インターネットによるフードシェアリングプラットフォームという新たな仕組みを活用し、食品産業の各段階における様々な主体をつなぐことにより新たな市場を形成し、食品ロスの削減に資する事業活動を行う事業者が現れています。このようにインターネット上で需給をマッチングさせることができれば、供給側としては、低価格だとしても廃棄される予定だったものを販売することができ、需要側としては、低価格で食品を購入することができるため、「WIN-WIN」の関係で食品ロスを削減することができる可能性があります。

農林水産省では、2019年に、ICTやAI等の新技術を活用した食品ロス削減に効果的なビジネスを募集し、未利用食品の販売(シェアリング)に取り組む13事業者の取組を農林水産省ウェブサイトで紹介しています。

事例 きょうとフードセンター(京都府)

京都府が子供への支援事業を社会福祉協議会へ委託しフードバンクを運営

京都府は、2018年に京都府社会福祉協議会への委託業務として「きょうとフードセンター」を開設しました。同センターは、「子ども食堂」や「こどもの居場所」の実施団体へ安定的に食材を提供する仕組みを構築し、食材の受付窓口、マッチング等を行います。

同センターの具体的な業務は、1食品提供の申出を受付(種類、数量、賞味期限の確認)、2子ども食堂等に案内、子ども食堂からの申込受付、3指定場所への搬送指示、4原則として提供者が食材搬送、5原則として提供先の子ども食堂等が食材を受取、という流れで行われます。行政が食品の提供者と提供先のマッチングを行う仕組みは全国初といえます。

当初の事業フレームでは、提供者が子ども食堂等や府内数箇所に設置されている食材受入・一時保管場所に直接搬送し、食材の提供を希望する子ども食堂等が当該保管場所に受け取りに来ることを計画していましたが、実際には提供者はセンターに直接納入したり,職員が受け取りに行ったりすることも多く、あわせて同センター職員が提供された食材の分類や食材提供するための仕分け等を行うことにより、食材を子ども食堂等に確実に届けることができるよう調整・支援を実施しています。

2019年度には、金額換算で約390万円(2020年1月末現在)相当の食材の提供を受けており、同センターの専任職員の森達夫氏は、「小口の提供でもよいので気軽に相談いただきたい。今後、冷蔵・冷凍設備や食材提供情報が整備されれば活動しやすくなる」と話します。


フードセンターの仕組み


仕分け作業の様子

事例 認定NPO法人フードバンク山梨

市民・事業者・行政・福祉施設と協働し、地域に根差したフードバンク活動を展開

フードバンク山梨(2008年設立)は、食品取扱量が年間93トン(2018年)、支援世帯数は年間延べ5,000件のフードバンクです。

2010年には、行政機関の窓口に相談に来た人の中で、食に困っている人へ宅配便で食品を届ける「食のセーフティネット事業」を始めました。同事業は、フードバンクが行政や社会福祉協議会、ホームレス支援団体、外国人支援団体等の機関・団体と連携することで、生活困窮者を把握し、支援が必要と認められた人に食品を届けるシステムです。2018年度には、延べ2,478世帯に約21トンの食品を届けました。

また、企業からの寄贈や、山梨県内に設置したフードドライブ集荷拠点に市民から集められた食品を、給食のない夏休みや冬休みに子供のいる貧困家庭へ届ける全国初の取組「フードバンクこども支援プロジェクト」を2015年から行っています。行政や学校が食品提供の申請窓口となり、食品の箱詰め作業は、学生を含む多くのボランティアの協力を得て行っています。2019年までに山梨県内8市町と「子どもの貧困対策連携協定」を締結し、連携を深め、これまでに延べ5,000世帯へ支援を実施しています。同プロジェクトでは、食料支援のほかにも子供への学習支援や楽しいイベントも実施しています。

同法人理事長の米山けい子氏は、「特に子どもの貧困は見えにくいと言われる中で、フードバンクは行政・学校と連携をすることで早期に把握し早急に支援ができる。そして、フードドライブ等誰にとっても身近で市民が参加しやすいものであり、市民の参加はフードバンクにとって大きな力となる」と話します。


フードバンクこども支援プロジェクトのボランティア参加者


2015年からの利用推移(フードバンク山梨調べ)

事例 tabeloop(たべるーぷ)(バリュードライバーズ株式会社)

一次産業の生産者と消費者をつなぎコミュニケーションを生むマッチング

「tabeloop」は、一次産業の現場と消費者をつなぐ社会課題解決型のフードシェアリングサービスです。

EC(電子商取引)プラットフォーム上で取引される商品は、豊作により大量に収穫された野菜や、味は問題なくても形が不揃いで市場に流通しない規格外野菜、自然災害等で傷ついた果物、獲れ過ぎた魚等の産地ロスや、包装が汚れている食品、過剰仕入れや返品等により販売が困難となった賞味期限切れ前の加工商品等、流通段階で発生した事業系食品ロスとなり得る商品です。

「売り手」は、各地域の生産者、食品メーカー、食品卸売業、小売業等で、「買い手」は居酒屋やレストラン等の飲食事業者、弁当や総菜を扱う中食事業者、子ども食堂や学校等の食堂、消費者(個人)等で、商品は「売り手」から「買い手」に直接発送されます。

ウェブサイト内では生産者特集ページや商品レビュー機能を設けるとともにチャットシステムを用意するなど、「売り手」と「買い手」のコミュニケーションを生み、距離を縮めることができる工夫をしています。

また、ウェブサイトだけにとどまらず、一次生産品を紹介するため、全国農業協同組合連合会(JA全農)と連携し、規格外の野菜や果物を首都圏のマンション共用部で販売する「tabeloopマルシェ」等の取組も進めています。

さらに、事業活動を通じたSDGs達成に向け、「tabeloop」の売上げとなる手数料の1~2%を使った、飢餓に苦しむ人々の支援、大学やセミナーでの食育活動、マレーシア現地法人との連携等を積極的に行っています。


マルシェの様子


tabeloopロゴマーク

事例 KURADASHI(株式会社クラダシ)

食品ロスの削減と同時に社会貢献活動にもつながる仕組み

株式会社クラダシ(以下「クラダシ」という。)が運営する「KURADASHI」は、賛同メーカーから協賛価格で提供を受けた商品を販売し、売上の一部を社会貢献団体へ寄付する社会貢献型フードシェアリングプラットフォームです。

食品流通業界の商慣習等により発生する納品期限や販売期限を過ぎた食品や、季節が過ぎたり傷ついたりして、食べられるが店頭で売ることができない商品等について、メーカーから数量を提示し、出荷予定日までにオーダーが入った数量をメーカーがクラダシに納品し、クラダシからそれぞれの買い手に梱包・発送をしています。箱やケース単位のまとまった量の商品が中心で、地域の会合や催し、小規模飲食事業者の食材として購入されることも多いといいます。

「KURADASHI」で扱われている商品には、社会福祉、医療支援、海外支援、動物保護、環境保護、災害対策等、様々な社会課題を解決する活動を行っている団体への支援金額が設定されており(購入時に支援先団体を選択することが可能)、利用者はショッピングを楽しむだけで社会貢献をすることができます。

同社代表取締役社長の関藤竜也氏は「商品を提供するメーカーとしては、トレーサビリティが保証されているため、ブランドイメージが損なわれるおそれが低く、また、商品を提供することが社会貢献活動にもつながるため、これまで廃棄するはずであった商品に新たな価値を与え、廃棄に伴う保管や運搬、処理の費用を削減することができる」と話します。


社会貢献につながる仕組み

事例 TABETE(タベテ)(株式会社コークッキング)

製造小売事業者や飲食事業者と「食べ手」をマッチング

株式会社コークッキングが運営するフードシェアリングサービス「TABETE」は、パン屋や弁当屋等の製造小売事業者で、商品が売れ残りそうな場合や、飲食事業者で急な予約のキャンセルが出た場合に、まだおいしく食べられるのに「捨てざるを得ない危機」にある食事を、ユーザー会員がアプリで「1品」から「美味しく」「お得」に購入することができるプラットフォームです。

「TABETE」の仕組みは、閉店時間が近づいてロスが発生しそうになったら、アプリに写真を添えて掲載します。ユーザー会員は、アプリから掲載商品を見て、クレジットカードで事前に決済し、希望の時間に飲食店に取りに行きます。出品できる価格帯は250円から680円までで、通常の値段より2~3割安く設定されています。「TABETE」は一品一律150円を受け取り、そこから、クレジットカードの手数料の支払や慈善団体への寄付を行います。掲載商品は、原則一人分の分量であり、店舗検索画面では現在地から近くの店舗を検索することもできるため、ユーザー会員は気軽に商品を購入することができます。

ユーザーの増加と共に、地方公共団体との連携も始めました。地方公共団体が食品ロス削減の取組として食べきり推進運動を飲食店に呼び掛ける際に、TABETEを紹介し、中でも金沢市ではユーザーと店舗のマッチング率が高く、大きな効果を上げています。

同社CEOの川越一磨氏は「ユーザー会員には『困っているお店をみんなで助けよう』と呼び掛けており、『レスキューする』という言葉を使っています」と話します。


商品を受け渡しする様子


アプリの画面

3災害時用備蓄食料の有効利用

災害に備えて食料を備蓄しておくことは、行政、事業者、消費者いずれにとっても、非常に重要です。災害備蓄用食料は、賞味期限が長く設定されているものを用意することが多いものの、定期的に入替えをする必要があります。その際、賞味期限が切れた、又は近くなった食料を廃棄するのではなく有効活用することで食品ロスの削減に貢献できると考えられます。

このため、政府は、2018年に地方公共団体や各府省に、災害時用備蓄食料の更新の際には、食品ロスの削減の観点から、備蓄食料の有効活用について検討するよう通知で依頼しました(注108)

農林水産省では2019年に、災害時用備蓄食料の入替え時に、備蓄の役割を終えた食品のうち賞味期限にまだ余裕のあったものをフードバンク等4団体へ提供しました。また、賞味期限が過ぎたクラッカー缶について消費者に配布し、賞味期限の意味(おいしく食べることができる期間)を再認識してもらうよう呼び掛けました。

また、消費者庁では、2019年に、家庭で食品ロスにしない備蓄の簡単な方法として、普段食べているものを少し多めに買い置きし、食べたらその分を買い足していく「ローリングストック法」を紹介した啓発資材や、備蓄食料を使いおいしく食べる事例集を作成、公表しました(図表I-2-2-40)。

廃棄段階

このように、本来食べられるにもかかわらず廃棄される食品をできる限り減らし、有効に活用したとしても、現実的には廃棄される食品を完全になくすことは困難です。

食品リサイクル法は、食品廃棄物等について、発生抑制と減量化により最終的に処分される量を減少させるとともに、飼料や肥料等の原材料として再生利用することを目的とした法律です。2019年に公表された食品リサイクル法に基づく基本方針(注109)では、2024年度までに、各業種ごとに発生抑制や再生利用等を実施すべき割合について新たな目標が掲げられました。具体的には、現状も踏まえて、食品製造業は95%、食品卸売業は75%、食品小売業は60%、外食産業は50%の目標が設定されています。

また、消費者は家庭からの食品廃棄物の発生の抑制に努めるものとされています(注110)。家庭から排出されるごみについては、市町村が、その区域内における一般廃棄物の排出状況を適切に把握した上で、その排出抑制に関し適切に普及啓発や情報提供、環境教育等を行うことにより住民の自主的な取組を促進することとされており、住民は食品の食べ切りや使い切り、生ごみの水切り(いわゆる「3きり運動」)に努めることとされています。

図表1-2-2-5規格外等の農水産物の購入経験
図表I-2-2-5 規格外等の農水産物の購入経験 [CSV]

図表1-2-2-6規格外等の農水産物を購入した理由(左)と購入しなかった理由(右)
図表I-2-2-6 規格外等の農水産物を購入した理由(左)と購入しなかった理由(右) [CSV]

図表1-2-2-7食品ロス削減に向けた商慣習の見直し

図表1-2-2-8小売店舗用消費者啓発資材(農林水産省)

図表1-2-2-9賞味期限と消費期限の意味の違いの認知度と買物時の行動
図表I-2-2-9 賞味期限と消費期限の意味の違いの認知度と買物時の行動 [CSV]

図表1-2-2-10賞味期限・消費期限が近づいた食品が値下げされている場合の対応
図表I-2-2-10 賞味期限・消費期限が近づいた食品が値下げされている場合の対応 [CSV]

図表1-2-2-11欠品への寛容度
図表I-2-2-11 欠品への寛容度 [CSV]

図表1-2-2-12持ち帰りステッカーの例(ドギーバッグ普及委員会)

図表1-2-2-13外食時の持ち帰りに対しての賛否と経験
図表I-2-2-13 外食時の持ち帰りに対しての賛否と経験 [CSV]

図表1-2-2-14どのような状況であれば持ち帰ろうと思うか(持ち帰りへの賛否別)
図表I-2-2-14 どのような状況であれば持ち帰ろうと思うか(持ち帰りへの賛否別) [CSV]

図表1-2-2-15持ち帰りについての考え
図表I-2-2-15 持ち帰りについての考え [CSV]

図表1-2-2-16Newドギーバッグアイデアコンテストリーフレット

図表1-2-2-17「食べ残しゼロ推進店舗」取組内容チェックリスト(京都市)

図表1-2-2-18「食べ残しゼロ推進店舗」の取組内容(京都市)
図表I-2-2-18 「食べ残しゼロ推進店舗」の取組内容(京都市) [CSV]

図表1-2-2-19家庭系食品ロスの内訳
図表I-2-2-19 家庭系食品ロスの内訳 [CSV]

図表1-2-2-20家庭で捨てられやすい食品(左)と食品を捨ててしまう理由(右)
図表I-2-2-20 家庭で捨てられやすい食品(左)と食品を捨ててしまう理由(右) [CSV]

図表1-2-2-21日頃の買物で意識していること(食品ロス関係)
図表I-2-2-21 日頃の買物で意識していること(食品ロス関係) [CSV]

図表1-2-2-22食品を保存する際にできる工夫(「計ってみよう!家庭での食品ロス」(消費者庁))

図表1-2-2-23食材に応じた保存方法(「計ってみよう!家庭での食品ロス」(消費者庁))

図表1-2-2-24家庭における食品の保存に関する意識
図表I-2-2-24 家庭における食品の保存に関する意識 [CSV]

図表1-2-2-25賞味期限が過ぎた食品に対しての行動
図表I-2-2-25 賞味期限が過ぎた食品に対しての行動 [CSV]

図表1-2-2-26消費者庁のキッチン(クックパッド)

図表1-2-2-27食品ロスの削減に資する取組の実証調査の概要

図表1-2-2-28実証調査終了から現在までの食品ロス削減への意識面・行動面での変化
図表I-2-2-28 実証調査終了から現在までの食品ロス削減への意識面・行動面での変化 [CSV]

図表1-2-2-29実証調査終了後の食品ロス計量実施の有無
図表I-2-2-29 実証調査終了後の食品ロス計量実施の有無 [CSV]

図表1-2-2-30食品ロス削減の取組:「効果がある」取組(左)と「行っている」取組(右)
図表I-2-2-30 食品ロス削減の取組:「効果がある」取組(左)と「行っている」取組(右) [CSV]

図表1-2-2-31食品ロス削減の取組・行っている理由(介入群)
図表I-2-2-31 食品ロス削減の取組・行っている理由(介入群) [CSV]

図表1-2-2-32環境に関する項目群及び自身の利益や他人との関係性に関する項目群

図表1-2-2-33消費者の4類型とその特徴

図表1-2-2-34食品ロス削減関連質問への反応
図表I-2-2-34 食品ロス削減関連質問への反応 [CSV]

図表1-2-2-35国内のフードバンク団体数の推移(左)と食品取扱量別の団体数割合(右)
図表I-2-2-35 国内のフードバンク団体数の推移(左)と食品取扱量別の団体数割合(右) [CSV]

図表1-2-2-36フードバンク活動の認知度
図表I-2-2-36 フードバンク活動の認知度 [CSV]

図表1-2-2-37フードドライブの取組状況
図表I-2-2-37 フードドライブの取組状況 [CSV]

図表1-2-2-38フードバンク活動推進のための情報共有プラットフォームのイメージ

図表1-2-2-39食品提供元・受取先との契約書・合意書の締結状況(食品取扱量別)
図表I-2-2-39 食品提供元・受取先との契約書・合意書の締結状況(食品取扱量別) [CSV]

図表1-2-2-40「食品ロスにしない備蓄のすすめ」(消費者庁)


  • 注84:食品製造業において、納品期限の関係で当該商品を出荷できない場合に、別途追加生産を行うこと。
  • 注85:賞味期限180日以上の菓子で実施。
  • 注86:公益財団法人流通経済研究所「小売事業者における納品期限緩和の取組状況調査報告書」(2020年)。
  • 注87:食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)では、製造から賞味期限までの期間が3か月を超える加工食品については、年月表示をすることが認められている。
  • 注88:「ホワイト物流」推進運動とは、「トラック運転者不足に対応し、我が国の国民生活や産業活動に必要な物流機能を安定的に確保するとともに、我が国経済のさらなる成長に寄与するため、(1)トラック輸送の生産性の向上・物流の効率化、(2)女性や高年齢層を含む多様な人材が活躍できる働きやすい労働環境の実現、に取り組む運動」のこと(国土交通省、経済産業省、農林水産省「ホワイト物流パンフレット」(2019年))。
  • 注89:小売店舗に毎日配送される食品のこと。主に豆腐や牛乳、パン等。
  • 注90:トラック等の自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換すること。
  • 注91:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「IoTを活用した新産業モデル創出基盤整備事業(国内消費財サプライチェーンの効率化)」
  • 注92:需給状況に応じて商品やサービスの価格を変動させること。
  • 注93:NEDO「平成30年度成果報告書 IoTを活用した新産業モデル創出基盤整備事業 IoT技術を活用した新たなサプライチェーン情報共有システムの開発/国内消費財サプライチェーンの効率化」
  • 注94:情報通信技術(Information and Communication Technology)
  • 注95:人工知能(Artificial Intelligence)
  • 注96:宴席の際、最初の30分は席を立たずに料理を楽しみ、最後の10分も再度料理を楽しむことで、食べ残しを減らす長野県松本市発祥の運動。
  • 注97:消費者庁、農林水産省、環境省、厚生労働省「飲食店等における「食べ残し」対策に取り組むに当たっての留意事項」(2017年)
  • 注98:一般社団法人日本フードサービス協会、一般社団法人全国生活衛生同業組合中央会「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(改正)に基づく外食業の事業継続のためのガイドライン」(2020年5月)では、大皿を避け、料理を個々に提供するなど、新型コロナウイルス感染症拡大防止への配慮事項を示している。外食時の持ち帰り運動を進めるに当たっては、新型コロナウイルスの感染予防等、実情に沿った創意工夫も求められる。
  • 注99:応募期間は、2020年3月31日から8月16日まで。
  • 注100:「直接廃棄」(手付かず食品)は、「賞味期限切れ等により料理の食材として使用又はそのまま食べられる食品として使用・提供されずにそのまま廃棄したもの」、「過剰除去」は、「調理時にだいこんの皮の厚むきなど、不可食部分を除去する際に過剰に除去され可食部分」、「食べ残し」は、「料理の食材として使用又はそのまま食べられるものとして提供された食品のうち、食べ残して廃棄したもの」。
  • 注101:平成29年度徳島県における食品ロスの削減に資する取組の実証調査
  • 注102:日常的に非常食を食べて、食べたら買い足すという行為を繰り返し、常に家庭に新しい非常食を備蓄する方法(内閣府ウェブサイト「防災情報のページ」)。
  • 注103:二つの軸の名称(「環境重視度」、「自己重視度」)及び四つのグループの名称(「バランス型」、「自己優先型」、「無頓着型」、「環境優先型」)は、参考分析において、分析の便宜上名付けたもの。
  • 注104:食品ロス削減推進法第19条第1項
  • 注105:公益財団法人流通経済研究所「フードバンク実態調査事業報告書」(2020年)や有識者へのヒアリングを参考にした。
  • 注106:消費者庁「令和元年度消費者の意識に関する調査--食品ロスの認知度と取組状況等に関する調査--」(2020年)
  • 注107:消費者庁「消費者意識基本調査」(2019年度)
  • 注108:地方公共団体に対しては、2018年1月30日付けで、内閣府防災担当、消費者庁、消防庁及び環境省の連名で都道府県及び指定都市宛てに通知を発出。各府省に対しては、内閣府防災担当、消費者庁及び環境省の連名で各府省(災害時備蓄食料担当課長)宛てに通知を発出。
  • 注109:食品循環資源の再生利用等の促進に関する基本方針(令和元年財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省告示第1号)
  • 注110:環境省「ごみ処理基本計画策定指針」(2016年)

担当:参事官(調査研究・国際担当)