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第1部 第2章 第2節 (1)食品ロスとは

第1部 消費者問題の動向と消費者意識・行動

第2章 【特集】つくる責任、つかう責任、減らす責任~食品ロス削減--持続可能な社会のために~

第2節 食品ロス問題の解決に向けて

(1)食品ロスとは

食品ロスの現状

日本では、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等の小売店舗や外食店舗が普及し、食品を容易に手に入れられる環境にある一方で、生産、製造、流通、販売、消費等の各段階において、売れ残りや食べ残し等の理由で、本来食べられる食品が日常的に廃棄され、大量の食品ロス(注65)が発生しています。

2017年度の日本における食品廃棄物等(注66)は年間2550万トン発生し、うち食品ロスは612万トン発生していると推計されています(図表I-2-2-1)。

食品ロスの定義、規模の把握

日本では、「食品ロス」は、食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針において「本来食べられるにもかかわらず捨てられる食品」と定義されています。食品関連事業者から発生する食品ロス量については、農林水産省が食品リサイクル法(注67)の規定に基づく定期報告結果等を基に推計し、家庭から発生する食品ロス量については、環境省が市区町村で実施している家庭系ごみの組成調査等を基に推計しています。

世界の動向として、FAO(注68)が、「食品ロス」は、「人の消費に当てることのできる食料が、サプライチェーンの様々な段階で失われ、量が減少すること」と定義しています(注69)。そして、SDGsにも掲げられた削減目標(後述)の達成に向けて、FAOによる「食料損耗指数(Food Loss Index)」(収穫後から小売に至る直前までの段階の推計)、UNEP(注70)による「食料廃棄指数(Food Waste Index)」(小売及び消費段階の推計)によって、世界規模の食品ロスの規模の把握がなされようとしています(注71)

食品ロスを取り巻く状況

世界では、「世界全体で人の消費向けに生産された食料」のおよそ3分の1に当たる約13億トンが失われ、あるいは廃棄されている(注72)など、食料問題は地球規模の重大な問題であるといえます。その一方で、世界の人口は、2019年の77億人から、2030年に85億人(10%増)、2050年には97億人(26%増)、2100年には109億人(42%増)に達すると予測されており(注73)、2018年には、9分の1に当たる約8億人が飢餓状態にあるといわれています(注74)。また、食品はその生産から廃棄に至るまで、多量のエネルギーを消費するなど環境問題とも密接に関連しています。

日本では、2017年度には食品ロスが612万トン発生していると推計されています。これは、1日当たり大型(10トン)トラック約1,677台分に相当し、国民一人当たりに換算すると、1日当たり約132gであり、茶碗1杯分の御飯の量に相当します。世界的な人口増加等による食料需要の増大、気候変動による生産減少等、国内外の様々な要因が食料供給に影響を及ぼしている可能性があり、食料の安定供給に対する国民の不安も高まっています。このような中、国内の食料消費が国産でどの程度賄えているかを示す食料自給率は、2018年度にはカロリーベースで37%となっており(注75)、食品ロス削減は貴重な食料を有効活用するという意味で、重要な取組といえます。

また、食品ロスとなってしまった食品は、飼料や肥料として再生利用され、それも困難な場合には焼却等により廃棄されることになりますが、2018年度に市区町村及び一部事務組合が一般廃棄物の処理に要した経費は、2兆910億円に上ります(注76)。なお、2017年度には、家庭系収集ごみに対する食品廃棄物の発生量の割合は、31.5%(注77)であり、食品廃棄物に対する食品ロス量の割合は34.9%と推計されています(注78)

このように、食品ロスは資源が無駄に消費されるだけでなく、排出されるごみが増え、それを処理するための地方公共団体のごみ処理費用等の社会的コストの増加にもつながることから、食品ロスの削減は、社会的コストを最終的に負担している国民の負担減にもつながる可能性があります。また、食費が家計に占める割合は消費支出の4分の1を超えていることから(注79)、家庭での食品ロスを減らすことは、家計負担減にもつながると考えられます。さらに、食品関連事業者においても食品ロスを減らすことができれば、その分製造・流通・販売・廃棄コストを減らすことができます。

加えて、多くの食品ロスが発生している一方で、日本では、人口のおよそ6分の1に当たる人が相対的貧困(注80)といわれる状態にあるといわれています(注81)(図表I-2-2-2)。

別の観点からみると、日本には、「もったいない」という意識を始め、食前・食後に口にする「いただきます」、「ごちそうさま」といった、食べ物やそれを育んだ自然の恵み、作ってくれた人への感謝の言葉があり、伝統的に、食べ物を大切にする文化があるといえます。このような日本の文化もいかし、国民全体で食品ロスの削減に取り組んでいく必要があります。

食品ロスの発生要因

食品ロスは、食品のライフサイクルの中でも、生産、製造、流通、販売、消費といったあらゆる段階で発生します。主に、生産段階、製造段階では、規格外品や見込み生産、流通段階では、「3分の1ルール」を始めとする商慣習等による返品、販売段階では需要予測のズレ、消費段階では、食べ残しや作り過ぎが食品ロスの発生の背景となっています(図表I-2-2-3)。

前掲図表(図表I-2-2-1)からも分かるように、事業系の食品ロスは消費者の直接関わる段階(外食産業、食品小売業)において、食品廃棄物等に占める食品ロスの割合が高くなっています。これは、食品のライフサイクルのいわゆる川下になるにつれて、可食部分の割合が高くなることや、外食時の食べ残し、買物時の鮮度志向等、消費者の意識・行動が影響しやすくなるという面もあります。

消費者が直接関わらない段階においても、例えば規格外品の廃棄は、消費者の食品の品質についての高い期待、必要以上の生産や製造は欠品に対しての消費者の寛容度と関連するなど、食品ロスの発生は、消費者の意識・行動と密接に関連しています。

また、各段階で発生した、まだ食べることができる食品については、廃棄するのではなく、フードバンク活動やフードドライブ等の活用の方法を探ることも有効といえます(第1部第2章2節(2)(有効活用段階)参照。)。

これらの各段階での食品ロスの主な発生要因や対策、行政・民間の取組事例等については、本節(2)以降で詳細に分析していきます。

食品ロス削減の目標

地球規模で食品ロスに関する意識が高まる中、2015年に国際連合総会において持続可能な開発のための2030アジェンダ(Sustainable Development Goals(SDGs))が採択され、目標12の中で、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」ことが、国際的な共通の目標として明確に示されました。

日本においては、SDGsの目標も踏まえ、食品関連事業者及び家庭から排出される食品ロスについて、共に2000年度比で2030年度までに半減させることとしています(注82)

日本における食品ロスを削減する動き

食品ロスの発生には、農林漁業者や食品の製造、加工、卸売、小売又は食事の提供を行う事業者から消費者に至る、いわゆる「川上から川下まで」多くの主体が関連します。食品ロスを削減していくためには、それぞれの立場において、できることを具体的な行動として取り組んでいくだけでなく、有機的に連携して社会全体として対応することが必要となります。消費者においては、消費者全体の意識や行動が、事業者における食品ロスの原因の一部となっていることを理解し、自らの行動を変えていくことが求められているといえます。

2019年5月には、食品ロスの削減の推進に関する法律(令和元年法律第19号。以下「食品ロス削減推進法」という。)が議員立法として全会一致で成立し、同年10月1日に施行されました。同法では、「食品ロスの削減に関し、国、地方公共団体等の責務等を明らかにするとともに、基本方針の策定その他食品ロスの削減に関する施策の基本となる事項を定めること等により、食品ロスの削減を国民運動として総合的に推進することを目的」としています(同法第1条)。

政府は、2020年3月に食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針(以下「基本方針」という。)を定め(注83)、地方公共団体は、基本方針を踏まえ、食品ロスの削減の推進に関する計画を定めるよう努めることとされています。

食品ロスの削減を国民運動として総合的に推進していくためには、国民の理解が不可欠です。消費者庁「消費者意識基本調査」(2019年度)で食品ロス問題について知っているか聞いたところ、全年齢層では88.1%が「知っている」(「よく知っている」+「ある程度知っている」)と回答していますが、若年層の認知度が他の年齢層と比べると低くなっています(図表I-2-2-4)。同法において、国民の間に広く食品ロスの削減に関する理解と関心を深めるため、毎年10月を「食品ロス削減月間」、10月30日を「食品ロス削減の日」と定められました。

COLUMN3
「食品ロス削減」に係る政府広報(杉浦太陽さんインタビュー)


  • 注65食品ロス:本来食べられるにもかかわらず捨てられる食品(食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針(令和2年3月31日閣議決定))
  • 注66:食品廃棄物等には、食品ロスのほか、例えば、魚・肉の骨等、食べられない部分が含まれる。また、食品廃棄物等の量には飼料等として有価で取引されるものや、脱水等による減量分を含む。
  • 注67:食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(平成12年法律第116号)第9条第1項
  • 注68:国際連合食糧農業機関(The Food and Agriculture Organization of the United Nations(FAO))
  • 注69:FAO「食料ロスと食料廃棄削減に向けた地球規模の取り組み」(2013年)
  • 注70:国際連合環境計画(United Nations Environment Programme(UNEP))
  • 注71:FAO「世界食料農業白書2019年報告」(2019年)
  • 注72:FAO「世界の食料ロスと食料廃棄」(2011年)
  • 注73:国際連合「世界人口予測・2019年版」(2019年)
  • 注74:FAO「世界の食料安全保障と栄養現状2019年報告」(2019年)
  • 注75:農林水産省「平成30年度食料需給表(確報)」(2020年)
  • 注76:環境省「一般廃棄物処理事業実態調査の結果(2018年度)」(2020年)
  • 注77:環境省「令和元年度食品廃棄物等の発生抑制及び再生利用の促進の取組に係る実態調査報告書」(2020年)。一般廃棄物の組成調査を実施した市区町村における単純平均。
  • 注78:環境省「令和元年度食品廃棄物等の発生抑制及び再生利用の促進の取組に係る実態調査報告書」(2020年)。家庭系食品廃棄物に占める直接廃棄、過剰除去、食べ残しそれぞれの割合の平均値を足し上げたもの。
  • 注79:総務省「家計調査」(2019年)
  • 注80:相対的貧困とは、一定水準(貧困線)を下回る等価可処分所得しか得ていない者をいう。
  • 注81:2015年における相対的貧困率は15.7%、子供の貧困率は13.9%(厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査」(2017年))。
  • 注82:事業系の食品ロスについて、食品循環資源の再生利用等の促進に関する基本方針(令和元年財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省告示第1号)。家庭系の食品ロスについて、第四次循環型社会形成推進基本計画(平成30年6月19日閣議決定)。
  • 注83:令和2年3月31日閣議決定

担当:参事官(調査研究・国際担当)