第1部 第2章 第2節 (3)食品ロス削減を国民運動として推進するために
第1部 消費者問題の動向と消費者意識・行動
第2章 【特集】つくる責任、つかう責任、減らす責任~食品ロス削減--持続可能な社会のために~
第2節 食品ロス問題の解決に向けて
(3)食品ロス削減を国民運動として推進するために
ここまで述べてきたように、食品ロスは様々な場面において、多様な当事者の意識、行動により発生することから、今後食品ロスを削減していくためには、それぞれの段階で、それぞれの当事者が連携して取り組んでいく必要があります。食品関連以外の事業者や新しい技術を活用した研究や事業にも、食品ロス削減に関する取組は広がってきており、今後、より一層、社会全体で意識の醸成が進んでいくことが期待されます。内閣府では、2020年にムーンショット型研究開発制度(注111)の目標5として、「2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出」を設定しており、この目標を達成するための研究開発を通じて、食品ロスの削減に資するイノベーションの創出が期待されます。
また、食品ロス削減推進法や基本方針では、食品ロスの削減を国民運動として推進していくことが明確化されました。食品ロスの削減が国民運動として持続的に展開していくには、国民一人一人が、食品ロス問題を他人事としてではなく自らの問題として捉え、理解するだけにとどまらず、実際に行動に移していくことが必要といえます。消費者としての国民一人一人が、自らの意識や行動がサプライチェーン全体に影響を与えていることを自覚し、それぞれの生活に合った取組をしていくことが大切です。特に、これからの社会を担っていく若い世代に対し、学校の教科や学校給食、あるいは普段の生活の中等様々な場面を通じて食育を行い、その中で命の大切さや食への感謝の気持ちを養っていくことで、食品ロス削減に関する理解と実践を促していくことは重要といえます。
さらに、各当事者の連携した取組を推進していくため、行政(国、地方公共団体)が、積極的に食品ロスの削減を打ち出し、各当事者をつなぐ場を提供するなど、全ての人が参加しやすい仕組みを作っていくことが重要となります。
事例 食べ残しNOゲーム(特定非営利活動法人DeepPeople)
小学生が考案した「食べ残しNOゲーム」で楽しく遊びながら食品ロス問題を学ぶ
社会をよくしたいという想いのある人を育てることで、様々な環境問題や社会問題の解決を目指す特定非営利活動法人DeepPeople(以下「DeepPeople」という。)は、自ら未来を創り上げていくことのできる人を育てる「未来価値創造大学校」を運営しています。
食べ残しNOゲームは、2016年に、未来価値創造大学校の「アドベンチャーコース」(小学生向けカリキュラム)の中で、当時小学6年生の栗田哲君が考案しました。栗田君は、父親の経営する飲食店で、おかわり自由のキャベツ等の食品が大量に食べ残され、廃棄されていることを目の当たりにし、食品ロスが社会的課題であることを知りました。そこで、客が食べられる量と飲食店の提供する量が合致すれば、食べ残しが減ると考え、同世代の子供たちに食品ロス問題を知ってもらうため、自分が食べられる量を知り、予算の中で食べられる量を注文するカードゲームを考案しました。その後、改良を重ね、2018年に商品化することができました。
同ゲームを広く使ってもらうため、DeepPeopleでは、イベントや事業者での体験会や学校への出張授業を行うとともに、同ゲームを活用して啓発することができる人を認定する公認講座を開催し、普及活動を行っています。
出張講座後の小学生のアンケートでは、「自分の食べられる量を知って、注文したり、食べ残しをしなかったりすることで、食品ロスが減るということが分かった」、「食べ残しNOゲームを作ったのが私たちと同じ6年生と聞いてびっくりした。世界で食料不足の国があるにもかかわらず、食べ残しをしていて少し悲しくなった」といった声が聞かれました。
また、ゲームを体験した人の9割以上が、食べ残しNOゲームを通して「自分の行動が変わると思う」と回答しており、「自分の食べられる量を知っておく」、「食べ残しをしない」、「食べ物を買い過ぎない」といった具体的な意識の変化もみられました。
事例 全国生活学校連絡協議会・全国の生活会議・公益財団法人あしたの日本を創る協会
地域に密着した組織をいかして「食品ロス削減全国運動」を展開
全国生活学校連絡協議会・全国の生活会議・公益財団法人あしたの日本を創る協会では、2014年度から2018年度までの5年間、「食品ロス削減全国運動」に取り組みました。
2014年度に生活学校・生活会議(※)のメンバー約9,000人が参加して食品ロスになりやすい食材を調査し、その食材を使ったレシピを生活学校が考案、2015年度に「食品ロス見直しデーレシピ集」をまとめました(9,000部発行)。レシピの一部は、料理レシピサイト「クックパッド」の「消費者庁のキッチン」にも紹介されています。
また、2014年度から2016年度には、毎月1日を「食品ロス見直しデー」とし、食品ロスになったものの重さを量り記録することで、各個人がどの程度食品ロスを出し、減らすことができているかを把握する取組を行いました。その結果、月に一度の計測・記録が食品ロスに対する意識改革のきっかけとなり、削減効果が実証されました。これを受けて、2017年度には「食品ロス削減家計簿手帳」を作成し、主催する講演会やイベント等で食品ロス削減を呼び掛け、無料配布しました。2018年度には、更に運動を広げるため、市区町村の食品ロス削減担当課を通じて同手帳を住民に広く無料配布し、2019年度までに約72,700部を配布しました。食品ロス削減推進法が成立したことを受け、啓発資材として今後も多くの要望が寄せられることが見込まれます。
さらに2016年度からは、家庭から出る食品ロスとなりそうな食品を集め、必要としているところに届けるフードドライブに取り組んでいます。生活学校・生活会議のメンバーは、普段から地道に地域に密着した活動を行っており、食品を必要としている提供先も把握することができることから、効果的な活動ができているといえます。フードドライブは、全国で2019年度までに累計155回行っており、今後も引き続き取り組んでいきます。
※生活学校(全国で約400)とは、女性を中心に、身近な暮らしの中の問題を、学び、調べ、事業者や行政と話し合い、他のグループとも協力しながら、実践活動の中で解決し、生活や地域や社会の在り方を変えていく活動。 生活会議(全国で約230)とは、地域で起こる様々な問題を、住民同士や地域作りグループ同士、事業者、行政と話し合い、地域のまとめ役として実践活動を通じて解決することにより、快適で安全な住み良い地域社会を創っていく活動。
COLUMN7
大規模スポーツイベントに向けた食品ロス削減の取組(農林水産省)
- 注111:日本発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を、司令塔たる総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の下、関係府省庁が一体となって推進する制度(内閣府)。
担当:参事官(調査研究・国際担当)