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デジタル技術で高齢者の地域活動を支援する:GBER

 一橋大学大学院ソーシャル・データサイエンス研究科の檜山敦教授は、高齢者の就労と社会参画を促進するウェブアプリケーション「GBER:Gathering Brisk Elderly in the Region」(以下「GBER」という。)を研究開発、運営しています。高齢者と、仕事を始めとする地域活動とを、時間、場所、スキルの三つの観点からつないで、高齢者層の社会参画を促進するプラットフォームの社会実装を目指しています。

元気な高齢者を、社会を支える存在として応援したい

 バーチャルリアリティ等の研究を行っていた檜山教授は、博士号取得後、高齢者の生活支援ロボットの研究開発プロジェクトに携わりました。支えられる対象としての高齢者にアプローチするものでしたが、プロジェクトを通して高齢者と触れ合い、超高齢社会について理解を深めていく中で、少数の若者層で社会を支え続けようとするのではなく、元気な高齢者が社会を支える側に回ることで、より日本を明るい未来へと導くことができるのではないかと考え始めました。

高齢者の生活スタイルに合わせて、地域活動とのマッチングを行う

 檜山教授が研究開発するウェブアプリケーションGBERは、仕事、ボランティア、生涯学習、イベント等の多種多様な地域活動を、高齢者と結び付けることをサポートするマッチングプラットフォームです。GBERでは、カレンダー(スケジュール)機能を使い、自分が参加できる日時で活動を探すことができます。また、地図機能を使い、自分の生活圏内の活動を探すこともできます。さらに、簡単な質問に答えることで自分の興味・関心やスキルを登録することもできます。このようにして、GBERは「時間」、「空間」、「できること・関心があること」という三つの視点を、自分の生活スタイルに合わせた地域活動探しに取り入れています。また、地域の求人団体や高齢者にとっても、お互いの都合に合わせて一件一件電話で問い合わせていたことに対し、マイペースで募集と応募ができるメリットがあるそうです。

 仕事やボランティアと高齢者とのマッチングに際しては、一見すると専門知識や技能が必要そうな内容であったり、一人の時間や体力ではこなせなさそうな内容であっても、その一部であれば、現役時代の経験や技能をいかしたり、自分の体の状態に合わせて参加することもできます。このように、一人分の仕事を分割し、複数名の高齢者が力を合わせて地域の困り事を解決するという考え方が、高齢者に無理のない就労や社会貢献活動を考える際には重要といいます。

柏市で実証研究後、熊本県を皮切りに社会実装が拡大中

 GBERは最初に千葉県柏市で実証研究が行われました。高齢者の就労や社会貢献活動を支援する団体でGBERを導入し、地域の住宅のガーデニングの仕事とのマッチングが行われています。その結果、2016年4月から2022年3月までに、延べ約6,000人の高齢者が参加しました。

 この研究結果を基にアプリケーションを改善し、2019年に自治体事業として初めて熊本県での社会実装が始まりました。熊本県では高齢者へのインフォーマルサービス(介護保険外)を提供している団体とシルバー人材センターがGBERを活用しており、GBERの講習会や、スマートフォンを使い慣れていない方へのサポートも行っています。GBERは、東京都世田谷区、福井県、神奈川県鎌倉市でも活用されており、その社会実装が広がっています。

課題は、参加のハードルを下げること

 高齢者は柔軟な働き方を求めているといっても、いざ仕事探しを始めると企業の知名度や仕事内容等、現役時代と同じような観点で仕事を探すため、地域の事業者のことを知らなかったり、実際の業務よりも業種への先入観から自分には合わないと思ったりするため、応募へのハードルは高いそうです。自分の住む地域についてよく知らない方も多くいます。初めの一歩を踏み出せるように、まずはイベント等を通して、地域の活動や事業者を知ってもらうことが必要です。

 高齢者が地域活動に参画しやすくするため、GBERでは仕事だけではなく、ボランティアや生涯学習等の様々な地域活動を集約し、高齢者が心身の状況に合わせて活動を選べるようにしています。最初は参加のハードルが低い生涯学習やイベント等から参加し、自分の住む地域と事業者についての理解やつながりを深めた後に、地域で仕事を行うこともできます。

 このように、就労も含めた様々な地域活動を集約し、高齢者に提案していくためには、それぞれの活動に関わる様々な行政部署との連携も重要になってきます。GBERの社会実装が更に進むためには、地域の事業者や団体だけでなく、高齢者に関わる様々な行政部署が枠を超えて協力して取り組んでいくことが重要であるとのことです。

目指すのは、高齢者の地域での活躍と、現役世代の負担軽減

 檜山教授は「GBERを通して、高齢者の帰属意識を、現役時代とは異なり、企業から地域へと移すことで、高齢者自身の経験とスキルを様々な地域企業に提供する機会を増やし、そこで頑張る現役世代の負担も軽減できる社会を実現したい」と話します(図表)。

図表1 

図表2 

図表3 

図表3 

担当:参事官(調査研究・国際担当)