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米国での高齢消費者保護の取組

 米国では、65歳以上の高齢者が全人口に占める割合は、2021年には16.8%(注1)となっており、高齢消費者の詐欺被害も発生しています。ここでは、米国における高齢消費者向け教育キャンペーンや高齢預金者保護の取組を紹介します。

米国の高齢者の詐欺被害金額は高い傾向にある

 米国で競争政策及び消費者保護を担当している連邦取引委員会(Federal Trade Commission(FTC))は、毎年、「高齢消費者保護報告書」を連邦議会に提出しています。報告書では、消費者からFTC等に寄せられた苦情相談のデータを基に分析した高齢消費者の詐欺被害の状況や、FTCによる高齢消費者保護の取組状況が示されています。

 2022年10月に提出された報告書(注2)によると、高齢者(60歳以上)からの詐欺に関する苦情相談は約47万件ありました。実際に金銭的被害が発生した詐欺被害についての個人の被害額の中央値は、18歳から59歳までの消費者と比較して高齢者の方が高い傾向があり、特に80歳以上の高齢者では1,500ドルと、他の年齢層よりも非常に高額となっています。また、金銭的被害が発生したとの報告の中では、高齢者は「技術サポート詐欺」や「賞品、賞金、宝くじ詐欺」、「家族・友人なりすまし詐欺」による被害が18歳から59歳までの消費者に比べて多いことが報告されています。

 米国では高齢者を詐欺被害から守るための取組がなされており、ここでは二つの取組を紹介します。

代表的な二つの取組:高齢消費者向け教育キャンペーン及び高齢預金者の保護

1.「Pass It On」教育キャンペーン
 「Pass It On」は、FTCが進めている高齢者向けの詐欺被害防止を目的とした消費者教育キャンペーンです。このキャンペーンの資料は、高齢者が資料を読んだ後に家族や友人に知らせる(Pass it on)ことで、詐欺被害について話し合うきっかけを提供するよう作られています。資料にはパンフレット、しおり、ビデオ、プレゼンテーション資料等様々な種類があり、高齢者が詐欺被害についての理解を深めやすいよう、詐欺の手口と対処方法を簡潔に説明しています。
 このキャンペーンは2014年の開始後、地域の関係者からの要望や詐欺手口の傾向の変化等を反映してトピックスの数が増えてきており、現在では「①ビジネスなりすまし詐欺、②寄附金詐欺、③政府なりすまし詐欺、④孫と家族なりすまし詐欺、⑤健康保険詐欺、⑥住宅修理詐欺、⑦個人情報窃盗、⑧投資詐欺、⑨仕事・金稼ぎ詐欺、⑩ロマンス詐欺、⑪技術サポート詐欺、⑫迷惑電話・メール、⑬当選詐欺」の13の詐欺行為に対応する資料が準備されています。

2.高齢預金者の保護のための「Trusted Contact」
 「Trusted Contact」(信頼できる連絡先)は、特に高齢の預金者に、口座を持っている銀行や信用金庫に信頼できる連絡先を登録してもらう仕組みです。多くの預金者は家族や弁護士等を登録者にしており、複数の連絡先を登録することもできます。ただし、信頼できる連絡先の登録者は、預金者の口座取引や口座に関する決定は行えず、登録したことで預金者の代理人、法定後見人、受託者、遺言執行者に指定されるわけではありません。
 この仕組みは、銀行や信用金庫で通常とは異なる取引があり、その取引が本当に預金者本人によるものかを確認しようとしても本人と連絡がつかない場合に、銀行や信用金庫が直接、信頼できる連絡先の登録者に確認するものです。例えば、預金者本人が入院していて銀行や信用金庫が連絡を取れなくても、信頼できる連絡先に連絡し、その登録者が預金者本人に状況を確認するなどして、詐欺被害を防止できます。また、高齢預金者本人が、詐欺が疑われる取引のために銀行や信用金庫を訪問し、職員が話をしても納得しないような場合には、信頼できる連絡先に連絡し、その登録者に本人と話をして当該取引に関与することを勧めることもできます。


  • 注1:米国国勢調査局
  • 注2:"Protecting Older Consumers 2021-2022," Federal Trade Commission, October 18, 2022

担当:参事官(調査研究・国際担当)