EU加盟国における高齢者への地域密着型消費者アドバイスの取組
欧州委員会は、2020年11月に発表した2020年から2025年までの欧州連合(EU)の消費者政策のビジョンを示した「New Consumer Agenda」の中で、「特定の消費者グループのニーズへの対応」として、高齢者等のぜい弱になり得る消費者への対応を主要分野の一つに掲げています。欧州委員会はEU加盟国で実施されている地域密着型の消費者相談の取組を調査し、優良事例をまとめ、2023年1月に研究報告(注1)を公表しました。
EU加盟国の高齢者は地域密着型アドバイスを志向
消費者に対する調査(注2)によると、地域の相談窓口の認知度は対面等のオフラインの窓口では33%、オンラインの窓口では43%とどちらも半数以下ながら、既に利用している消費者では、相談窓口に対する満足度は高く、83%は問題が解決したと回答しています。利用される相談形式は、年齢で差があり、若年層にはデジタル形式が好まれる一方で、高齢者には対面での個人相談の方が多く利用されています。
専門家へのインタビュー調査では、地域密着型のアドバイスを最も必要としているのは高齢者であり、特にデジタル化への対応のため、高齢者に特化した取組が必要であることが指摘されています。
ドイツの高齢者向け取組「Consumer60+」
優良事例の一つであるドイツの高齢者を対象としたデジタルスキル向上のための取組である「Consumer60+」の特徴は、既存の仕組みを活用しながら、複数の関係者が連携して取組を実践することです。
「Consumer60+」は、デジタルスキルの低い60歳以上の高齢者を対象に、消費者団体VERBRAUCHER INITIATIVE e.V.とそのパートナーによる「(1)デジタルコンパス、(2)デジタルチャンピオン、(3)Consumer60+ウェブサイト」の三つの柱(サブプロジェクト)で構成されています(図表)。
取組の実施に当たり、既存のボランティア組織との連携を強化し、活動をサポートすることや、本取組のスタッフとボランティア間の交流活動を行うこと等が、成功の鍵として挙げられています。
チェコの高齢者への消費者リテラシー向上の取組
優良事例の一つであるチェコの「消費者リテラシーの向上の取組」の特徴は、地域での高齢者向けアドバイスを行う場所を適切に選ぶことです。老人ホーム等を会場に選ぶことで、その場所に出入りする高齢の消費者に必要な情報を届けることができるようになると考えられています。また、主催団体が他のNGO等の団体と連携することも重要です。
消費者リテラシーの向上の取組は、チェコのソーシャルカウンセリング協会によって、老人ホームや病院、シニアクラブ等の公共の場所で、セミナーやグループカウンセリングの形式で行われました。セミナー開催にふさわしい会場を確保するために、ソーシャルカウンセリング協会は、チェコ看護サービス協会(病院や介護施設を運営)、全国障害者協議会(障害のある高齢者を代表)と連携し、既にその場所を利用している高齢者に参加を呼び掛けました。セミナーでは、弁護士等の専門家が法律や消費者問題について高齢者に話をするだけでなく、高齢者がセミナーを楽しみながら互いの体験を共有するなど、参加しやすい工夫がされました。また、セミナーで取り上げた問題点や解決策を簡潔にまとめたパンフレット等を配布し、セミナー後に高齢者同士や家族・友人と共有できる工夫もされています。
担当:参事官(調査研究・国際担当)