ドイツのシニアオフィス(Seniorenbüros)による高齢者のボランティア活動の支援
ドイツでは地方公共団体や民間の団体が高齢者のボランティア活動に関する相談窓口である「シニアオフィス」を設置しています。シニアオフィスは、高齢者の興味やスキルに応じたアドバイスの実施や、ボランティア団体への仲介、ボランティア活動に必要な研修の提供等を行っており、高齢者のボランティア活動を促進しています。
高齢者は自分の経験を社会で役立てたいと考えている
ドイツでは、日本と同様に人口動態の変化が顕著であり、65歳以上の高齢者が増加しています。その一方で、以前より健康な高齢者が増えており、多くの高齢者は自分の住み慣れた環境で自立した生活を送り、地域のコミュニティへ積極的な参加を望み、その豊富な人生経験を他の人、特に若い世代と共有したいと思っています。80歳以上の高齢者1万人以上を対象とした生活の状況や生活の質に関する最新の調査(注1)で、価値観に関する質問に対し、高齢者の多くは、「若い世代に社会的価値を教えること(82.9%)」、「ロールモデルになること(78.3%)」、「自分の経験を伝えること(77.0%)」は重要であると回答しています。
シニアオフィスがボランティア活動への参画を促進
ドイツ国内のボランティア活動に関する調査(注2)によると、ボランティア活動をする人の割合について、1999年時点と2019年時点を比較すると、最も大きく変化しているのは65歳以上の高齢者でした。65歳以上では、1999年は18.0%でしたが、2019年は31.2%と、この20年間で13.2%ポイントも上昇しています。また、2019年のボランティア活動をする人の割合を5歳階級別にみると、65歳から69歳では40.0%、70歳から74歳まででは37.1%、75歳から79歳まででは28.8%と、多くの高齢者がボランティア活動に参加しています。
シニアオフィスは、1992年に旧連邦家庭・高齢者省(注3)のモデル事業(注4)の一環としてドイツ国内に設立され、現在は約450のオフィスが存在します。年間250万人が利用し、約5万人がボランティア活動を行っています(注5)。シニアオフィスは、高齢者の生活の質の向上を目指し、日常生活のサポートから社会貢献活動参加への支援まで幅広く対応しており、地域社会への貢献に関心を持つ高齢者に対しては、ボランティア活動への意欲を高める手厚い支援や、資格取得のための研修等の教育システムを提供しています。
高齢者の個々の特性に合わせてボランティア活動を支援
シニアオフィスでは、老年学、社会福祉学、教育学等の資格を持った経験豊富な専門家スタッフが、ボランティア活動をしたい高齢者に対してカウンセリングを行い、高齢者の個々の知識や経験をどこでどのように活用できるかを助言します。また、高齢者の希望に合ったボランティア活動の紹介や、高齢者から提案された新しい活動アイデアの実現に向けた支援をします。シニアオフィスが関わるボランティア活動や地域での活動は、地球温暖化の防止のための活動、高齢者が高齢者にデジタルの活用を支援する取組等、多岐にわたります。また、高齢者による子供への本の読み聞かせ等、世代を超えた交流につながる活動も行われています。このように高齢者の地域での活動を促進することで、高齢者の孤独・孤立を防止できるとも考えられています。
さらに、ボランティア活動を行うために必要な資格を取得するための研修も行っており、例えば、若い家族に対する子育て支援、難民支援、介護等に関連した資格の取得と支援をしています。
- 注1:"Werthaltungen hochaltriger Menschen und ihre Wünsche für die eigene Lebenssituation und das gesellschaftliche Zusammenleben," CERES, Nummer 9 Juli 2022
- 注2:"Freiwilliges Engagement in Deutschland," Der Deutsche Freiwilligensurvey 2019, DZA, März 2021
- 注3:Bundesministerium für Familie und Senioren。現Bundesministerium für Familie, Senioren, Frauen und Jugend 「連邦家庭・高齢者・女性・青少年省」
- 注4:Modellprogramm "Seniorenburo"
(1)高齢者の興味やスキルに応じた活動のアドバイス、(2)高齢者とボランティア団体の仲介、(3)高齢者のプロジェクトの立ち上げや取組を支援することを目的としたモデル事業。 - 注5:BaS-Befragung von Seniorenburos, 2018
担当:参事官(調査研究・国際担当)