第1部 第2章 第2節 (5)第2節のまとめ
第1部 消費者問題の動向と消費者の意識・行動
第2章 【特集】高齢者の消費と消費者市民社会の実現に向けた取組
第2節 高齢者の消費行動と消費者トラブル
(5)第2節のまとめ
本節では、近年の高齢者の消費支出や消費行動、消費者トラブルの状況を分析しました。
高齢者の消費支出の傾向をみると、高齢者世帯は、総世帯と比べて消費支出は少ない一方で、贈与金等の交際費や食料、保健医療への支出割合が高いといった特徴があることが分かりました。
また、「消費者意識基本調査」の結果から、高齢者は消費の特徴として、「食べること」に加え、「医療」にお金をかけていることや、購入の際は「品質・性能の良さ」や「価格の安さ」のほかに、「アフターサービスや保証の充実」を重視していることが分かりました。一方で、「買う前に機能・品質・価格等を十分に調べる」意識は、年齢層が高くなるほど低くなる傾向があることが分かり、購入前の調査不足による消費者トラブルへの発展も懸念されます。
消費生活相談情報の分析から、高齢者の消費者トラブルの傾向は、年齢層ごとに違いがあることが分かりました。健康食品のトラブルが多くみられることは高齢者全体に共通していましたが、年齢層が高くなるほど住宅修理に関する相談の順位が上がっていました。また、高齢者全体では、インターネット通販によるトラブルが増加傾向で、2022年は近年最多であり、その3分の2は65歳から74歳までの高齢者が占めていました。詳細にみると、65歳から74歳までは通信販売の中でもインターネット通販の割合が高いのに対し、85歳以上ではインターネット通販以外の通信販売(テレビショッピングやカタログ通販等)が大半、75歳から84歳までは両方が同程度の割合であるなど、高齢者でも年齢層によって異なる傾向があることが分かりました。そのほかに2022年の特徴としては、劇場型勧誘や還付金詐欺の相談が増加していました。
高齢化が進展する中で、認知症患者や判断力が低下した人が増加し、そうした高齢者の消費者被害は深刻化する傾向があることから、深刻な被害が増える懸念もあります。また、デジタル化の進展や高齢者のインターネット利用が増えている中で、高齢者のインターネット通販のトラブルが更に増加していく可能性もあります。「消費者意識基本調査」の結果から、インターネット通販で気を付けていることの中で、高齢者は全体と比較して、気を付けている割合が低い項目が多いことが分かり、こうしたデジタルリテラシーの差が、インターネット通販でのトラブルにつながることも懸念されます。さらに、特に75歳以上では、消費者トラブルに遭った際に積極的な対処をしなくなる傾向があることが示唆され、被害回復の遅れや泣き寝入りにつながるおそれがあることも分かりました。
このような特徴によって、高齢者は様々なぜい弱性を抱えている可能性がありますが、そこには年齢差や個人差があると考えられます。多様な高齢者が存在しますが、様々なぜい弱性につけ込まれ、高齢者が消費者トラブルに巻き込まれるおそれがあります。
高齢者の消費者被害の防止に向けては、高齢者一人一人の状況や抱えているぜい弱性に対応できる見守り活動が有効と考えられます。地域における見守り活動を推進するために、地方公共団体への地域協議会の設置を進め、消費者行政担当部局と福祉関係部局等との緊密な連携を図ることも重要です。こうした取組により、消費者被害を早期に発見して解決することや、生活困窮や社会的孤立等が絡む複合的な課題への支援につながることが期待されます。
高齢者の見守り活動においては、地域の実情や実施する取組等に合わせて、行政だけでなく、地域の様々な主体が参加する包括的な見守り体制を構築していくことで、高齢者の多様な状況に対応していくことができると考えられます。地方公共団体による見守り活動の中には、宅配事業者等の民間事業者と連携・協力し、高齢者等の消費者被害を早期に発見して必要な支援につなげる先進事例があります。例えば、移動スーパーと地方公共団体等が連携して見守り活動を実施する実証事業も始まっています。
また、高齢者自身が消費者被害から身を守るために、高齢者の多様なぜい弱性やトラブル傾向にも対応した、高齢者向けの消費者教育や情報提供・注意喚起の取組を強化していくことも重要です。特に、高齢者のインターネット通販のトラブルが増加しており、今後もデジタル化の進展が想定されることから、高齢者向けのデジタル教育にも取り組んでいく必要があります。実際に、高齢者の消費者トラブルに関する情報収集の特徴として、テレビや身近な人、新聞・雑誌等で情報を入手している傾向がみられる一方で、インターネット上から情報を得ている高齢者は少ない傾向がみられました。そのため、消費者被害の防止につながるインターネット上の有益な情報に、高齢者がアクセスできていないおそれがあります。高齢者が限られた情報しか得られていないという情報格差は、消費者被害の防止や対処にも影響する可能性があり、高齢者向けの情報提供ではそうした点にも配慮することが求められています。
一方で、高齢者の中には、「どのように使えば良いか分からない」、「自分の生活には必要ない」という理由でインターネットを利用していない人も多く、デジタルそのものを敬遠している高齢者もいると考えられます。こうした状況に鑑み、高齢者がデジタル社会に取り残されないように、高齢者にも親しみやすいデジタル教材の開発や、高齢者が参加しやすいデジタル教育の機会の提供に力を入れていくことで、高齢者向けの消費者教育や情報提供の効果を更に高めていくことも重要であると考えられます。また、デジタルに詳しい高齢者の協力を得たり、高齢者同士で教え合ったりすることも、デジタルスキルの習得や情報共有の効果を高めることができると考えられます。
さらに、高齢者の家族や友人との会話やコミュニティでの交流等で、消費者トラブルを話題にしたり、注意を呼び掛け合ったりすることが、効果的な情報共有や、消費者被害の未然防止や早期発見につながると考えられます。また、そうした交流の場は、高齢者のデジタルスキルの習得にもいかすことができる可能性もあります。「消費者意識基本調査」の結果からも、家族・友人・知人の役に立ちたいという意識は高齢者でも高いことや、トラブル時の相談相手としての身近な人の重要性は高齢になっても変わらないことが示唆されています。
そのため、高齢者向けの消費者教育や情報提供のツールとしては、高齢者の身近な人や高齢者同士のコミュニティで利用されることを想定した、話題にしやすく活用しやすいコンテンツ作りも有効であると考えられます。こうしたコンテンツは、見守り活動において、コミュニケーションツールとなり、高齢者と身近な人の結び付きを強化する役割も果たすことができる可能性があり、見守りの効果を高めることができると考えられます。
担当:参事官(調査研究・国際担当)