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第2部 第2章 第3節 2.デジタル社会での消費者利益の保護・増進の両立

第2部 消費者政策の実施の状況

第1章 消費者庁における主な消費者政策

第3節 「新しい生活様式」の実践その他多様な課題への機動的・集中的な対応

2.デジタル社会での消費者利益の保護・増進の両立

(1)経済のデジタル化の深化に伴う取引・決済の高度化・円滑化等への対応

ア キャッシュレス決済及び電子商取引における安全・安心の実現

 経済産業省では、キャッシュレス・ポイント還元事業における事業ホームページや周知ポスター、チラシ等の中に消費者に対する不正事案等に関する注意喚起事項を記載し、注意喚起を行いました。また、消費者庁等とも連携し、注意喚起を要する事案が発生した際には地方自治体等へ周知を行える体制を構築しました。

 金融庁では、不正利用やシステム障害等の事案の発生を受け、主要なスマートフォン決済サービスを営む事業者に対して行ったシステムリスク管理態勢の実態把握(2019年度)において、リスクに応じた利用者認証方式や不正取引の監視体制、キャンペーン時に増加する取引量へのシステム対応等に課題が見られたこと等を踏まえ、セキュリティ対策の向上・システムの安定稼働を促すとともに、2020年6月に「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」を改正しました。

 また、資金移動業者の決済サービスを通じた銀行口座からの不正出金事案を受け、2020年9月に、銀行や資金移動業者に対し、不正防止策の実施や被害補償について要請を行い、同年9月及び10月には銀行口座からの不正な出金についての注意喚起を実施しました。また、同年12月には、預金取扱金融機関に対し、銀行口座と連携する決済サービスに係るセキュリティの状況等の実態把握のため、全国銀行協会と連携して実施した調査の調査結果を公表しました。さらに、2021年2月に「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」、「主要行等向けの総合的な監督指針」等を改正しました。

 消費者庁では、2020年7月の「消費者のデジタル化への対応に関する検討会」の取りまとめを踏まえ、キャッシュレス決済に係る消費者問題への対応として、多様化・複雑化しているキャッシュレス決済における事業者(決済代行事業者や立替払事業者)の実態調査を実施しました。

イ デジタル・プラットフォームを介した取引における消費者利益の確保【再掲】

 消費者庁では、デジタル・プラットフォーム事業者の取引の場の提供者としての役割や、デジタル・プラットフォーム事業者から消費者に対する情報提供の在り方等について議論するため、2019年12月から消費者庁にて「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会」を開催し検討を進めました。「プラットフォームが介在する取引の在り方に関する提言 −オンラインプラットフォームにおける取引の在り方に関する専門調査会報告書を受けて−」(2019年4月消費者委員会)や成長戦略フォローアップ(令和元年6月閣議決定)等も踏まえ、関係府省庁等との連携の下で、不適切な取引の防止やより安全な取引の促進など消費者利益の確保の観点から、イノベーションを阻害しないよう留意しつつ、新たな法的枠組みに関する検討を行い、2020年8月に論点を整理し、2021年1月に報告書を取りまとめました。同年3月5日には、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案」が閣議決定され、国会に提出されました。

 内閣官房では、デジタル市場競争会議及び同会議ワーキンググループにおいて、個人情報等の取得・利用に対する懸念、データの集中による寡占化がもたらす競争への悪影響の懸念を踏まえ、デジタル広告市場(関連する検索やSNS等を含む。)について評価を開始しました。2020年6月に公表した「デジタル広告市場の競争評価 中間報告」において、競争政策的観点からの課題に加え、消費者の視点からも、デジタル広告市場におけるパーソナル・データの取得・利用に係る懸念として、本人への説明やそれを前提とする本人同意が実効的に機能しているかという課題や、消費者の認知限界を踏まえれば事業者側に適切な配慮や取扱いを求めることが必要ではないかといった課題について、対応の方向性も含め、中間的な整理を行いました。

 また、2021年4月に最終報告を取りまとめ、課題解決のアプローチなどの対応の方向性を整理し、公表しました。(2020年度においては、デジタル市場競争会議を1回、同会議ヒアリング会合を1回、同会議ワーキンググループを11回開催。)

(2)「データ駆動社会」におけるビッグデータ(パーソナルデータを含む。)の適切な管理と効果的な活用

ア 情報信託機能の社会実装・普及に向けた施策の推進

 情報信託機能の認定スキームに関する検討会を開催し、「情報信託機能の認定に係る指針」の見直しを実施しています。また、総務省において、情報銀行の社会実装を推進するため、情報の活用について必要なルールの検討に資する実証事業を実施するとともに、データ倫理を担う人材の育成と情報銀行を介したデータ連携のための機能の標準化に資する実証を実施しています。さらに、情報銀行について、認定団体と連携し、事業者や消費者への普及促進に向けて取り組んでいるところです。

 2020年度には、情報銀行の認定指針の見直しのための検討を再開しました。また、総務省において、情報銀行における特殊性の高い情報の活用について必要なルールの検討に資する実証を実施するとともに、データ倫理を担う人材の育成と情報銀行を介したデータ連携のための機能の標準化に資する実証を実施しました。

イ データヘルスの推進等を通じた医療分野等におけるビッグデータの適切な活用

 NDB(注77)(レセプト情報・特定健診等情報データベース)、介護DB(注78)(介護保険総合データべース)情報の匿名での連結解析を可能とするシステムについて、2020年度の運用開始に向けて検討していたところ、2020年10月から本格稼働し、行政・研究者・民間事業者等の利活用が可能となりました。

 また、がんゲノム医療については、質の高いゲノム情報と臨床情報を、患者同意及び十分な情報管理体制の下、国内のがんゲノム情報管理センター(C-CAT)に集積し、当該データを、関係者が幅広く創薬等の革新的治療法や診断技術の開発等に分析・活用できる体制を整備し、個別化医療を推進しているところです。2019年6月に遺伝子パネル検査が保険収載されて以降、2020年12月末時点で約12,000症例のゲノム情報と臨床情報がC-CATに登録されました。これらの集積した情報を二次利活用する体制について検討を進めました。

(3)デジタル・プラットフォームその他技術革新の成果の消費生活への導入等における消費者への配慮等

ア デジタル・プラットフォームの利用に当たって消費者が留意すべき事項の理解促進

 昨今の技術革新の進展には、消費生活の利便性の向上、消費者の利益の増進につながる側面もある一方、リスク・課題の発生という側面もあります。実際に消費生活相談の状況を見ると、電子商取引に関する相談が2013年以降年間20万件を超え、フリマサービス関連の相談件数もここ数年で急増するなど、多くの消費者トラブルが発生しています。デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等については、政策面・制度面の観点から並行して検討が進められていますが、デジタル化の進展に対しては消費者自身も対応する力を身に付けることが必要です。

 消費者庁では、こうしたデジタル化への消費者の向き合い方について検討すべく、2019年12月から「消費者のデジタル化への対応に関する検討会」(以下「検討会」という。)を開催し2020年7月に報告書を取りまとめました。検討会でのデジタル・プラットフォームの利用に当たって消費者の留意すべき事項の理解促進についての議論等を踏まえ、同月に「デジタルプラットフォームを介した取引の利用者向けガイドブック」を取りまとめるとともに、同ガイドブックの内容を未成年者や高齢者向けに分かりやすく解説したパンフレットを、デジタル・プラットフォーム事業者等の意見を聴きながら作成し、2021年3月に公表しました。

イ 消費者がAIを賢く利活用する方策の周知啓発

 「消費者のデジタル化への対応に関する検討会」の下に設けられたAIワーキンググループでの議論を通じ、2020 年7月に消費者がAIのメリット・デメリットを正しく理解し、AIを賢く利活用するための「AI利活用ハンドブック」及び一般消費者向けリーフレットを取りまとめ、自治体や消費者団体等に配布しました。引き続き、ハンドブックやリーフレットを用いて、消費者向けの普及啓発を行うこととしています。

ウ 「新しい生活様式」におけるデジタル化に対応した消費者教育・普及啓発の推進【再掲】

 社会のデジタル化に伴い発生している新たな消費者問題に対応するための消費者教育の推進に関し、2020年10月に、消費者教育推進会議の下に、「社会のデジタル化に対応した消費者教育に関する分科会」を設置し、同分科会を5回開催しました。

 また、消費者庁では、2020年11月から「消費者保護のための啓発用デジタル教材開発に向けた有識者会議」を開催し、2021年3月、同会議での議論を基に、高等学校・大学等の授業で活用しやすい様式・素材による、デジタル取引・サービスに関連する最近の消費者トラブルに共通した特徴を具体的事例と共に学べる啓発資料を作成し、公表しました。現在、アクティブラーニングの考え方を取り入れ、e-ラーニングやオンライン授業にも対応した啓発用教材の作成に向けた議論を行っています。

 このほか、LINE公式アカウント「消費者庁 新型コロナ関連消費者向け情報」の開設や、PRプラットフォームサービスを活用した幅広いウェブメディア等を通じた情報発信など、デジタル技術を活用したプッシュ型情報発信を2020年度に開始しました。

エ 利用者向けデジタル活用支援

 オンラインによる行政手続・サービスの利用方法については、高齢者等が身近な場所で相談や学習を行えるようにするデジタル活用支援について、2020年度に全国11か所(12件)で実証を実施し、デジタル活用支援の担い手や実施体制等の検討等を行った上で、2021年度から本格的に実施することとしています。

オ デジタル機器・サービスの利用に係る新たな消費者問題への対応

 社会のデジタル化の進展に伴い新たに登場したデジタル機器・サービスに関する消費者トラブルに対応するため、検討会報告書等を踏まえて、2020年度に①デジタル社会における消費者行動に係る調査研究②オンラインゲームに係る消費者問題への対応のための消費生活相談員向けのマニュアルに向けた検討③キャッシュレス決済における事業者の実態調査などを実施しました。

カ オンラインゲームに係る消費者問題への対応

 「消費者のデジタル化への対応に関する検討会」の取りまとめを踏まえ、オンラインゲームに係る消費者問題への対応として、事業者団体と連携してオンラインゲームに係る消費者トラブルの解消を図るとともに、オンラインゲームに関する相談が本人や家族から寄せられた際の消費生活相談員向けのマニュアルを作成して相談員に配布します。

 2020年度には、「オンラインゲームに関する消費生活相談員向けマニュアル作成に係るアドバイザー会議」を開催しました。そのほか、コロナ禍における消費者被害防止キャンペーンの一環として、「オンラインゲームとの正しい付き合い方」をテーマに、オンラインセミナーを実施しました。

キ 電子商取引環境整備に資するルール整備【再掲】

 インターネットの普及に伴い、電子商取引や情報財取引は幅広い消費者に活用され、重要な取引手段の一つとなっています。

 経済産業省の「電子商取引に関する市場調査(注79)」によれば、2019年の日本のBtoC(注80)電子商取引の市場規模は19.36兆円(前年比7.65%増)にまで達しており、今後も一層拡大していくことが予想されます。

 「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(以下「準則」という。)は、このような電子商取引、情報財取引等のIT活用の普及に伴って発生する様々な法的問題点について、民法を始めとする関係する法律がどのように適用されるのかを明らかにすることにより、取引当事者の予見可能性を高め、取引の円滑化に資することを目的として、経済産業省が2002年3月に策定したものです(策定時の名称は「電子商取引等に関する準則」。)。

 経済産業省では、2020年8月に、準則の改訂を実施しました。今後も産業界や消費者等のニーズ等を考慮し、必要に応じて準則の改訂を行います。

ク 自動運転の実現に向けた制度整備の推進

 国土交通省では、自動運転車のための専用空間の在り方や、路車連携技術等を含む自動運転に対応した道路空間の基準・制度等について検討を行っています。2020年5月に道路法等の一部を改正し、自動運転車の運行を補助する磁気マーカ等の自動運行補助施設を道路附属物として位置付けるとともに、同年11月の改正法施行に合わせ基準等を策定しました。

 警察庁では、レベル4(注81)の自動運転に向けた制度整備に係る課題等について検討しています。2020年度には、「自動運転の実現に向けた調査検討委員会」を開催し、従来の運転者の存在を前提としない場合における交通ルールの在り方等について検討を行いました。

 消費者庁、経済産業省、国土交通省及び関係省庁では、ソフトウェアの更新の際のPL法の適用関係等について、技術的動向を踏まえて継続検討しています。2020年度には、経済産業省・国土交通省委託事業「令和2年度高度な自動走行システムの社会実装に向けた研究開発・実証事業 自動走行の民事上の責任及び社会受容性に関する研究」において自動運転の法的論点に係る検討会を開催して議論を行い、製造物責任法上の指示・警告を中心に、関係事業者が留意すべき現行の法令上の事例・考え方を議論・整理し、取りまとめを行いました。

 法務省では、自動運転の実用化が検討されている様々なケースにおいて、道路交通法等の関係法令等の交通ルール、運送事業に関する法制度等による、関係主体(運転者、利用者、車内安全要員、遠隔監視・操作者、サービス事業者等)に期待される役割や義務の明確化についての検討結果を踏まえて、法的責任に関する検討を行うべく、その議論の方向性等を注視しています。

ケ 犬猫のマイクロチップ登録義務化

 2019年改正動物愛護管理法において、販売に供される犬猫へのマイクロチップ装着と情報の登録が義務化されました。同規定は、動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第39号)の公布の日から3年を超えない範囲での施行となっており、その着実な施行に向けて、犬猫へのマイクロチップ装着・情報登録の管理に係る体制の整備及び電子情報システムの構築を2020年7月から行っています。


  • 注77:高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)に基づき、医療費適正化計画の作成、実施及び評価に資することを目的として、保険者等からレセプト情報及び特定健診・特定保健指導情報を匿名化した上で収集しているデータベース。
  • 注78:介護保険法(平成9年法律第123号)に基づき、介護保険事業計画の作成、実施及び評価並びに国民の健康の保持増進及びその有する能力の維持向上に資することを目的として、市町村等から要介護認定情報、介護レセプト等情報を、匿名化した上で収集しているデータベース。
  • 注79:経済産業省「令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)」
  • 注80:商取引の形態の一つで、企業(business)と一般消費者(consumer)の取引のこと。企業間の取引はBtoB、一般消費者同士の取引をCtoCという。
  • 注81:SAE(Society of Automotive Engineers)International のJ3016 における運転自動化レベルのうち、システムが全ての動的運転タスク(操舵、加減速、運転環境の監視、反応の実行等、車両を操作する際にリアルタイムで行う必要がある機能)及びシステムの作動継続が困難な場合への応答を、システムが機能するよう設計されている特有の条件内で実施するもの。

担当:参事官(調査研究・国際担当)