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第2部 第1章 第2節 (1)消費者の安全の確保

第2部 消費者政策の実施の状況

第1章 消費者庁における主な消費者政策

第2節 消費者被害の防止

(1)消費者の安全の確保

消費者の安全・安心確保のための取組

 消費者庁では、消費者事故等に関する情報を集約し、その事例の分析を踏まえつつ、消費者に向けた注意喚起や関係行政機関等への情報提供、事業者・事業者団体への対応要請等(以下「注意喚起等」という。)を実施しているほか、集約した事故情報に関する情報発信など、消費者事故等を未然防止・拡大防止するための取組を行っています。

 消費者事故等に関する情報には、地方公共団体や関係行政機関からの重大事故等の通知(消費者安全法)や事業者からの重大製品事故の報告(消費生活用製品安全法)による情報のほか、事故情報データバンク参画機関からの情報、医療機関ネットワーク事業による情報等があります(第1部第1章第2節参照。)。消費者庁では、これらの消費者事故等について、重篤な身体被害が出ているもの、事故情報が増加しているもの、事故の内容に新規性のあるもの等を中心に分析を行った上で、消費者に向けた注意喚起等を行っています。特に消費者事故等が起こりやすく重大な危害につながりやすい傾向のある子供や高齢者等の事故防止に取り組んでいます(図表Ⅱ-1-2-1)。

 例えば、子供の事故防止に関しては、不慮の事故(窒息、溺水や転落等)が子供の死因の上位を占めている現状を踏まえ、「子どもを事故から守る!プロジェクト」を推進しています。具体的には、保護者等に向けて注意喚起を行うとともに、事故予防の注意点等を「子ども安全メールfrom消費者庁」、「消費者庁 子どもを事故から守る!公式Twitter」から定期的に発信しているほか、子供に予期せず起こりやすい事故とその予防法・対処法のポイントを「子どもの事故防止ハンドブック」にまとめ、保護者等への配布や子供関連イベントを通じた啓発活動などを行っています。また、2020年度の「子どもの事故防止週間」(注2)(第2部第2章第1節1.(1)エ参照。)では、新型コロナウイルス感染症の感染対策のため、家にいる機会が増えていると考えられたことから、家の中で起こりやすい子供の事故について注意喚起を実施しました。このほか、硬い豆やナッツ類、フルーツなど食品による子供の窒息・誤嚥(えん)事故に関して注意すべきポイントをまとめ、注意を呼び掛けています(第1部第1章第1節、資料編:資料8-1参照。)。

 また、高齢者の事故防止については、高齢者自身や周囲の人が家庭内などで起きる事故の危険性を意識できるよう、「転倒予防の日(10月10日)」に合わせた住み慣れた自宅での転倒事故、お正月に食べる機会の増える餅による窒息事故、冬季に多発する入浴中の事故などの注意喚起等を実施しています。

 このほか、消費者事故等の防止に資するよう「事故情報データバンク」(第1部第1章第2節(1)参照。)に集約した事故情報を、データベース化して公開するとともに、リコール製品に起因する消費者事故等を防ぐため、関係法令等に基づき関係行政機関が公表したリコール情報や、事業者が自主的に行っているリコール情報を集約して、「リコール情報サイト」から発信しています。

食品安全に関するリスクコミュニケーション

 消費者庁では、「食品安全基本法第21条第1項に規定する基本的事項」(平成24年6月閣議決定)に基づいて、食品安全に関するリスクコミュニケーション(注3)について関係省庁間の事務の調整を行っています。これまで、「食品中の放射性物質」、「食品安全全般」等をテーマに取り組み、消費者が食品のリスクに関する正しい知識と理解を深められるよう、食品安全に関するリスクコミュニケーションを関係府省と連携して推進しています(コラム2参照。)。

消費者安全調査委員会の活動

 消費者安全調査委員会(以下「調査委」という。)は、消費者事故から教訓を得て、事故の予防・再発防止のための知見を得ることを目的に、2012年10月、消費者庁に設置されました。調査委は、責任追及(「誰が悪い」)ではなく、事故の原因を調べ、予防・再発防止策(「なぜ事故が起きたのか」、「どうすれば同じような事故が防げるのか」)を考える組織です。

 節目となる第100回調査委を迎えるに当たって、今後の調査委の機能強化について議論を行い、他機関との連携や意見具申権限の更なる活用等を柱とする「消費者安全調査委員会の発信力の強化に向けた考え方」(2020年12月25日)を決定しました。これに基づき、調査委では調査の充実や発信力の強化等に取り組んでいます。

 調査委では、2020年6月に「水上設置遊具による溺水事故」の事故等原因調査報告書を公表しました。本件は、2019年8月に発生した、遊園地のプールに設置された水上設置遊具(以下単に「遊具」という。)の下で、ライフジャケットを着用した児童が溺死した事故(以下「本件事故」という。)(図表Ⅱ-1-2-2)を端緒とし、翌2020年の夏前までに再発防止策を講じるよう、早急に調査を実施したものです。

 本件事故が発生した遊具は、空気を充填して浮力を保持する方式で、滑り台などの様々な遊具を組み合わせて、プールや海水浴場等に設置され、アスレチックとして遊園地等の遊戯施設で提供されることが多くなっています。

 調査委では、遊具による溺水事故がどうして起こったかを調べるため、「遊具の危険性の調査」と、遊戯施設の運用事業者に対する「実態調査」を行いました。

 「遊具の危険性の調査」での実験の結果、ライフジャケットを着用した状態で遊具から落水した場合、浮上する際に遊具の下に潜り込んでしまう事実が複数回確認されました。潜り込んでしまった場合は、ライフジャケットの浮力が障害となり、同遊具の外に自ら泳いで抜け出すことが困難となる事実も明らかになりました。

 「実態調査」の結果、条件は異なりますが、ほとんどの運用事業者が利用者にライフジャケットの着用を求めており、また、遊具から落水する利用者が多いことが判明しました。さらに、安全管理の状況については、全ての遊戯施設が監視員を配置して運用していましたが、遊戯施設によっては、1人の監視員が監視する利用者の人数は、2人から33人までとばらつきが大きいことが分かりました。

 プールや海水浴場等に設置する遊具及びその遊戯施設の安全基準については、特に定められたものがなく、このようなサービスとして提供する事業を一律に管理監督する所管省庁が定まっていないことも分かりました。

 これらの調査結果を踏まえ、調査委では、再発防止策として、次の点に取り組むべきと考えました。

 1点目は、「設計における本質的安全設計(注4)方策」です。遊具下での溺水事故は呼吸の維持が困難になり生じるため、意図せず遊具下に潜り込んだ状態でも呼吸を可能とする一定の空間を有した遊具(図表Ⅱ-1-2-3)などが考えられました。

 2点目は、「設計における安全防護及び付加保護方策」です。遊具から水中への飛び込みは、多くの施設で禁止行為とされていますが、調査で用いた遊具には、遊具端から落水リスクを低減させるようなガード等は、確認できませんでした。そのため、遊具端にガードを設けることが有効と考えられました。

 3点目は、「設計における使用上の情報」です。溺水事故につながる遊具の危険性について、遊戯施設内や遊具自体に表示すること等も有効と考えられました。

 4点目は、「使用における保護方策」です。先で述べたような設計における各種方策は、検討及び実施に相応の時間を要します。そのため、当面の使用に際しては、単独では十分なリスク低減とならないことを認識した上で、使用における保護方策の実施を優先させる必要があります。例えば、遊具から落水するスリルを遊びの1要素とすることを控え、遊び方、監視方法等を見直し、マニュアルとして標準化した上で運用従事者への教育・訓練を実施する等が挙げられます。

 調査委は、検討した以上の再発防止策を基に、事故の再発防止のために講ずべき措置等の意見を経済産業大臣等に対して具申しました。

COLUMN2
食品中の放射性物質に関するリスクコミュニケーション

図表2-1-2-1消費者庁における事故情報の集約・活用

図表2-1-2-2水上設置遊具による溺水事故の概要

図表2-1-2-3本質的安全設計方策の一例


  • 注2:2020年7月20日から同月26日まで
  • 注3:消費者・生産者・事業者・行政機関など関係者間で相互に情報や意見を交換すること。
  • 注4:「本質的安全設計」とは、ハザード(危害の潜在的な源)を除去する及び/又はリスクを低減させるために行う、製品又はシステムの設計変更又は操作特性を変更するなどの方策。(引用JIS Z8051「安全側面—規格への導入指針」)

担当:参事官(調査研究・国際担当)