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第1部 第2章 第3節 (2)外食における「消費判断のよりどころ」

第1部 消費者問題の動向と消費者の意識・行動

第2章 【特集】「新しい生活様式」における消費行動〜「消費判断のよりどころ」の変化〜

第3節 「消費判断のよりどころ」の変化

(2)外食における「消費判断のよりどころ」

 これまで商品・サービスの取引全般における「消費判断のよりどころ」やその変化を見てきましたが、ここでは、「リアル消費」の中でも「新しい生活様式」や感染対策を意識する消費の具体例として「外食(注57)」を取り上げ、外食における消費者の「消費判断のよりどころ」について考察します。

 飲食店には、緊急事態宣言下において休業要請や営業時間の短縮要請が出されたほか、「新しい生活様式」の下、業界のガイドラインも踏まえ、消毒液の準備や飛沫感染予防のための座席の配置の工夫、換気等といった各種感染防止対策を行うことが求められています。消費者が食事をする際の選択肢としては、自炊、テイクアウト・デリバリーの活用や外食等が考えられますが、このうち外食時には、食べる前の手洗い・消毒や食事中以外のマスクの着用、「密」の回避等、自身の感染予防のみならず他者の感染防止への配慮が必要です。こうした状況の中で、消費者が外食する際の飲食店選びにおいて考慮する要素も変化しているのではないでしょうか。

 「消費者意識基本調査」で、消費者に「外食の際の、飲食店選びにおいて重視することが1年前と比較して変化したか」を聞いてみたところ、「店員がマスクを着けている」の「重視度が増した」(「重視度が増した」+「重視度がやや増した」)と回答した人の割合は84.2%であり、様々な要素の中で最も「重視度が増した」ものとなりました。また、「消毒対応が十分である」も約8割の人が「重視度が増した」という結果でした。その他、「重視度が増した」割合が高かったものとしては、「席の間隔が広い、横並び席がある」が67.0%、「パーテーションで席が区切られている」が66.4%、「感染防止対策のマークの掲示がある」が52.7%となっており、消費者において新型コロナウイルス感染症への対策に関するものの重視する度合いが増していることがうかがえますが、約3割から約4割の人はこれらのものについて「重視度は変わらない」としております。このことから調査時点(2020年11月)では、一定程度の消費者は飲食店選びにおいて、新型コロナウイルス感染症への対策状況という要素を重視していることがうかがえます(図表Ⅰ-2-3-7)。

 一方で、新型コロナウイルス感染症の感染拡大以前に重視されていたと考えらえる「価格帯」、「料理の味、種類」、「知名度・ブランド」については、7割以上の人が重視度は「変わらない」としており、その他以前から飲食店選びにおいて要素とされていたと考えられる「家族や友人からの情報」、「インターネット上の口コミ、評価」、「テレビの情報や新聞・雑誌の記事」についても重視度は「変わらない」人が6割を超えています。なお、これらのものについても約1割から約3割の人が「重視度が増した」とも回答しています(図表Ⅰ-2-3-7)。いずれの要素についても重視度が「下がった」(「重視度が下がった」+「重視度がやや下がった」)と回答した人の割合は小さく、「増した」と回答した人の割合を大きく下回っています。

 これらの結果は、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する以前に、消費者の飲食店選びの要素として重視されていたものを重視する度合いは下がらずより重視するようになったことに加え、新たに感染対策を重視する度合いが増していることを示しています。「新しい生活様式」が推奨される中で、消費者が飲食店選びにおいても新型コロナウイルス感染症への感染対策を「消費判断のよりどころ」に「上乗せ」するようになったことがうかがえます。

 また、新型コロナウイルス感染症への感染対策に関する各要素を重視する度合いの変化については各選択肢間の相関が見て取れます。「席の間隔が広い、横並び席がある」と「パーテーションで席が区切られている」の回答結果には高い相関(注58)があることが分かり、飲食店選びにおいて消費者はこの2つのことを合わせて考えていることがうかがえます。ほかにも「消毒対応が十分である」と「店員がマスクを着けている」にも高い相関(注59)がみられました。なお、「パーテーションで席が区切られている」への回答と「消毒対応が十分である」への回答や、「席の間隔が広い、横並び席がある」への回答と「感染防止対策のマーク掲示がある」や「消毒対応が十分である」への回答もかなり相関があり(注60)、座席など物理的な環境を始め、消費者は飲食店選びにおいて、新型コロナウイルス感染症の感染対策として、特定の対策だけではなく、複数の対策を複合的に考慮する傾向があることがうかがえます。

 これら要素が重視される度合いの変化は、それぞれの要素において、都市規模別や年齢層別に幾つかの特徴や傾向が見受けられます。「テラス席がある、風通しが良い」は都市規模が大都市になるにつれて重視する度合いが増した割合が高くなりました(図表Ⅰ-2-3-8)。都市部における飲食店の物理的な制約や調査時期が11月であったことも影響した可能性が考えられます。また、「テラス席がある、風通しが良い」の重視度が増した割合は年齢層が高くなるにつれて高くなり、同じく物理的な対策となる「席の間隔が広い、横並び席がある」や「パーテーションで席が区切られている」についても同様の特徴が見受けられます。逆に「価格帯」は若年層になるにつれて重視する度合いが増した割合が高くなりました(図表Ⅰ-2-3-9)。

 これまで飲食店を「選ぶ際」の要素(「消費判断のよりどころ」)やその変化についてみてきましたが、実際の飲食店利用の場面で、「新しい生活用様式」において行動変容は見受けられたのでしょうか。「消費者意識基本調査」において「1年前と比べて、外食時に新たに行うようになった行動」を聞いたところ、7割以上の人が外食時に「食べる前に消毒・手洗い」を新たに行うようになったと回答しています。また、「大勢では店に行かない」も「新しい生活様式」における外食利用時の行動として意識されていることがうかがえます。ほかにも感染対策の行動の多くについて過半数の人が新たに行うようになったと回答しています(図表Ⅰ-2-3-10)。

 以上のように、「リアル消費」の具体例である外食の際の飲食店選びにおいても、全体の傾向として、従来の「消費判断のよりどころ」に感染防止対策といった要素が「上乗せ」される変化が見受けられました。実際の飲食店の利用場面において、消費者が感染対策のための行動を新たにとるようになったことも分かりました。ただし、都市規模、年齢層といった切り口でみてみますと、一律的な傾向ではないものもあり、消費者それぞれが置かれた状況や、周囲にある環境に応じて「消費判断のよりどころ」や外食時の行動には違いが見受けられました。

 この節では商品・サービスを購入する際に重視する要素やその重視する度合いについて「新しい生活様式」における変化等の観点からみてきました。多くの消費者が「消費判断のよりどころ」として重視する要素は「商品の現物確認」や「価格」を最も重視しており、こうした「消費判断のよりどころ」は「新しい生活様式」下においても以前からおおむね「変わらない」という傾向がみられました。一方で、一定程度の消費者が「インターネット上の口コミ・評価スコアなど」をより重視するようになったと回答するなど、変化の兆しがあるものも見受けられました。

 消費者それぞれが置かれた環境や年齢層において慣れ親しんできた生活行動様式などの要素や、消費行動の多様化から、消費における「消費判断のよりどころ」は多様なものがあります。

 新型コロナウイルス感染症の影響が1年以上も継続し、緊急事態宣言期間の経験も経て、見えない相手との取引である「ネット消費」が拡大する中において、「消費判断のよりどころ」にインターネット上の情報が台頭してきていることもうかがえます。また、「リアル消費」の一例である外食においては、そこに感染対策という新たな要素が上乗せされていることがうかがえるなど、「消費判断のよりどころ」に変化の兆しが見受けられました。


  • 注57:ここでの外食とは、実際に飲食店に行って店内で飲食することをいいます。
  • 注58:消費者庁「消費者意識基本調査」(2020年度)問12における各選択肢の回答結果の相関係数(spearman)を調べたところ、当該2項目間の相関係数は0.744。
  • 注59:消費者庁「消費者意識基本調査」(2020年度)問12における各選択肢の回答結果の相関係数(spearman)を調べたところ、当該2項目間の相関係数は0.733。
  • 注60:消費者庁「消費者意識基本調査」(2020年度)問12における各選択肢の回答結果の相関係数(spearman)を調べたところ、各選択肢間の相関係数は記載順に0.650、0.632、0.620。

担当:参事官(調査研究・国際担当)