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第1部 第2章 第3節 (1)「消費判断のよりどころ」

第1部 消費者問題の動向と消費者の意識・行動

第2章 【特集】「新しい生活様式」における消費行動〜「消費判断のよりどころ」の変化〜

第3節 「消費判断のよりどころ」の変化

(1)「消費判断のよりどころ」

 消費行動については小売店や飲食店、映画館やイベント会場など実際の店舗や施設を介した商品・サービスの購入(以下「リアル消費」といいます。)と、インターネットを介した商品・サービスの購入(以下「ネット消費」といいます。)に分けて考えてみます。新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する前から、幅広い年齢層でインターネットを利用した「ネット消費」は行われ、また、近年は増加傾向であることが第1節でも触れた総務省「家計消費状況調査」の結果からうかがえます。この「ネット消費」は「新しい生活様式」の中で、更に進展してきていると考えられます(第1部第2章第2節(3)参照。)。一方で、「リアル消費」は、商品の実物に触れて現物確認することや、実際に飲食店を訪れて店の空間や雰囲気を感じサービスを受けること、実際に開催されている会場でのイベントに参加して得られる参加者間の一体感や臨場感など、「ネット消費」では得られ難い体験価値もあります。しかし、小売店や飲食店、映画館やイベント会場においては、消毒対応や身体的距離の確保に配慮した設備やレイアウトなどの新型コロナウイルス感染症への対策が必要であり、消費者もそれらを意識しつつ、消費行動をすることが求められています。

 「新しい生活様式」下において、利用が増加した「ネット消費」も含めた消費全般における「消費判断のよりどころ」についてみてみると、消費者は「価格」及び「商品の現物確認」を重視していることが分かりました。「消費者意識基本調査」で消費者に「商品やサービスの購入時に重視するもの」を聞いたところ、「価格」、「商品の現物確認」と回答した人の割合がそれぞれ8割を超え、最も高くなっています(図表Ⅰ-2-3-1)。次いで、「家族や友人からの情報」、「インターネット上の口コミ・評価スコアなど」、「インターネット上の商品の説明情報」と回答した人がいずれも4割を超える結果となりました。

 さらに、重視するものの中で「最も重視するもの」を1つだけ聞いたところ、「商品の現物確認」と回答した人の割合が約4割と最も高い結果となっています。次いで約3割の方が「価格」を選択しました。この2つを選択した人を合計すると全体の約7割となっており、「最も重視するもの」はこの2つに代表されることが分かりました(図表Ⅰ-2-3-1)。

 個別項目を年齢層別にみますと、「価格」と「商品の現物確認」については、全ての年齢層で75%以上の人が重視するものとして選択しており、広く重視されていることが分かります。また、「新聞・雑誌の記事やテレビの情報」や「店員との会話」は高年齢層になるにつれて「重視する」割合が高くなる傾向があり、「テレビCM、新聞・雑誌の広告」は20歳代から40歳代までが比較的少なく、10歳代後半と50歳代以降で比較的高くなっています。一方で、「インターネット上の口コミ・評価スコアなど」と「インターネット上の商品の説明情報」については、20歳代や30歳代前後が他の年齢層よりも高い割合を示し、年齢層が上がるにつれて割合が下がっていきます(図表Ⅰ-2-3-2)。この傾向は「最も重視するもの1つ」を選んだ回答結果でも同様でした。

 このように、商品・サービスの購入における「消費判断のよりどころ」は、年齢層によって特徴に違いが見られ、消費者個人単位では更に様々な要素が加味され構成されていると想定されますが、「商品の現物確認」、「価格」が他のものと比べると大きな割合を占めていることが全体的な見え方としてうかがい知ることができます。

 それでは、この「消費判断のよりどころ」は2020年3月、4月の新型コロナウイルス感染症の感染拡大期を経て、「新しい生活様式」が導入され消費生活の行動変容が要請される中で、どのように変化してきたのでしょうか。「消費者意識基本調査」において「商品やサービスの購入時に、あなたにとって重視度合いは、1年前と比べて変わりましたか」と聞いたところ、全てのものにおいて「変わらない」と回答した人の割合が約6割を超えました(図表Ⅰ-2-3-3)。「新しい生活様式」による行動変容があったとしても、消費行動における重視度合いは大きくは変化していないことが分かりました。

 「消費判断のよりどころ」の要素の重視度が変化したものとしては「価格」、「インターネット上の口コミ・評価スコアなど」、「インターネット上の商品の説明情報」、「商品の現物確認」「新聞・雑誌の記事やテレビの情報」であり、重視度が「増した」(「増した」+「やや増した」)人の割合が2、3割前後となりました。「リアル消費」と「ネット消費」における消費判断の要素や、共通する「価格」といった要素で重視度が一定程度増したことがうかがえます。一方で、「店員との会話」の重視度が「下がった」(「下がった」+「やや下がった」)と回答した人が2割を超え、重視度が下がったという変化においては他のものと比べて特徴的な変化と見て取れます。緊急事態宣言下での店舗の休業や時短営業、第2節で見てきた「ネット消費」の進展などから、店舗における「リアル消費」の機会自体が減ったことも影響していると想定されます。

 このように「消費判断のよりどころ」は、ある程度の割合で幾つかの要素が「上乗せ」されながら、消費者がそれぞれの「よりどころ」を持つようになったと考えられます。「ネット消費」が進展する中で、インターネット上の情報を重視する度合いも増えつつあることもうかがえます。

 「消費判断のよりどころ」の個別の要素について、消費者が重視する度合いの変化を年齢層別にみますと、全体的に重視する割合が高かった「価格」では、若い年齢層ほど重視する度合いが増した結果となっています。全体的に重視する割合が高かった「商品の現物確認」では30歳代から50歳代と比較し、それより若い年齢層や高い年齢層で重視する度合いが増した割合が高くなりました(図表Ⅰ-2-3-4)。各年齢層で重視するものとして7割以上の回答を得ているものですが、1年前と比べて若い年齢層と高年齢層において重視する度合いが「増した」割合が高くなっており、この1年の間で全年齢層において重視する度合いが同程度になったものと考えられます。

 また、消費行動において「家族や友人からの情報」、「新聞・雑誌の記事やテレビの情報」、「インターネット上の商品の説明情報」、「インターネット上の口コミ・評価スコアなど」といった要素も重視するものとして約4割の人が回答しておりますが、この重視する度合いの変化はそれぞれの要素や年齢層により違いが見受けられます。「家族や友人からの情報」「新聞・雑誌の記事やテレビの情報」は重視度が30歳代から50歳代と比較し、それより若い年齢層や高い年齢層で重視する度合いが増した割合が高くなりました。一方、「インターネット上の商品の説明情報」や「インターネット上の口コミ・評価スコアなど」は若い年齢層になるにつれ重視する度合いが増した割合が高くなりました(図表Ⅰ-2-3-5)。

 次に、変化として重視する度合いが「増した」よりも「下がった」割合が高い「店員との会話」については、各年齢層で重視する度合いが「増した」よりも「下がった」割合が高くなりました(図表Ⅰ-2-3-6)。多くの年齢層で重視度が下がった人が2割を超えています。新型コロナウイルス感染症の影響がある中で店頭等での「リアル消費」を行う場面自体が減っており、その結果「店員との会話」の重視する度合いが下がったと回答した割合が他のものと比べて高くなったとも考えられます。

担当:参事官(調査研究・国際担当)