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第2部 第2章 第1節 1.消費者の安全の確保

第2部 消費者政策の実施の状況

第2章 消費者政策の実施の状況の詳細

第1節 消費者被害の防止

1.消費者の安全の確保

(1)事故の未然防止のための取組

ア 身近な化学製品等に関する理解促進

 環境省では、化学物質やその環境リスクに対する国民の不安に適切に対応するため、リスクコミュニケーションを推進しています。その一環として、化学物質のリスクに関する情報の整備のため、「PRTRデータを読み解くための市民ガイドブック」を発行しました。また、身近な化学物質に関する疑問に対応するため、化学物質やリスクコミュニケーションの知見を有する「化学物質アドバイザー」を派遣しました。

イ 家庭用化学製品の安全対策のための「安全確保マニュアル作成の手引き」作成支援

 厚生労働省では、家庭用品に使用される化学物質による健康被害を防止するため、「家庭用化学製品に関する総合リスク管理の考え方」を踏まえ、各種製品群について、メーカー等が製品の安全対策を講ずるために利用する「安全確保マニュアル作成の手引き」の作成及び改訂を事業者が速やかに行うよう支援し、その結果について周知を行っています。

ウ 住宅・宅地における事故の防止

 国土交通省では、2023年2月に「建築物防災週間における防災対策の推進について(令和4年度春季)」を、行政庁等に対して通知しました。

 また、大規模盛土造成地について、2022年4月に「今後の宅地防災対策の推進について」を都道府県等に対して通知し、地方公共団体の宅地担当者を対象とした説明会を開催しました。

エ 子供の不慮の事故を防止するための取組

 消費者庁では、子供の不慮の事故を防止するための取組として、関係府省庁と連携し、「子どもを事故から守る!プロジェクト(注54)」を実施しています。

 2022年度は、子どもの転落事故をテーマに、「子供の事故防止に関する関係府省庁連絡会議」の取組である「子どもの事故防止週間」を2022年7月25日から31日まで実施し、関係府省庁と連携し広報活動を行いました(注54)

 また、事故防止の啓発活動の観点から子どもの事故防止ハンドブックを要望のあった全国の市町村等へ約18万部配布しました(注54)

 さらに、メールマガジンを37回、Twitterで165回配信するとともに、子供の事故防止に関する注意喚起のプレスリリースを公表しました。

オ 臍帯血を用いた医療の適切な提供に関する検証・検討

 契約者の意に沿わない臍帯血の提供を防ぎ、臍帯血を利用した医療が適切に行われるよう、臍帯血プライベートバンクに対し、業務内容等の国への届出を求めるなどの措置を講じています。

 2022年度は、臍帯血プライベートバンクからの事業実績について、厚生労働省ウェブサイトで公表しました。

カ 薬物乱用防止対策の推進

 薬物乱用の根絶のため、「薬物乱用対策推進会議」において策定された「第五次薬物乱用防止五か年戦略」に基づき、関係省庁で連携した総合的な取組を進めています。

 消費者庁では、関係機関と連携しつつ、特定商取引法の表示義務に違反しているおそれのある危険ドラッグの通信販売サイトに対し、適切な措置を講ずるとともに、関係機関に対する情報提供を行い、消費者保護を十分に確保するよう努めています。

 海上保安庁では、緊急通報用電話番号「118番(注55)」を積極的に広報し、薬物事犯等の情報提供を国民に対して広く呼び掛けたほか、海事・漁業関係者に対して、薬物事犯に関する情報の提供依頼等を行っています。

 厚生労働省では、基本骨格が同じ物質を一括して指定する包括指定を行うなどして、危険ドラッグに含まれる物質を迅速に指定薬物として指定しました。2023年3月31日までに指定した指定薬物は2,420物質となっています。

 また、地方厚生局麻薬取締部では、危険ドラッグの不正流通に対する取締りを継続して実施しています。

 財務省(税関)との協力体制も強化し、輸入通関前での検査を行い、日本への危険ドラッグ(原料を含む。)の流入を阻止しています。関係省庁と連携し、危険ドラッグ販売店及びインターネット上の販売サイト等の情報共有を行っています。

 なお、財務省(税関)における2022年中の指定薬物の摘発件数は348件、押収量は約17㎏となっています。

 さらに、インターネット上で危険ドラッグを販売しているウェブサイトを調査し、法令違反を発見した場合には当該サイトのプロバイダ等に対して削除要請を行い、ウェブサイト等を閉鎖又は販売停止に追い込むように取り組んでいます。

 内閣府、警察庁、消費者庁、文部科学省、国土交通省、厚生労働省、法務省、財務省では連携して消費者への情報提供・啓発活動を行っています。

 内閣府では、「青少年の非行・被害防止全国強調月間」における重点課題の一つに「薬物乱用対策の推進」を挙げ、関係省庁、都道府県、協力・協賛団体等に対して啓発活動等の取組を依頼するなどの広報・啓発活動を推進しています(注56)

 文部科学省では、全ての中学校及び高等学校において、年に1回は薬物乱用防止教室を開催するとともに、地域の実情に応じて小学校においても薬物乱用防止教室の開催に努めるなど、学校における薬物乱用防止に関する指導の充実が図られるよう周知しました。

 また、薬物乱用を始め、多様化・深刻化する子供の健康課題について総合的に解説した、小学生・中学生・高校生向け啓発教材の周知を行いました。

 厚生労働省では、「『ダメ。ゼッタイ。』普及運動」(毎年6月20日から7月19日まで)及び「麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動」(毎年10月1日から11月30日まで)等において啓発資材の配布やキャンペーンの実施等、広報・啓発活動の推進を図っています。また、大麻や危険ドラッグ等の危険性・有害性について解説した薬物乱用防止啓発読本を作成し、2023年2月に高等学校卒業予定者へ向けて112万4500部、小学校6年生の保護者へ向けて129万8000部を配布し、また同年3月には青少年へ向けて19万部配布しました。

 外務省では、国際協力の一環として、グローバルな課題の一つである薬物乱用対策を推進するため、合成薬物を含む覚醒剤や向精神作用物質等の危険ドラッグといった違法薬物対策の取組強化を行っています。

 その一例として、2022年度は、国連薬物・犯罪事務所(UNODC(注57))のグローバルSMART(Synthetics Monitoring: Analyses, Reporting and Trends)プログラムに10万米ドルを拠出し、新規に合成された物質の検知を含め、国境を越えて流通する違法薬物に関する情報収集・動向分析、その報告・共有促進等による取締りや対策の実施推進に貢献しています。

(2)消費者事故等の情報収集及び発生・拡大防止

ア 事故情報の収集、公表及び注意喚起等

 消費者庁と国民生活センターが連携し、関係機関の協力を得て、生命・身体に関する事故情報を広く集約し提供する「事故情報データバンク(注58)」を2010年4月から運用しています。

 また、消費者庁では、消費者安全法の規定に基づき通知された生命・身体被害に関する消費者事故等について、2022年度には、重大事故等の概要等の公表を48回行いました。

 さらに、消費生活用製品安全法の規定に基づき報告のあった重大製品事故については、2022年度には、重大製品事故の概要等の公表を100回行いました。また、医療機関ネットワーク事業(2023年3月31日時点で30医療機関が参画している。)では医療機関特有の事故情報を幅広く集めました。

 集約した事故情報については分析し、注意喚起等に活用しています。2022年度には「トランポリンパークでの事故」に関する消費者安全法第38条第1項の規定に基づく注意喚起を始め、「こども自身が運転するゴーカートなどの乗り物での事故」等をテーマに、消費者に向けた注意喚起を10件実施しました。また、収集した事故情報は必要に応じて関係省庁に共有しており、関係省庁における規制の整備等の検討の一助となっています(注59)。加えて、消費者安全法の通知が確実に行われるよう、関係省庁や地方公共団体に、同法の通知制度について周知を行いました。

 内閣府、文部科学省、厚生労働省では、「教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議年次報告」を毎年公表しています(注60)

 また、2015年度からは「特定教育・保育施設等における事故情報データベース(注61)」として、重大事故のあった地方公共団体からの第二報以降の事故報告をまとめ、公表しています。

 厚生労働省では、効果的な予防対策を導き出し予防可能なこどもの死亡を減らすことを目的としたChild Death Review(CDR)について、予防のためのこどもの死亡検証体制整備モデル事業を実施しています(注62)

イ 緊急時における消費者の安全確保

 緊急事態等においては、「消費者安全の確保に関する関係府省緊急時対応基本要綱」で定める手順に基づき、関係府省庁が相互に十分な連絡及び連携を図り、政府一体となって迅速かつ適切に対応し、消費者被害の発生・拡大の防止に努めています。また、関係行政機関や事業者、医療機関等から寄せられる事故情報について、迅速かつ的確に収集・分析を行い、消費者への情報提供等を通じて、生命・身体に関する消費者事故等の発生・拡大を防止することとしています。

 消費者庁では、関係府省庁と連携し、緊急時対応訓練を毎年実施することとしており、2022年度は、警察庁、食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省と連携し、2022年12月に実施しました。

ウ リコール情報の周知強化

 消費者庁では、関係省庁等が個々に公表していたリコール情報を消費者が分野横断的に確認できる「消費者庁リコール情報サイト(注63)」の運用を2012年4月から開始しました。ほかに、事業者が独自に公表している情報の収集にも努めており、2023年3月31日時点で7,382件のリコール情報が登録され、メールマガジンの配信先件数は1万318件となっています。

 また、同サイト活用の周知や、製品安全情報を中心とした関連情報の提供にも取り組んでいます。

エ 製品安全に関する情報の周知

 経済産業省では、消費者庁に報告が行われる重大製品事故の情報や経済産業省に届出が行われるリコールの情報等について、経済産業省のウェブサイト等で随時公表(注64)を行い、消費者等への注意喚起を実施しています。

 2022年6月には、消費者安全調査委員会からの意見具申も踏まえ、マグネットセットが子供の手に渡らないように速やかに対策を講ずる観点から、インターネットモール等運営事業者8社(以下「モール事業者」という。)に対してネオジム磁石製のマグネットセットによる子供の誤飲事故の再発防止策への協力要請を行いました。また、モール事業者と連絡会合を開催し、製品安全に関する取組の情報共有を行いました。加えて、インターネットモールにおいて販売される製品のうち、法令違反が多く確認されている乗車用ヘルメットについても、インターネットモールへの出品時にPSマーク表示の有無を確認する品目として追加をすること並びにPSマーク対象品目のPSマーク及び届出事業者名の表示を販売者に周知することを2022年10月にモール事業者に対して要請しました。さらに、2023年3月の連絡会合では、モール事業者に新たに1社が加わり、9社との連携・協力体制となりました。

 また、政府広報等においても、最近事故が増加している製品等の注意喚起を実施しています。

 毎年11月の製品安全総点検月間では、子供向け製品安全イベントの開催、製品安全に関するポスターの掲示、中小企業向けの情報発信、ウェブサイト等を通じた製品安全に関する情報発信等を通じて、製品安全が持続的に確保されるよう周知に努めました。製品安全について先進的な取組をしている企業を表彰する製品安全対策優良企業表彰(PSアワード)については、2022年度は13社を選定し、2022年11月に表彰式を実施したほか、表彰式のダイジェスト動画をYouTubeのMETIチャンネルで公開しました。また、Twitterアカウント及びInstagramアカウントを通じて情報を発信し、企業単位での製品安全の取組の普及を図りました。

オ 道路運送車両法に基づく自動車のリコールの迅速かつ着実な実施

 国土交通省では、自動車のリコールの迅速かつ着実な実施のため、自動車メーカーやユーザー等からの情報収集に努め、自動車メーカー等のリコール業務について監査等の際に確認・指導するとともに、安全・環境性に疑義のある自動車については、独立行政法人自動車技術総合機構において技術的検証を行っています。2022年度のリコール届出件数は383件で、対象台数は465万台となっており、自動車メーカーに対して市場措置を速やかに行うことを促しました。さらに、ユーザーからの不具合情報収集の強化等のため、「自動車不具合情報ホットライン(注65)」についての改修を行いました。

カ 高齢者向け住まいにおける安全の確保

 厚生労働省では、2021年6月には都道府県等に対し、高齢者向け住まいにおける事故報告の標準様式を示し、積極的に活用するよう周知しました。また、2023年3月に開催した全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議において、届出施設から都道府県等に対する事故報告の徹底を図るとともに、当該事故報告に関する都道府県等から厚生労働省への一層の情報提供の実施を図ることを徹底するよう要請しました。

 国土交通省では、都道府県等の住宅担当者会議等の場において、報告に基づく事故情報を共有するとともに、報告・指導等の徹底を図っています。

(3)事故の原因究明調査と再発防止

ア 消費者安全調査委員会による事故等原因調査等の実施

 2012年10月に消費者庁に設置された消費者安全調査委員会は、2022年9月30日で設立10年を迎えたことから、設立後10年間の活動の検証を行った活動報告書を公表しました。また、2022年度は以下の2件について消費者安全法第31条第1項の規定に基づく報告書を決定・公表し、同法第33条の規定に基づく意見を述べて調査等を終了するなどしました。

 ・学校の施設又は設備による事故等(2023年3月に調査結果を取りまとめた報告書を決定・公表し、文部科学大臣に対して意見)

 ・エステサロン等でのHIFU(ハイフ)による事故(2023年3月に調査結果を取りまとめた報告書を決定・公表し、厚生労働大臣、経済産業大臣、消費者庁長官に対して意見)

 同法第33条の規定に基づく意見には法令による規制を求めるものもあり、前年に公表した「ネオジム磁石製のマグネットセットによる子どもの誤飲事故」では、経済産業大臣に対する意見で法令による規制を求めたことにより、経済産業省による、マグネットセットに対する規制につながりました。

 そのほか、事故等原因調査等の申出制度による申出を2022年度は23件受け付けました。

イ 昇降機、遊戯施設における事故の原因究明、再発防止

 国土交通省では、昇降機(エレベーター、エスカレーター)や遊戯施設の事故発生原因究明に関する調査、再発防止対策等に関する調査・検討を行い、2022年度には4件の報告書を公表しました。

ウ 国民生活センターにおける商品テストの実施

 国民生活センターでは、全国の消費生活センター等で受け付けた商品に関する苦情相談の解決のために商品テストを行うとともに、商品群として問題があると考えられる場合に、被害の未然防止・拡大防止のために商品テストを実施し、注意喚起を行い、広く情報提供しています。2022年度に各地の消費生活センター等から依頼のあった商品テスト165件について内容を検討し、46件については過去の同種事例や知見による技術相談等を行い、119件を商品テストとして受け付け、全件に対応しました。また、注意喚起のための商品テストを10件実施し、公表するとともに、関係行政機関・団体等に要望・情報提供を行いました。

 さらに、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)との実務者会議を毎月1回開催し、情報を共有するとともに、専門性が高いテストの実施や評価に当たっては、有識者や研究機関等の技術・知見の活用を図りました。

エ 消費生活用製品安全法に基づく事故情報の分析と原因の調査・究明等

 消費者庁では、消費生活用製品安全法の規定に基づく重大製品事故の報告を受け付け、週2回程度、定期的に公表しています。また、NITE主催の報告会等において同法の報告制度について周知を行っています。

 経済産業省では、2022年度に消費生活用製品安全法第35条第1項の規定に基づき報告された重大製品事故1,108件について、製品事故の原因究明を行うとともに、その結果について公表し、事故情報の提供と注意喚起を実施しています。

 また、製造事業者や輸入事業者等に対する再発防止等に向けた対応を逐次実施しており、消費者に対しても、誤使用・不注意等に関する注意喚起を迅速に実施しています。

 さらに、「電気用品安全法」(昭和36年法律第234号)や「ガス事業法」(昭和29年法律第51号)等の技術基準についても、相次いで発生している事故の再発防止、新技術、新製品への対応等の観点から、随時見直しを行っています。技術基準の改正等については、国内の技術基準が国際規格と整合されるよう基準の見直しを行い、リチウムイオン蓄電池に関する国内の技術基準を国際規格に準拠したJISに一本化する通達の改正、「電気用品、ガス用品等製品のIoT化等による安全確保の在り方に関するガイドライン」の普及・啓発等を行いました。また、製造事業者等による製品安全関連4法(注66)の届出等の手続の利便性を向上させるとともに、規制当局としても法令の運用を効率的に行うことができる電子届出(保安ネット)の運用を推進しました。

 加えて、乳幼児による誤飲事故が発生している、マグネットセット及び高吸水性樹脂玩具については、基本的な安全性の確保による事故の未然防止の観点から、消費生活用製品安全法の規定に基づく特定製品への指定に向けた検討を行いました。

オ 製品等の利用により生じた事故等の捜査等

 都道府県警察では、製品等の利用によって生じたと疑われる事故等を認知した際には、迅速な捜査を推進しています。また、警察庁では、都道府県警察に対して、製品等の利用によって生じた事故等に関する情報収集、関係行政機関との連携の必要性等について指導するとともに、こうした事故等を認知した際には、関係行政機関への通知等をしています。なお、製品等の利用によって生じた事故について、2022年度中に警察庁が関係行政機関に対して通知した件数は86件となっています。

カ 製品火災対策の推進及び火災原因調査の連絡調整

 消防庁では、各消防本部からの報告に基づき製品火災情報を集約し、製品の不具合によって発生したと消防機関によって判断された火災に関する当該製品の製造事業者名や製品名等を「製品火災に関する調査結果」として取りまとめ、四半期ごとに公表しています。2021年1月から12月までに製品の不具合によって発生したと判断され、2022年8月25日に公表した火災は164件となっています。

 経済産業省では、NITEによる重大製品事故等の原因究明調査において、消防機関との合同調査を行うとともに、火災の再現実験等を踏まえて、消費者への注意喚起を実施し、同種事故の未然防止や再発防止に努めています。

 特にガストーチの製品火災については、NITEによる事故原因究明調査の結果も踏まえ、規制の在り方について検討を進めています。

(4)食品の安全性の確保

ア 食品安全に関する関係府省庁等の連携の推進

 2012年6月に、「食品安全基本法第21条第1項に規定する基本的事項」(平成16年1月閣議決定)の変更が閣議決定され、消費者庁が、食品安全に関わる行政機関として明確に位置付けられました。それ以降、関係府省連絡会議等を定期的に開催し、食品の安全性の確保に関する施策を総合的に推進しています。

イ リスク評価機関としての機能強化

 内閣府に食品安全委員会が設置され、食品の安全性確保のため、最新の科学的知見に基づき中立公正にリスク評価を行うとともに、リスク評価の内容と食品安全に関する科学的知見に関するリスクコミュニケーションを行っています。

 食品安全委員会では、既に協力文書を締結している欧州食品安全機関(EFSA)を始めとする海外のリスク評価機関等との会合の開催や情報交換を行うことで連携強化を進め、食品の安全性に関する最新の知見の収集や情報の発信を行うことによって、リスク評価機関としての機能強化を図っています。

ウ 食品安全に関するリスク管理

 厚生労働省では、食品衛生法の規定に基づき、食品等の規格基準等の設定や食品の監視指導を行っており、2022年度には、食品中の農薬等の残留基準の設定件数が63件、食品添加物の新規指定件数が2件となっています。

 また、都道府県等関係行政機関と連携した規格基準の遵守等に関する監視指導を実施しています。

 農林水産省では、国産農畜水産物・食品等を汚染するおそれのある危害要因について、5年間の中期計画及び年度ごとの調査計画(年次計画)を策定し、実態調査や低減対策の検討等に取り組んでいます。

 2022年度は、年次計画に基づき、有害化学物質、有害微生物について、30件の実態調査等を実施しました。2023年2月には2017年度と2018年度に実施した食品中の有害化学物質の含有実態調査の結果等をまとめた「有害化学物質含有実態調査結果データ集(平成29~30年度)」を、同年3月には、国産麦類のかび毒やアミノ酸液を原材料に含むしょうゆ中のクロロプロパノール類の実態調査結果を公表しました。

 また、2022年4月には、学校や家庭等の菜園でじゃがいもを栽培し、保存、調理する時の注意事項をまとめたリーフレット「じゃがいもによる食中毒を予防するためにできること」を、11月には、ふきやふきのとうの適切なあく抜き方法をまとめたチラシ「ふき・ふきのとうはあく抜きして食べましょう」を改訂し、消費者等に情報提供を行っています。

 また、企業の行動規範の作成等の道しるべとして作成した「『食品業界の信頼性向上自主行動計画』策定の手引き~5つの基本原則~」について、食品関係事業者に対し、アンケート調査(2022年度1,283件)、研修会等によって、企業行動規範等の策定の実態を把握するとともに策定を促しました。

エ 食品の安全性に関するリスクコミュニケーションの推進

 食品安全に関するリスクコミュニケーションに関しては、消費者庁が関係府省庁の事務の調整を担うこととされ、消費者庁、食品安全委員会、厚生労働省及び農林水産省(以下「4府省庁」という。)等が連携して、食品安全に関するリスクコミュニケーションの取組を推進しています。

 4府省庁が経済産業省と連携して行う食品の安全性に関するリスクコミュニケーションの取組として、2022年度は、「食品に関するリスクコミュニケーション『食品中の放射性物質のこれからを考える』」を、大学生を対象に2022年7月から2023年1月までに福岡県、滋賀県、東京都及び福島県で開催するとともに、一般消費者を対象に2022年11月に東京都で、12月に大阪府で開催しました。

 また、食中毒予防及び食品中の放射性物質に関する理解の増進を目的として、主に小学生とその保護者等を対象に、2022年10月にオンライン授業を実施するとともに、11月に東京で開催された民間のイベントに出展し、キッズ教室及びスタンプラリーを実施しました。

 さらに、消費者庁は、東電福島第一原発におけるALPS処理水の海洋放出と、日本の農林水産物や食品の安全性について、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)メッセージを発出するとともに食品安全委員会、復興庁、農林水産省及び経済産業省と連携し、2023年1月に神奈川県と東京都で、「Learn Marche~太平洋(岩手・宮城・福島・茨城)のいまを知って、おいしさ実感!~」として、被災地の食品の安全性及び魅力等に関する情報を提供するイベントを開催しました。

 消費者庁では、2022年度には、食品中の放射性物質について、福島県を始めとした地方公共団体等と連携し、全国各地で意見交換会等を140回開催するとともに、食品・水道水の検査結果や、出荷制限等の範囲等のウェブサイトでの発信、放射性物質の基礎知識や食品等の安全を説明する冊子「食品と放射能Q&A」(2022年7月第16版)及び「食品と放射能Q&Aミニ」(2022年7月第8版)の作成・公表等を行いました。

 また、地方公共団体等と連携し、食品安全全般に関する講座や、健康食品、食品表示等をテーマとする意見交換会を実施したほか、「消費者庁リコール情報サイト」や消費者庁Twitter、Facebook等を通じて、消費者へ食品の安全に関する情報提供を行っています。

 食品安全委員会では、食品の安全に関する科学的な知識を効果的に普及するため、2022年度は「食品添加物のリスク評価をアップデート―評価指針を改正、ワイン添加物も続々評価―」や「食品に生える『かび』の基礎知識と『かび毒』の評価」等をテーマとして、報道関係者を対象に意見交換会を開催したほか、食品関係事業者等を対象とした講座「精講:食品添加物のリスク評価をアップデート~評価指針を改正、ワイン添加物も続々評価~」を開催しました。消費者の食品安全に関する科学的知見に対する理解を促進するため、地方公共団体と共催の意見交換会、地方公共団体や消費者団体等が主催する学習会等への講師派遣を実施するなど、積極的な情報提供や意見交換に努めています。

 また、事業者や地方公共団体が食品安全委員会の発信する情報にアクセスしやすいよう、ウェブサイトをリニューアルしたほか、SNS(Twitter、Facebook)での発信、YouTubeで動画を配信するなど、ITを活用した情報提供を積極的に行っています。

 加えて、リスク評価の内容等を国内外に広く発信するため、英文電子ジャーナル「Food Safety」を年4回発行するとともに、「食の安全ダイヤル(注67)」を設けて、電話やメールによる一般消費者等からの相談や意見を受け付けています。

 厚生労働省では、2022年度には輸入食品の安全性確保に関する意見交換会を開催しました。

 また、食品中の放射性物質に関して、摂取量調査の結果や、出荷制限等についての情報提供をするとともに、都道府県等が策定した検査計画や実施した検査結果を取りまとめ、国内外へ情報提供を行っています。

 そのほか、政府広報や厚生労働省Twitterを活用し、有毒植物、毒キノコ、ノロウイルスによる食中毒の予防ポイント等について時宜に応じた情報発信を行うとともに、食肉等による食中毒予防に関するリーフレットや輸入食品の安全確保に関するリーフレット等、食中毒予防や食品安全確保の取組に関する啓発資材を作成し、意見交換会等で配布、ウェブサイト上で公表するなど、積極的な情報提供に努めています。

 農林水産省では、消費者や事業者との意見交換会・説明会等の開催や講師の派遣を通じて、食品安全に関するテーマ等について積極的な情報提供に努めています。

 また、農林水産省ウェブサイト「安全で健やかな食生活を送るために(注68)」では、食品安全や望ましい食生活に関する情報提供を行っているほか、「食品安全エクスプレス(注69)」において、報道発表資料等の最新情報を発信しており、ウェルシュ菌やカンピロバクター等による季節性の高い食中毒の予防に向け、農林水産省ウェブサイトやFacebook等のSNSを通じた情報発信や、注意喚起を実施しています。2022年度は、新たにカレーの調理やお弁当作りの際に注意したいポイントをまとめた動画をYouTubeに公開しました。動画には、子供にも出演してもらうなどして、幅広い世代を対象に注意喚起を実施しました。

オ 食品中の放射性物質に関する消費者理解の増進

 消費者庁内に設置した「食品と放射能に関する消費者理解増進チーム」において、意見交換会等の開催や消費者庁ウェブサイトでの情報提供等、風評被害の払拭を図るとともに、消費者理解の増進のため、2022年7月に改訂した「食品と放射能Q&A」を1万部、「食品と放射能Q&Aミニ」を1万5000部作成し、それぞれ配布しました。

 また、被災地域及び被災地産品の主要仕向け先となる都市圏の消費者約5,000人を対象とした、「風評に関する消費者意識の実態調査」を実施しています。2022年度は、2023年1月に第16回目となる本調査を行いました。第16回調査の結果では、「放射性物質を理由に福島県の食品の購入をためらう」という回答は、5.8%とこれまでで最も低い値になりました。

 さらに、消費者庁では、国民生活センターとの共同で、地方公共団体に放射性物質検査機器を貸与し、消費サイドで食品の放射性物質を検査する体制の整備を支援しています。2022年度には、103の地方公共団体に対し、127台の検査機器を貸与しました。

カ 輸入食品の安全性の確保

 厚生労働省では、輸入食品等の一層の安全性確保を図るため、「輸入食品監視指導計画」を年度ごとに策定しており、2022年3月に公表された「令和4年度輸入食品監視指導計画(注70)」に基づき、輸出国、輸入時(水際)、国内流通時の3段階の監視指導を実施しており、2021年度における監視指導結果を2022年8月に公表しました。

 輸出国での安全対策として、二国間協議等を通じて、生産等の段階での安全管理の実施、監視体制の強化、輸出前検査の実施等の推進を図っています。

 また、関係国際機関(世界貿易機関(WTO)、世界保健機関(WHO)、国際獣疫事務局(OIE)、国際連合食糧農業機関(FAO)及び国際食品規格委員会(コーデックス委員会))における国際基準を含む「食の安全」についての議論の情報収集及び蓄積に努めています。

 輸入時の対策としては、港や空港に設置された検疫所において届出を受け付け、その内容を確認し、必要に応じてモニタリング検査等を実施しています。

 国内流通時の対策としては、厚生労働省本省、検疫所等と連携を取りつつ、都道府県等が国内流通品としての輸入食品に対する監視指導を行っており、違反食品が確認された際には、速やかに厚生労働省に報告を行い、輸入時監視の強化を図っています。

キ 農業生産工程管理(GAP)の普及促進

 農業生産工程管理(以下「GAP(注71)」という。)とは、農業において、農業生産の各工程の実施、記録、点検及び評価を行うことによる持続的な改善活動であり、食品の安全性向上、環境の保全、労働安全の確保等に資するとともに、農業経営の改善や効率化につながる取組です。近年、SDGsやエシカル消費への社会的な関心が高まる中で、農林水産省では、これらに対応した「食品安全」、「環境保全」、「労働安全」、「人権保護」、「農場経営管理」の5分野を含む「国際水準GAP」の取組を推進しています。こうした取組を拡大するためには、農業者による国際水準GAPの取組が実需者や消費者からも評価されることが重要です。このため、農林水産省では、GAP認証農産物を取り扱う意向を有する実需者を「GAPパートナー」として募集し、ウェブサイト上で公表しているほか、国際水準GAPとSDGsの各ゴールとの対応関係を整理し、公表するなど、消費者向けの関連情報の発信を積極的に行っています。

ク 食品のトレーサビリティの推進

 食品のトレーサビリティとは、食品の移動を把握できることを意味し、各事業者が日頃から食品を取り扱った記録を残すことによって、万が一、健康に影響を与える事件・事故が起きたときの迅速な製品回収や原因究明のための経路の追跡と遡及、表示が正しいことの確認等に役立ちます。

 米トレーサビリティ法では、米穀等(米穀及びだんごや米菓、清酒等の米を使った加工品)に問題が発生した際に流通ルートを速やかに特定するため、生産から販売・提供までの各段階を通じ、取引等の記録を作成・保存し、米穀等の産地情報を取引先や消費者に伝達することが米穀事業者に義務付けられています。

 農林水産省及び国税庁では、米穀事業者に対して立入検査等を行い、不適正な事業者に対しては改善指導等を実施しています。

 また、農林水産省では、米トレーサビリティ法違反に関する指導件数等を取りまとめ、公表しています。取引記録の作成・保存に関する指導件数は、2022年度上半期においては3件となっています。

 消費者庁では、米トレーサビリティ法に違反する被疑情報に基づき、農林水産省、地方公共団体と連携した調査が実施できる体制を整え、違反に対しては厳正に対処することとしています。

 「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」(平成15年法律第72号。以下「牛トレーサビリティ法」という。)に基づき、農林水産省では、牛海綿状脳症(BSE)のまん延防止措置の的確な実施を図るため、牛を個体識別番号によって一元管理するとともに、生産から流通・消費の各段階において個体識別番号を正確に伝達することによって、消費者に対して個体識別情報の提供を促進しています。

 また、農林水産省では、牛トレーサビリティ法違反(流通段階)に関する指導件数等を取りまとめ、公表しており、2022年度上半期における違反に関する指導件数は50件となっています。

 米穀等及び牛以外のトレーサビリティについては、食品衛生法において食品事業者の努力義務として規定されています。そのため、農林水産省では、食品トレーサビリティに関し、事業者が自主的に取り組む際のポイントを解説するテキスト等を策定し、更なる取組の普及・啓発に取り組んでいます。

ケ 食品衛生関係事犯及び食品の産地等偽装表示事犯の取締りの推進

 警察庁では、消費者庁、国税庁及び農林水産省を構成員とする「食品表示連絡会議」への参加等を通じ、関係機関と連携した情報収集を行うとともに、食品表示に対する国民の信頼を揺るがす事犯や国民の健康を脅かす可能性の高い事犯について、地方の出先機関と連携した取締りを推進しています。

 なお、2022年中は、食品衛生関係事犯を8事件13人、食品の産地等偽装表示事犯を4事件14人検挙しています。

コ 流通食品への毒物混入事件への対処

 警察庁では、流通食品への毒物混入事件について、被害の拡大防止のために、関係行政機関との連携を図っています。また、都道府県警察に対して、流通食品への毒物混入事件に関する情報収集、関係行政機関との連携の必要性等について指導するとともに、こうした事件等を認知した際には、必要に応じて、関係行政機関に通報するなどしています。

 なお、2022年度中の流通食品への毒物混入事件の発生はありません。


担当:参事官(調査研究・国際担当)