第1部 第2章 結び 消費者市民社会の実現に向けて
第1部 消費者問題の動向と消費者の意識・行動
第2章 【特集】高齢者の消費と消費者市民社会の実現に向けた取組
結び 消費者市民社会の実現に向けて
消費者市民社会においては、消費者は、事業者が提供する商品・サービスを享受するだけではなく、公正で持続可能な社会の形成に際して重要な役割を担います。その中でどのような役割を担うかは、幼児期から高齢期までのライフステージそれぞれの段階で異なり、高齢期は、周囲の支援を受けつつも人生での豊富な経験や知識を消費者市民社会の構築にいかす時期です。高齢者も支え合いながら協働して、消費者問題や他の社会問題を解決し、公正で持続可能な社会の構築に貢献していくことが求められていると考えられ、高齢者の力は消費者市民社会の実現に欠かせません。
一方で、高齢者の消費者被害は毎年多く発生しており、その未然防止や被害救済はとても重要です。高齢化が今後も進むことが予測される中では、消費者被害が深刻化していく懸念もあります。高齢者の消費者トラブルの分析からは、年齢層別にみても異なるトラブル傾向が示されており、高齢者の消費者トラブルの実態は一様ではありません。また、高齢者の中には、健康への不安や判断力の低下、孤独・孤立、デジタルデバイドやデジタルリテラシーの不足等、様々な課題を抱えた人がいます。さらに、特に75歳以上では、消費者トラブルに遭った際に積極的な対処をしなくなる傾向もみられました。こうしたぜい弱性により、高齢者が消費者トラブルに巻き込まれやすくなるおそれがあることが示唆されました。
高齢者の状況は多様であり、年齢差や個人差もあるため、高齢者の消費者被害の防止に向けては、高齢者一人一人の状況や抱えているぜい弱性に対応していく必要があります。そのためには、高齢者の多様なぜい弱性やトラブル傾向に対応した消費者教育や情報提供・注意喚起、地域における見守り活動を進めていくことが重要です。消費者庁では、見守りネットワークの構築や活用の推進、詐欺的な定期購入商法等の高齢者の被害も多い商法に対応するための法改正や運用、高齢者への情報提供や消費者教育を進めています。
高齢者は、家族・友人・知人の役に立ちたいという意識や、トラブル時の相談相手として身近な人を重視する意識が高くなっていました。高齢者が交流する場で消費者トラブルへの注意を呼び掛け合ったり、デジタルスキルを教え合ったりすることは、消費者トラブルやデジタルの活用についての情報共有や消費者被害の防止につながると考えられます。そのため、高齢者の身近な人や高齢者同士のコミュニティで利用されることを想定した、話題にしやすく活用しやすいコンテンツ作りに行政が取り組み、提供することも有効と考えられます。そうしたコンテンツが地域の見守り活動で使われることで、見守りの効果を高めることも期待されます。
また、見守り活動や高齢者の身近な人やコミュニティでの交流では、消費者トラブルに遭ってしまった高齢者がいたときに、消費生活センターへの相談等の適切な対応を促すこともできます。消費者トラブルに遭ったときに消費生活センター等に相談することや、事業者に適切に意見を伝えることは、社会での消費者トラブルに関する情報の共有や、事業者の提供する商品やサービスの改善の促進につながり得る、消費者市民社会の一員としての行動です。見守り活動やコミュニティ等での交流が、高齢者が消費者トラブルへの対処方法を知り、行動するきっかけとなれば、消費者市民社会の実現に寄与する行動にもつながると考えられます。
消費者市民社会の実現に向けた取組は、SDGsの達成にも貢献するものです。消費者庁では、SDGsに関連した取組としてエシカル消費の普及・啓発に取り組んでいます。食品ロス削減やサステナブルファッション等のエシカル消費に関する取組は、高齢者の方が活発に取り組んでいる一方で、エシカル消費やサステナブルファッションという言葉と内容の認知度は高齢者の方が低いことが分かりました。サステナブルファッション等のエシカル消費の普及・啓発に向けた取組によって認知度が高まることで、高齢者自身の行動が持続可能な社会の実現に貢献するものであることを知り、エシカル消費が更に活発になることが期待できます。
実際に社会貢献活動に取り組んでいる高齢者は、「地域」への貢献意識が高く、感謝の言葉や身近な人との結び付きがやりがいにつながっていました。また、取組内容も直接体を動かして行う活動だけでなく、高齢者の視点や知見を社会へ還元することや、高齢者同士が支え合う取組等があり、健康状態、生活環境や能力等の高齢者の多様性に合わせて、高齢者の社会貢献活動の在り方も様々でした。
消費者市民社会の実現に向けて、消費者教育等を通じて高齢者のエシカル消費等の身近な社会貢献活動を更に活発化するとともに、「地域」という視点を重視しながら、高齢者の多様性に合わせた様々な社会貢献活動への参画の在り方を検討していくことで、高齢者の社会貢献活動への参画の促進が期待されます。高齢者の中には、健康上の理由等から社会貢献活動に参加することが難しい方もいますが、参加を希望する高齢者が多様な活動に参加できる環境の整備は重要です。高齢者の社会貢献活動は、消費者市民社会の実現に寄与することはもちろんですが、同時に、高齢者自身が健やかで生きがいのある人生を過ごすことにもつながります。
消費者市民社会の実現には、消費者、事業者、行政等の連携・協働が欠かせません。消費者庁としても、引き続き関係省庁と連携し、消費者の安全・安心と消費者被害の未然防止に向けて、消費者へのきめ細やかな情報発信・啓発や注意喚起、見守り活動の促進、悪質事業者等の厳正な取締りを行うとともに、持続可能な社会の実現に向けた啓発や参画の促進等に積極的に取り組んでいく考えです。
担当:参事官(調査研究・国際担当)