第2部 第2章 第1節 1.消費者の安全の確保
第2部 消費者政策の実施の状況
第2章 消費者政策の実施の状況の詳細
第1節 消費者被害の防止
1.消費者の安全の確保
(1)事故の未然防止のための取組
ア 身近な化学製品等に関する理解促進
環境省では、化学物質やその環境リスクに対する国民の不安に適切に対応するため、リスクコミュニケーションを推進しています。
2021年度は、化学物質のリスクに関する情報の整備のため、「PRTRデータを読み解くための市民ガイドブック」を作成し、発行しました。
また、身近な化学物質に関する疑問に対応するため、化学物質やリスクコミュニケーションの知見を有する「化学物質アドバイザー」の派遣を実施しており、2021年度は10回実施しました。
イ 家庭用化学製品の安全対策のための「安全確保マニュアル作成の手引き」作成支援
厚生労働省では、家庭用品に使用される化学物質による健康被害を防止するため、「家庭用化学製品に関する総合リスク管理の考え方」を踏まえ、各種製品群について、メーカー等が製品の安全対策を講ずるために利用する「安全確保マニュアル作成の手引き」の作成及び改訂を事業者が速やかに行うよう支援し、その結果について周知を行っています。
ウ 住宅・宅地における事故の防止
国土交通省では、2022年2月に「建築物防災週間における防災対策の推進について(令和3年度春季)」を、行政庁等に対して通知しました。
また、大規模盛土造成地について、2021年4月に「今後の宅地防災対策の推進について」を都道府県等に対して通知し、地方公共団体の宅地担当者を対象とした説明会を開催しました。
エ 子供の不慮の事故を防止するための取組
消費者庁では、子供の不慮の事故を防止するための取組として、関係府省庁と連携し、「子どもを事故から守る!プロジェクト」を実施しています。
2021年度は、メールマガジンを38回及びTwitterを143回配信するとともに、子供の事故防止に関するプレスリリースによる注意喚起を公表しました。
また、「子供の事故防止に関する関係府省庁連絡会議」の取組である「子どもの事故防止週間」を2021年7月19日から25日に実施し、関係府省庁と連携し広報活動を行いました。
さらに、子どもの事故防止ハンドブックの内容を更新し、希望のあった全国の市町村等へ約7万7000部配布しました。
オ 臍帯血を用いた医療の適切な提供に関する検証・検討
契約者の意に沿わない臍帯血の提供を防ぎ、臍帯血を利用した医療が適切に行われるよう、臍帯血プライベートバンクに対し、業務内容等の国への届出を求めるなどの措置を講じています。
2021年度は、臍帯血プライベートバンクからの事業実績について、厚生労働省ウェブサイトで公表しました。
カ 薬物乱用防止対策の推進
薬物乱用の根絶のため、「薬物乱用対策推進会議」において策定された「第五次薬物乱用防止五か年戦略」に基づき、関係府省で連携した総合的な取組を進めています。
消費者庁では、関係機関と連携しつつ、特定商取引法の表示義務に違反しているおそれのある危険ドラッグの通信販売サイトに対し、適切な措置を講ずるとともに、関係機関に対する情報提供を行い、消費者保護を十分に確保するよう努めています。
海上保安庁では、緊急通報用電話番号「118番(注25)」を積極的に広報し、薬物事犯等の情報提供を国民に対して広く呼び掛けたほか、海事・漁業関係者に対して、薬物事犯に関する情報の提供依頼等を行っています。
厚生労働省では、基本骨格が同じ物質を一括して指定する包括指定を行うなどして、危険ドラッグに含まれる物質を迅速に指定薬物として指定しました。2021年度末までに指定した指定薬物は2,405物質となっています。
また、地方厚生局麻薬取締部において、危険ドラッグの製造業者、販売業者等に対し、継続して捜査を実施しています。
財務省(税関)との協力体制も強化し、輸入通関前での検査命令を行い、日本への危険ドラッグ(原料を含む。)の流入を阻止しています。関係省庁と連携し、危険ドラッグ販売店及びインターネット上の販売サイト等の情報共有を行っています。
なお、財務省(税関)における2021年中の指定薬物の摘発件数は302件、押収量は約17㎏となっています。
さらに、インターネット上で危険ドラッグを販売しているウェブサイトを調査し、法令違反を発見した場合には当該サイトのプロバイダ等に対して削除要請を行い、ウェブサイト等を閉鎖又は販売停止に追い込むように取り組んでいます。
内閣府、警察庁、消費者庁、文部科学省、国土交通省、厚生労働省、法務省、財務省では連携して消費者への情報提供・啓発活動を行っています。
内閣府では、「青少年の非行・被害防止全国強調月間」における重点課題の一つに「薬物乱用対策の推進」を挙げ、関係省庁、都道府県、協力・協賛団体等に対して啓発活動等の取組を依頼するなどの広報・啓発活動を推進しています。
文部科学省では、全ての中学校及び高等学校において、年に1回は薬物乱用防止教室を開催するとともに、地域の実情に応じて小学校においても薬物乱用防止教室の開催に努めるなど、学校における薬物乱用防止に関する指導の充実が図られるよう周知しました。
また、薬物乱用を始め、多様化・深刻化する子供の健康課題について総合的に解説した、小学生・中学生・高校生向け啓発教材の作成・周知を行いました。さらに、大学生等を対象とした薬物乱用防止のための啓発資材を作成し、全ての大学、短期大学及び専門学校に周知しました。
厚生労働省では、「『ダメ。ゼッタイ。』普及運動」(毎年6月20日から7月19日まで)及び「麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動」(毎年10月1日から11月30日まで)等において啓発資材の配布やキャンペーンの実施等、広報啓発活動の推進を図っています。また、大麻や危険ドラッグ等の危険性・有害性について解説した薬物乱用防止啓発読本を作成し、2022年2月に高等学校卒業予定者へ向けて114万5000部、小学校6年生の保護者へ向けて130万3000部を配布し、また同年3月には青少年へ向けて19万1000部配布しました。
外務省では、危険ドラッグ等の合成薬物対策として、様々な国際協力を継続しています。
2021年度は、国連薬物・犯罪事務所(UNODC(注26))のグローバルSMARTプログラムに10万米ドルを拠出し、UNODCの危険ドラッグを含む合成薬物に関する情報収集・動向分析等の取組に貢献しました。
(2)消費者事故等の情報収集及び発生・拡大防止
ア 事故情報の収集、公表及び注意喚起等
消費者庁と国民生活センターが連携し、関係機関の協力を得て、生命・身体に関する事故情報を広く集約し提供する「事故情報データバンク(注27)」を2010年4月から運用しています。
また、消費者庁では、消費者安全法の規定に基づき通知された生命・身体被害に関する消費者事故等について、2021年度には、重大事故等の概要等の公表を50回行いました。
さらに、消費生活用製品安全法の規定に基づき報告のあった重大製品事故については、2021年度には、重大製品事故の概要等の公表を100回行いました。また、医療機関ネットワーク事業(2021年度末30医療機関が参画。)では医療機関特有の事故情報を幅広く集めました。
集約した事故情報については分析し、注意喚起に活用しています。注意喚起に当たっては消費者庁ウェブサイトへの掲載だけでなく、SNSの活用や動画の作成等、注意喚起の情報がより多くの消費者に伝わり理解されるよう努めています。また、消費者安全法の通知が確実に行われるよう、関係府省や地方公共団体に、同法の通知制度について周知を行いました。
内閣府、文部科学省、厚生労働省では、「教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議年次報告」を毎年公表しています。
また、2015年度からは「特定教育・保育施設等における事故情報データベース(注28)」として、重大事故のあった地方公共団体からの第二報以降の事故報告をまとめ、公表しています。
厚生労働省では、効果的な予防対策を導き出し予防可能な子供の死亡を減らすことを目的としたChild Death Review(CDR)について、予防のための子どもの死亡検証体制整備モデル事業を実施しています。
イ 緊急時における消費者の安全確保
緊急事態等においては、「消費者安全の確保に関する関係府省緊急時対応基本要綱」で定める手順に基づき、関係府省が相互に十分な連絡及び連携を図り、政府一体となって迅速かつ適切に対応し、消費者被害の発生・拡大の防止に努めています。また、関係行政機関や事業者、医療機関等から寄せられる事故情報について、迅速かつ的確に収集・分析を行い、消費者への情報提供等を通じて、生命・身体に関する消費者事故等の発生・拡大を防止することとしています。
消費者庁では、関係府省と連携し、緊急時対応訓練を毎年実施することとしており、2021年度は、2022年2月に食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省と連携し、訓練の詳細を当日まで明かさないブラインド方式で行うなど、実践的な方法での緊急時対応訓練を実施しました。
ウ リコール情報の周知強化
消費者庁では、関係府省等が個々に公表していたリコール情報を消費者が分野横断的に確認できる「消費者庁リコール情報サイト(注29)」の運用を2012年4月から開始しました。ほかに、事業者が独自に公表している情報の収集にも努め、2021年度末には7,050件のリコール情報が登録されており、メールマガジンの配信先件数は10,047件となっています。
また、地方公共団体に対する同サイトの周知依頼や事業者に対して同サイト活用の周知を行っています。
このほか、リコールが多発している製品群に着目し、製品安全情報を中心とした関連情報の提供にも取り組んでいます。
エ 製品安全に関する情報の周知
経済産業省では、消費者庁に報告が行われる重大製品事故の情報や経済産業省に届出が行われるリコールの情報等については、経済産業省のウェブサイト等で随時公表(注30)を行い、消費者等への注意喚起を実施しています。
2021年9月にインターネットモール等運営事業者8社(以下「モール事業者」という。)と連絡会合を開催し、製品安全に係る取組の情報共有を行いました。加えて、インターネットモールにおいて販売される製品のうち、法令違反が多く事故が多発している製品についてPSマーク表示の有無を確認するよう、2020年7月にモール事業者に対して要請を行ったところですが、当該要請を踏まえたモール事業者の取組状況についてフォローアップを実施しました。モール事業者各社の取組により、違反件数の減少につながったことが確認されました。
また、政府広報等においても、最近事故が増加している製品等の注意喚起を実施しています。
毎年11月の製品安全総点検月間では、製品安全総点検セミナーの開催、製品安全に関するポスターの掲示、中小企業向けの情報発信、ウェブサイト等を通じた製品安全に関する情報発信等を通じて、製品安全が持続的に確保されるよう周知に努めました。製品安全について先進的な取組をしている企業を表彰する製品安全対策優良企業表彰(PSアワード)については、2021年度は8社を選定し、2021年11月に表彰式を実施したほか、表彰式のダイジェスト動画をYouTubeのMETIチャンネルで公開しました。また、Twitterアカウント及びInstagramアカウントを通じて情報を発信し、企業単位での製品安全の取組の普及を図りました。
オ 道路運送車両法に基づく自動車のリコールの迅速かつ着実な実施
国土交通省では、自動車のリコールの迅速かつ着実な実施のため、自動車メーカーやユーザー等からの情報収集に努め、自動車メーカー等のリコール業務について監査等の際に確認・指導するとともに、安全・環境性に疑義のある自動車については独立行政法人自動車技術総合機構において技術的検証を行っています。2021年度のリコール届出件数は369件で、対象台数は426万台となっており、自動車メーカーに対して市場措置を速やかに行うことを促しました。さらに、ユーザーからの不具合情報の収集を強化するため、「自動車不具合情報ホットライン(注31)」について周知活動を積極的に行いました。
カ 高齢者向け住まいにおける安全の確保
厚生労働省では、2022年3月に開催した全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議において、届出施設から都道府県等に対する事故報告の徹底を図るとともに、当該事故報告に係る都道府県等から厚生労働省への一層の情報提供の実施を図ることを徹底するよう要請しました。また、2020年度老人保健健康増進等事業において「介護保険施設等における安全管理体制等の在り方に関する調査研究事業」を実施し、高齢者向け住まいにおける事故報告の方法等について実態把握を行い、その方法等の検討を行うとともに、2021年6月には都道府県等に対し、高齢者向け住まいにおける事故報告の標準様式を示し、積極的に活用するよう周知しました。
国土交通省では、2022年2月に都道府県等高齢者住宅担当課長会議を開催し、報告に基づく事故情報を共有するとともに、報告・指導等の徹底を図りました。
(3)事故の原因究明調査と再発防止
ア 消費者安全調査委員会による事故等原因調査等の実施
2012年10月に消費者庁に設置された消費者安全調査委員会は、2021年度は以下の2件について消費者安全法第31条第1項に基づく報告書を決定・公表し、同法第33条に基づく意見を述べて調査等を終了するなどしました。
・自動ドアによる事故(2021年6月に調査結果を取りまとめた報告書を決定・公表し、経済産業大臣及び国土交通大臣に対して意見)
・ネオジム磁石製のマグネットセットによる子どもの誤飲事故(2022年3月に調査結果を取りまとめた報告書を決定・公表し、経済産業大臣及び消費者庁長官に対して意見)
そのほか、事故等原因調査等の申出制度による申出を2021年度は45件受け付けました。
イ 昇降機、遊戯施設における事故の原因究明、再発防止
国土交通省では、昇降機(エレベーター、エスカレーター)や遊戯施設の事故発生原因究明に係る調査、再発防止対策等に関する調査・検討を行い、2021年度に3件の報告書を公表しました。
ウ 国民生活センターにおける商品テストの実施
国民生活センターでは、全国の消費生活センター等で受け付けた商品に関する苦情相談の解決の商品テストを行うとともに、商品群として問題があると考えられる場合に、被害の未然防止・拡大防止のために商品テストを実施し、注意喚起を行い、広く情報提供しています。2021年度に各地の消費生活センターから依頼のあった商品テスト234件について内容を検討し、73件については過去の同種事例や知見による技術相談等を行い、161件を商品テストとして受け付け、全件に対応しました。また、注意喚起のための商品テストを10件実施し、公表するとともに、関係行政機関・団体に要望・情報提供を行いました。
さらに、独立行政法人製品評価技術基盤機構(以下「NITE」という。)との実務者会議を毎月1回開催し、情報を共有するとともに、専門性が高いテストの実施や評価に当たっては、有識者や研究機関等の技術・知見の活用を図りました。
エ 消費生活用製品安全法に基づく事故情報の分析と原因の調査・究明等
消費者庁では、消費生活用製品安全法の規定に基づく重大製品事故の報告を受け付け、週2回程度、定期的に公表しました。また、NITE主催の報告会等において同法の報告制度について周知を行いました。
経済産業省では、2021年度に消費生活用製品安全法第35条第1項の規定に基づき報告された重大製品事故988件について、製品事故の原因究明を行うとともに、その結果について公表し、事故情報の提供と注意喚起を実施しています。
また、製造事業者や輸入事業者等に対する再発防止等に向けた対応を逐次実施しており、消費者に対しても、誤使用・不注意等に関する注意喚起を迅速に実施しています。
さらに、電気用品安全法(昭和36年法律第234号)やガス事業法(昭和29年法律第51号)等の技術基準についても、相次いで発生している事故の再発防止、新技術、新製品への対応等の観点から、随時見直しを行っています。技術基準の改正等については、国内の技術基準が国際規格と整合的になるよう基準の見直しを行ったほか、電気消毒器の安全上必要な技術基準の追加、ガス・石油機器の遠隔操作についての省令・通達の改正やリチウムイオン蓄電池搭載製品の各業界団体ガイドラインの改訂、2021年4月に「電気用品、ガス用品等製品のIoT化等による安全確保の在り方に関するガイドライン」の公表等を行いました。長期使用製品安全点検制度については、対象品目により重大製品事故の発生率が異なっていることから、重大製品事故の発生の状況を踏まえた対象品目の見直しの検討を行いました。また、製造事業者等による製品安全関連4法(注32)の届出等の手続の利便性を向上させるとともに、規制当局としても法令の運用状況を効率的に行うことができる電子届出(保安ネット)の運用を開始しました。
オ 製品等の利用により生じた事故等の捜査等
都道府県警察では、製品等の利用により生じたと疑われる事故等を認知した際には、迅速な捜査を推進しています。また、警察庁では、製品等の利用により生じた事故等の情報収集や関係行政機関との協力の必要性について関係行政機関に指示しているほか、こうした事故等を認知した際には、関係行政機関への通知等をしています。なお、製品等の利用により生じた事故について、2021年度中に警察庁が関係行政機関に対して通知した件数は54件となっています。
カ 製品火災対策の推進及び火災原因調査の連絡調整
消防庁では、各消防本部からの報告に基づき製品火災情報を集約し、製品の不具合により発生したと消防機関により判断された火災の製造事業者名や製品名等を「製品火災に関する調査結果」として取りまとめ、四半期ごとに公表しています。2020年1月から12月までに製品の不具合により発生したと判断され、2021年7月1日に公表した火災は137件となっています。
経済産業省では、NITEによる重大製品事故等の原因究明調査において、消防機関との合同調査を行うとともに、火災の再現実験等を踏まえて、消費者への注意喚起を実施し、同種事故の未然防止や再発防止に努めています。
(4)食品の安全性の確保
ア 食品安全に関する関係府省庁等の連携の推進
2012年6月に、食品安全基本法第21条第1項に規定する基本的事項(平成16年1月閣議決定)の変更が閣議決定され、消費者庁が、食品安全に関わる行政機関として明確に位置付けられました。それ以降、関係府省連絡会議等を定期的に開催し、食品の安全性の確保に関する施策を総合的に推進しています。
イ リスク評価機関としての機能強化
内閣府に食品安全委員会が設けられ、食品の安全性確保のため、最新の科学的知見に基づき中立公正に「リスク評価」を行うとともに、リスク評価の内容と食品安全に関する科学的知見に関する「リスクコミュニケーション」を行っています。
食品安全委員会では、既に協力文書を締結している欧州食品安全機関(EFSA)を始めとする海外のリスク評価機関等との会合の開催や情報交換を行うことで連携強化を進め、食品の安全性に関する最新の知見の収集や情報の発信を行うことにより、リスク評価機関としての機能強化を図っています。
ウ 食品安全に関するリスク管理
厚生労働省では、食品衛生法の規定に基づき、食品等の規格基準等の設定や食品の監視指導を行っており、2021年度には、食品中の農薬等の残留基準の設定件数が105件(2022年3月末時点)となっています。
また、都道府県等関係行政機関と連携した規格基準の遵守等に関する監視指導を実施しています。
農林水産省では、国産農畜水産物・食品等を汚染するおそれのある危害要因に関する実態調査や低減対策の検討等に取り組んでいます。
2021年度は、食品の安全性に関する有害化学物質及び有害微生物のサーベイランス・モニタリング年次計画に基づき、有害化学物質、微生物について、26件の実態調査等を実施しました。また、優先的にリスク管理の対象とする有害微生物のリストを更新し、2022年度から2026年度までの農畜水産物・食品中の有害微生物の実態調査の中期計画を作成しました。
2021年7月には、生鮮野菜の生産段階における衛生上の注意点をまとめた「栽培から出荷までの野菜の衛生管理指針」を、2022年2月には、コメ中無機ヒ素の低減技術等をまとめた「コメ中ヒ素の低減対策の確立に向けた手引き」を改訂しました。
また、企業の行動規範の作成等の道しるべとして作成した「『食品業界の信頼性向上自主行動計画』策定の手引き~5つの基本原則~」について、食品関係事業者に対し、アンケート調査(2021年度2,149件)、研修会等によって、企業行動規範等の策定の実態を把握するとともに策定を促しました。
エ 食品の安全性に関するリスクコミュニケーションの推進
食品安全に関するリスクコミュニケーションに関しては、消費者庁が関係府省の事務の調整を担うこととされ、消費者庁、食品安全委員会、厚生労働省及び農林水産省(以下「4府省」という。)等が連携して、食品安全に関するリスクコミュニケーションの取組を推進しています。
4府省で連携した食品の安全性に関するリスクコミュニケーションの取組として、2021年度は、「食品に関するリスクコミュニケーション『一緒に未来を考える~食品中の放射性物質~』」を、2021年10月から2022年1月までに滋賀県、福岡県及び東京都で大学生を対象にオンライン講義のシステムを活用して開催するとともに、一般消費者を対象に2021年11月及び2022年3月にオンラインで開催しました。
また、2021年11月に東京都で開催された親子参加型イベントに出展し、小学生とその保護者等を対象に食中毒予防及び食品中の放射性物質に関する体験型のセミナーを実施しました。このセミナーの内容はオンラインでも配信されました。
消費者庁では、2021年度には、食品中の放射性物質について、福島県を始めとした地方公共団体等と連携し、全国各地で意見交換会等を93回開催するとともに、食品・水道水の検査結果や、出荷制限等の範囲等のウェブサイトでの発信、放射性物質の基礎知識や食品等の安全を説明する冊子「食品と放射能Q&A」(2021年7月に第15版を公表)及び「食品と放射能Q&Aミニ」(2021年7月に第7版を公表)、訪日外国人向けとして「食品と放射能Q&Aミニ」第7版の英語、中国語、韓国語の翻訳版の作成・公表等を行いました。
また、地方公共団体等と連携し、輸入食品や健康食品等のテーマについて意見交換会を実施したほか、「消費者庁リコール情報サイト」や消費者庁Twitter、Facebook等を通じて、消費者へ食品の安全に関する情報提供を行っています。
食品安全委員会では、食品の安全に関する科学的な知識を効果的に普及するため、2021年度は「農薬の再評価」や「おいしさと安全を両立できる加熱調理」等をテーマとして、報道関係者や事業者等を対象に意見交換会を開催したほか、食品関係事業者等を対象とした講座「精講:食中毒を起こす微生物の性質と牛肉を安全に調理するポイントを知ろう」を開催しました。消費者の食品安全に関する科学的知見に対する理解を促進するため、地方公共団体と共催の意見交換会、地方公共団体や消費者団体等が主催する学習会等への講師派遣を実施するなど、積極的な情報提供や意見交換に努めています。
また、事業者や地方自治体が食品安全委員会の発信する情報にアクセスしやすいよう、ウェブサイトをリニューアルしたほか、Facebookに加えTwitterを新たに開設し、YouTubeで動画を配信するなど、ITを活用した情報提供を積極的に行っています。
加えて、リスク評価の内容等を国内外に広く発信するため、英文電子ジャーナル「Food Safety」を年4回発行するとともに、「食の安全ダイヤル(注33)」を設けて、電話やメールによる一般消費者等からの相談や意見を受け付けています。
厚生労働省では、2021年度には輸入食品の安全性確保に関する意見交換会、改正食品衛生法の施行に関する説明会を開催しました。
また、食品中の放射性物質に関して、摂取量調査の結果や、出荷制限等についての情報提供をするとともに、都道府県等が策定した検査計画や実施した検査結果を取りまとめ、国内外へ情報提供を行っています。
そのほか、政府広報や厚生労働省Twitterを活用し、有毒植物、毒キノコ、ノロウイルスといった食中毒予防のポイント等時宜に応じた情報発信を行うとともに、食肉等による食中毒予防に関するリーフレットやマグネット等、啓発資材を作成し、意見交換会等で配布、ウェブサイト上で公表するなど、積極的な情報提供に努めています。
農林水産省では、消費者や事業者との意見交換会・説明会等の開催や講師の派遣を通じて、食品安全に関するテーマ等について積極的な情報提供に努めています。
また、農林水産省ウェブサイト「安全で健やかな食生活を送るために(注34)」において食品安全や望ましい食生活に関する情報提供を行っているほか、「食品安全エクスプレス(注35)」において、報道発表資料等の最新情報を発信しています。
2021年度は、ノロウイルス、ウェルシュ菌やカンピロバクターによる食中毒の予防に向けて、調理や保存時における注意点について情報発信しています。また、毒キノコ、野菜・山菜に似た有害植物の見分け方等について、農林水産省ウェブサイトに掲載するとともに、Facebook等のSNS、動画等を活用して、注意喚起を行いました。
オ 食品中の放射性物質に関する消費者理解の増進
消費者庁内に設置した「食品と放射能に関する消費者理解増進チーム」において、意見交換会等の開催や消費者庁ウェブサイトでの情報提供等、風評被害の払拭を図るとともに、消費者理解の増進のため、2021年7月に改訂した「食品と放射能Q&A」を10,000部、「食品と放射能Q&Aミニ」を15,000部作成し、それぞれ配布しました。また、「食品と放射能Q&Aミニ」については、英語、中国語、韓国語への翻訳も行いました。
また、被災地域及び被災地産品の主要仕向け先となる都市圏の消費者約5,000人を対象とした、「風評被害に関する消費者意識の実態調査」を実施しています。2021年度は、2022年2月に第15回目となる本調査を行いました。第15回調査の結果では、「放射性物質を理由に福島県の食品の購入をためらう」という回答は、6.5%とこれまでで最も小さい値になりました。
さらに、消費者庁では、国民生活センターとの共同で、地方公共団体に放射性物質検査機器を貸与し、消費サイドで食品の放射性物質を検査する体制の整備を支援しています。2021年度には、129の地方公共団体に対し、163台の検査機器を貸与しました。
カ 輸入食品の安全性の確保
輸入食品の安全性に対する国内の高い関心を受け、政府は、「食の安全担当官」等を活用し、個別事例への対応や各国政府・国際機関との連絡体制の強化に取り組んでいます。
厚生労働省は、輸入食品等の一層の安全性確保を図るため、「輸入食品監視指導計画」を年度ごとに策定しており、厚生労働省及び外務省では、2021年3月に公表された「令和3年度輸入食品監視指導計画(注36)」に基づき、輸出国、輸入時(水際)、国内流通時の3段階の監視指導を実施しており、2020年度における監視指導結果を2021年8月に公表しました。
輸出国での安全対策として、二国間協議等を通じて、生産等の段階での安全管理の実施、監視体制の強化、輸出前検査の実施等の推進を図っています。
また、関係国際機関(WTO(世界貿易機関)、WHO(世界保健機関)、OIE(国際獣疫事務局)、FAO(国際連合食糧農業機関)及びコーデックス委員会(国際食品規格委員会))における国際基準を含む「食の安全」についての議論の情報収集及び蓄積に努めています。
輸入時の対策としては、港や空港に設置された検疫所において届出を受け付け、その内容を確認し、必要に応じてモニタリング検査等を実施しています。
国内流通時の対策としては、厚生労働省本省、検疫所等と連携を取りつつ、都道府県等が国内流通品としての輸入食品に対する監視指導を行っており、違反食品が確認された際には、速やかに厚生労働省に報告を行い、輸入時監視の強化を図っています。
キ 農業生産工程管理(GAP)の普及促進
農業生産工程管理(以下「GAP(注37)」という。)とは、農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取組です。農林水産省では、農産物において、2030年までにほぼ全ての産地において国際水準のGAPが実施されるよう、国際水準GAPガイドラインを策定するとともに、都道府県等のGAP指導員による指導活動等の取組を支援しています。また、GAPを分かりやすく伝える動画を配信、各地のGAPに関する積極的な取組を紹介するほか、GAP認証農産物を取り扱う意向を有する実需者を「GAPパートナー」として、GAP情報発信サイト「Goodな農業!GAP-info」に掲載しています。さらに、2022年3月に、我が国における国際水準GAPの推進方策を策定しました。この方策に基づき、今後は、関係省庁と連携して、国際水準GAPの取組により生産された農産物の購入がSDGsへの貢献であることの情報発信等を実施していきます。
ク 食品のトレーサビリティの推進
食品のトレーサビリティとは、食品の移動を把握できることを意味し、日頃から食品を取り扱った記録を残すことにより、万が一、健康に影響を与える事件・事故が起きたときの迅速な製品回収や原因究明のための経路の追跡と遡及、表示が正しいことの確認等に役立ちます。
米トレーサビリティ法では、米穀等(米穀及びだんごや米菓、清酒等の米を使った加工品)に問題が発生した際に流通ルートを速やかに特定するため、生産から販売・提供までの各段階を通じ、取引等の記録を作成・保存し、米穀等の産地情報を取引先や消費者に伝達することが米穀事業者に義務付けられています。
農林水産省及び国税庁では、米穀事業者に対して立入検査等を行い、不適正な事業者に対しては改善指導等を実施しています。
また、農林水産省では、米トレーサビリティ法違反に関する指導件数等を取りまとめ、公表しています。取引記録の作成に関する指導件数は、2021年度上半期においては1件となっています。
消費者庁では、米トレーサビリティ法に違反する被疑情報に基づき、農林水産省、地方公共団体と連携した調査が実施できる体制を整え、違反に対しては厳正に対処することとしています。
牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法(平成15年法律第72号。以下「牛トレーサビリティ法」という。)に基づき、農林水産省では、BSEのまん延防止措置の的確な実施を図るため、牛を個体識別番号により一元管理するとともに、生産から流通・消費の各段階において個体識別番号を正確に伝達することにより、消費者に対して個体識別情報の提供を促進しています。
また、農林水産省では、牛トレーサビリティ法違反(流通段階)に関する指導件数等を取りまとめ、公表しており、2021年度上半期における違反に係る指導件数は36件となっています。
米及び牛以外のトレーサビリティについては、食品衛生法において食品事業者の努力義務として規定されています。そのため、農林水産省で策定している「実践的なマニュアル」及び中小規模の食品事業者における取組のポイントを解説するテキストを活用し、HACCPに沿った衛生管理の記録の作成等に併せた、具体的な取組モデルの提供等新たな推進方策に基づき、普及・啓発に取り組んでいます。
ケ 食品衛生関係事犯及び食品の産地偽装表示事犯の取締りの推進
警察庁では、消費者庁、国税庁及び農林水産省を構成員とする「食品表示連絡会議」への参加等を通じ、関係機関と連携した情報収集を行うとともに、食品表示に対する国民の信頼を揺るがす事犯や国民の健康を脅かす可能性の高い事犯について、地方の出先機関と連携した取締りを推進しています。
なお、2021年中は、食品衛生関係事犯を8事件16人、食品の産地等偽装表示事犯を6事件7人検挙しています。
コ 流通食品への毒物混入事件への対処
警察庁では、流通食品への毒物混入事件について、被害の拡大防止のために、関係行政機関との連携を図っています。また、都道府県警察に対して、流通食品への毒物混入事件に関する情報収集、関係行政機関との連携の必要性等について指示するとともに、こうした事件等を認知した際には、必要に応じて、関係行政機関に通報するなどしています。
なお、2021年度中の流通食品への毒物混入事件の発生はありません。
- (注25)https://www.kaiho.mlit.go.jp/doc/tel118.html
- (注26)United Nations Office on Drugs and Crimeの略。持続可能な開発と人間の安全保障を確保する観点から、不正薬物、犯罪、国際テロリズムの問題に包括的に取り組むことを目的に設立。
- (注27)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/
- (注28)https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline/index.html
- (注29)https://www.recall.caa.go.jp/
- (注30)https://www.meti.go.jp/product_safety/recall/
- (注31)https://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/hotline.html
- (注32)消費生活用製品安全法、電気用品安全法、ガス事業法及び液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律(昭和42年法律第149号)の四つを指す。
- (注33)https://www.fsc.go.jp/dial/
- (注34)http://www.maff.go.jp/j/fs
- (注35)http://www.maff.go.jp/j/syouan/johokan/mail_magagine.html
- (注36)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000200505_00003.html
- (注37)Good Agricultural Practicesの略。
担当:参事官(調査研究・国際担当)