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第2部 第2章 第5節 3.地方における体制整備

第2部 消費者政策の実施の状況

第1章 消費者庁における主な消費者政策

第5節 消費者行政を推進するための体制整備

3.地方における体制整備

(1)地方消費者行政の充実・強化に向けた地方公共団体への支援等

 消費者行政の最前線は、「地域」です。消費者庁では、消費者の安全・安心の確保のためには、「現場」である地方消費者行政の抜本的強化が不可欠との認識から、地方公共団体との連携を強化しながら、その取組を支援してきました。

 具体的には、2009年度から2011年度までの3年間を地方消費者行政の「集中育成・強化期間」と位置付け、地方消費者行政活性化交付金により各都道府県に造成された「地方消費者行政活性化基金」(以下「基金」という。)を通じて、地方公共団体の消費者行政の充実・強化に向けた取組や支援等を行ってきました。

 2012年7月には、この「集中育成・強化期間」後の地方消費者行政について、地方消費者行政の現況調査や「現場」の声から地方消費者行政の現状と課題を分析し、中長期的な展望に立った地方消費者行政の目指す姿を描きながら、消費者庁の取組や地方自治体への期待をまとめた「地方消費者行政の充実・強化のための指針」を策定しました。

 2014年度には、基金の活用期間を延長しました。また、これまで補正予算中心の措置であり、毎年度の予算措置の見通しが不透明な状況にあったことから、同年度予算は30億円を措置し、当初予算における大幅増額を実現したことで、地方における計画的・安定的な取組が可能となりました。その後、基金に上積みしない「地方消費者行政推進交付金」として、これまで累計約507億円を措置してきました。また、2013年度から2018年度には、「国と地方とのコラボレーションによる先駆的プログラム」として、国から先駆的なテーマを提案して地方公共団体と連携して実施しました。

 消費者庁では、地方消費者行政推進交付金の当初予算化及び基金の活用期間の延長を措置したことを踏まえ、中長期的な検討を実施するため、「地方消費者行政強化作戦」を定め、計画的・安定的な取組の中で、どこに住んでいても質の高い相談・救済を受けられる地域体制の全国的な整備に取り組むとともに、人員・予算の確保に向けた地方公共団体の自主的な取組を支援しています。

 地方消費者行政推進交付金等による支援が2017年度で区切りを迎えることを見据え、消費者庁では、2018年度以降の地方消費者行政の充実・強化に向けた今後の在り方に関して、有識者による検討会を開催しました。検討会では、従来の地方消費者行政推進交付金の活用と共に、国として取り組むべき新たな消費者問題や重要課題に対する支援の必要性が指摘され、これらに意欲的に取り組む地方公共団体を中期的・計画的に支援する仕組みを構築することが提案されました。これに基づき、2018年度に「地方消費者行政強化交付金」が創設され、2020年度は、20億円を措置しています。また、同検討会の報告書を契機として、地方公共団体の知事等に対して、地方消費者行政の重要性及びそれに必要な自主財源の確保を呼び掛けてきました。2019年1月からは、「地方消費者行政強化キャラバン」として、政務(大臣・副大臣・政務官)及び幹部職員が自ら全国の都道府県を訪問し、直接、知事等に自主財源に裏付けられた地方消費者行政の充実等を働き掛ける取組を47都道府県全てに行い、2019年度には、基礎自治体も含めた地方公共団体の首長等に働き掛けを行いました。こうした中で、今後の地方消費者行政の目指すべき姿を示す「地方消費者行政強化作戦2020」の策定に向けて、2019年5月から「地方消費者行政強化作戦2020策定に関する懇談会」を開催し、同年9月に報告書を公表しました。その後、消費者行政ブロック会議等での地方公共団体からの意見等も踏まえた検討を行い、第4期消費者基本計画の閣議決定に合わせて、2020年4月に、「地方消費者行政強化作戦2020」を策定しました。このほか、2020年度からは、民間事業者・団体等をプラットフォームとして、新たな行政手法を構築し、地方においてモデルとなる事業を創出することを目的とした「地方消費者行政に関する先進的モデル事業」も実施しています。

 東日本大震災の被災地への支援としては、震災・原発事故を受けた緊急対応(食品等の放射性物質検査、食の安全性等に関する消費生活相談対応等)により、被災県(岩手・宮城・福島・茨城)では基金に不足が見込まれたため、2013年度予算には約7.3億円、2014年度予算には約7億円の上積みを行い、2015年度以降は、地方消費者行政推進交付金として措置しており、2020年度には3.74億円を措置しています。

(2)地域の見守りネットワークの構築

 消費者庁では、消費者トラブルの防止及び被害からの救済について、地方消費者行政強化交付金等により、被害に遭うリスクの高い消費者(障害者、高齢者、被害経験者等)を効果的・重点的に地域で見守る体制を構築し、消費者トラブルの防止及び早期発見を図る取組等を支援するとともに、障害者の特性に配慮した消費生活相談体制整備を図る取組等を促進しています。

 特に、2014年6月に、地方公共団体が、障害者を始めとする消費生活上特に配慮を要する消費者への見守り活動等を目的とした消費者安全確保地域協議会を組織することができること等、消費者安全法の一部改正を盛り込んだ不当景品類及び不当表示防止法等の一部を改正する等の法律(平成26年法律第71号)が成立したことを踏まえ、消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)の設置促進に取り組んでいます。

 2015年3月に公表した改正消費者安全法の関係内閣府令及びガイドラインの内容等について、消費者団体等において説明を実施しました。また、2016年1月に「地域における見守りネットワーク構築に向けた取組事例」を公表したほか、各地方公共団体において、地域の実情に応じた見守りネットワークが構築できるよう、消費者安全確保地域協議会に関する様々な先進事例を収集し、2017年4月には事例集を公表しました。さらに、同月に、地方公共団体における消費者安全確保地域協議会の設置促進についての長官通達及び地方公共団体向けQ&Aを発出しました。加えて、2019年4月には「消費者安全確保地域協議会設置の手引き」を公表し、各地方公共団体等で説明を行っています。

 また、新未来創造オフィスにおいては、徳島県内の地方公共団体における協議会設置事例をまとめた「消費者安全確保地域協議会設置事例集in徳島」を2018年9月、2019年3月、同年8月の3回にわたり公表しました。

 なお、2018年10月には架空請求対策パッケージの一環として、消費者庁から各消費者安全確保地域協議会に対して啓発チラシを送付しました。

 2020年2月には、より効果的な見守り活動の実施のため「高齢者・障がい者の消費者トラブル 見守りガイドブック」を作成しました。

 2020年10月に開催した「第16回高齢消費者・障がい消費者見守りネットワーク連絡協議会」では、「消費者安全確保地域協議会」の更なる設置促進を図ることを目的に、厚生労働省が地域の多様な主体が参加・協働する包括的支援体制の整備について説明するとともに、高齢者や障害者の見守りに関して特に顕著な取組を行っている事業者団体、地方公共団体、消費生活相談員が発表を行い、情報共有を行いました。「高齢者、障がい者の消費者トラブル防止のため、積極的な情報発信を行う」こと、「多様な主体と緊密に連携して、高齢消費者・障がい消費者を見守り消費者トラブルの被害の回復と未然防止に取り組む」こと等の申合せをしました。

(3)地方公共団体との政策・措置に関する情報等の共有

 消費者庁では、2010年度から、国民生活センター及び経済産業局等の国の機関と、都道府県・政令市の担当課長との意見交換や情報共有の場として、「消費者行政ブロック会議」を開催しています。2020年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の状況に鑑み、全国を4ブロックに分け、11月から12月にかけてオンライン開催を3回、書面開催を1回実施しました。

 また、都道府県・政令市の消費生活センター所長が意見交換や情報共有を行うため、国民生活センターが地方公共団体とブロックごとに開催する「消費生活センター所長会議」に、消費者庁職員が出席し、意見交換を行っています。2020年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の状況に鑑み、11月から12月にかけて全7ブロック中、2ブロックのオンライン会議に出席し、残り5ブロックについては書面開催となりました。

 加えて、毎年4月に都道府県及び政令市の消費者行政担当課長等向けの「都道府県等消費者行政担当課長会議」を開催し、最近の国の消費者行政の動向について情報の共有を図っています。2020年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の状況に鑑み、書面開催としました。

 これらの各会議を通じて、各地方公共団体の消費者行政担当者と意見交換・情報提供を行っています。

(4)都道府県における法執行強化

 国と地方が情報共有を進めて法を厳正に執行し、被害をもたらしている事業者の行為を是正することにより、消費者被害の拡大防止や軽減、予防につながります。このため、消費者庁では、地方公共団体の法執行力を強化することを目的として、地方公共団体の執行担当者を対象とした研修を行っています。

 2020年度には、執行実務に必要となる基礎知識の習得を目的とした「執行初任者研修」を、2020年6月に講義動画のインターネット配信によって実施し(498名参加)、さらに、執行に必要な実務スキルの向上を目指した「執行専門研修」を、同年11月から12月にかけてオンライン方式で実施しました(計89名参加)。

(5)消費者ホットラインの運用及び認知度の向上

 消費者がトラブルに見舞われたとしても、相談窓口の存在に気付かなかったり、相談窓口は知っていたとしてもその連絡先が分からなかったりすることがあります。

 このため、消費者庁では、全国どこからでも身近な消費生活相談窓口を案内する3桁の電話番号「188(いやや!)」(消費者ホットライン(注99))の運用を行い、2020年度の入電件数は1,051,313件となりました。

 同ホットラインについて、消費者への更なる普及啓発を図るため、5月18日の「消費者ホットライン188の日」にSNSによる広告配信を行いました。また、イメージキャラクター「イヤヤン」を活用したポスター・チラシの掲示・配布、全国10都市でのバス車内広告の掲載を行ったほか、トラブル事例に応じた複数のPR動画やバナー広告を作成し、SNSやウェブサイトへの広告配信を行うなど、様々な手法による広報を実施しました。

(6)消費生活以外の相談窓口と消費生活相談窓口との連携促進

 消費者庁では、消費生活以外の相談窓口に寄せられた消費生活相談について、消費生活相談窓口を案内するよう2016年3月に都道府県等に依頼しました。また、2016年度から2019年度までに開催された消費者行政ブロック会議(全6ブロック)において、消費生活相談窓口について、消費者への一層の周知を図るよう、改めて都道府県等に要請しました。2020年度においては、消費生活センター相談員等の声を基に、双方の相談窓口の役割をいかした連携の方法について検討を行いました。

(7)消費生活相談情報の的確な収集と活用

 PIO-NETは、全国の消費生活相談業務の円滑な実施を支援するために1984年に運用を開始したシステムであり、国民生活センターと地方公共団体の消費生活センター等がオンラインネットワークで結ばれ、全国に寄せられた消費生活相談情報が集約されています。

 2000年代中盤において、消費者被害が多様化、複雑化する中で、消費生活相談業務の支援に加えて、法執行等を担当する行政機関等からの利活用の需要が高まり、中央省庁や独立行政法人でのPIO-NET利用環境整備が必要となりました。

 これを受け、2007年に中央省庁及び独立行政法人でのPIO-NET利用が可能となりました。その後、2011年4月には消費者庁が「国の行政機関等におけるPIO-NET情報の利用指針」を策定し、中央省庁や独立行政法人といった関係機関による閲覧に加えて政府共通ネットワークが利用できる中央省庁等に対して、PIO-NET利用のためのアカウント発行を行っています。さらに、PIO-NETデータを集計し相談件数が急増している事業者や商品・サービスについて適格消費者団体及び特定適格消費者団体へ情報提供を行っています。消費者庁では、国民生活センターと連携してPIO-NETを刷新し、2015年9月から新しいシステムであるPIO-NET 2015による運用を開始しました。

 PIO-NET 2015の運用開始後は、利用者からの要望を踏まえたシステム改善を適時・適切に行い、システムの使い勝手及び有用性向上を図りました。また、PIO-NETへの平均登録日数を短縮するため、毎年度開催している都道府県・政令市の消費者行政担当課及び消費生活センター担当者が参加する会議において、相談データ早期登録の重要性を説明するとともに、早期登録を実現している地方公共団体の成功例を共有し、各地方公共団体での早期登録に向けた取組を促しました。

 また、2018年9月に取りまとめた「PIO-NET刷新検討会報告書」及び消費生活センター等へのヒアリングとアンケート結果を踏まえ、次期PIO-NETシステム(PIO-NET2020)の仕様・要件定義を作成し、2019年7月からPIO-NET2020の構築を開始しました。 PIO-NET2020では、事業者名の名寄せ機能の導入、個人情報等データの端末保存の廃止、データの遠隔地保管の実施等、機能面・運用面での改善を図ることとし、2021年9月の運用開始を目指してシステム構築に取り組んでいます。

(8)国民生活センターによる研修の実施

 国民生活センターは、消費者行政における中核的な実施機関であり、①消費者行政の司令塔機能の発揮、②地方消費者行政の推進、③消費者への注意喚起のいずれにとっても必要不可欠な存在です。

 国民生活センターの在り方については、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)の下で開催される「消費者行政の体制整備のための意見交換会」等において検討が進められていましたが、「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」(平成25年12月閣議決定)を踏まえ、独立行政法人通則法の一部を改正する法律(平成26年法律第66号)と独立行政法人通則法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成26年法律第67号)において、独立行政法人の新たな類型の一つである「中期目標管理法人(注100)」とすることとされました。

 また、国民生活センター相模原事務所研修施設では、2020年度は23回(注101)の研修を実施しました。

 地方公共団体の職員や消費生活相談員等に対し、新型コロナウイルス感染症対策を講じた上で、事例検討や参加体験型研修を取り入れた研修を実施しました。また、同事務所内の商品テスト施設を活用した研修も実施しました。


  • 注99:消費者ホットラインは2010年1月12日から「0570-064-370(ゼロ・ゴー・ナナ・ゼロ 守ろうよ みんなを)」で案内をしていた(現在も引き続き利用可能。)。
  • 注100:一定の自主性及び自律性を発揮しつつ、中期的な視点での執行が求められる公共上の事務等について、国が定める中期的な目標を達成するための計画に基づき、国民の需要に的確に対応した多様で良質なサービスの提供を通じた公共の利益の増進を推進することを目的とする法人。
  • 注101:(実施コース数)
    ・消費者行政職員研修:0回
    ・消費生活相談員研修:20回
    ・消費者教育推進のための研修:2回
    ・消費生活サポーター研修:1回
    なお、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、22回の研修を中止し、5回をオンライン研修に切り替えた。

担当:参事官(調査研究・国際担当)