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第2部 第2章 第1節 4.消費者の苦情処理、紛争解決のための枠組みの整備

第2部 消費者政策の実施の状況

第1章 消費者庁における主な消費者政策

第1節 消費者被害の防止

4.消費者の苦情処理、紛争解決のための枠組みの整備

(1)消費者団体訴訟制度の推進

 「消費者団体訴訟制度」は、内閣総理大臣が認定した消費者団体(適格消費者団体・特定適格消費者団体)が、事業者に差止めや訴訟などをすることができる制度です。制度には、消費者被害の未然防止・拡大防止を目的とした「差止請求」と、財産的な被害の回復を目的とした「被害回復」の二つがあります。

 差止請求とは、適格消費者団体が、不特定多数の消費者の利益を擁護するために、事業者に対して、「不当な勧誘」、「不当な契約条項」、「不当な表示」などの不当な行為をやめることなどを求めることができる制度です。適格消費者団体は、消費者から寄せられた情報を基に検討し、差止めの必要があると判断した場合に、不当な行為をやめるように事業者に申し入れます。それでも事業者がやめない場合、適格消費者団体は、差止めを求めて裁判を起こすことができます。

 また、被害回復とは、相当多数の消費者に共通して発生した財産的な被害について、適格消費者団体の中から更に認定を受けた特定適格消費者団体が、訴訟を通じて集団的な被害の回復を求めることができる制度です。特定適格消費者団体は、消費者から寄せられた情報を基に検討し、多くの消費者のために訴訟提起が必要と判断したときに、消費者に代わってお金を取り戻すための訴訟を起こすことができます。

 消費者庁では、適格消費者団体・特定適格消費者団体に対する各種の支援を行っています。

 適格消費者団体に対するクラウドファンディング等による寄附を容易にするための内閣府令等の改正(2017年)のほか、適格消費者団体等に対して助成を行うことを目的として同年に設立された民間基金(消費者スマイル基金)を含めた制度等の周知に取り組むなど、財政的な自立に資する支援を実施しています。また、「地方消費者行政強化交付金」の活用等による適格消費者団体等の設立に向けた取組の支援(2018年度から)のほか、消費者の財産の散逸を防ごうとする特定適格消費者団体の取組を支援するため、独立行政法人国民生活センター法等の一部を改正する法律(平成29年法律第43号)により、同センターが特定適格消費者団体に代わって仮差押えに必要な担保を立てることを可能とするなど、財政面の支援を実施しています。加えて、2019年にはPIO-NET情報の開示範囲を拡大するなど、情報面の支援も実施しています。

(2)製造物責任法の適切な運用確保に向けた環境整備に関する裁判例の収集・分析

 PL法は、製品の欠陥によって生命、身体又は財産に損害を被ったことを証明した場合に、被害者が製品の製造業者等に対して損害賠償を求めることができる、円滑かつ適切な被害回復に資する法律です。

 具体的には、製造業者等が、自ら製造、加工、輸入又は一定の表示をし、引き渡した製造物の欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、製造業者等の過失の有無にかかわらず、これによって生じた損害を賠償する責任があることを定めています。PL法は、1994年7月に公布され、1995年7月から施行されました。

 消費者庁では、PL法に関する裁判例を収集・分析した上で、論点別に裁判例を抽出・整理・公表する取組を実施しています。2021年3月末時点で消費者庁ウェブサイトに掲載されているPL法関連訴訟一覧の掲載件数は、累計で訴訟関係453件、和解関係105件、PL法論点別裁判例一覧の掲載件数は34件となっています。

 そのほか、同法に関する逐条解説を消費者庁ウェブサイトにおいて公表するなど、消費者への情報提供に努めています。

(3)消費者に関する法的トラブルの解決

 法務省では、消費者に関する法的トラブルを取り扱う関係機関・団体との協議会を開催するなど、緊密な連携・協力関係を構築しています。

 日本司法支援センター(法テラス)では、多重債務問題その他の消費者に関する法的トラブル等について、民事裁判等の手続において経済的に弁護士・司法書士の費用を支払う余裕がない人々を対象に、無料法律相談や、弁護士等の費用を立て替える民事法律扶助による援助を行っています。

 2020年度も引き続き、民事法律扶助業務の周知徹底を図るとともに、法的トラブルの紛争解決に向けた支援の提供に努めており、多重債務問題等に関し、無料法律相談、代理援助、書類作成援助を実施しました。さらに、地方事務所等の相談場所へアクセスすることが困難な方を対象に、出張・巡回法律相談を実施し、高齢者を始めとした消費者が抱えるトラブル解決のための支援の提供に努めています。

 2020年度の実績として、コールセンターへの問合せ件数349,533件のうち多重債務問題を含む金銭の借入れについては53,212件、民事法律扶助業務については、多重債務問題に関する法律相談援助件数が108,860件、多重債務問題に関する代理・書類作成援助開始決定件数が56,935件でした。

(4)消費者紛争に関するADRの実施

 2008年の独立行政法人国民生活センター法等の一部を改正する法律(平成20年法律第27号)の成立により、国民生活センターでは、2009年4月から、独立して職権を行う紛争解決委員会を設置し、消費者紛争のうち、その解決が全国的に重要である紛争(重要消費者紛争)について公正・中立に解決を図る裁判外紛争解決手続(以下「ADR(注64)」という。)を実施しています。

 紛争解決委員会では、2020年度には182件の和解仲介手続が終了し、このうち120件について和解が成立しました。さらに、手続が終了した176件の結果概要を公表しました。また、2020年度に新たに166件の和解仲介手続の申請を受け付けました。

 このほか、国民生活センター法第34条の規定に基づき、地方公共団体との適切な役割分担及び連携の確保を図るため、都道府県・政令市の苦情処理委員会等へ実施状況等に関する情報共有を行いました。

 国民生活センターでは、ADR制度の普及啓発を図るため、各地の消費生活センターの行政職員及び消費生活相談員向けにADR研修会を開催するとともに、他のADR機関と意見交換を実施しています。

【上記取組の実績】

・「(一社)生命保険協会との意見交換会」(2020年10月)

・「特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談センターとの意見交換会」(2020年12月)

・「(一社)日本不動産仲裁機構との意見交換会」(2021年2月)

(5)金融ADR制度の円滑な運営

 金融分野における苦情・紛争解決については、金融分野における裁判外紛争解決制度(以下「金融ADR制度」という。)の下、現在、銀行・保険・証券等、業態別に8つの指定紛争解決機関(以下「機関」という。)が当該業務に従事しています。2020年度は、これら8機関において、苦情処理手続6,497件、紛争解決手続1,148件の処理を行いました(件数は速報値)。

 金融庁は、「指定紛争解決機関向けの総合的な監督指針」(2013年8月)に基づき、機関に対する利用者の信頼性向上や各機関の特性を踏まえた運用の整合性確保を図るなど、同制度の適切な運営に取り組んでいます。

 2020年度には、金融トラブル連絡調整協議会(機関に加え、消費者行政機関・業界団体・弁護士等も参加。)を開催し、各機関の業務実施状況や業務改善に資する取組等について議論を行いました。また、同協議会に提示した機関の業務実施状況等に関する資料を金融庁ウェブサイトに速やかに掲載するなど、金融ADR制度の確実な浸透に向けて積極的な広報にも取り組んでいます。

(6)商品先物ADR制度の円滑な運営

 経済産業省及び農林水産省では、商品先物取引法の規定に基づき紛争解決等業務を行っている日本商品先物取引協会において、紛争仲介手続の標準処理期間の短縮(6か月から4か月まで)が確実に実施され、全ての新規顧客に対して当該制度の周知が徹底されるよう、2015年度に同協会への指導・監督を行うとともに、紛争仲介を含めた苦情・相談を同協会へ連絡するようパンフレットを作成し、各消費生活センター等へ送付するなどの周知を行いました。また、2020年度も引き続き、同協会ウェブサイトにおいて当該制度の周知を行っており、苦情相談手続4件、紛争解決手続13件を実施しました。

(7)住宅トラブルに関するADRの実施

 住宅品確法及び特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(平成19年法律第66号)に基づき、建設住宅性能評価書が交付された住宅及び住宅瑕疵担保責任保険を付した新築住宅についての請負契約又は売買契約に関する紛争については全国52の住宅紛争審査会(弁護士会)においてADRを実施しています。また、建設工事の請負契約に関する紛争については、建設業法(昭和24年法律第100号)に基づく全国48の建設工事紛争審査会(国土交通省及び各都道府県)においてADRを実施しています。国土交通省では、既存住宅流通やリフォーム工事に関する悪質事案の被害防止の観点から、以下のような取組を行っています。

 「住まいるダイヤル」(公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター)において、リフォーム工事の内容や価格、事業者に確認すべき点等に関する相談を含めた住宅に関する電話相談業務、リフォーム工事の見積書についての相談を行う「リフォーム見積チェックサービス」を実施しています。また、全国の弁護士会における「専門家相談制度」等の取組を進めています。さらに、住まいるダイヤルのウェブサイト(注65)において、住まいるダイヤルや専門家相談で受け付けた住宅に関する悪質事案を含む代表的な相談内容と相談結果を公表しています。

 他方、消費者が安心して中古住宅を取得し、リフォームができるよう、検査と欠陥への保証がセットになった既存住宅売買瑕疵保険やリフォーム瑕疵保険、大規模修繕工事瑕疵保険等を引き続き実施しています。また、これらの保険を利用する事業者を登録し、一般社団法人住宅瑕疵担保責任保険協会のウェブサイトで公表しており、消費者は事業者選びの参考とすることができます。

 また、リフォーム支援制度を紹介したガイドブックや住まいるダイヤルが作成する各種パンフレット等を通じて、住まいるダイヤルや、リフォーム瑕疵保険の有用性等について消費者に周知しています。

(8)IT・AI を活用した民事紛争解決の利用拡充・機能強化

 内閣官房、法務省では、紛争の多様化に対応した日本のビジネス環境整備として、オンラインでの紛争解決(ODR)など、IT・AIを活用した裁判外紛争解決手続などの民事紛争解決の利用拡充・機能強化に関する「ODR活性化検討会」における検討結果を踏まえて、IT・AIを活用したODRなどの民事紛争解決の利用拡充に向けた官民一体となった取組を進めています。2020年度には、法務省で、「ODR推進検討会」を開催し、ODRの推進に向けた裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律関連の規律の見直しや民間紛争解決手続における和解合意への執行力の付与等について検討を進めました。

 消費者庁では、内閣官房により開催された「ODR活性化検討会」での議論の経過等を踏まえ、各地域の消費生活センターにおいてSNSを活用して消費生活相談を受け付けることを実現するための試行等を進めています。また、「新しい生活様式」やデジタル社会に対応した消費生活相談を実現するためのデジタルトランスフォーメーションに関する取組の推進に取り組んでいます。2020年度には、地方消費者行政のための交付金等を通じて、地方公共団体によるSNS等を活用した相談受付体制の構築を支援しました。また、AI技術を活用したチャットボット機能の実証実験として、国民生活センターのLINE公式アカウント上にAIチャットボットを実装し、消費者からの自由記述による質問に対して、関連するFAQの情報提供を実施しました。実証実験の成果は、消費者への情報提供や相談など各業務のデジタル化の検討に活用していく予定です。


  • 注64:Alternative Dispute Resolutionの略。消費者トラブルが生じた場合、紛争解決の方法として裁判があるが、一般的には時間と費用が掛かる。このため、厳格な裁判によらずに当事者の合意に基づいて迅速かつ簡便に紛争解決する方法としてADRがある。
  • 注65:https://www.chord.or.jp/index.php

担当:参事官(調査研究・国際担当)