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第2部 第2章 第1節 1.消費者の安全の確保

第2部 消費者政策の実施の状況

第1章 消費者庁における主な消費者政策

第1節 消費者被害の防止

1.消費者の安全の確保

(1)事故の未然防止のための取組

ア 身近な化学製品等に関する理解促進

 環境省では、化学物質やその環境リスクに対する国民の不安に適切に対応するため、リスクコミュニケーションを推進しています。

 2020年度は、化学物質のリスクに関する情報の整備のため、2018年度のPRTRデータの集計結果(注30)を基に、「PRTRデータを読み解くための市民ガイドブック」を作成し、発行しました。

 また、身近な化学物質に関する疑問に対応するため、化学物質やリスクコミュニケーションの知見を有する「化学物質アドバイザー」の派遣を実施しており、2020年度は10回実施しました。

イ 家庭用化学製品の安全対策のための「安全確保マニュアル作成の手引き」作成支援

 厚生労働省では、家庭用品に使用される化学物質による健康被害を防止するため、家庭用品規制法に基づいて規制基準を定めており、2021年3月末時点で、21物質群について、物質群ごとに対象製品(繊維製品、洗浄剤等)の基準を設定しています。

 また、1995年7月のPL法の施行に伴い、事業者自らによる製品の安全確保レベルのより一層の向上を支援するため、家庭用品メーカー等が危害防止対策を推進する際のガイドラインとなっている「家庭用化学製品に関する総合リスク管理の考え方」を踏まえ、各種製品群について、メーカー等が製品の安全対策を講ずるために利用する「安全確保マニュアル作成の手引き」の作成及び改訂を事業者が速やかに行うよう支援し、その結果について周知を行っています。直近では、芳香消臭脱臭剤協議会により作成された「家庭用芳香・消臭・脱臭・防臭剤安全確保マニュアル作成の手引き(新版)」(2019年2月公表)について、家庭用品の安全対策に関するウェブサイト等において周知を行いました。今後、有識者及び専門家等の意見を踏まえて、各種製品群ごとに手引の作成及び改訂を速やかに行うよう支援し、手引の周知を実施する予定です。

ウ 住宅・宅地における事故の防止

 建築行政の分野においては、建築基準法の一部を改正する法律(平成30年法律第67号)が全面施行されるなど、社会情勢の変化等に対応できるよう制度の見直しが進められています。

 国土交通省では、2020年9月に、消費者庁が作成した子どもの事故に関する注意喚起を、2021年2月に「建築物防災週間における防災対策の推進について(令和2年度春季)」を、それぞれ行政庁等に対して通知しました。

 また、大規模盛土造成地について、2020年3月に「今後の宅地防災対策の推進について」を都道府県等に対して通知し、市町村の宅地担当者を対象とした説明会を開催しました。

エ 子供の不慮の事故を防止するための取組

 長年にわたり、14歳以下の子供の死因の上位が不慮の事故となっており(注31)、この傾向は変わっていません。

 消費者庁では、子供の不慮の事故を防止するための取組として、関係府省庁と連携し、「子どもを事故から守る!プロジェクト」を実施しています。具体的には、0歳から小学校入学前の子供の事故情報分析結果等を基にした、事故防止の注意点等を記した注意喚起の記者公表を行っているほか、メールマガジン「子ども安全メールfrom消費者庁」や「子どもを事故から守る!公式Twitter」を定期的に配信しています。

 2020年度は、メールマガジンを55回及びTwitterを95回配信するとともに、子供の事故防止に関するプレスリリースによる注意喚起を公表しました。

 また、2016年6月に設置した「子供の事故防止に関する関係府省庁連絡会議」の取組である「子どもの事故防止週間」を2020年7月20日から26日に実施し、関係府省庁と連携し広報活動を行いました。

オ 臍帯血を用いた医療の適切な提供に関する検証・検討

 2017年5月に、経営破綻した臍帯血プライベートバンクから流失した臍帯血を用いて無届の再生医療等が提供された事案が発覚したことを踏まえて、契約者の意に沿わない臍帯血の提供を防ぐとともに、臍帯血を利用した医療が適切に行われるよう、新たに、臍帯血プライベートバンクに対し、業務内容等の国への届出を求めるなどの措置を講じました。本措置の実効性について、臍帯血の品質管理・安全性に関する情報を提供できるようにすること(トレーサビリティ)が確保されているか、契約者の意に沿わない臍帯血の提供がなされないような仕組みとなっているか、契約者である母親等へ正確で分かりやすい情報を提供できているかの観点から検証を行い、必要に応じて更なる対策を行うこととしています。

 2020年度は、臍帯血プライベートバンクからの事業実績について、厚生労働省ウェブサイトで公表しました。

カ 薬物乱用防止対策の推進

 薬物乱用対策の実施に当たり、関係行政機関相互間の緊密な連携を確保するとともに、総合的かつ積極的な施策を推進することを目的として、「薬物乱用対策推進会議」(2008年12月閣議口頭了解)を設置しています。現在は、薬物乱用の根絶を図るため、「第五次薬物乱用防止五か年戦略」(2018年8月3日薬物乱用対策推進会議決定)に基づき、関係府省で連携した総合的な取組を進めています。

 2020年7月には、2019年における取組のフォローアップを取りまとめ、危険ドラッグを含めた違法薬物の乱用状況や今後の課題等について関係府省で共有しました。今後も、関係府省と連携して、危険ドラッグ対策を推進していきます。

 消費者庁では、関係機関と連携しつつ、特定商取引法の表示義務に違反しているおそれのある危険ドラッグの通信販売サイトに対し、適切な措置を講ずるとともに、関係機関に対する情報提供を行い、消費者保護を十分に確保するよう努めています。

 外務省では、危険ドラッグ等の合成薬物対策として、国連薬物・犯罪事務所(UNODC(注32))が実施しているGlobal SMARTプログラムに対して継続的に拠出する等、様々な国際協力を継続しています。

 2020年度は、UNODCのGlobal SMARTプログラムに7.5万米ドルを拠出し、UNODCの危険ドラッグを含む合成薬物に関する情報収集・動向分析等の取組に貢献しました。また、オンラインやハイブリッド形式で開催された国際会議に積極的に参加し、日本の立場を発信するとともに、各国や国際機関から危険ドラッグ等に係る情報収集を行いました。

 海上保安庁では、緊急通報用電話番号「118番(注33)」を積極的に広報し、薬物事犯等の情報提供を国民に対して広く呼び掛けたほか、海事・漁業関係者に対して、薬物事犯に関する情報の提供依頼等を行っています。

 厚生労働省では、基本骨格が同じ物質を一括して指定する包括指定を行うなどして、危険ドラッグに含まれる物質を迅速に指定薬物として指定しました。2020年度までに指定した指定薬物は2,392物質となっています。

 また、地方厚生局麻薬取締部において、危険ドラッグの製造業者、販売業者等に対し、継続して捜査を実施しています。

 財務省(税関)との協力体制も強化し、輸入通関前での検査命令を行い、日本への危険ドラッグ(原料を含む。)の流入を阻止しています。関係省庁と連携し、危険ドラッグ販売店及びインターネット上の販売サイト等の情報共有を行っています。

 なお、財務省(税関)における2020年中の指定薬物の摘発件数は293件、押収量は約168kgとなっています。

 さらに、インターネット上で危険ドラッグを販売しているウェブサイトを調査し、法令違反を発見した場合には当該サイトのプロバイダ等に対して削除要請を行い、ウェブサイト等を閉鎖又は販売停止に追い込むように取り組んでいます。

 内閣府、警察庁、消費者庁、文部科学省、国土交通省、厚生労働省、法務省、財務省では連携して消費者への情報提供・啓発活動を行っています。

 内閣府では、青少年に対して大麻を始めとする薬物の依存症や危険性等を周知するため、内閣府ウェブサイトにおいて啓発用短編マンガを用いた青少年向けコンテンツを配信するなど広報・啓発活動を推進しています。

 文部科学省では、全ての中学校及び高等学校において、年に1回は薬物乱用防止教室を開催するとともに、地域の実情に応じて小学校においても薬物乱用防止教室の開催に努めるなど、学校における薬物乱用防止に関する指導の充実が図られるよう教育委員会や教職員等を対象とした研修会等を通じて周知しました。

 また、薬物乱用を始め、多様化・深刻化する子供の健康課題について総合的に解説した、小学生・中学生・高校生向け啓発教材の作成・周知を行いました。さらに、若年層の薬物乱用が問題となっていることから、大学生等を対象とした薬物乱用防止のための啓発資材を作成し、全ての大学、短期大学及び専門学校に周知しました。

 厚生労働省では、「『ダメ。ゼッタイ。』普及運動」(毎年6月20日〜7月19日)及び「麻薬・覚醒剤乱用防止運動」(毎年10月1日〜11月30日)等において啓発資材の配布やキャンペーンの実施等、大麻を含めた薬物の危険性・有害性の周知徹底、訴求対象に応じた広報啓発活動の推進を図っています。また、近年、若年層における薬物の乱用が問題となっていることから、大麻や危険ドラッグ等の危険性・有害性について解説した薬物乱用防止啓発読本を作成し、2021年2月に高等学校卒業予定者へ向けて116万2000部、小学校6年生の保護者へ向けて132万500部を配布し、また同年3月には青少年へ向けて19万2500部配布しました。

(2)消費者事故等の情報収集及び発生・拡大防止

ア 事故情報の収集、公表及び注意喚起等

 消費者庁と国民生活センターが連携し、関係機関の協力を得て、生命・身体に関する事故情報を広く集約し提供する「事故情報データバンク(注34)」を2010年4月から運用しています。2021年3月には利便性向上を図るため、スマートフォン表示への対応等のシステム改修を行いました。

 また、消費者庁では、消費者安全法の規定に基づき通知された生命・身体被害に関する消費者事故等について、定期的に公表しており、2020年度には、重大事故等の概要等の公表を50回行いました。

 さらに、消費生活用製品安全法の規定に基づき報告のあった重大製品事故については、定期的に公表しており、2020年度には、重大製品事故の概要等の公表を98回行いました。また、医療機関ネットワーク事業への参画医療機関の増加を図り(2019年度末24機関、2020年度末30機関)、医療機関特有の事故情報を幅広く集めました。

 集約した事故情報については分析し、注意喚起に活用しています。注意喚起に当たっては消費者庁ウェブサイトへの掲載だけでなく、SNSの活用や動画の作成等、注意喚起の情報がより多くの消費者に伝わり理解されるよう努めています。また、消費者安全法の通知が確実に行われるよう、地方公共団体の消費者行政担当職員が出席する会議や地方自治体の主催する研修において、同法の通知制度について周知を行いました。

 内閣府、文部科学省、厚生労働省では、2016年度から「教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議」を開催し、事故の再発防止策について検討を行い、2018年度から「教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議年次報告」を毎年公表しています。

 また、2015年度からは「特定教育・保育施設等における事故情報データベース(注35)」として、重大事故のあった地方公共団体からの第二報以降の事故報告をまとめ、公表しています。

 厚生労働省では、子供が死亡した時に、複数の機関や専門家(医療機関、警察、消防、行政関係者等)が、子供の既往歴や家族背景、死に至る直接の経緯等に関する様々な情報を基に死因調査を行うことにより、効果的な予防対策を導き出し予防可能な子供の死亡を減らすことを目的としたChild Death Review(CDR)について、予防のための子供の死亡検証体制整備モデル事業を実施しています。

イ 緊急時における消費者の安全確保

 緊急事態等においては、「消費者安全の確保に関する関係府省緊急時対応基本要綱」(2012年9月関係閣僚申合せ)で定める手順に基づき、関係府省が相互に十分な連絡及び連携を図り、政府一体となって迅速かつ適切に対応し、消費者被害の発生・拡大の防止に努めています。また、関係行政機関や事業者、医療機関等から寄せられる事故情報について、迅速かつ的確に収集・分析を行い、消費者への情報提供等を通じて、生命・身体に関する消費者事故等の発生・拡大を防止することとしています。なお、同要綱及び「冷凍食品への農薬混入事案を受けた今後の対応パッケージ」(2014年3月関係府省庁局長申合せ)を踏まえ、消費者庁では、関係府省と連携し、毎年緊急時対応訓練を1回程度実施することとしており、2020年度は、2020年12月に食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省と連携し、訓練の詳細を当日まで明かさないブラインド方式で行うなど、実践的な方法での緊急時対応訓練を実施しました。

ウ リコール情報の周知強化

 消費者庁では、これまで関係府省等が主管する法令等に基づき個々に公表していた「リコール情報」について、消費者庁がこれらの情報を一元的に収集した上で、消費者が分野横断的にリコール情報を確認できる「消費者庁リコール情報サイト(注36)」の運用を2012年4月から開始しました。そのほか、地方公共団体や事業者が独自に公表している情報の収集にも努め、2020年度末には6,818件のリコール情報が登録されており、メールマガジンの配信先件数は9,689件となっています。また、消費者行政ブロック会議等において、地方公共団体に対して同サイトの周知依頼を行うとともに、独立行政法人製品評価技術基盤機構(以下「NITE」という。)主催の報告会等において、事業者による同サイトの活用について周知しています。

 このほか、リコールが多発している製品群に着目し、当該製品群に関する事故事例、製品規格、正しい使い方等といった製品安全情報を中心とした関連情報の提供にも取り組んでいます。

エ 製品安全に関する情報の周知

 経済産業省では、消費者庁に報告が行われる重大製品事故の情報や経済産業省に届出が行われるリコールの情報等については、経済産業省のウェブサイト等で随時公表(注37)を行い、消費者等への注意喚起を実施しています。

 近年のインターネット取引の増加に伴い、インターネットで取引される製品による製品安全関連4法(注38)の違反や重大製品事故の比率が増加傾向にあります。このため、2020年に経済産業省からインターネットモール各社への要請を行ったことにより、重大製品事故の発生が懸念される製品の販売に際しては、法令に基づく安全性や、PSマークの表示が付された製品であることの確認等が行われています。また、同年10月には、経済産業省とインターネットモール各社の間で、インターネットモールの利用者に対するリコール情報の周知に係る協力体制を構築しました。

 また、政府広報や、NITEのプレスリリースにおいても、最近事故が増加している製品や季節に応じて事故が増加する製品等の注意喚起を実施しています。

 毎年11月の製品安全総点検月間では、製品安全総点検セミナーの開催、製品安全に関するポスターの掲示、中小企業向けの情報発信、ウェブサイト等を通じた製品安全に関する情報発信等を通じて、製品安全が持続的に確保されるよう周知に努めました。また、2019年度には、高齢化社会の進展を踏まえ、高齢者特有の製品事故や高齢者の製品安全に関する現状認識等を分析し、今後の中長期的な製品安全施策の検討に資する基礎的な調査の報告書を公表しました。また、製品安全について先進的な取組をしている企業を表彰する製品安全対策優良企業表彰(PSアワード)については、2020年度は11社を選定し、2021年2月に表彰式を実施したほか、表彰式のダイジェスト動画をYouTubeのMETIチャンネルで公開しました。受賞企業に製品安全の取組や受賞ポイント等を講演していただく受賞企業講演会については、2020年度はウェブ会議にて一般公開で行ったほか、YouTubeのMETIチャンネルでも公開しました。また、Twitterアカウント及びInstagramアカウントを通じて情報を発信し、企業単位での製品安全の取組の普及を図りました。

 さらに、世代が高齢になるほど重大製品事故の人的被害が重篤化する傾向を踏まえ、高齢者の行動特性を踏まえた製品開発を事業者に促すべく、2016年度から2019年度にかけて高齢者による製品事故が多く発生している製品ごとのリスク分析を実施するとともに、高齢者の身体特性についてデータを収集しました。

オ 道路運送車両法に基づく自動車のリコールの迅速かつ着実な実施

 国土交通省では、自動車のリコールの迅速かつ着実な実施のため、自動車メーカーやユーザー等からの情報収集に努め、自動車メーカー等のリコール業務について監査等の際に確認・指導するとともに、安全・環境性に疑義のある自動車については独立行政法人自動車技術総合機構において現車確認等による技術的検証を行っています。2020年度のリコール届出件数は384件で、対象台数は661万台となっており、自動車メーカーに対して市場措置を速やかに行うことを促しました。さらに、ユーザーからの不具合情報の収集を強化するため、「自動車不具合情報ホットライン(注39)」について周知活動を積極的に行いました。

カ 高齢者向け住まいにおける安全の確保

 厚生労働省では、2021年3月に開催した全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議において、届出施設から都道府県等に対する事故報告の徹底を図るとともに、当該事故報告に係る都道府県等から厚生労働省への一層の情報提供の実施を図ることを徹底するよう要請しました。また、2020年度老健保健健康増進等事業において「介護保険施設等における安全管理体制等の在り方に関する調査研究事業」を実施し、高齢者向け住まいにおける事故報告の方法等について実態把握を行い、その方法等の検討を行いました。

 国土交通省では、2021年2月に全国都道府県等の高齢者向け住まい担当者会議を開催し、報告に基づく事故情報を共有するとともに、報告・指導等の徹底を図りました。

(3)事故の原因究明調査と再発防止

ア 消費者安全調査委員会による事故等原因調査等の実施

 2012年10月に消費者庁に設置された消費者安全調査委員会(以下「調査委」という。)は、生命・身体の被害に関する消費者事故等の中から、事故等の発生・拡大の防止及び被害の軽減を図るために原因を究明する必要がある事故を選定し、調査を行います。その際、調査権限を行使するなどして自ら調査を行うほか、他の行政機関等により調査が行われている場合には、その調査を評価(活用)して原因を究明します。また、必要に応じて、被害の発生・拡大防止のため講ずべき施策・措置について、内閣総理大臣や関係行政機関の長に勧告や意見具申を行うことができます。

 調査委は、これまでに19件の事案を調査等の対象として選定し、2020年度は以下の3件について消費者安全法第31条第1項に基づく報告書を決定・公表し、同法第33条に基づく意見を述べて調査等を終了するなどしました。

・水上設置遊具による溺水事故(2020年6月に調査結果を取りまとめた報告書を決定・公表し、文部科学大臣及び経済産業大臣に対して意見)

・幼児同乗中の電動アシスト自転車の事故(2020年12月に調査結果を取りまとめた報告書を決定・公表し、内閣総理大臣、国家公安委員会委員長、警察庁長官、消費者庁長官、文部科学大臣、厚生労働大臣及び経済産業大臣に対して意見)

・機械式立体駐車場で発生した事故(2021年2月に国土交通大臣に対して意見)

 そのほか、調査委の発足から2020年度にかけて、事故等原因調査等の申出制度による申出を438件受け付け、そのうち、2020年度は47件の申出を受け付けました。

イ 昇降機、遊戯施設における事故の原因究明、再発防止

 国土交通省では、昇降機(エレベーター、エスカレーター)や遊戯施設に関する事故情報・不具合情報の分析、建築基準法(昭和25年法律第201号)に基づく国の調査権限の活用等による再発防止の観点からの事故発生原因解明に関する調査、再発防止対策等に関する調査等を実施し、調査結果を報告書として2020年度に3件公表しました。

ウ 国民生活センターにおける商品テストの実施

 国民生活センターでは、全国の消費生活センター等で受け付けた商品に関する苦情相談の解決のために商品テストを行うとともに、商品群として問題があると考えられる場合は、被害の未然防止・拡大防止のために商品テストを実施し、広く情報提供しています。2020年度に各地の消費生活センターから依頼のあった商品テスト219件について内容を検討し、44件については過去の同種事例や知見による技術相談等を行い、175件を商品テストとして受け付け、全件に対応しました。また、注意喚起のための商品テストを11件実施し、公表するとともに、関係行政機関・団体に要望・情報提供を行いました。

 さらに、NITEとの実務者会議を毎月1回定期的に開催し、情報を共有するとともに、専門性が高いテストの実施や評価に当たっては、有識者や研究機関等の技術・知見の活用を図りました。

エ 消費生活用製品安全法に基づく事故情報の分析と原因の調査・究明等

 消費者庁では、消費生活用製品安全法の規定に基づく重大製品事故の報告を受け付け、週2回程度、定期的に公表しました。また、NITE主催の報告会等において同法の報告制度について周知を行いました。

 経済産業省では、2020年度に消費生活用製品安全法第35条第1項の規定に基づき政府に報告された重大製品事故1,024件について、製品事故の原因究明を行うとともに、その結果について公表し、事故情報の提供と注意喚起を実施しています。

 また、NITEによる重大製品事故等の原因究明調査の結果等に基づき、製造事業者や輸入事業者等に対する再発防止等に向けた対応を逐次実施しており、重大製品事故に起因するリコールは毎年度15件程度開始されています。また、消費者に対しても、毎月実施しているプレスリリース、隔週で配信しているメールマガジン等を通じて、誤使用・不注意等に関する注意喚起を迅速に実施しています。

 さらに、電気用品安全法(昭和36年法律第234号)やガス事業法等の技術基準についても、相次いで発生している事故の再発防止、新技術及び新製品への対応等の観点から、随時見直しを行っています。技術基準の改正等については、国内の技術基準が国際規格と整合的になるよう、2020年10月及び12月に基準の見直しを行ったほか、ガス・石油機器の遠隔操作についての省令・通達の改正やリチウムイオン蓄電池搭載製品の各業界団体ガイドラインの改訂、電気用品等製品のIoT化等に関する製品安全確保の在り方についての検討会等を行いました。長期使用製品安全点検制度については、対象品目により重大製品事故の発生率が異なっていることから、重大製品事故の発生率の高い品目にリソースを投入できるよう、集中的に重大製品事故の発生の状況を踏まえた対象品目の見直しの検討を行いました。また、製造事業者等による製品安全関連4法の届出等の手続の利便性を向上させるとともに、規制当局としても法令の運用状況を効率的に行うことができる電子届出(保安ネット)の運用を開始しました。

オ 製品等の利用により生じた事故等の捜査等

 エレベーターによる死亡事故を始め、製品等の利用による死傷事故等、消費者被害に関する事故が発生した場合には、事故発生の原因や責任の所在捜査に加え、事故の再発防止、被害の拡大防止が求められています。

 都道府県警察では、製品等の利用により生じたと疑われる事故等を認知した際には、迅速に捜査を推進し、責任の所在を明らかにするよう努めるとともに、関係行政機関とともに事故現場等において情報交換を積極的に行うなど、相互に協力しながら再発防止を図っています。また、警察庁では、都道府県警察に対して、製品等の利用により生じた事故等の情報収集や関係行政機関との協力の必要性について指示しているほか、こうした事故等を認知した際には、関係行政機関への通知等をしています。なお、製品等の利用により生じた事故について、2020年度中に警察庁が関係行政機関に対して通知した件数は54件となっています。

カ 製品火災対策の推進及び火災原因調査の連絡調整

 近年の火災の出火原因は極めて多様化しており、その中で自動車、電気用品やストーブ等、消費者の生活に身近な製品が発火源となる火災が発生しています。

 消防庁では、国民への注意喚起を迅速かつ効率的に行うため、各消防本部からの報告に基づき製品火災情報を集約し、製品の不具合により発生したと消防機関により判断された火災の製造事業者名や製品名等を「製品火災に関する調査結果」 として取りまとめ、四半期ごとに公表しています。2020年1月〜9月に製品の不具合により発生したと判断され、2021年4月1日時点で公表している火災は85件となっています。

 経済産業省では、NITEによる重大製品事故等の原因究明調査において、消防機関との合同調査を行うとともに、火災の再現実験等を踏まえて、毎月1回以上のプレスリリース等によって消費者への注意喚起を実施し、同種事故の未然防止や再発防止に努めています。

(4)食品の安全性の確保

ア 食品安全に関する関係府省庁等の連携の推進

 2012年6月に、食品安全基本法第21条第1項に規定する基本的事項(平成16年1月閣議決定)の変更が閣議決定され、消費者庁が、食品安全に関わる行政機関として明確に位置付けられました。それ以降、食品安全行政を行う関係行政機関は、相互の密接な連携を図るために、消費者庁の調整の下、関係府省連絡会議等を定期的に開催し、食品の安全性の確保に関する施策を総合的に推進しています。

 関係府省間の連携強化を図るため、「食品安全行政に関する関係府省連絡会議」を年2回開催しているほか、「食品安全行政に関する関係府省連絡会議幹事会」、「リスクコミュニケーション担当者会議」、「リスク情報関係府省担当者会議」等を定期的に開催しています。

イ リスク評価機関としての機能強化

 食品安全基本法では、食品による健康へのリスクが存在することを前提として、これをコントロールしていくという考え方の下、「リスクアナリシス(注40)」という考え方が導入されています。

 また、同法の規定に基づき、食品の安全性について、科学的知見に基づいて中立公正に「リスク評価」を行う機関として、2003年7月、内閣府に食品安全委員会が設けられ、人の健康に悪影響を及ぼすおそれのあるものを含む食品を摂取することによって、どのくらいの確率で、どの程度人の健康に悪影響が生じるかを科学的に評価しています。

 食品安全委員会には、危害要因ごとに専門調査会が設置されており、それぞれが担当する危害要因のリスク評価を行っています。また、特定の分野について集中的に審議を行う必要がある場合にはワーキンググループを設置して対応しています。

 このほか、海外のリスク評価機関等との連携強化も進めており、既に協力文書を締結している欧州食品安全機関(EFSA)、豪州・ニュージーランド食品基準機関(FSANZ)、ポルトガル経済食品安全庁(ASAE)、フランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)、ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)及びデンマーク工科大学(DTU)と、連携強化のための会合の開催や情報交換を行っています。2018年度には消費者庁、厚生労働省及び農林水産省と合同で、新たにインド食品安全基準庁(FSSAI)と協力覚書を締結しました。

 また、必要に応じ、米国食品医薬品庁(FDA)等の他の外国政府機関との情報交換をするなど連携強化を図る予定です。

ウ 食品安全に関するリスク管理

 食品の安全性を向上させ、健康への悪影響を未然に防止するためには、生産から消費にわたってリスク管理に取り組むことが不可欠です。

 厚生労働省では、飲食に起因する衛生上の危害の発生に関するリスク管理機関として、食品衛生法の規定に基づき、食品に残留する農薬、汚染物質や食品に使用する添加物等、食品や添加物等の規格基準の設定を行っており、2020年度には、食品中の農薬等の残留基準の設定件数が54件(2021年3月末時点)、食品添加物の新規指定件数が7件(2021年3月末時点)となっています。

 また、都道府県等関係行政機関と連携した規格基準の遵守等に関する監視指導を実施しています。

 農林水産省では、食品が安全であるかどうか、安全性を向上させる措置を講ずる必要があるかどうかを知るために、食品安全に関する情報を収集・分析し、優先的にリスク管理の対象とする有害化学物質・有害微生物を決定した上で、農畜水産物・食品中の汚染実態等を調査しています。これらの調査の結果、対応が必要な農畜水産物・食品については、生産者や食品事業者と連携し、食品の安全性を向上させるための措置の策定や現場への普及に対して重点的に取り組んでいます。

 2020年度は、19件の実態調査等を実施するとともに、農林水産省が優先的にリスク管理の対象とする有害化学物質のリストを改訂し、2021年度から2025年度までに実施すべき農畜水産物・食品、飼料中の含有実態等の調査の計画を作成しました。また、食品中の3-MCPD脂肪酸エステル類やグリシドール脂肪酸エステル類の低減のための考え方や対策例を整理した手引(2020年10月)や、有害微生物の低減対策として、野菜類の生産段階における衛生上の注意点をまとめた「栽培から出荷までの野菜の衛生管理指針」の改訂試行版(試行第2版)(2020年9月)を公表するなど、現場での食品の安全性向上の取組を支援・推進してきました。

 また、企業の行動規範の作成等の道しるべとして作成した「『食品業界の信頼性向上自主行動計画』策定の手引き〜5つの基本原則〜」について、食品関係事業者に対し、研修会等を通じて本取組の必要性について普及啓発に努めました。また、アンケート調査によって、自主行動計画の策定を啓発するとともに実態を把握しました。

エ 食品の安全性に関するリスクコミュニケーションの推進

 食品安全基本法第21条第1項に規定する基本的事項としての食品安全に関するリスクコミュニケーションに関しては、消費者庁が関係府省等の事務の調整を担うこととされ、消費者庁、食品安全委員会、厚生労働省及び農林水産省(以下「4府省」という。)等が連携して、食品安全に関するリスクコミュニケーションの取組を推進しています。

 4府省で連携した食品の安全性に関するリスクコミュニケーションの取組として、2020年度は、「食品に関するリスクコミュニケーション「共に考える 食品中の放射性物質」」を、2020年11月から12月に滋賀県及び東京都で大学生を対象にオンライン講義のシステムを活用して開催したほか、2021年3月には、一般消費者を対象にオンラインで開催しました。

 加えて、小学生とその保護者等を対象に食品中の放射性物質に関する動画と学習プログラムを作成し、2020年12月に消費者庁ウェブサイト上で公表しました。

 なお、上記以外で、関係府省ごとに行った食品の安全性に関するリスクコミュニケーションの取組は、以下のとおりです。

 消費者庁では、2020年度に地方公共団体等と連携し、健康食品、食品添加物等のテーマについてリスクコミュニケーションを実施しました。食品中の放射性物質に関するリスクコミュニケーションについては、引き続き重点的に取り組んでおり、福島県を始めとした地方公共団体や消費者団体等と連携し、全国各地で意見交換会等を75回開催しました。

 また、2011年度以降、食品・水道水の検査結果や、出荷制限等の範囲等、正確な情報をウェブサイトで発信しているほか、放射性物質や、食品等の安全の問題を分かりやすく説明する冊子「食品と放射能Q&A」(2011年5月に初版発行、2020年6月に第14版を発行)及び特に重要な点を抜粋した「食品と放射能Q&Aミニ」(2015年3月に初版発行、2020年6月に第6版を発行)も作成し、ウェブサイトで公表するとともに、意見交換会の会場等で配布しています。加えて、訪日外国人向けに「食品と放射能Q&Aミニ」第4版の英語、中国語、韓国語の翻訳版も作成し、公表しています。

 食品の安全に関する注意喚起等についても、報道発表や地方公共団体への情報提供、リコール情報サイトや消費者庁Twitter、Facebook等を通じて、消費者へ情報提供を行っています。

 食品安全委員会では、リスク評価を始めとした食品の安全に関する科学的な知識を効果的に普及するため、2020年度は食品安全の基本的な考え方や食中毒等をテーマとして取り上げ、地方公共団体と連携した意見交換会や講師派遣、報道関係者との意見交換を実施しました。また、食品関係事業者等を対象とした講座「精講:食品健康影響評価のためのリスクプロファイル」では「ノロウイルス」をテーマに開催しました。

 さらに、食品安全委員会のウェブサイトや広報誌等による情報提供に加え、Facebook、オフィシャルブログ、YouTubeによる情報発信を行うとともに、メールマガジンとして、食品安全委員会の審議結果概要等を原則毎週配信しています。また、リスク評価の内容等を国内外に広く発信するため、英文電子ジャーナル「Food Safety」を年4回発行するとともに、「食の安全ダイヤル(注41)」を設けて、電話やメールによる一般消費者等からの相談や意見を受け付けています。

 厚生労働省では、2020年度には輸入食品の安全性確保に関する意見交換会を開催しました。

 また、食品中の放射性物質に関して、摂取量調査の結果や出荷制限等について情報提供するとともに、都道府県等が策定した検査計画や実施した検査結果を取りまとめ、国内外へ情報提供を行っています。

 そのほか、政府広報や厚生労働省Twitterを活用し、有毒植物、毒キノコ、ノロウイルスといった食中毒予防のポイント等、時宜に応じた情報発信を行うとともに、食肉等による食中毒予防や輸入食品の安全性確保に関するリーフレット等、食中毒予防や食品安全性確保の取組に関する啓発資材を作成し、厚生労働省ウェブサイト上で公表するなど、積極的な情報提供に努めています。

 農林水産省では、本省及び地方農政局等において、消費者や事業者との意見交換会・説明会等の開催や講師の派遣を通じて、食品安全に関するテーマ等について積極的な情報提供に努めています。

 また、農林水産省のウェブサイト「安全で健やかな食生活を送るために(注42)」において、一般消費者向けに、食品安全や望ましい食生活に関する情報提供を行っているほか、「食品安全エクスプレス(注43)」において、農林水産省を始め関係府省による報道発表資料等の最新情報を平日に毎日発信しています。

 2020年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により「新しい生活様式」が求められる中、家庭で調理や食品の保存を行う際や飲食店から料理をテイクアウトする際の注意点、毒キノコ、山菜、ノロウイルスなどの季節性の高い食中毒の防止について、農林水産省ウェブサイトに掲載するとともに、Facebook等のソーシャルネットワークサービス、動画等を活用して、注意喚起を行いました。

オ 食品中の放射性物質に関する消費者理解の増進

 2013年1月に消費者庁内に設置した「食品と放射能に関する消費者理解増進チーム」において、関係府省や地方公共団体との連携の下、意見交換会等の開催や消費者庁ウェブサイトでの情報提供等、リスクコミュニケーションの強化を始めとする消費者理解増進のための施策を効果的に行うことにより、風評被害の払拭を図っています。

 また、2013年以降、インターネットを通じて、被災地域及び被災地産品の主要仕向け先となる都市圏の消費者約5,000人を対象とした、「風評被害に関する消費者意識の実態調査」を実施しています。2020年度は、2021年1月に第14回目となる本調査を行いました。第14回調査の結果では、「放射性物質を理由に福島県の食品の購入をためらう」という回答は、8.1%とこれまでで最も小さい値になりました。

 この調査結果を踏まえ、引き続き、食品中の放射性物質を始めとした食品安全に関する情報発信やリスクコミュニケーションの取組を推進していきます。また、2020年6月に改訂した「食品と放射能Q&A」を8,000部、「食品と放射能Q&Aミニ」を10,000部作成し、それぞれ配布しました。

 さらに、消費者庁では、食品と放射能に関する問題意識が全国的に広がっていることを踏まえ、消費者の安全・安心を一層確保するため、生産・出荷サイドだけではなく、消費サイドでも食品の安全を確保する取組を進めており、国民生活センターとの共同で、地方公共団体に放射性物質検査機器を貸与し、消費サイドで食品の放射性物質を検査する体制の整備を支援しています。2020年度には、158の地方公共団体に対し、197台の検査機器を貸与しました。

カ 輸入食品の安全性の確保

 輸入食品の安全性に対する国内の高い関心を受け、政府は、主要食料輸入国や食の安全に関わりの深い国際機関を所管する在外公館を中心に設置している「食の安全担当官」等を活用し、個別事例への対応や各国政府・国際機関との連絡体制の強化、さらには、国内関係府省・機関における連絡体制の強化に取り組んでいます。

 食品流通のグローバル化の進展、消費者ニーズの多様化等を背景に、輸入食品の届出件数は年々増加しています。厚生労働省は、輸入時の検査や輸入者の監視指導等を効果的かつ効率的に実施し、輸入食品等の一層の安全性確保を図るため、「輸入食品監視指導計画」を年度ごとに策定しており、厚生労働省及び外務省では、2020年3月に公表された「令和2年度輸入食品監視指導計画(注44)」に基づき、輸出国、輸入時(水際)、国内流通時の3段階の監視指導を実施しており、2019年度における監視指導結果を2020年8月に公表しました。

 輸出国での安全対策として、日本への輸出食品について食品衛生法違反が確認された場合は、輸出国政府等に対して原因の究明及び再発防止対策の確立を要請するとともに、二国間協議を通じて生産等の段階での安全管理の実施、監視体制の強化、輸出前検査の実施等の推進を図っています。

 外務省では、関係政府機関との連絡体制の構築や、在留邦人等への情報伝達のための連絡体制の構築をしています。

 さらに、輸入食品に関する個別の問題が発生した場合は、関係政府機関からの情報収集及び関係政府機関への働き掛けをしています。

 また、関係国際機関(WTO(世界貿易機関)、WHO(世界保健機関)、OIE(国際獣疫事務局)、FAO(国際連合食糧農業機関)及びコーデックス委員会(国際食品規格委員会))における国際基準を含む「食の安全」についての議論の情報収集及び蓄積に努めています。

 輸入時の対策としては、多種多様な輸入食品を幅広く監視するため、港や空港に設置された検疫所が年間計画に基づくモニタリング検査を実施しており、検査の結果、違反の可能性が高いと見込まれる輸入食品については、輸入の都度、輸入者に対して検査命令を実施しています。また、検疫所の検査機器の整備等、輸入食品の安全性確保体制の強化を図っています。

 国内流通時の対策としては、厚生労働省本省、検疫所等と連携を取りつつ、都道府県等が国内流通品としての輸入食品に対する監視指導を行っており、違反食品が確認された際には、速やかに厚生労働省に報告を行い、輸入時監視の強化(モニタリング検査や検査命令等)を図っています。

キ 農業生産工程管理(GAP)の普及促進

 農業生産工程管理(以下「GAP(注45)」という。)とは、農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取組です。農業者が第三者機関の審査を受けて、GLOBALG.A.P.(注46)、ASIAGAP、JGAP(注47)等のGAP認証を取得することで、GAPを正しく実施していることを客観的に証明できるようになります。

 GAPの取組拡大は、輸出の拡大や農業の人材育成等、農業競争力の強化を図る観点からも重要です。

 農林水産省では、農産物において、2030年までにほぼ全ての産地において国際水準のGAPが実施されるよう、国際水準GAPガイドラインの試行版を公表するとともに、都道府県等のGAP指導員による指導活動等の取組を支援しています。また、消費者に対するGAPの認知度向上を目的に、GAPを分かりやすく伝える動画の配信や各地のGAPに関する積極的な取組を紹介するほか、GAP認証農産物を取り扱う意向を有する実需者を「GAPパートナー」として、GAP情報発信サイト「Goodな農業!GAP-info」に掲載しています。

ク 食品のトレーサビリティの推進

 食品のトレーサビリティとは、食品の移動を把握できることを意味し、日頃から食品を取り扱った記録を残すことにより、万が一、健康に影響を与える事件・事故が起きたときの迅速な製品回収や原因究明のための経路の追跡と遡及、表示が正しいことの確認等に役立ちます。

 米トレーサビリティ法では、米穀等(米穀及びだんごや米菓、清酒等の米を使った加工品)に問題が発生した際に流通ルートを速やかに特定するため、生産から販売・提供までの各段階を通じ、取引等の記録を作成・保存し、米穀等の産地情報を取引先や消費者に伝達することが米穀事業者に義務付けられています。

 米トレーサビリティ法の規定に基づく取組として、農林水産省及び国税庁では、米穀等の取引等に関する記録の作成・保存に関する状況を確認するため、米穀事業者に対して立入検査等を行い、不適正な事業者に対しては改善指導等を実施しています。

 また、農林水産省では、米トレーサビリティ法違反に関する指導件数等を取りまとめ、公表しています。取引記録の作成に関する指導件数は、2020年度上半期においては指導9件となっています。

 消費者庁では、米トレーサビリティ法に違反する被疑情報に基づき、農林水産省、地方公共団体と連携した調査が実施できる体制を整え、違反に対しては厳正に対処することとしています。

 牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法(平成15年法律第72号。以下「牛トレーサビリティ法」という。)では、BSE等発生時に、牛肉の流通ルートを速やかに特定するとともに、牛の個体情報を積極的に提供し、表示偽装を防止するため、牛肉の仕入・販売帳簿の作成・保存及び牛の個体識別番号の伝達を義務付けています。

 牛トレーサビリティ法の規定に基づく具体的な取組として、農林水産省では、BSEのまん延防止措置の的確な実施を図るため、牛を個体識別番号により一元管理するとともに、生産から流通・消費の各段階において個体識別番号を正確に伝達することにより、消費者に対して個体識別情報の提供を促進しています。

 また、農林水産省では、牛トレーサビリティ法違反(流通段階)に関する指導件数等を取りまとめ、公表しており、2020年度上半期における違反に係る指導件数は25件となっています。

 米及び牛以外のトレーサビリティについては、食品衛生法において食品事業者の努力義務として規定されています。そのため、農林水産省で策定している「実践的なマニュアル」の活用及びHACCPに沿った衛生管理の記録の作成等に併せた、具体的な取組モデルの提供等新たな推進方策に基づき、普及・啓発に取り組んでいます。

ケ 食品衛生関係事犯及び食品の産地偽装表示事犯の取締りの推進

 警察庁では、消費者庁、国税庁及び農林水産省を構成員とする「食品表示連絡会議」への参加等を通じ、関係機関との情報交換による情報収集に努めています。また、都道府県警察に対しては、関係機関と連携した情報収集及び食品表示に対する国民の信頼を揺るがす事犯や国民の健康を脅かす可能性の高い事犯を認知した際の早期の事件着手等を指示しています。

 なお、2020年中は、食品衛生関係事犯を10事件15人、食品の産地等偽装表示事犯を4事件13人検挙しています。

コ 流通食品への毒物混入事件への対処

 警察庁では、流通食品への毒物混入事件について、被害の拡大防止のために、関係行政機関との連携を図っています。また、都道府県警察に対して、流通食品への毒物混入事件に関する情報収集、関係行政機関との連携の必要性等について指示するとともに、こうした事件等を認知した際には、必要に応じて、関係行政機関に通報するなどしています。

 これを受け、都道府県警察では、流通食品への毒物混入の疑いがある事案を認知した際には、迅速に捜査を推進し、責任の所在を明らかにするよう努めるとともに、関係行政機関との情報交換を積極的に行うなど相互に協力しながら被害の未然防止、拡大防止に努めています。

 なお、2020年度中の流通食品への毒物混入事件の発生はありません。


担当:参事官(調査研究・国際担当)