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第2部 第1章 第4節 (1)デジタル・プラットフォームその他デジタルサービスの利用と消費者利益の保護・増進の両立

第2部 消費者政策の実施の状況

第1章 消費者庁における主な消費者政策

第4節 「新しい生活様式」の実践その他多様な課題への機動的・集中的な対応

(1)デジタル・プラットフォームその他デジタルサービスの利用と消費者利益の保護・増進の両立

デジタル化への対応

 近年の急速なデジタル技術の発展やデジタル市場の拡大等により、消費者の利便性等が向上した一方で、デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引において新たな消費者トラブルも発生しているほか、デジタル化の中で消費生活における新たな課題への対応も求められています。このような状況に鑑み、消費者庁では、「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会」(注15)及び「消費者のデジタル化への対応に関する検討会」(注16)で議論を重ね、それぞれ報告書を取りまとめました。新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に向けた「新しい生活様式」の普及、社会全体のデジタル化により、デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引を始めとするインターネット上の消費者取引の重要性が更に増大することが予想されます。デジタル・プラットフォームを含むデジタルサービスの利用と消費者利益の保護・増進の両立のため、機動的かつ集中的な対応が求められています。

デジタル・プラットフォームに関する新たな法的枠組みの検討

 昨今、グローバル化が進み変化が激しいデジタル市場においては、従前の消費者取引では想定していなかった「取引の場を提供する事業者」の存在感が増大しています(図表Ⅱ-1-4-1)。特に、デジタル・プラットフォーム企業が取引の場を提供することで、消費者の利便性の向上、ニーズの掘り起こし等につながり、消費者取引の市場が拡大しています。その一方で、デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引での新たなトラブルも出現しており、消費者保護の観点からは、取引の場の提供者としてのデジタル・プラットフォーム企業の役割を踏まえつつ、消費者被害の実態を把握し、デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引に関する環境整備等を行うことが求められています。

 消費者庁では、産業界の自主的な取組や共同規制等も含め、デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引に関する環境整備等の在り方について検討するため、2019年12月から、「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会」を開催し、2021年1月に報告書を取りまとめました。デジタル・プラットフォームを利用した取引は、取引に不慣れな者や悪質事業者も売主として参入しやすいという特性があり、模倣品の流通や売主の債務不履行等の消費者トラブルがみられます。違法な製品や事故のおそれのある商品等による重大な消費者被害の防止や、一定の事案における取引の相手方の連絡先の開示を通じ、紛争解決・被害回復のための基盤を確保するといった対応が急務です。このため、報告書では、これらの最優先課題に対し、新たな法的枠組みとして、新規立法の必要性が提言されました。

 これを踏まえ、消費者庁では法案の検討を行い、2021年3月に、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案」が閣議決定され、国会に提出されました(注17)(図表Ⅱ-1-4-2)。本法案では、販売業者等と消費者との間の通信販売取引の場としての機能を有するデジタル・プラットフォームを「取引デジタルプラットフォーム」とした上で、取引デジタルプラットフォームを利用する通信販売取引(BtoC取引)の適正化及び紛争解決の促進に資するための取引デジタルプラットフォーム提供者の努力義務、危険商品等が出品された場合に内閣総理大臣が行う取引デジタル・プラットフォーム提供者に対する出品削除等の要請、販売業者等に係る情報の開示請求権の創設等が盛り込まれています。

デジタルプラットフォームを介した取引の利用者向けガイドブック等の公表

 デジタル・プラットフォームを介した取引を始め、消費生活のデジタル化が進む中、政策面・制度面での消費者保護の在り方の検討と共に、デジタル化に対する消費者の向き合い方についても検討することが求められています。

 このため、消費者庁では、消費者がデジタル社会において身に付けるべき知識を習得するための消費者教育及び消費者向け普及啓発の在り方について検討するとともに、消費生活に影響を与えている主要なデジタルサービスやAIなどの革新的なデジタル技術に関する消費者にとっての課題と対応策について検討するため、「消費者のデジタル化への対応に関する検討会」(注18)を開催し、2020年7月に報告書を取りまとめました。

 同検討会では、デジタル・プラットフォームを利用する消費者が安全・安心な取引を行うために注意すべき点を整理した上で、関係者の協力を得てインターネットオークション、オンラインフリーマーケット及びオンラインマーケットでの取引を対象とした「デジタル・プラットフォームを介した取引の利用者向けガイドブック」を作成、公表しました。

 同ガイドブックでは、消費者自らがデジタル・プラットフォームを利用する際の留意事項を確認できるよう、購入者と出品者のそれぞれの場合について、取引の手順に即して解説するとともに、事業者が消費者トラブル防止のため自主的に講じている具体的取組についても例示しています。

 これを受けて、新未来創造戦略本部では、デジタル社会に対応した情報発信及び普及啓発に関するモデルプロジェクトの一環として、デジタル・プラットフォーム事業者等とも連携して、同ガイドブックを基にした啓発資料「デジタルプラットフォームとの正しいつきあい方」(図表Ⅱ-1-4-3)を2021年4月に作成、公表しました。

デジタル化に対応した消費者教育

 消費者教育推進法に基づく「消費者教育の推進に関する基本的な方針」(注19)(以下「基本方針」という。)では、当面の重点事項の一つとして「高度情報通信ネットワーク社会の発展に対応した消費者教育の推進」を掲げており、デジタル化に対応した消費者教育の推進が求められています。

 新たなデジタル機器・サービスの出現によって消費生活が様々に変化する中、消費者教育において習得が望まれる内容も時々刻々と変化しており、デジタル化の進展を踏まえて継続的に検討を行っていく必要があります。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、オンライン授業等の利用が広まるなどしており、ツール・手法を含めた検討が必要となっています。このため、2020年11月に、消費者教育推進会議の下に「社会のデジタル化に対応した消費者教育に関する分科会」を設置し、(1)社会のデジタル化を踏まえた、各ライフステージにおいて消費者が身に付けることが望まれる事項、(2)デジタル技術や「新しい生活様式」の普及、各世代の特性等を踏まえた、消費者教育の場や情報発信手法等について、2021年3月までに5回議論を行いました。

デジタル化に対応した普及啓発・情報発信の推進

 「消費者のデジタル化への対応に関する検討会」では、デジタル化による消費者の情報の入手手段の多様化に対応し、行政側も普及啓発の取組を工夫・強化すること、また、若年者や高齢者など消費者の特性に合わせて効率的・効果的に情報を届けるため、デジタル技術を活用した訴求効果の高い手法を採用し、戦略的に普及啓発を展開していくことが必要であると指摘されています。

 消費者庁では、2020年4月、新型コロナウイルス感染症に関連して消費者が不正確な情報に惑わされることがないように、正確な情報を早く消費者に届けるため、より多くの消費者に直接的に情報を届けるツールとして、LINE株式会社の協力の下、LINE公式アカウント「消費者庁 新型コロナ関連消費者向け情報」を開設しました。同アカウントでは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に便乗した悪質商法等の手口とその対処法、新型コロナウイルス感染症に関連した最近の消費生活相談の事例、「新しい生活様式」に関して消費者として留意すべきポイント等について、プッシュ型の情報発信を行っています(図表Ⅱ-1-4-4)。また、PRプラットフォームサービス(注20)を活用して、幅広いWEBメディア等を通じた情報発信にも取り組んでいます。

 新未来創造戦略本部では、2020年11月から「消費者保護のための啓発用デジタル教材開発に向けた有識者会議」を開催し、各世代(若年者、社会人、高齢者)に対して、デジタル機器・サービスに関する消費者被害の予防・拡大防止を図るために、消費者がデジタル技術を用いて自ら知識を習得でき、消費者教育の現場でも活用可能なデジタル教材開発について検討しています。2021年4月、同会議での議論を基に、高等学校等の授業で活用しやすい様式・素材による、デジタル取引・サービスに関連する最近の消費者トラブルに共通した特徴を具体的事例と共に学べる啓発資料「デジタル消費生活へのスタートライン」(図表Ⅱ-1-4-5)を作成、公表しました。今後、e-ラーニングやオンライン授業にも対応した啓発用教材の作成に向けた議論を行っていきます。

その他の消費者のデジタル化への対応に向けた施策

 「消費者のデジタル化への対応に関する検討会」では、昨今特に消費生活に影響を与えている主要なデジタルサービスとして、前述のデジタル・プラットフォームのほか、オンラインゲームやキャッシュレス決済などを挙げ、これらのサービスへの消費者の向き合い方について課題を整理しています。

 オンラインゲームに関する消費生活相談の件数は増加傾向にあり、特に未成年者からの課金に関する相談が多く、低年齢化が進んでいます(注21)。また、これらの相談の背景の一つとして、ゲーム依存の問題も指摘されています。一方で、消費生活相談の現場では、ゲーム依存に起因する消費者トラブルの根本的な解決は困難であり、適切な相談対応に加え関係機関との連携を図ることが不可欠です。

 このため、新未来創造戦略本部では、ゲーム依存に関する相談が本人や家族から寄せられた際に、医療機関や自治体等の適切な窓口につなぐなどの対応ができるよう、オンラインゲームに関する消費生活相談員向けの相談対応マニュアルを作成することとし、同マニュアルを作成するに当たり第三者的な観点から内容の適正化を図るため、2020年10月から、「オンラインゲームに関する消費生活相談員向けマニュアル作成に係るアドバイザー会議」を開催しています。

 キャッシュレス決済をめぐっては、その支払方式や媒体の多様化に伴い、決済代行会社を経由した取引が増加していますが、その存在を含め、多くの消費者には仕組みがよく理解されていないのが現状です。このため、消費者庁では2020年度に、決済代行会社の関与を含むキャッシュレス決済の具体的な仕組み等に関する実態調査を実施しており、今後、調査結果も踏まえて、キャッシュレス決済を利用するに当たっての留意事項等を整理して情報発信していくこととしています。

 「消費者のデジタル化への対応に関する検討会」では、デジタル技術の更なる進化に伴い、今後も消費生活に様々なデジタル機器・サービスが普及していくことが予想される一方で、このような新しい技術の利便性とリスク等について消費者はどう理解し、向き合うべきかという点も重要であるとの指摘がなされています。特にAI(人工知能)については、既に商品やサービスとして実用化されており、AIを安全に利用するために消費者として最低限必要となる知識について早急に整理し、普及啓発を図ることが必要と考えられたことから、同検討会の下にワーキンググループを置き、重点的に検討を行いました。2020年7月、同ワーキンググループによる検討を踏まえ、消費者向け啓発資料「AI利活用ハンドブック〜AIをかしこく使いこなすために〜」(図表Ⅱ-1-4-6)を作成・公表しました。また、同ワーキンググループにおける議論及び成果については、2021年4月に開催された経済協力開発機構(OECD)消費者政策委員会(CCP)第100回本会合において「デジタル時代の消費者のぜい弱性」に関する日本の取組として発表するなど、消費者政策の国際的議論の場においても活用しています。

図表2-1-4-1デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引(イメージ)

図表2-1-4-2取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案 概要

図表2-1-4-3「デジタルプラットフォームとの正しいつきあい方」

図表2-1-4-4LINE公式アカウント「消費者庁新型コロナ関連消費者向け情報」

図表2-1-4-5啓発資料「デジタル消費生活へのスタートライン」

図表2-1-4-6「AI利活用ハンドブック~AIをかしこく使いこなすために~」


  • 注15:2019年12月から2021年1月まで
  • 注16:2019年12月から2020年7月まで
  • 注17:2021年4月28日成立
  • 注18:2019年12月から2020年7月まで
  • 注19:平成25年6月閣議決定、2018年3月変更
  • 注20:各社のプレスリリースを記者等に配信するウェブプラットフォームサービス。
  • 注21:第1部第1章第4節参照

担当:参事官(調査研究・国際担当)