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第1部 第1章 第6節 (2)経済社会の構造変化と消費者を取り巻く現状

第1部 消費者問題の動向と消費者意識・行動

第1章 消費者事故等に関する情報の集約及び分析の取りまとめ結果等

第6節 消費者を取り巻く環境変化の動向

(2)経済社会の構造変化と消費者を取り巻く現状

次に、経済社会の構造変化と消費者を取り巻く現状について概観していきます。

高齢化の進行等

現在の日本では出生率の低下により少子化が進行し、総人口は減少局面を迎えています。他方で、平均寿命の延伸に伴って高齢者人口は増加しており、超高齢社会(注50)を迎えています。今後、総人口は減少する中で高齢化率は更に上昇を続けていくという推計もあります(図表I-1-6-13)。また、障害者の人口も近年上昇を続けており、障害者手帳所持者等の人口は、2016年において593万人となっています(注51)

世帯の単身化、高齢者世帯の増加

晩婚化や未婚化の進行、核家族化等に伴い、世帯の少人数化が進み、平均世帯人員は縮小を続けています(図表I-1-6-14)。また、世帯構造をみると、単独世帯、夫婦のみの世帯が増加している傾向にあります。一方、世帯類型でみると、高齢者世帯(注52)はここ30年で大きく増加し、2018年には1400万世帯を超えています。さらに、夫婦共に雇用者の共働き世帯も年々増加(注53)しており、勤労者世代が昼間に生活エリアにいない状態は、地域コミュニティの衰退につながる可能性も指摘されています。

訪日外国人と在留外国人による消費

近年、観光等を目的とした近隣のアジア諸国を中心とした訪日外国人の大幅な増加に伴い、訪日外国人による旅行消費額も増加しています(図表I-1-6-15)。2020年初頭の新型コロナウイルス感染症の世界的な広がりにより、訪日外国人数は足下では大きく減少していますが(図表I-1-6-16)、世界的なイベント(注54)の開催も控えており、訪日外国人数及び訪日外国人による消費が中長期的には増加していくことが想定されます。

また、日本に在留する外国人数も、近年、増加傾向にあり、その消費も増加していることが想定されます。新型コロナウイルス感染症の影響により世界的に人的な移動は一時的に縮小している状況にはありますが、労働市場における人手不足や外国人に対する新たな在留資格(特定技能)の創設等(注55)を踏まえると、在留外国人による消費は中長期的には増加していくことが想定されます(図表I-1-6-17)。

デジタル化の進展

近年、情報通信技術(以下「ICT」という。)の高度化により、スマートフォンやタブレット型端末といったICT機器も急速に普及してきており、誰もが、どこでも、いつでも、手軽に、デジタル空間にアクセスし、商品やサービスを購入できるようになってきています。最近では、新たな無線通信システムである第5世代移動通信システム(5G)の本格展開や人工知能(AI)を実装した商品・サービスの普及、モノのインターネット化(IoT(注56)化)等が進んできており、更なるデジタル化の発展が見込まれています。

このようなICTの普及・発展に伴い、取引の基盤環境を提供するデジタル・プラットフォーム(以下「PF」という。)が発達し、オンラインサービスを介した商取引である電子商取引が近年急速に活発化しています。国内における事業者・消費者間(以下「BtoC」という。)の電子商取引をみると、この10年で大きく増加していることが分かります(図表I-1-6-18)。さらに、越境的な電子商取引も増加しており、例えば、日本と米国との間でのBtoCの電子商取引の市場規模は、2018年において2504億円と、2013年と比べて約1.4倍となっています(図表I-1-6-19)。

また、PFでは、BtoCの商取引だけでなく、デジタル市場でのフリーマーケットや民泊等のシェアリングエコノミー取引といった新たな形態の個人間(CtoC)の取引についても活発化しています(図表I-1-6-20)。例えば、2018年におけるフリマアプリ(注57)の市場規模は6392億円と推計されており、初めてフリマアプリが登場したとされている2012年から僅か6年で巨大な市場に成長しています。さらに、近年、シェアリングサービスは若者を中心に広がりをみせていますが、モノを所有しない新たな消費生活の形態として今後更に普及していくことも想定されます。

こうした個人間の取引が活発化する中で、「フリマサービス」に関する消費生活相談件数も増加傾向にあります(図表I-1-6-21)。

決済手段の多様化

近年、消費者の決済手段の多様化・高度化も進んでいます。クレジットカードや電子マネーの利用も増加しており、現金以外での決済の利便性も消費者に認識されるようになりました(図表I-1-6-22)。こうした「キャッシュレス決済」に関する消費生活相談の件数も、2010年と比べて大きく増加していることが分かります(図表I-1-6-23)。

また近年は、通貨のような機能を持つ電子データである「暗号資産(仮想通貨)」も支払・資金決済ツールとして利用されてきているほか、最近ではリブラに代表されるステーブルコイン等のデジタル通貨の利点やリスク等についても議論が行われています(注58)

自然災害等による消費生活への影響

自然災害も人々の消費生活を変化させる要因の一つです。日本は、地震、台風、豪雨・豪雪といった自然災害が発生しやすい自然条件にあります。近年では、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、2018年の平成30年7月豪雨、2019年の令和元年東日本台風等によって、被災した消費者の住宅等の生活基盤が毀損され、生活関連物資の入手が困難になるなど、消費生活に深刻な影響を及ぼしています(自然災害に関連した消費生活相談については、本章第4節(3)参照。)。

また、2020年初頭の新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大により、日常の消費生活にも大きな影響が出ています。例えば、マスクの需要の急増を受け、医療機関を含めて必要なマスクの確保が困難となる中、個人等が小売店舗等でマスクを大量に購入し、インターネットを利用して高額で転売する事例が発生しました。また、個人等が誤った風説等を流すことにより、正しい情報や実態と齟齬のある消費行動もみられました。さらに、不確かな情報提供等により、心理的に不安定な状態となっている消費者につけ込む悪質商法も発生しました(新型コロナウイルス感染症の拡大に関する消費生活相談の状況や消費者庁の対応については、第2部第1章第4節(3)参照。)。

以上のような経済社会の構造変化やデジタル化及び国際化の進展等に合わせて、人々の消費生活やライフスタイルも変化しており、本章第4節で述べたような新たな消費者トラブルも生じています。また、高齢者や障害者の増加や世帯の単身化、デジタル化の進展によるデジタルディバイド(情報格差)の拡大等により、地域コミュニティの衰退とも相まって、ぜい弱な消費者が増えてきている可能性があります。第2部においては、このような現状を踏まえた消費者政策の実施状況について取り上げます。


  • 注50:一般に、65歳以上人口の割合が7%超で「高齢化社会」、65歳以上人口の割合が14%超で「高齢社会」、65歳以上人口の割合が21%超で「超高齢社会」と分類されている。
  • 注51:厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」(2018年4月9日公表)
  • 注52:高齢者世帯とは、65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯をいう。
  • 注53:夫婦共に雇用者の共働き世帯は、1980年では614万世帯、2018年は1219万世帯(令和元年版男女共同参画白書)。
  • 注54:「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会」、「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」の開催等
  • 注55:法務省「新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組(在留資格「特定技能」の創設等)」(法務省ウェブサイト参照)
  • 注56:IoTとは、Internet of Thingsの略。インターネットに多様かつ多数の物が接続されて、それらの物から送信され、又はそれらの物に送信される大量の情報の活用に関する技術(官民データ活用推進基本法(平成28年法律第103号))を指す。
  • 注57:フリマアプリとは、スマートフォン等を使用してフリーマーケットのように個人が手軽に物品を出品し、個人間で売買を可能にする専用のアプリケーションのこと(経済産業省「平成27年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備報告書」(2016年6月))。
  • 注58:日本銀行決済機構局「決済の未来フォーラム:中銀デジタル通貨と決済システムの将来像」(2020年2月)

担当:参事官(調査研究・国際担当)