第1部 第1章 第2節 (3)生命・身体に関する事故情報の事例
第1部 消費者問題の動向と消費者の意識・行動
第1章 消費者事故等に関する情報の集約及び分析の取りまとめ結果等
第2節 消費者庁に集約された生命・身体に関する事故情報等
(3)生命・身体に関する事故情報の事例
収集された事故情報を分析し、消費者庁や国民生活センターでは消費者に注意喚起を実施しています。以降では、2020年に注意喚起を実施した事例について紹介します。
トランポリンによる事故
近年、様々なトランポリン(注10)を取り扱う屋内遊戯施設の増加に伴い、公式競技で使用されるような高く跳躍できるトランポリンで、気軽に遊ぶことができるようになりました。
トランポリンは安全な遊び方を正しく理解していないと、落下や転倒、衝突により骨折や神経損傷等の重大な事故につながります。トランポリンに関する事故情報は、事故情報データバンクには2010年4月から2020年9月末までに40件寄せられています。事故の発生場所は、遊戯施設が23件と最も多く、年別の事故の発生状況はここ数年で増加しています(図表Ⅰ-1-2-9)。傷病内容が判明している34件について見たところ、骨折の件数が12件と最も多く、1か月以上の治療を要する事故が全体の32%を占めていました。
医療機関ネットワーク事業に参画する医療機関からは、2010年12月から2020年9月末までに、トランポリンに関する事故情報が100件寄せられており、このうち、事故情報データバンク同様、遊戯施設で発生している事故が最も多く35件です。
事故情報を受け、消費者庁と国民生活センターでは、競技用トランポリン(注11)と一般向けに販売されているトランポリン(以下「一般向けのトランポリン」という。)を使用し、トランポリンの特性に関する検証を実施しました。
まず、垂直方向での跳ね返りの比較のため、約100cmの高さからおもりを自由落下させたところ、競技用トランポリンでは約80cmの高さ、一般向けのトランポリンでは約40cmの高さまで跳ね返りました(図表Ⅰ-1-2-10)。競技用トランポリンでは、一般向けのトランポリンより跳ね返りが強いため、予想よりも高く跳躍し、体勢を崩して体に負荷が掛かる可能性や、墜落や転落した際には衝撃が強くなり、けがの程度が重くなることが考えられます。
また、斜め方向の跳ね返りを調べるために競技用トランポリンに、側方から中心付近に向かっておもりを投げ入れたところ、着地前までの角度とは異なる角度で跳ね返りました(図表Ⅰ-1-2-11)。トランポリンの特性として、斜め方向から着地した場合には、垂直方向に沈んで強く跳ね返る力が働くため、体勢を崩したり、水平方向の速度によっては、トランポリンの外へ跳び出してしまう可能性があることが考えられます。
最後に競技用トランポリンで複数人が使用するときの跳ね返りの高さを調べるため、成人男性が約50cmの跳躍を繰り返しているときに約100cmの高さからタイミングを変えておもりを落下させました。検証の結果の一例として、成人男性の跳躍によりトランポリンのベッドが下がっているときに、おもりがベッドに着地した場合、おもりは約150cmの高さまで跳ね返りました。また、おもりが先に落ちてベッドが下がっているときに、成人男性がベッドに着地した場合、おもりは約20cmの高さまでしか跳ね返りませんでした(図表Ⅰ-1-2-12)。トランポリンを複数人が使用した場合、着地のタイミングによっては、予想よりも高く跳躍する場合と、予想していたほど高くは跳躍しない場合があり、それにより体勢を崩し、体への負荷が掛かることがあると考えられます。
これらの検証結果からは、トランポリンの種類により、その性能には大きく差がある可能性があることが分かりました。遊戯施設に設置されているトランポリンの種類は様々です。初心者の方がその性能の差を認識せずに同様の遊び方をしますと、自身が想像していた高さ以上に跳躍することや、それによって着地時の衝撃が大きくなることが考えられ、けがにつながるおそれがあります。
これらの検証結果を受け、消費者庁と国民生活センターは事故を防ぐために2020年12月に注意喚起を実施しました(注12)。
トランポリンは、柔らかい安全なマットのようなものではなく、人間を高く跳躍させることができる、大きな力が掛かっているものです。①施設のルールを守って遊ぶこと、②トランポリンを初めて利用される方は、安定した姿勢で跳べる、低めの高さから徐々に体を慣らすこと、③公式競技にも使用されるような、高く跳躍できるトランポリンを使用する際は、危険性を理解した上で、無理のない範囲で使用すること、④同時に2人以上で使用すると衝突等の危険性が高まるため、1つのトランポリンは1人ずつ使用することを呼び掛けています。
おむつ交換台からの子供の転落による事故
おむつ交換台は、子供のおむつを交換するためのもので、様々な形状があり、主に外出先の施設などのトイレやベビールームなどに設置されています(図表Ⅰ-1-2-13)。
おむつ交換台については、子供が転落する事故情報が寄せられており、国民生活センターでは2007年に注意喚起を実施しました(注13)。また、経済産業省や消費者庁においても転落事故防止に向けた取組として、公共施設や集客・商業施設などに設置されているおむつ交換台に、利用者の目に付くところへの子供の転落に関する警告表示の徹底や点検の実施などを行うよう施設管理者に要請しています(注14)。
これらの注意喚起や要請後にも転落事故が発生しており、医療機関ネットワークには、0〜3歳の子供が外出先の施設などのおむつ交換台から転落したという事故情報が、2010年12月以降の約9年間に58件寄せられています(2019年12月31日までの登録分)。そのため、国民生活センターでは、医療機関ネットワークに寄せられた事故情報を分析するとともに、消費者の利用実態を把握するためにアンケート調査(以下「アンケート」という。)を行いました(注15)。
医療機関ネットワークに寄せられた事故情報は、6〜8か月の乳児の事故件数が15件と最も多く、寝返りができるようになり、つかまり立ちをし始める頃から事故がみられます。頭部の受傷が41件と最も多く71%を占め、入院を要するものもありました(図表Ⅰ-1-2-14)。
アンケートでは、おむつ交換台から子供が落ちた(落ちそうになった)経験があるかを尋ねたところ、「落ちたことがある」と回答した人が46人(4.6%)、「落ちそうになったことがある」と回答した人が334人(33.4%)で、合わせて約4割を占めます。おむつ交換台から子供が落ちた(落ちそうになった)経験があると回答した380人に対し、その時の状況等について尋ねたところ、おむつ交換台の設置場所は、「多目的トイレ」が163人(42.9%)と最も多く、おむつ交換台の形状は、「折りたたみ式ベッド」が296人(77.9%)と最も多いことが分かりました。おむつ交換台に転落防止のために備え付けてあるベルトについては、225人(73.5%(注16))が「ベルトはあったが締めていなかった」と回答しました。子供から離れていた、又は目を離していた時間は、「1〜3秒程度」が190人(50.0%)、「数十秒程度」が119人(31.3%)で、短時間でも子供から離れたり、目を離したりすると子供が転落するおそれがあることが分かりました。
また、子供が落ちた(落ちそうになった)時の保護者の行動について尋ねたところ、「かばんから物を取り出していた/収納していた」が151人(39.7%)、「ごみ(使用済みおむつなど)を捨てていた」が116人(30.5%)で、合わせて約7割を占めます。保護者は、かばんから物を取り出したり、ごみを捨てたりする作業に意識を向けた際に、子供が落ちた(落ちそうになった)ことが分かりました。
アンケートの対象者全員に対し、おむつ交換台やその周辺に、特にあれば便利・安全だと思うことについて尋ねたところ、「転落防止の柵やガードがある」、「寝かせるテーブル・シート・ベッドが広い」といったおむつ交換台そのものに関する回答がみられました。また、「使用済みおむつなどを捨てるごみ箱が近くにある」、「荷物掛け・荷物置き場が近くにある」といった設置環境に関する回答もみられました。
アンケートの結果を受け、国民生活センターではおむつ交換台を利用する上での注意点について取りまとめ公表しました(注17)。
消費者に対しては、おむつ交換台に子供をのせる際はおむつやおしり拭きなど必要なものを事前に準備し、備付けのベルトがある場合は必ず利用すること、おむつ交換が済み次第交換台から子供を降ろすこと、子供を降ろす前に片付けやごみ捨てなどで子供から離れたり、目を離したりしないことを呼び掛けました。また、子供がおむつ交換台から転落して頭部を打った場合には医療機関を受診するようアドバイスしています。
さらに、事業者に対して、より安全なおむつ交換台の開発・普及や、転落事故の危険性や利用上の注意点について消費者への更なる啓発を要望しました。
行政に対しても、製造事業者への指導に加え、安全におむつ交換ができる環境が整備されるよう、施設管理者への周知や消費者への啓発を要望しました。
- 注10:トランポリンは、ベッドとスプリング(ゴムケーブル)の弾力を利用した跳躍運動器具。なお、器具の名称「トランポリン」はセノー株式会社の登録商標である。当該注意喚起の「トランポリン」は競技や遊び方の総称として使用されている。また、空気で膨らませる遊具である「エア遊具」は対象に含まない。
- 注11:競技用トランポリンとは、公式競技で使用されるトランポリンであり、国際体操連盟(FIG)又は日本体操協会(JGA)オフィシャル認定シールが添付されている。
- 注12:消費者庁・国民生活センター「遊戯施設におけるトランポリンでの事故にご注意ください!—骨折や、神経損傷等の重症例も—」(2020年12月9日公表)
- 注13:国民生活センター「折りたたみ式オムツ交換台からの転落に注意!!」(2007年10月5日公表)
- 注14:経済産業省「施設用おむつ交換台における転落事故の防止について(要請)」(2007年7月25日公表)、消費者庁「おむつ交換台からの転落による事故の防止について」(2010年12月21日公表)
- 注15:0〜3歳の子供の保護者で、外出先の施設などのおむつ交換台(寝かせるタイプ、ベッドタイプを含む。)を利用したことのある1,000人(男性:454人、女性:546人)に対し、2020年1月に実施。
- 注16:「おむつ交換台のベルトは締めていましたか。」の問に対し「締めていた(81人)」、「ベルトはあったが締めていなかった(225名)」と回答した者の合計(306人)に占める割合。
- 注17:国民生活センター「おむつ交換台からの子どもの転落に注意!—頭部損傷リスクが高く、入院する事例が寄せられています—」(2020年3月19日公表)
担当:参事官(調査研究・国際担当)