文字サイズ
標準
メニュー

第2部 第1章 第3節 (2)事業活動におけるコンプライアンス向上に向けての自主的な取組の推進

第2部 消費者政策の実施の状況

第1章 消費者庁における主な消費者政策

第3節 消費者による公正かつ持続可能な社会への参画等を通じた経済・社会構造の変革の促進

(2)事業活動におけるコンプライアンス向上に向けての自主的な取組の推進

消費者志向経営の推進

消費者政策の目標を実現するための手段として、法執行等の規制のみならず、持続可能な社会の実現に向けて消費者、事業者、行政等の関係者が共に連携・協働していくことが重要です。

消費者庁では、2016年に事業者団体、消費者団体、行政機関で構成する「消費者志向経営推進組織(注16)」(プラットフォーム。以下「推進組織」という。)を設置し、消費者志向経営(愛称:サステナブル経営)の推進に取り組んでいます。消費者志向経営については、2015年の検討会(注17)で示された考え方を出発点として、事業者が、消費者の視点に立ち、「みんなの声を聴き、かついかすこと」、「未来・次世代のために取り組むこと」、「法令を遵守/コーポレートガバナンスの強化をすること」が重要という考え方が打ち出されています(図表II-1-3-2)。

推進組織は、消費者志向経営の理念に基づく事業者の取組を促すとともに、取組を社会に広く周知する活動として、「消費者志向自主宣言・フォローアップ活動」の推進等を行っています。これは、事業者が自主的に消費者志向経営を行うことを宣言・公表し、宣言内容に基づいて取組を実施するとともに、その結果をフォローアップして公表する活動です。2020年3月末時点で、153事業者が自主宣言を公表しています。

また、2017年には、徳島県、事業者団体、消費者団体等で構成される「とくしま消費者志向経営推進組織」が発足しました。同推進組織や四国の地方公共団体と新未来創造オフィスが連携した取組を進めた結果として、2020年3月末時点で、54の四国内の事業者が自主宣言を公表しています。愛媛県では「えひめ消費者志向おもいやり自主宣言」事業者を公表するなど、地方における消費者志向経営への取組が始まっています。

消費者志向経営優良事例表彰の実施

消費者に目を向けた優良な事業者については適切に評価し、優良事例を広く社会に発信していくことが重要です。この観点から、消費者庁では、2018年度から消費者志向経営の取組に関する優良事例の表彰を行っています。本表彰は、消費者志向自主宣言を公表し、かつ、フォローアップ結果を公表している事業者の取組のうち、優れた取組に対して、「内閣府特命担当大臣表彰」及び「消費者庁長官表彰」を授与するものです。2回目となる令和元年度消費者志向経営優良事例表彰式は、2020年1月に実施しました。

期待される効果と今後の取組

消費者志向経営の取組により、事業者としては、消費者からの信頼を獲得するとともに、内部のコンプライアンス意識の向上等により、中長期的な企業価値の向上が期待されます。消費者としては、商品・サービスの品質が確保され、ニーズを捉えた商品・サービスが提供されることで、自主的・合理的な選択をすることが可能になり、結果として消費の満足度が向上することが期待されます。これらが互いに作用しながら進むことにより、健全な市場の実現や経済成長と消費の好循環につながると考えられます。

今後は、消費者志向経営が基本認識となる社会の実現に向け、消費者志向経営に取り組むことが社会的責任を果たしていると多様な者から評価され、資金調達の円滑化等につながるような環境整備に取り組んでいきます。

公益通報者保護

1制度の実効性の向上のための取組

食品偽装やリコール隠し等、消費者の安全・安心を損なう企業不祥事が、事業者の内部からの通報を契機として相次いで明らかになったことから、通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産の保護に関わる法令の遵守を図り、国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的として、2004年に公益通報者保護法が制定されました。

同法制定後、大企業等を中心に内部通報制度の整備が進み、各事業者におけるコンプライアンス経営等の取組が強化されるなど、一定の成果が上がってきました。一方で、中小企業等における制度の整備状況や労働者等における同法の認知度はいまだ十分とはいえないほか、近年も、大企業における内部通報制度が機能せず、国民生活の安全・安心を損なう不祥事に発展した事例や、通報を受けた行政機関において不適切な対応が行われた事例が発生するなど、公益通報者保護制度の実効性の向上を図ることが重要な課題となっています。

消費者庁では、2015年6月から2016年12月までに開催した「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」で取りまとめられた報告書の提言を踏まえて、制度の運用改善に関する部分について、民間事業者向け、国の行政機関向け及び地方公共団体向けの各ガイドラインを改正・策定しました。その後、公益通報者保護法について、規律の在り方や行政の果たすべき役割等に関する方策を検討するため、2018年1月に、内閣総理大臣から消費者委員会に対し諮問が行われました。2018年12月に、同諮問に対し消費者委員会から答申が出されたところ、消費者庁では、同答申の内容、2019年3月末に実施した意見募集の結果(2019年5月結果公表)等を踏まえ、所要の改正を行う法案の検討を行いました。このような検討を経て、2020年3月には、事業者に対する通報体制整備の義務付け、公益通報対応業務従事者等に対する守秘義務及び同義務違反に対する罰則の新設、行政機関への通報に関する保護要件の緩和、保護対象となる通報者や通報対象事実の範囲の拡大等を内容とする公益通報者保護法の一部を改正する法律案が第201回国会に提出されました(図表II-1-3-3)。

このほか、公益通報者保護制度の実効性向上に向けた取組として、内部通報制度を適切に整備・運用している事業者に対する認証制度(自己適合宣言登録制度)(図表II-1-3-4)の運用を2019年2月から消費者庁が指定した指定登録機関において開始し、2019年度末時点で、56事業者が同制度に登録されています。

2新未来創造オフィスにおける取組

消費者庁では、規模の小さな市区町村や中小企業の通報窓口の整備率が十分ではない状況を踏まえ、新未来創造オフィスにおいて、四国四県等と連携して公益通報者保護制度の整備を促進するための先進的な取組を行ってきました。

この取組の2019年度の成果として、徳島県内市町村における内部職員等からの通報窓口及び外部の労働者等からの通報窓口(以下、併せて「通報窓口」という。)の整備率100%の達成(2017年度)に続き、愛媛県及び香川県内市町における通報窓口の整備率100%を達成したほか、高知県内市町村における通報窓口の整備率も大幅に向上しました。

今後は、これらの取組の効果を検証し、全国展開のための課題等を分析した結果を踏まえ、先進事例を紹介するなど積極的に周知広報を行い、全国の地方公共団体、事業者の通報窓口の整備等を促進し、制度の一層の実効性の向上に取り組んでいきます。

図表2-1-3-2消費者志向経営(愛称:サステナブル経営)について

図表2-1-3-3公益通報者保護法の一部を改正する法律案

図表2-1-3-4内部通報制度認証(自己適合宣言登録制度)


  • 注16:構成員は、事業者団体から、一般社団法人日本経済団体連合会、公益社団法人経済同友会、公益社団法人消費者関連専門家会議(ACAP)、一般社団法人日本ヒーブ協議会、消費者団体から、一般社団法人全国消費者団体連絡会、公益社団法人全国消費生活相談員協会、公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(NACS)、行政機関から消費者庁。オブザーバーとして、国民生活センターが参加している。
  • 注17:「消費者志向経営の取組促進に関する検討会」。検討会報告書(2016年4月)において、消費者志向経営の取組の柱として、1経営トップのコミットメント、2コーポレートガバナンスの確保、3従業員の積極的活動(企業風土や従業員の意識の醸成)、4事業関連部門と品消法関連部門(品質保証部門、消費者及び顧客対応部門及びコンプライアンス関連部門の総称)の有機的な連携、5消費者への情報提供の充実・双方向の情報交換及び6消費者・社会の要望を踏まえた改善・開発の6本が掲げられた。

担当:参事官(調査研究・国際担当)