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第1部 第1章 第3節 (1)2019年の消費生活相談の概況

第1部 消費者問題の動向と消費者意識・行動

第1章 消費者事故等に関する情報の集約及び分析の取りまとめ結果等

第3節 消費生活相談の概況

(1)2019年の消費生活相談の概況

全国の消費生活相談は前年より減少

全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談の件数をみると、2019年は93.3万件となり、前年と比べ約9万件減少しました。2018年に26.0万件に上った架空請求に関する相談件数が、半分の13.0万件となったことが、相談件数全体の減少の主な要因となっていると考えられます(図表I-1-3-1)。

消費生活相談件数の長期的な推移をみると、2004年度に192.0万件とピークに達しています。この時、架空請求に関する相談件数が67.6万件と急増し、全体の35.2%を占めていました。その後、架空請求に関する相談は減少し、消費生活相談の総件数も減少傾向となりましたが、2008年以降の10年間は年間90万件前後と、依然として高水準で推移し続け、2018年に架空請求に関する相談の増加等により、再び100万件を超えました。

総務省、法務省、経済産業省、消費者庁、警察庁、金融庁の各省庁及び国民生活センターは、消費者政策会議において2018年7月に決定した「架空請求対策パッケージ」の下、一体となって、架空請求による消費者被害の未然防止・拡大防止を図る対策を講じてきました。

相談件数は「通信サービス」と「商品一般」が突出

2019年の消費生活相談状況について、商品・サービス別に相談件数と相談1件当たりの実際に支払った金額(平均既支払額)の関係でみると、まず、相談件数が最も多いのは、デジタルコンテンツやインターネット接続回線に関する相談等の「通信サービス」で16.7万件(図表I-1-3-2)、次いで架空請求に関する相談を含む「商品一般」15.6万件と、この上位二つが突出して多くなっています。しかし、平均既支払額でみると、「通信サービス」は4.3万円、「商品一般」は1.1万円と、他の商品・サービスよりも相対的に低くなっています。

平均既支払額では、屋根工事やリフォーム工事の解約に関する相談等の「工事・建築・加工」が109.3万円と最も高額で、訪問販売で購入した給湯器や太陽光発電パネルに関する相談等の「土地・建物・設備」が89.2万円、フリーローン・サラ金の返済に関する相談等の「金融・保険サービス」が70.6万円と続きます。「金融・保険サービス」は、相談件数も4番目に多く、既支払総額が最も高くなっています。

相談1件当たりの平均金額は、前年に比べ減少

2019年に寄せられた相談1件当たりの平均金額をみると、全体では、請求された又は契約した金額である「平均契約購入金額」が98.5万円、実際に支払った金額である「平均既支払額」が38.2万円となっています。2019年は、平均契約購入金額において、「全体」、「65歳以上」、「65歳未満」の全てで前年と比べて減少しました。特に「65歳以上」については前年に比べて39.4万円減の111.0万円と、大きく減少しています。平均既支払額でも、「全体」、「65歳以上」、「65歳未満」の全てで、前年に比べて減少しました(図表I-1-3-3)。

65歳以上の高齢者については、相談1件当たりの平均既支払額は65歳未満の約1.9倍となっています。

また、2019年に寄せられた相談全体の契約購入金額及び既支払額それぞれの総額をみると、契約購入金額総額は4018億円、既支払額総額は1391億円といずれも前年を大幅に下回りました(図表I-1-3-4)。65歳以上の高齢者に関する金額は、契約購入金額総額では1196億円と全体の29.8%を占め、既支払額総額では568億円と全体の40.8%を占めています。

既支払額総額の内訳(商品・サービス別)の推移をみると、2018年には、「金融・保険サービス」に含まれる「ファンド型投資商品」の金額が約536億円と、同年の既支払額総額を押し上げています(図表I-1-3-5)。2019年には、「ファンド型投資商品」の既支払額が約179億円に減少し、既支払額総額が減少した要因となっていることが分かります。

この背景には、2018年に、磁気治療器等の「レンタルオーナー商法」を展開した事業者や、加工食品等の「オーナー制度」で資金を集めていた事業者が倒産し、トラブルが相次いだ(注26)ものの、2019年には、これらに関する消費生活相談が減少したことがあると考えられます。

属性別にみた2019年の相談状況

2019年の消費生活相談状況について、属性別にみると、年齢層別では65歳以上の高齢者が全体の33.0%を占めています(図表I-1-3-6)。10歳ごとの区分でみると、2019年は、前年に比べて件数は減少したものの、50歳代から70歳代までの女性から架空請求に関する相談が依然として多く寄せられたこと等から、70歳代が16.6%と最も大きな割合を占め、次いで60歳代、50歳代の順となっています。

性別では、女性が54.3%、男性が41.3%と女性の割合が高くなっています。

年齢3区分別に消費生活相談の割合について過去10年間の推移をみると、65歳以上の高齢者からの消費生活相談の割合は、2017年まで30%未満で推移していました。しかし、2018年、60歳代・70歳代を中心に架空請求の相談が多く寄せられたため、高齢者からの消費生活相談の割合は34.9%と3割を超え、2019年も33.0%と高水準で推移しています(図表I-1-3-7)。

さらに、性別、年齢層別に区分してみると、相談件数は、男性は60歳代、女性は70歳代が最も多くなっています(図表I-1-3-8)。

商品・サービス別でみると、男性では幅広い年齢層で「通信サービス」が最も多くなっていますが、これは、ウェブサイトを利用したデジタルコンテンツや、インターネット接続回線等に関する相談が多いことによるものです。デジタルコンテンツやインターネット接続回線の事例では、「数年前に電話勧誘で光卸回線を契約した。最近、料金が多重に引落されたり不当に高額だったりして不審だ」、「昨晩スマートフォンでアダルトサイトを開いたら料金請求画面が出た。退会しようと電話をしたら誰も出なかった」などがあります。また、2019年は、件数は前年に比べて減少したものの、引き続き、50歳代から70歳代までの女性で、架空請求を含む「商品一般」の相談件数が多く、特に70歳代女性では全体の4割以上を占めています。

次に、商品・サービスを更に詳細に区分してみると、全体では、架空請求を含む「商品一般」の相談件数が最も多くなっています(図表I-1-3-9)。

「商品一般」に次いで相談件数が多いのは、「デジタルコンテンツ」に関する相談です。相談例は「パソコンのセキュリティソフトを意図せず購入させられており2年前からカードでの引落としが続いている。解約方法を教えてほしい」、「半年前からSNSマッチングアプリで女性とやり取りを開始した。高額な利用料を負担したがいまだに出会えずだまされたのではと不安だ」といったものです。年齢層別にみると、20歳未満、20歳代、30歳代、40歳代の各年齢層で「デジタルコンテンツ」に関する相談が最も多くなっています。

このほか、60歳代までの各年齢層で、「不動産貸借」に関する相談が、相談件数の上位に入っています。

若者の相談--15-19歳は美容関連、20歳代では一人暮らし関連

29歳までの若者の消費生活相談をみると、各年齢層共にインターネット関連の相談が目立ちます。そして、2019年の特徴として注目されるのは、女性のみならず男性にも、美容に関する相談が上位にみられることです。15歳から19歳まででは、男女共に、「脱毛剤」や「他の健康食品」等、美容に関する相談が目立ちますが、特に「脱毛剤」に関する相談件数は、男性(1,406件)が女性(184件)の7倍以上となっています。これらの中には「1回だけのつもりで注文したところ、実際は定期購入が条件の契約だった」など、定期購入のトラブル等もみられます(注27)

20歳から29歳までは、性別を問わず、「賃貸アパート」が上位に挙がりました。内容としては、更新時に敷金の追加を要求されたり、退去時に高額な違約金や合意していない修理費を請求されたりするなど、一人暮らしに伴うとみられるトラブルも見受けられます(図表I-1-3-10)。

高齢者に関する消費生活相談件数は依然として高水準

65歳以上の高齢者に関する消費生活相談件数について、過去10年間の推移をみると、2013年以降24万件から27万件までの範囲で推移していましたが、2018年は約35.8万件と、前年を9万件以上上回り、この10年間で最も多くなりました(図表I-1-3-11)。2019年は、約30.8万件と、前年より減少したものの、過去10年間で2番目に多い件数となっています。5歳ごとに分けてみると、前年に比べて65-69歳で約3.7万件、70-74歳で約1.8万件減少しましたが、これには架空請求に関する相談が前年に比べて減少したことが影響していると考えられます。一方で、75-79歳、80-84歳では、前年に比べて微増しています。また、85歳以上では、2010年に比べ、約2倍の件数となっています。

高齢者に関する消費生活相談について相談件数が上位の商品・サービスをみると、2019年は、前年に引き続き、架空請求を含む「商品一般」が最多でした(図表I-1-3-12)。「商品一般」以外では、「光ファイバー」、「他のデジタルコンテンツ」、「デジタルコンテンツ(全般)」等インターネットに関連した相談で上位が占められています。具体的な相談事例としては、「契約している大手携帯電話会社の関連会社と偽られて、別会社と光回線の契約をしてしまった」などがあります。

また、2019年は、2018年にみられた「ファンド型投資商品」や「フリーローン・サラ金」の相談が上位にみられなくなった一方で、「他の健康食品」が相談の上位に挙がりました。「他の健康食品」の相談内容としては、通常より低価格だったため、1回だけのつもりで購入したサプリメントが、定期購入が条件だったもの、解約しようとしたが連絡がつかないもの等がみられます(詳細は本章第4節(4)参照)。

認知症等の高齢者や障害者等の見守りが重要

認知症等の高齢者(注28)に関する相談をみると、高齢者全体とは異なる傾向を示しています。高齢者全体では、本人から相談が寄せられる割合は約8割ですが、認知症等の高齢者では2割に満たない状況です(図表I-1-3-13)。販売購入形態別にみると、「インターネット通販」は約1.9%、通信販売全体でも約1割にとどまる一方で、「訪問販売」が3割を超え、「電話勧誘販売」も2割近くと大きな割合を占めています(図表I-1-3-15参照。)。「訪問販売」や「電話勧誘販売」に関する相談では、本人が十分に判断できない状態にあるために、事業者に勧められるままに契約したり、買物を重ねたりといったケースがみられます。相談内容としては、新聞や健康食品に関する相談が多くなっています。具体的には、「高齢の母が電話勧誘で海産物を次々に購入させられている」、「介護施設を利用している認知症の高齢者が、俳句出展の契約をし、数万円振り込んだ」といった相談が寄せられています。

認知症等の高齢者本人はトラブルに遭っているという認識が低いため、問題が顕在化しにくい傾向があり、特に周囲の見守りが必要です。

障害者等(注29)に関する相談についても、本人から相談が寄せられる割合をみると、消費生活相談全体では約8割であるのに対し、障害者等に関する相談では約4割という状況です(図表I-1-3-14)。相談内容をみると、「フリーローン・サラ金」に関する相談や、「出会い系サイト」等が含まれる「デジタルコンテンツ」に関する相談が多くなっています。具体的には、「精神的に不安定になった息子が、親名義のスマホでゲームをし、携帯払いを選択。代金を請求されている」、「精神疾患のある買物依存症の母が、通販で商品を購入し、高額な請求が届いたが支払えない」など、判断力の不足や契約内容への理解不足でトラブルになっていると思われるケースが目立ちます。

以上のことからも、認知症等の高齢者や障害者等の消費者トラブルの未然防止や被害の拡大防止には、家族のみならず、近隣住民や福祉事業者、行政機関等が協力して見守っていくことが必要なことが分かります。その際には、認知症等の高齢者や障害者を消費者、すなわち自己決定の主体として尊重し、生活の現実に配慮しつつ自律的な意思決定のできる環境を作り出すことも重要です(注30)

販売購入形態別にみた相談状況

販売購入形態別の消費生活相談割合の推移をみると、2019年の特徴は、「不明・無関係」の割合が、2016年の2倍近くの28.3%となっていることです(図表I-1-3-15)。「不明・無関係」には、販売購入形態が分からないもの等が分類され、2019年では架空請求の約7割はこの分類に該当します。2018年には、架空請求の相談が急増したこと等により、「不明・無関係」の割合は、一旦3割を超えました。2019年に入って、架空請求の相談件数は前年よりも減少しましたが、「不明・無関係」の割合は、いまだ高水準を維持しています。

65歳以上の高齢者についてみると、65歳未満と比べて「訪問販売」、「電話勧誘販売」の割合が高いことが特徴ですが、2016年と比較すると、いずれの割合も減少しています。

また、年齢層別にみると、20歳代では「マルチ取引」、80歳以上では「訪問販売」、「電話勧誘販売」、「訪問購入」の割合が、他の年齢層に比べて高くなっています(図表I-1-3-16)。

「インターネット通販」について、商品・サービス別にみると、2019年は、2017年に相談の6割近くを占めていた、アダルト情報サイトや出会い系サイト等の「デジタルコンテンツ」の割合が減少する一方で、電子商取引の拡大を背景に、健康食品、化粧品、パソコンソフト等の「商品」に関する相談の割合が増加しています。2019年は2018年に比べて「商品」に関する相談の割合が10ポイント以上、上昇しました(図表I-1-3-17)。これは、2019年に架空請求に関する相談が前年に比べて減少したことで、「デジタルコンテンツ」の割合が低くなったこと等によるものと考えられます。

トラブルになりやすい商法や手口に関する相談

トラブルになりやすい商法や手口には様々なタイプのものがありますが、主なものとその相談件数の推移をみると、2017年から2018年にかけて急増した「架空請求」、「身分詐称」は、2019年は減少に転じています(図表I-1-3-18)。

一方、「サイドビジネス商法」では増加傾向が続いており、2018年と変わらない水準で推移しています。この商法には、ウェブサイトやSNSの成功報酬型広告等、インターネット上での副業に関する相談等が含まれています。

また、減少傾向が続いていた「無料商法」では、2019年に、初回無料をうたうサプリメントの定期購入に関する相談や、無料での求人広告掲載ビジネスに関する事例等がみられ、件数は増加に転じており、引き続き消費者への啓発その他の対策を続ける必要があります。


  • 注26:国民生活センター「消費者問題に関する2018年の10大項目」(2018年12月20日公表)
  • 注27:国民生活センター「相談激増!『おトクにお試しだけ』のつもりが『定期購入』に!?--解約したくても『解約できない』、『高額で支払えない』...--」(2019年12月19日公表)
  • 注28:トラブルの当事者が65歳以上で、精神障害や知的障害、認知症等の加齢に伴う疾病等、何らかの理由によって十分な判断ができない状態であると消費生活センター等が判断したもの。
  • 注29:トラブルの当事者が心身障害がある又は判断能力の不十分な方々であると消費生活センター等が判断したもの。
  • 注30:詳しくは、消費者庁「障がい者の消費行動と消費者トラブル事例集」7~8頁(2019年5月)。

担当:参事官(調査研究・国際担当)