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第2部 第1章 第2節 (3)生命・身体に関する事故情報の事例

第2部 消費者問題の動向及び消費者政策の実施の状況

第1章 消費者事故等に関する情報の集約及び分析の取りまとめ結果等

第2節 消費者庁に集約された生命・身体に関する事故情報等

(3)生命・身体に関する事故情報の事例

収集された事故情報を分析し、消費者庁や国民生活センターでは注意喚起を実施しています。以降では、2018年度に注意喚起を行った事例について紹介します。

電池の発熱、液漏れに関する事故

2018年7月20日、消費者庁と国民生活センターは共同で、電池の発熱、液漏れ、破裂による事故を防止するための注意喚起を行いました(注12)

電池(注13)は、大変便利なものですが、使い方を誤ると、液漏れ、発熱、破裂等が起こることがあり、漏れた液に触れることによる化学熱傷、発熱した電池に触れることによる熱傷、破裂で飛び散った破片によるけがにつながるおそれや、使用している機器を傷めるおそれがあります。

事故情報データバンクには、電池の液漏れ、発熱、破裂等の事故情報が、2013年6月から2018年6月末までの5年間で332件寄せられています。事故の現象別にみると、発熱が118件、液漏れが110件、破裂が84件等となっています。

電池は、+極(正極)材料と−極(負極)材料を電解液に入れることで、化学反応により発生した電流を取り出し利用するものです。日頃からよく使用されているアルカリ乾電池は、+極に二酸化マンガン、−極に亜鉛が用いられ、両極間に電気を発生させるための電解液として、水酸化カリウム等のアルカリ性の水溶液が使用されています。

電池の+端子と−端子が、間に豆電球やモーター等がない状態で直接つながる(ショート)と、大きな電流が発生し、発熱が起こります。アルカリ乾電池は、−端子が、+端子とつながった外缶に近接していることから、機器の電池ボックスのばね端子や、導電性の異物を介して、意図せずにショートした状態となることがあります(図表II-1-2-9)。

また、複数の電池を使用する機器において、1本の電池の+と−を逆に装填(以下「逆装填」という。)すると、充電用ではない電池が充電されてしまい、想定外の化学反応により内部でガスが発生して圧力が上昇し、ガスと共に電解液が漏れ出すことがあります(図表II-1-2-10)。

これらのことから、1電池を装填する際の注意(電池の向きを確かめて正しく装填する、古い電池と新しい電池を混合して使用しないなど)や、2装填後の注意(機器の使用後はスイッチを切る、リモコン等の機器を長期間使用しない場合は電池を外しておくなど)のほか、3金属類と一緒に電池を持ち運んだり保管したりしない、4電池から漏れた液に触れた場合は、すぐに大量の水で洗い流すよう呼び掛けています。

加えて、消費者庁は、一般社団法人電池工業会に対し、電池の事故防止対策の推進に、より一層取り組むよう要請を行いました。同工業会は、ウェブサイトや啓発パンフレット、夏休みの「手づくり乾電池教室」等を通じて、電池の正しい使い方の啓発活動を行っています。

筆箱による事故

消費者庁は、本件事故について、消費生活用製品安全法の重大製品事故として、ウェブサイトに掲載しました(注14)

国民生活センターでは、当該製品及び新品の同型品を用いてテストを行い、2018年8月16日、結果を公表しました(注15)

当該製品は金属製の筆箱であり、蓋には樹脂製の透明な窓が取り付けられていました。被害者(10歳児)が左手で蓋を開けようとした際に、蓋の窓に沿った内側の縁に左手親指の先が入り込み、皮膚の一部が削げ落ちるけがをしたとのことでした(図表II-1-2-11)。

窓と蓋は接着されておらず、指で押すと、蓋の内側の鋭利な縁に触れてしまう構造で、蓋の内側の縁は全周にわたって鋭利な状態でした(図表II-1-2-12)。

筆箱の縁部の鋭さについて定めた国内規格はないため、国民生活センターでは、日本の玩具安全基準(ST基準(注16))及び米国の安全規格(UL規格(注17))を準用して、縁の部分の鋭利さを調べました。その結果、当該製品及び同型品は、「人体傷害のおそれにつながる鋭い縁部」と判定されました。

このテスト結果を受け、発売元は当該製品の使用中止を呼び掛け、製品回収を開始しました。消費者庁では、消費者庁公式Twitterで注意喚起情報を発信するとともに、リコール情報サイトにも自主回収の情報を掲載しました。

マグネットボールに関する事故

マグネットボールとは「パズル」や「おもちゃ」、「玩具」等として販売されている球体等の磁石で、1個の大きさは直径3mmから30mm程度、磁力を利用して、複数個をつないで、平面的、立体的にいろいろな形を作って遊ぶことができるという商品です(図表II-1-2-13)。

2018年1月、「医師からの事故情報受付窓口(ドクターメール箱)」及び医療機関ネットワーク(本節(2)参照)に、幼児が複数のマグネットボールを誤飲し、消化管に穴があき、開腹手術等したとの事故情報が2件続けて寄せられました。いずれもネオジム磁石をうたう強力な磁力のマグネットボールを複数個誤飲したもので、磁石同士が引き合って腸壁を挟んでとどまり、腸壁に穴をあけていたものを開腹手術により摘出したというものでした(図表II-1-2-14)。

医療機関ネットワークには、上記のマグネットボールの事例を含め、子供が磁石を誤飲した、又は誤飲したと思われる事故情報が124件寄せられています(2010年12月以降2018年3月末日までの伝送分)。

こうしたことを受け、国民生活センターでは、マグネットボールに関するテストを行い、その結果を公表しました(注18)

事故品のマグネットボールはいずれもインターネット通販で購入したものでした。事故品と形状が類似していた商品及びインターネット通販の大手ショッピングモールにおける検索で上位に表示されたもの等から32サイトについて調査したところ、30サイトには子供の誤飲等に関する注意表示はありませんでした。

上記32サイトで販売されていたマグネットボールのうち、事故品と大きさや形状の類似する7銘柄をテスト対象として選定し、参考品として、ホワイトボード等に用いるフェライト磁石を含め、磁石の形状や強さなどについてテストを実施しました(図表II-1-2-15)。その結果、マグネットボールは、2個を近づけたとき、参考品のフェライト磁石と比較して、距離が遠くても引き寄せられるものでした。また、マグネットボールが大きい場合や、複数個連なった場合には、引き離すのに必要な力は大きくなるため、誤飲した場合に腸壁を挟んでとどまる危険性が高まると考えられました(図表II-1-2-16図表II-1-2-17)。

国民生活センターでは、マグネットボールによる事故について注意喚起を行い、消費者に対して、1強力な磁力のマグネットボールを玩具として子供に与えないこと、2万が一誤飲した可能性がある場合には、医師の診断を受けること、事業者に対しては、1マグネットボールを、子供向けの玩具として販売しないこと、2対象年齢や警告内容を明確に記載すること等を要望しています。さらに、インターネットショッピングモールの運営事業者に対して、マグネットボールが子供向けの玩具として販売されないよう出品者の指導及び適切な管理の協力を依頼しました。

高齢者の身の回りの事故

消費者庁では、事故情報データバンクでも複数の事故事例がみられる高齢者(65歳以上)の事故防止の取組を進めるため、厚生労働省「人口動態調査」の調査票情報及び東京消防庁「救急搬送データ」を基に高齢者の事故の状況について分析し、1高齢者の転倒・転落(2018年9月12日)(注19)、2不慮の溺死及び溺水(同年11月21日)(注20)、3不慮の窒息(同年12月26日)(注21)の3点について、それぞれ注意喚起を行い、事故防止のためのポイントを発信するとともに(図表II-1-2-18)、注意を呼び掛けるチラシを作成しました(図表II-1-2-19)。

(参考)高齢者の「不慮の事故」の実態--厚生労働省「人口動態調査」--

65歳以上の高齢者の「不慮の事故」による死亡者数は、2010年に30,000人を超えて以降、毎年30,000人以上となっています(図表II-1-2-20)。

また、「自然災害」、「交通事故」を除いた「不慮の事故」の死亡者数も増加傾向にあり、総死亡者数に占める高齢者の割合は、8割以上となっています(図表II-1-2-21)。

高齢者の「不慮の事故」による2007年から2016年までの死亡者数を死因別に比較すると、「誤嚥等の不慮の窒息」、「転倒・転落」、「不慮の溺死及び溺水」の3つによる死亡者数は、「交通事故」よりも多くなっています(図表II-1-2-22)。2007年から2016年までの10年間で「交通事故」や「煙・火災等」による死亡者数が減少しているのに対し、「誤嚥等の不慮の窒息」、「転倒・転落」、「不慮の溺死及び溺水」による死亡者数は増加しています。


  • 注12:消費者庁・国民生活センター「電池の発熱、液漏れ、破裂に注意しましょう!--災害用の懐中電灯やラジオの点検を--」(2018年7月20日公表)
  • 注13:ここでは、アルカリ乾電池、マンガン乾電池、ボタン電池などの使い切りの電池をいう。
  • 注14:消費者庁「消費生活用製品の重大製品事故に係る公表について」(2018年8月10日公表)
  • 注15:国民生活センター「鋭利な縁で指先を切った筆箱--すぐに使用を中止し、危険な縁部に絶対に触れないでください--」(2018年8月16日公表)
  • 注16:「ST基準」...STシャープエッジテスト専用器具に設けられた回転軸の先端に粘着PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)テープを1回巻き付け、力(6N、0.61kgf)を加えながら、調べたい縁部に沿って360°回転させ、テープに生じた切り口の長さを測定する。 判定基準:テープに50%を超える切れ目が確認された場合は、その縁部は"潜在的に危険な縁部"とみなす。
  • 注17:「UL規格」...ULシャープエッジテスト専用器具の先端に既定の3層テープ(内側から1.6mm厚の黒色ビニールフォーム、0.8mm厚の白色ビニールフォーム、0.076mm厚の粘着PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)テープ)を巻き付け、力(6.7N、0.683kgf)を加えながら、調べたい縁部に沿って往復させ、テープに生じた切り口を観察する。 判定基準:外側2層のテープを貫通する切り傷が生じている場合、"人体傷害のおそれにつながる鋭い縁部を持っている"とみなす。
  • 注18:国民生活センター「強力な磁石のマグネットボールで誤飲事故が発生--幼児の消化管に穴があき、開腹手術により摘出--」(2018年4月19日公表)
  • 注19:消費者庁「御注意ください!日常生活での高齢者の転倒・転落!--みんなで知ろう、防ごう、高齢者の事故1--」(2018年9月12日公表)
  • 注20:消費者庁「冬季に多発する入浴中の事故に御注意ください!--11月26日は『いい風呂』の日--みんなで知ろう、防ごう、高齢者の事故2」(2018年11月21日公表)
  • 注21:消費者庁「御注意ください、高齢者の窒息事故!--お正月の餅の窒息に注意--みんなで知ろう、防ごう、高齢者の事故3」(2018年12月26日公表)

担当:参事官(調査研究・国際担当)