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第1部 第3章 第3節 消費者政策の更なる進化に向けて

第1部 【特集】消費者庁及び消費者委員会設立10年~消費者政策の進化と今後の展望~

第3章 今後の消費者政策の在り方についての展望

第3節 消費者政策の更なる進化に向けて

今後の消費者政策は、消費者からの以上のような要請に応えるために、消費者をめぐる様々な諸課題に対して積極的に挑戦し、着実に成果を上げていく必要があります。今後、消費者問題はこれまでにも増して多様化・複雑化していくことが見込まれることから、消費者行政の一元化を通じて整備あるいは蓄積してきた制度や知見に加えて、新たな発想や手法も交えて取組を進めていくことが重要といえます。

今後の消費者政策の推進に関する基本的考え方

今後の消費者政策を推進する上での留意点として、高齢化に伴う社会保障関連支出の増加等を背景として、財源の制約がますます厳しくなることが挙げられます。他の行政分野と同様、消費者政策の推進に投入できる行政資源には一定の制約が存在しており、対応すべき政策課題の増加に合わせて真に必要な体制の拡充を図っていくことは必要であるものの、組織や予算を際限なく増やしていくことは現実的ではないと考えられます。

このような人的・財源的制約の中で、政策効果を最大限に高めていくためには、政策の優先順位付け、政策手段の割当ての最適化や施策間の連携、他の関係機関・団体等との連携・協力、関係団体等の積極的な協力を引き出すためのインセンティブの活用等、消費者政策を実施する上での行政手法を工夫していくことが必要です。

行政手法別にみた消費者政策の主な類型としては、1規制的手法(行政規制、各種ルールの整備等)、2支援的手法(消費生活相談、注意喚起、消費者教育、情報提供、消費者団体の活動支援等)、3協働促進的手法(エシカル消費、消費者志向経営の推進等)が挙げられます。これらを適切に組み合わせることにより、消費者政策による効果を向上させていくことが必要です(図表I-3-3-1)。

この際、消費者問題は人々の日々の生活に関わるものであり、全ての課題に対して行政のみで対応することには限界があることから、社会保障や防災等の分野での議論と同様に、「自助」、「共助」、「公助」の役割分担、連携が必要となります。このような点を踏まえると、消費者政策としては、消費者行政の基盤(インフラ)となる制度整備(一元的な消費者行政・消費生活相談窓口の整備、消費者関連法制の整備・執行等)、消費者トラブルに巻き込まれやすい消費者の保護、消費者の自立支援、家族や地域社会による見守り・助け合いの促進、消費者団体や事業者団体等の活動支援等が重要になると考えられます。

また、消費者保護、消費者の自立支援に加えて、SDGsの目標12「つくる責任、つかう責任」と関連して、消費者や事業者の社会的責任の自覚を喚起するとの視点も今後重要になるものと考えられます。

以下では、これらを踏まえて、消費者政策の具体的な方向性について整理していきます。

技術革新等に伴う新たな消費者問題への対応

新しい技術やビジネスモデルの出現に伴って生じる課題のうち、消費者に関する問題に対応するためには、これまでに整備した消費者関連法制等を有効に活用するとともに、既存の法制等では対応できない部分については、府省庁横断的な観点から政策の企画立案を行い、必要に応じ、制度の整備を図ることが求められます。

例えば、PFビジネスについても、既存の業法等が対応・想定していない要素が多く含まれており、このような新たなビジネスモデルに対する適切な規律付けの在り方を検討することが必要です。2018年7月から、関係省庁等において、競争政策、情報政策、消費者政策等の観点から、デジタル・プラットフォーマーをめぐる取引環境整備に関する検討が行われた(注87)ほか、消費者委員会においても、消費者保護の観点から同様の問題について調査審議を行い、2019年4月に提言を発出しました(注88)。消費者行政としても、このような新たな課題に対応するための取組を進めていくことが必要になります。

この際、新たな技術やビジネスモデルが経済の活性化や消費者の利便性向上を促す上で大きなポテンシャルを有していることを踏まえ、規制の導入が新たなイノベーションの芽を摘んでしまうことのないよう、ビジネスの振興と利用者保護との間で適切なバランスを図ることが重要です。このため、行政規制や民事ルールによる法規制と事業者団体による自主規制ルール等を適切に組み合わせることも考えられ、技術革新やビジネスの動向、消費者被害の状況等に速やかに対応可能な、柔軟で実効性のある枠組みの構築が重要となります。

消費者被害に遭いやすい消費者の保護・救済

高齢者や若者、障害者等の消費者被害に遭いやすい消費者を保護することは、消費者政策において優先度の高い課題といえます。悪質な事業者に対する迅速かつ厳正な法執行を始めとして、消費者行政が有するあらゆる手段を活用して、守るべき消費者をしっかり守ることが必要です。

その際に基本となるのは、消費生活相談窓口へのアクセスをより良くして、誰もが相談しやすい環境を整備することです。そのため、消費者ホットライン(188)の認知度向上に一層取り組むとともに、自ら相談しにくい人向けのアウトリーチ型の相談支援、相談窓口へのAIの導入、対面や電話相談がしにくい人向けのチャットやSNS等文字による相談対応等、多様化・複雑化する消費者問題にきめ細かく対応するための機能向上、体制強化を図っていくことへの要請が高まっています。

また、潜在的な消費者被害を把握するためには、行政による対応だけでは限界があり、関係機関・団体や地域の関係者との連携・協力が不可欠です。特に、現時点では、低い水準にとどまっている消費者安全確保地域協議会の設置率(2019年3月末時点で209自治体)が大きな課題といえます。各地域における福祉、医療、警察、消防・防災等の関係部局や関係団体、法律家等の専門職団体や消費者団体、NPO、事業者等の関係者による連携・協力体制を整備することにより、孤立しがちな消費者をしっかりと見守り、消費者被害を抑止していく必要があります。消費者庁や各地方公共団体の消費者行政担当部局は、消費者行政の推進主体として、消費者被害に遭いやすい消費者を把握し、保護するための仕組みの整備や、関係者間の連携・協力体制の構築において、リーダーシップを発揮していかなければなりません。

さらに、被害に遭ってしまった消費者を救済するための仕組みの実効性を向上することも重要です。そのためには、消費生活相談窓口における事業者とのあっせん、国民生活センター等における裁判外紛争解決手続(ADR)、オンラインでの裁判外紛争解決手続(ODR)、特定適格消費者団体が行う被害回復裁判手続等を活用していくことも有効な手段といえます。

なお、訪日外国人旅行者や日本に在留する外国人も、言語や生活習慣の違い等から、消費者トラブルに巻き込まれやすい消費者と位置付けられます。国民生活センターの「訪日観光客消費者ホットライン」の機能向上、各地方公共団体の消費生活センター等における外国人からの相談への対応能力向上等を通じて、外国人の消費者被害の抑止・救済にも対応することが求められます。

消費者の自立支援と社会的責任の自覚の促進

消費者被害の抑止を図る上で最も効果的な方法の一つは、消費者教育等により、消費者が自主的かつ合理的に行動できる自立した消費者になるよう支援することです。特に、2022年4月からの成年年齢の引下げを控えて、若年者の消費者被害の防止・救済のため、また、自主的かつ合理的に社会の一員として行動する自立した消費者の育成のため、実践的な消費者教育の実施が喫緊の課題となっており、学校教育等を通じ、消費者教育が確実に実施される環境を整備する必要があります。

全国で実践的な消費者教育を行うためには、国及び地方公共団体において、多様な関係機関との連携・協働の下に、効果的に取組を推進することが重要です。そのためには、消費者行政の司令塔である消費者庁と、教育行政を担っている文部科学省との緊密な連携を前提に、全国の消費者行政部局、教育委員会を始めとした教育部局や学校の教員、消費者問題の専門家である消費生活相談員や消費者団体、また、弁護士等の消費生活に関わる専門知識を有する人材との連携・協働を図ることが重要です。そのため、地域の多様な主体間のネットワーク化を図り、連携・協働を実現するための結節点としての役割を担う消費者教育推進地域協議会の設置を推進し、また、消費者安全確保地域協議会による見守り活動とあいまって、地域における消費者教育に関わるあらゆる主体間の連携関係を構築することが重要といえます。

また、近年においては、事業者や行政等に対する消費者の過剰な要求が問題とされる例も多く、このような課題の解決に当たって、公正で健全な市場への参加者という自覚を促す消費者教育の役割に期待する意見もあります。

さらに、消費者教育は、消費者市民社会の形成に参画し、その発展に寄与することができる消費者の育成を目指し、行われるものです(注89)。つまり、消費者の日々の意思決定や行動が、総体として経済社会の発展や持続可能な社会を形成する上で大きな役割を果たすことを認識し、社会の一員として行動する消費者を育成するものです。この点で、SDGsの目指す「誰一人取り残さない」持続可能な世界を実現するためには、全てのステークホルダーが共通の目標を共有し、連携して行動することが必要であることが、SDGsの目標17(注90)に示されています。同様に、誰にとっても等しく豊かな消費社会を構築するためには、消費者、事業者、地方公共団体、国等の全ての関係者が連携して協働することが重要であり、この中でも、消費者自身の「当事者」としての自覚と行動が重要であることに目を向けるのが、「消費者市民社会」の概念です。SDGsが目指す持続可能な社会、すなわち消費者市民社会の実現に向けては、エシカル消費の普及・啓発を含む消費者教育の取組を積極的に推進していくことが必要です。

消費者、事業者、行政間の信頼向上、連携・協働の促進

消費者政策上、消費者と事業者は対概念として議論されることが多いですが、実際の社会生活においては両者の利益が一致する点は多いといえます。健全な市場の実現による消費者の安全・安心の確保、消費の拡大による経済の好循環の実現等は、多くの良識的な消費者、事業者が共有する重要な価値の一つであり、このような共有価値の実現・拡大のために、消費者、事業者、行政間の信頼向上、連携・協働の促進を図っていくことが重要です。このような官民連携は、人的資源や専門的知見等において行政資源の制約に直面する消費者行政を制度的に補完するものであり、民間の力を活用しながら消費者政策をより充実させる有効な方法といえます。

今後、SDGsの実現が大きな政策課題となる中で、従来からの規制的手法による政策よりも、支援的手法や協働促進的手法の方が問題解決に資する場面が増えてくることも考えられます。SDGsの実現を軸として、消費者(団体)、事業者(団体)、行政等の関係者が、中長期的な視点から実現すべき消費者政策上の共通価値を設定し、その実現に向けて積極的に連携・協働することが求められます。

このような取組による効果を高めるためには、消費者や事業者による自主的な行動や消費者政策への協力を引き出すための仕組み、インセンティブの在り方が重要となります。このために有効な手段の一つとして、エシカル消費と消費者志向経営の一体的な推進が挙げられます。消費者が社会的責任を自覚して、自主的かつ合理的な選択(エシカル消費等)を行うためには、消費者にとって安全・安心な商品・サービスを、事業者が持続可能な生産・流通方法で提供することが必要です。このように社会的責任を自覚し、消費者全体の視点を持った経営(消費者志向経営)を行っている事業者が、消費者を始めとする社会全体から評価され、企業価値が高まるという好循環の仕組みを作っていくことが求められます。

また、公益通報者保護制度の普及は事業者による法令遵守を促す上で有効な手段です。特に、事業者におけるコンプライアンス経営の推進や安全・安心な商品・サービスの提供を通じた健全な事業遂行を確保する上では、内部通報制度が重要な要素となります。そこで、民間事業者向けガイドラインにのっとり実効性の高い内部通報制度を適切に整備・運用している事業者が、消費者や投資家等のステークホルダーから高く評価される社会環境の醸成に資する仕組みとして、2019年2月から内部通報制度認証(自己適合宣言登録制度)を導入したところであり、今後、同制度が事業者によって積極的に活用されることが望まれます。

これらの仕組みを、中小企業を含む事業者全般に普及・促進することにより、事業者における自主的取組や自浄作用の発揮が進み、消費者政策の目的の達成に貢献することが期待されます。

国際的な連携・協力の強化

これまで、専ら国内的な観点から課題を検討してきましたが、消費者政策の更なる進化を図っていくため、今後も継続的に、国際機関における議論や海外の主要国における消費者政策の動向に目配りしていくことが必要です。

消費者庁は、長年にわたり、経済開発協力機構(OECD)の消費者政策委員会(CCP)副議長国の一国を務めているほか、下部機関の製品安全作業部会においては、2016年から2018年まで議長を務め、各国の消費者政策の動向について情報収集を行うとともに、国際的な議論に積極的に参加しています。このような国際的議論や各国の政策には日本の消費者政策の企画立案にも参考となる貴重な情報が多く含まれています(注91)。こうした先進的な取組に学び、消費者政策の企画立案にいかしていくこと、すなわち世界の「ベストプラクティス」に学ぶ姿勢が今後ますます重要になると考えられます。

また、日本の消費者政策についても、消費生活相談窓口を通じた相談対応や一元的な情報収集等、他国に誇れる取組を、積極的に発信していくことが重要です。

このような業務を着実に行うためにも、海外政府・機関との連携・協力、国際業務に携わる人材の育成や体制強化が重要となります。

なお、2019年に開催されるG20サミット首脳会議(注92)(6月、大阪市)のサイドイベントとして、G20消費者政策国際会合(9月、徳島市)を開催することとしており、このような機会を捉えて、日本の消費者政策を世界に向けて積極的にアピールしていくことも必要です。

むすび

今後の消費者政策は、以上のような方向に沿って推進することが求められますが、より具体的には、2020年度からの「第4期消費者基本計画」において、示していくこととなります。第4期消費者基本計画では、EBPM(注93)の考え方を踏まえつつ、消費者政策のこれまでの成果と課題について十分な検証・評価を行い、新たな消費者問題に対する方策についても検討した上で、次の5年、更に10年の消費者政策の指針となる、明確なビジョンを提示することが求められます。

消費者庁及び消費者委員会は、2019年9月に設置から10周年を迎えますが、これを企業経営の局面に例えるならば、創業期を終えて成長期に差し掛かったところにあるといえます。創業期においては、新組織立ち上げ時の勢いや所要の体制整備を行うための政策的な配慮等により発展することも可能でしたが、成長期においては、その実力によって、活路を切り拓いていくことが求められます。

消費者政策の更なる充実・発展を図っていくためには、政策の企画立案能力を向上するとともに、消費者による消費者政策への理解・後押しが不可欠であるといえます。

消費者政策の推進に対する消費者からの後押しを高めるためには、消費者政策が消費者の生活に身近で、日々の生活の向上に非常に役立つものであることについて十分な周知を行い、消費者の理解を高めていくことが必要です。そのために、消費者との双方向のコミュニケーションを密にして、その真のニーズを的確に把握するとともに、消費者政策による具体的なメリットを分かりやすく発信していくことが必要です。

今後の消費者行政が目指すべき姿を、分かりやすく、あえて端的にいうならば、

・消費生活に関する情報が、例えば天気予報のように、消費者の暮らしに深く浸透すること

・消費者トラブルが起こった際には、例えば110番や119番のように、頼られる存在になること

・また、消費者の観点から、経済の好循環やSDGs等社会的に重要な政策目標の実現に向けて積極的に貢献し、存在感を発揮すること

であるといえます。消費者庁及び消費者委員会は、このように消費者に身近で、真に必要とされる消費者行政の実現を目指します。

図表1-3-3-1消費者政策における行政手法の類型


  • 注87:経済産業省、公正取引委員会及び総務省は、2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」において、プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備のために、基本原則を定め、これに沿った具体的措置を早急に進めるべきものと定められたことを踏まえ、学識経験者等から成る「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」を2018年7月に立ち上げて、同検討会によって取りまとめられた中間論点整理を踏まえ、同年12月に「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」を策定した。その後も同検討会における検討が行われ、2019年5月に「取引環境の透明性・公正性確保に向けたルール整備の在り方に関するオプション」及び「データの移転・開放等の在り方に関するオプション」が取りまとめられ公表された。
  • 注88:2018年4月に「オンラインプラットフォームにおける取引の在り方に関する専門調査会」を設置。消費者委員会として、「プラットフォームが介在する取引の在り方に関する提言」を発出。
  • 注89:消費者教育推進法第2条第1項、第2項
  • 注90:.SDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」
  • 注91:例えば、OECDでは、2016年、電子商取引の急速な拡大やSNSの普及等の進化を踏まえて、「電子商取引における消費者保護に関するOECD理事会勧告」を改訂し、この実効性を確保するため、オンライン広告のグッドプラクティスガイドを策定したほか、オンラインの消費者レーティング及びレビュー等についてもグッドプラクティスガイドを策定するため議論が行われている。また、安全面においては、製品リコールに行動洞察の知見を活用するためのポリシーガイダンスについて議論が行われている。
  • 注92:正式名称は「金融世界経済に関する首脳会合」
  • 注93:Evidence-Baced Policy Makingの略。証拠に基づく政策立案を指す。

担当:参事官(調査研究・国際担当)