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第1部 第2章 第4節 (1)消費者の意識からみた消費者政策の評価

第1部 【特集】消費者庁及び消費者委員会設立10年~消費者政策の進化と今後の展望~

第2章 消費者庁及び消費者委員会の10年

第4節 これまでの取組の評価と課題

(1)消費者の意識からみた消費者政策の評価

消費者政策の目的は、消費者の安全・安心を確保し、消費者の自主的かつ合理的な選択の機会を確保するとともに、そのために必要な情報や教育の機会を消費者に提供することです。併せて、消費者の意見を消費者政策に反映し、被害が生じた場合には適切かつ迅速に救済されるような制度・環境を整備することが重要な役割となります。

消費者庁では、消費者の日常生活における意識や行動等を把握し、消費者政策の企画立案にいかすことを目的として、2012年度から毎年「消費者意識基本調査」を実施しています。ここでは、その調査結果の中から、関連する項目を分析すること等により、最近の消費者政策の成果についての評価と課題を示していきます。

消費者を取り巻く状況についての評価

「消費者意識基本調査」では、自身を取り巻く消費生活に関する状況をどのように受け止めて評価しているかを聞いています。この結果から、消費者からみて消費者政策の目標がどの程度実現していると考えられているのかを詳しくみていきます(図表Ⅰ-2-4-1)。

同調査を開始した2012年度と2018年度の結果を比較すると、「当てはまる」(「かなり当てはまる」+「ある程度当てはまる」。以下同じ。)という肯定的な回答の割合は、多くの項目で増加傾向となっています。

「流通している食品は安全・安心である」は47.4%から60.2%、「流通している商品(食品以外)や提供されているサービスは安全・安心である」は43.0%から57.0%、「事業者間で価格やサービスの競争が行われている」は58.1%から68.5%と、割合が増加しています。特に、「地方公共団体の消費生活センター又は消費生活相談窓口は信頼できる」は29.8%から49.7%と約1.7倍に増加しています。

また、「悪質・詐欺的な販売行為等を心配せず安全に商品・サービスを購入・利用できる」は28.1%から36.2%、「商品等の表示・広告の内容は信用できる」は29.3%から36.2%、「行政から消費者への情報提供や啓発が十分になされている」は18.0%から22.3%と、若干の増加となっています。

食品を始めとする商品・サービスの安全性については、過半数の消費者が肯定的な評価をしており、なおかつそのような回答が増えていますが、これは、消費者政策の推進や、何よりも多くの健全な事業者によるたゆまぬ努力によるものと考えられます。事業者間における価格やサービスの競争についても、商品・サービスの安全・安心と同様の傾向を示しています。しかし、いずれの項目についても否定的な評価をする消費者が一定数存在するほか、「どちらともいえない」とする回答も3割前後を占めており、現在の消費者からの評価に満足することなく、更なる取組が必要です。

他方、商品・サービスの取引の安全性や表示・広告の適正性については、肯定的な評価の増加幅が小さく、否定的な評価も20%以上存在するなど、安全性に関する項目に比べて、相対的に消費者の評価が低い水準となっていることが分かります。一部の悪質な事業者による消費者被害が次々に発生していることや、店舗やインターネット上等で不適切な表示・広告が散見されること等が要因と考えられます。

地方公共団体の消費生活センターや消費生活相談窓口の信頼性については、消費者庁が地方消費者行政の充実と消費生活センター・相談窓口の整備に積極的に取り組んだことを背景に、大幅に向上したことがうかがえます。しかし、その一方で、行政から消費者への情報提供や啓発の面では否定的な評価が肯定的な評価を上回っており、消費者政策に関する効果的な広報の在り方や、消費者とのコミュニケーションの強化が今後取り組むべき大きな課題であると考えられます。

消費者政策についての評価

「消費者意識基本調査」では、消費者庁が推進してきた取組について知っているかを聞いています。2012年度調査と2018年度調査を比べると、いずれの取組についても知っているという割合は大きく増加しており、2009年の設置から約10年間取り組んできたことが消費者に浸透しつつあることが分かります(図表Ⅰ-2-4-2)。

2018年度の調査結果をみると、「食品表示ルールの整備」、「偽装表示や誇大広告等、商品やサービスについての不当な表示の規制」、「悪質商法等の消費者の財産に関わる被害についての情報発信」では4割以上の消費者に認知されている一方、「消費生活センター等、地方における消費者行政の取組の推進」、「消費者教育や消費生活に関する普及啓発」、「公共料金等の決定過程の透明性及び料金の適正性の確保」、「食品と放射性物質に関する説明会やセミナー等のリスクコミュニケーションの実施」では3割以下の認知度にとどまっています。また、「いずれも知らなかった」との回答も4割近くに上っており、消費者庁の個々の取組が必ずしも多くの消費者に認識されていないことがうかがえます。

さらに、消費者庁が推進してきた上記の取組を知っていると回答した消費者に対して、その取組をどのように評価するかを聞いたところ、「食品表示ルールの整備」、「悪質商法等の消費者の財産に関わる被害についての情報発信」、「消費者の生命・身体に関する事故の原因調査」、「偽装表示や誇大広告等、商品やサービスについての不当な表示の規制」、「消費者の生命・身体の安全に関する情報発信」では過半数の人が肯定的な評価(「十分な取組がなされている」+「ある程度取組がなされている」。以下同じ。)をしている一方、「消費者の利益を守るための制度作り」、「消費生活センター等、地方における消費者行政の取組の推進」、「消費者教育や消費生活に関する普及啓発」では4割以下、「公共料金等の決定過程の透明性及び料金の適正性の確保」、「食品と放射性物質に関する説明会やセミナー等のリスクコミュニケーションの実施」では3割以下にとどまる結果となりました(図表Ⅰ-2-4-3)。

施策の内容や性質によっては、消費者に認知されやすいものとそうでないものがあることや、取組の評価についても施策の認知度や調査時点の社会経済情勢に影響される面があることに留意が必要ですが、いずれにしても消費者庁が推進している取組について、効果的な周知・広報の在り方を検討するとともに、より多くの消費者に知ってもらうため一層の努力を続けることが必要です。

さらに、消費者問題に対する国の施策として望むことについて聞いたところ、回答の割合の高い順に、「消費者の窓口である国民生活センター、消費生活センターの充実を図る」(54.2%)、「高齢者、障がい者など被害に遭いやすい人たちへの地域の見守りを支援する」(53.7%)、「消費者被害・トラブルなどについての情報提供を充実する」(50.6%)、「消費者の視点から消費者を守る行政機関である消費者庁の充実を図る」(46.1%)などとなっています(図表Ⅰ-2-4-4)。

選択肢等が若干異なることから厳密な比較は難しいものの、消費者庁設置前に実施された内閣府の「消費者行政の推進に関する世論調査」(2008年)と比較してみると、消費者問題に関する各施策への要望は、総じて高まっている傾向にあるといえます。

以上のように、消費者問題に関する各施策への要望は高まる傾向にある一方で、内閣府の「国民生活に関する世論調査」における国に対する政策要望に関する質問への回答をみると、消費者の日々の生活に直結しているといえる「物価対策」については、2018年の調査結果において、31項目中6位と上位を占めているものの、「消費者問題への対応」については21位と低い水準にとどまっており、過去の推移をみても10%から20%の間にとどまっています(図表Ⅰ-2-4-5)。

この調査結果の解釈としては、1消費者政策は、上位を占める社会保障や高齢社会対策等の分野と比べて、相対的に課題が少ないことによるものとの見方がある一方、2消費者政策の重要性や有効性等について、現状としては、消費者に十分に理解されているとはいえない状況であることによるものとの見方もあり得ます。

消費者政策への関心が低い水準にとどまっているのは、上記の両方の要因によるものと考えられますが、いずれにしても消費者政策の推進に対する消費者からの後押しを高めるためには、消費者政策が消費者の生活に身近で、日々の生活の向上に非常に役立つものであることについて十分な周知を行い、消費者の理解を高めていくことが必要です。そのために、消費者との双方向のコミュニケーションを密にして、その真のニーズを的確に把握するとともに、消費者政策による具体的なメリットを分かりやすく発信していくことが必要です。

担当:参事官(調査研究・国際担当)