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第1部 第2章 第2節 (2)地方消費者行政の充実及び消費生活相談体制の整備

第1部 【特集】消費者庁及び消費者委員会設立10年~消費者政策の進化と今後の展望~

第2章 消費者庁及び消費者委員会の10年

第2節 消費者庁のこれまでの取組

(2)地方消費者行政の充実及び消費生活相談体制の整備

地方消費者行政の体制強化

地方消費者行政の現場では、消費生活センターを中心に、関係者が協力して消費者の安全・安心の確保のための様々な取組を行っています(図表I-2-2-8)。例えば、消費者トラブルに遭った消費者からの苦情・相談を受け付け、解決のためのアドバイスや事業者との間に立ったあっせんを行うほか、消費者トラブルに関する最新の情報等についての普及・啓発や悪質事業者に対する法執行を行うことにより、消費者被害の未然防止・拡大防止のための取組を行っています。さらに、持続可能な社会の構築を担う自立した消費者の育成を行うなどの取組も徐々に進んでいます。

消費者庁の設置当初は、長年にわたる地方の消費者行政の縮小傾向に歯止めをかけ、一定の水準への底上げを図ることが課題と指摘されていました。こうした状況の中、2008年度に地方消費者行政活性化交付金により各都道府県に「地方消費者行政活性化基金(以下「基金」という。)」を造成し、2009年度から2011年度までの3年間を地方消費者行政の「集中育成・強化期間」と位置付け、主に、「消費者教育・啓発事業」、「相談員配置・増員等(人件費)」、「消費生活センター・相談窓口設置」の体制整備事業に活用されました(注27)。その後、2013年に「地方消費者行政に対する国の財政措置の活用に関する一般準則」を策定して交付金の活用期間についての原則を定めるとともに、2014年度補正予算からは、政府方針(注28)を踏まえ、基金による支援を単年度の交付金である「地方消費者行政推進交付金」として2017年度までに累計約540億円を措置し、消費生活センターの設置や消費生活相談員の増加等の地方消費者行政の充実が行われました。

同時に、地方消費者行政は自治事務として位置付けられており、地方公共団体において安定的な取組が可能となるよう、消費者行政の推進に係る地方交付税措置が消費者庁設置前の2008年度の約90億円から2018年度には約270億円まで増額されました。これにより、地方消費者行政の推進に充てられている地方の一般財源が徐々に拡大し、交付金による取組と相まって地方消費者行政が充実していくことが期待されたところですが、2017年度まで自主財源が約120億円程度で横ばいとなっており、地方の一般財源に裏付けられた消費者行政予算による地方の自主的、安定的な取組への移行には課題が残っています。

また、2017年度には、「地方消費者行政推進交付金」による新規事業立ち上げの最終年度を迎えましたが、2018年度からは、「地方消費者行政強化交付金」を創設し、これまでに整備してきた消費生活相談体制の維持・充実のための事業を引き続き支援するとともに、国として取り組むべき重要な消費者政策の推進に資する取組を支援しています。引き続き地方消費者行政の地方の一般財源による取組を促すとともに、交付金による支援を通じて、地方消費者行政の充実・強化を図ることとしています(図表I-2-2-9)。

2014年には、「地方消費者行政強化作戦」を定め、相談窓口のない地方公共団体(市町村)の解消や、消費生活センター設立の促進、消費者教育の推進、2014年に改正(注29)された消費者安全法の規定に基づく消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)の設置等の目標を掲げ、「どこに住んでいても質の高い相談・救済を受けられる地域体制」を全国的に整備することを目指してきました。2015年3月には、「地方消費者行政強化作戦」を改訂し、新たに消費者教育の推進、見守りネットワークの構築に関する目標を定めました(図表I-2-2-10)。

一元的な相談窓口の整備

消費者が日常生活において消費者トラブルに巻き込まれた場合には、行政機関が整備している専門的な窓口への相談(第2部第2章【別表2】消費者からの情報・相談の受付体制参照。)や事業者との直接交渉が解決方法として考えられますが、そのような状況で、適切な窓口や解決方法を冷静に判断することは、消費者にとって困難といえます。そのため、全ての消費者が何でも相談でき、誰もがアクセスしやすい一元的な消費者相談窓口の整備が重要となります。

消費者安全法において、都道府県に、消費生活センターを設置することが義務化(注30)(市町村については努力義務化)され、2015年度には消費生活相談窓口が未設置の地方公共団体がなくなり、2014年以来取り組んでいる「地方消費者行政強化作戦」の政策目標の一つである「相談体制の空白地域の解消」を達成しています(図表I-2-2-11)。

また、消費者庁では、消費生活センター等の消費生活相談窓口の存在や連絡先を知らない消費者に、近くの消費生活相談窓口を案内することにより、消費生活相談の最初の一歩をお手伝いするものとして、「消費者ホットライン」の運用を2010年から全国で開始しました。さらに、消費者による利用を促すため、2015年から、より覚えやすい、局番なしの3桁の電話番号「188(いやや!)」の運用を開始し、誰もがアクセスしやすい一元的な相談窓口を整備しています。消費者にとって消費者ホットラインがより身近でアクセスしやすいものとなるよう、2018年7月には、消費者ホットラインのイメージキャラクター「イヤヤン」を発表し、あらゆる機会において積極的に周知しています(図表I-2-2-12図表I-2-2-13)。

国民生活センターでは、各地の消費生活センターのバックアップとして、平日のみならず、土日祝日や災害時に相談対応をしています。特に、大きな災害が起こった際には、被災地域の相談窓口のバックアップや災害後に多発する悪質商法等への対応のため、特設ダイヤルを開設するなど、緊急時でも十分な相談体制が維持されるようにしています。

また、近年、インターネット通販等を通じた海外の事業者との越境取引をめぐる消費者トラブルが増加していることを受けて、消費者庁では、消費生活センター等における相談受付機能を補完するため、2011年に「消費者庁越境消費者センター」を開設しました。2015年から、相談体制を整備し、事業として恒常的に行うことを目的として、これを国民生活センターに移管し、「国民生活センター越境消費者センター(CCJ:Cross-border Consumer center Japan)」と名称変更して、引き続き活動を行っています。国民生活センターの有する消費生活相談への対応に関する豊富なノウハウや知見等を活用して、越境取引に関するトラブルについて、より円滑な解決に向けて取り組んでいます(相談件数等は、第2部第1章第3節(2)参照。)。

CCJでは、事業者が所在する国の消費者相談機関と連携して紛争解決の支援を行っています。連携している海外機関は、2018年度末時点で、24の国・地域を管轄する13機関となっています(図表I-2-2-14)。 さらに、訪日外国人旅行者については、東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年に4000万人、2030年に6000万人という目標が掲げられ(注31)、今後も増加することが予想されることを受け、消費者庁では、在留外国人等を対象とした消費生活相談体制の整備に取り組む地方公共団体を、「地方消費者行政強化交付金」により支援しています。また、国民生活センターでは、2018年12月に、日本を訪れた外国人観光客が、日本滞在中に消費者トラブルに遭った場合に相談できる電話相談窓口として「訪日観光客消費者ホットライン(Consumer Hotline for Tourists)」を開設しました。

消費生活相談員の位置付け向上

消費生活相談員は、消費生活センター・消費生活相談窓口の現場において消費者からの相談等に直接対応する重要な役割を担います。消費生活相談では、相談者から相談の内容を聞き取り、適切に対応し、時には事業者との交渉等も行うため、消費生活相談に必要な知識・技術はもちろん、経験の積み重ねも重要となります。そのほか、消費生活相談員には、消費者に近い立場からの普及啓発を行う役割もあります。

また、消費生活相談員の重要な役割の一つに、PIO-NET(注32)への消費生活相談情報の入力・登録業務があります。集約された消費生活相談情報は相談対応の際に参考になるのみならず、法執行の端緒や、消費者政策の立案に活用されています。このように、PIO-NETへの入力・登録は、消費者行政において重要な業務となっています。

しかし、これらの役割を担う消費生活相談員の採用形態をみると、常勤職員は2018年度でも2.0%となっており、また、一部の地方公共団体では、消費生活相談員のいわゆる「雇止め」が行われているなど、雇用上の地位が不安定であり、消費生活相談に必要な知識や経験が蓄積されにくいという問題が存在しています。そこで、消費者庁では、2014年の消費者安全法改正(注33)により、消費生活相談員の職及び任用要件等を法律上に位置付け、また、2014年6月に、消費者担当大臣及び消費者庁長官から地方公共団体の長宛てに「雇止め」の見直しを求める通知を発出するなど(注34)の対応をしています。

消費生活相談員の数は徐々に増えていますが、消費生活相談員それぞれの質の向上も重要な課題です。2014年の消費者安全法改正では、消費生活相談員資格試験の法定化(注35)や、消費者行政職員及び消費生活相談員に対する研修の実施、市町村に対する助言、協力その他必要な援助をする「指定消費生活相談員」制度の創設等が規定され、消費生活相談員の質の向上を目指しています(図表I-2-2-15)。


  • 注27:「地方消費者行政の充実・強化のための指針」(2012年)等も踏まえ、活性化事業の実施期間は、1年ずつ2回の延長を経て2013年度までの措置となった。
  • 注28:「経済財政運営と改革の基本方針2014」(平成26年6月24日閣議決定)
  • 注29:不当景品類及び不当表示防止法等の一部を改正する等の法律(平成26年法律第71号)
  • 注30:消費者安全法第10条
  • 注31:明日の日本を支える観光ビジョン構想会議「明日の日本を支える観光ビジョン」(2016年3月)
  • 注32:全国の消費生活センター・消費生活相談窓口や関係機関の間で相談情報を共有するPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)については、国民生活センターが運営し、適宜改修等を行い、相談業務の効率化等を図っている。PIO-NETには、全国で受け付けられた消費生活相談のデータが集約され、全国の消費生活相談員や行政機関が利用できるようになっている。
  • 注33:不当景品類及び不当表示防止法等の一部を改正する等の法律
  • 注34:そのほか、2015年には、平成26年改正消費者安全法の施行に伴う内閣府令により消費者安全法施行規則を改正し、地方公共団体が消費生活センターに関する条例の策定に当たって参酌すべき基準として、雇止めの見直しを含めた適切な人材及び処遇の確保に必要な措置を定めることを規定するとともに、「改正消費者安全法の実施に係る地方消費者行政ガイドライン」において消費生活センター以外の相談窓口に勤務される消費生活相談員に対しても同様の対応がなされるよう求めている。
  • 注35:法定資格である消費生活相談員の試験は、登録試験機関である国民生活センター及び一般財団法人日本産業協会により、両機関が行う独自の資格試験「消費生活専門相談員資格認定試験」(国民生活センター)、「消費生活アドバイザー資格試験」(日本産業協会)と兼ねる形で実施される。

担当:参事官(調査研究・国際担当)