文字サイズ
標準
メニュー

第1部 第2章 第1節 (4)新組織に期待された役割

第1部 【特集】消費者庁及び消費者委員会設立10年~消費者政策の進化と今後の展望~

第2章 消費者庁及び消費者委員会の10年

第1節 消費者庁及び消費者委員会の設立

(4)新組織に期待された役割

新組織についての基本的な考え方を示した「消費者行政推進基本計画」は、規制緩和等市場重視の施策が推進されるようになる中で、「安全安心な市場」、「良質な市場」の実現こそが新たな公共的目標として位置付けられるべきものとなったとした上で、それは競争の質を高め、消費者、事業者双方にとって長期的な利益をもたらす唯一の道であると指摘しています。

その上で、新組織の創設は、この新たな目標の実現に資するものであるとともに、政府がこれまでの事業者中心の施策や行政の在り方を「消費者の利益の擁護及び増進」、「消費者の権利の尊重及びその自立の支援」の観点から積極的に見直すという意味で、行政の「パラダイム(価値規範)転換」の拠点であり、消費者・生活者が主役となる社会を実現する国民本位の行政に大きく転換しなければならない、としています。

このため、新組織は何よりもまずこれまでの縦割り的体制に対して消費者行政の「一元化」を実現することを任務とし、そのために強力な権限と必要な人員を備えたものでなければならないとしています。

また、新組織は機動的に活動できる「賢い組織」として消費者行政における司令塔的役割を果たすことが求められますが、このためには地方公共団体との緊密な協力が必要であり、消費生活センターの強化充実を前提とした緊密な全国ネットワークが早急に構築されなくてはならないとしています。

さらに、新組織が「消費者の利益の擁護及び増進」のために継続的にその活動を強化充実させていくためには、消費者の声を真摯に受け止める仕組みの存在と消費者による強力な後押しが欠かせないほか、新組織の創設により消費者の更なる意識改革を促し、「消費者市民社会(注18)」の構築に向けた取組を進めることが必要であるとしています。

なお、このような新たな消費者行政の展開は、消費者に安全安心を提供すると同時に、ルールの透明性や行政行為の予見可能性を高めることにより、産業活動を活性化させるものであることも指摘されました。

「消費者行政推進基本計画」では、以上のような事項を新組織が果たすべき役割として示した上で、行政に対する消費者の信頼性を確保するために新組織が満たすべき6つの原則、すなわち、1消費者にとって便利で分かりやすい、2消費者がメリットを十分実感できる、3迅速な対応、4専門性の確保、5透明性の確保、6効率性の確保を提示しています(図表I-2-1-3)。

図表1-2-1-3消費者行政推進会議取りまとめで示された6原則


  • 注18:「消費者市民社会」は、「消費者行政推進基本計画」においては、「個人が、消費者としての役割において、社会倫理問題、多様性、世界情勢、将来世代の状況等を考慮することによって、社会の発展と改善に積極的に参加する社会」を意味するとされたが、その後、2012年に制定された消費者教育推進法において、「消費者が、個々の消費者の特性及び消費生活の多様性を相互に尊重しつつ、自らの消費生活に関する行動が現在及び将来の世代にわたって内外の社会経済情勢及び地球環境に影響を及ぼし得るものであることを自覚して、公正かつ持続可能な社会の形成に積極的に参画する社会」と定義された(同法第2条第2項)。

担当:参事官(調査研究・国際担当)