文字サイズ
標準
メニュー

第1部 第1章 第3節 消費者問題の概況

第1部 【特集】消費者庁及び消費者委員会設立10年~消費者政策の進化と今後の展望~

第1章 消費者を取り巻く環境の変化と消費者問題

第3節 消費者問題の概況

これまでみてきたように、少子・高齢化や人口減少等の社会構造の変化や規制改革等の政策的な要因、情報通信技術の高度化、国際化等により、消費者を取り巻く社会経済情勢及び消費者の消費生活は大きく変化してきました。本節では、消費者庁及び消費者委員会の設置以降を中心に、全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談の内容から消費者問題の動向をみていきます(注6)

消費生活相談件数は2004年にピークを迎え、その後も高水準で推移

これまで社会経済情勢やその時代の世相を反映して、様々な消費者トラブルや消費者問題が発生してきましたが、消費生活相談件数の推移からその特徴を把握することができます(図表I-1-3-1)。消費生活相談件数は、2004年にピークを迎えた後に一旦減少に転じましたが、その後も高水準で推移し、2018年には101.8万件と、11年ぶりに100万件を超えました(第2部第1章第3節(1)参照。)。2004年に大きく増加したのはワンクリック請求や振り込め詐欺等の架空請求に関する相談が急増したことによるものですが、同時に架空請求以外の相談の増加もみられます。

近年において相談件数が高止まりしている背景としては、地方公共団体等での消費生活相談の体制整備が進み、消費者トラブルについて相談しやすい環境が整ってきたことで、消費者トラブルが認知されやすくなったことがあると考えられますが、新たな消費者トラブルが次々と起こっていることから、引き続き消費者問題への対応が求められているとも考えられます。

消費者問題の主な変遷(消費者庁及び消費者委員会の設置以前)

日本では、1950年代から60年代の高度経済成長期を経て、人々は多種多様な商品等を手に入れることが可能となり、物質的に豊かな生活を享受できるようになりました。大量生産・大量販売・大量消費が広がる一方で、大規模な工場で生産された自動車や食品等に一たび欠陥が生じると、同種の被害が広範囲にわたり多発し、時には生命に関わる深刻な問題に発展するという現代的な消費者問題が起こり始めました(図表I-1-3-2)。

1980年代に入ると、社会経済の情報化、サービス化、国際化に伴い、消費生活の質的変化が進むにつれて、消費者問題の多様化・複雑化が指摘されるようになりました。クレジットカードが普及するとともに、いわゆるサラ金業者による過剰貸付、高金利、過酷な取立てによる「サラ金被害」が社会問題化するなど、多重債務問題への注目が高まりました。また、1985年に社会問題化した「豊田商事事件」(金の現物まがい取引)を始めとして、資産形成に関する問題や、販売方法に問題のある事業者が引き起こしたトラブルが多発するようになりました。

さらに1990年代以降は、社会経済の情報化や高齢化、国際化が急速に進み、消費者問題も、それまでの行政による規制や指導等では解決できない問題が発生するなど、新たな局面を迎えました。特に、2005年から2008年頃には、食の安全を脅かす事件や深刻な製品事故等が多発しました。こうした状況を背景に、国民の安全・安心を確保し、「消費者の利益の擁護及び増進」のために活動する新しい組織の創設が求められ、2009年9月の消費者庁及び消費者委員会の設置につながりました。

高齢化に伴い高齢者に関する相談の割合は増加傾向

高齢化の進行に伴い、65歳以上の高齢者に関する消費生活相談の割合は増えてきています(図表I-1-3-3)。高齢者は「お金」、「健康」、「孤独」の三つの大きな不安を持っているといわれており、投資勧誘トラブルや健康食品に関する相談等が多く寄せられる傾向にあります。

近年は情報通信技術の発展や情報通信機器(ICT機器)の普及に伴い、デジタルコンテンツや光ファイバー等のデジタル分野に関する高齢者のトラブルも増えてきています(第2部第1章第3節(1)参照。)。

詐欺的な手口に関する高齢者の相談として「架空請求」が近年急増

また、高齢者を狙った詐欺的な手口に関する相談の内容をみると、架空請求に関する相談が大きく増えています(図表I-1-3-4)。架空請求については、以前は電子メールを利用して不特定多数の人へ大量送付する手口が目立ちました。しかし、架空請求が社会問題化した以降は詐欺の防止策や注意喚起が広く行われたこともあり、2017年以降は、ここ数年は主流ではなかったはがきによるものが大きく増加しています。

また、近年は振り込め詐欺等の特殊詐欺(注7)が問題になっていますが、特殊詐欺の被害者は高齢者が多数を占めており(注8)、このことからも高齢者の消費者被害防止のための取組が求められているといえます。

通信サービスに関する相談は長期的には増加傾向

本章第2節でみてきたように、情報通信技術の発達に伴い、情報通信機器の普及が進むと同時に、通信サービスの高度化・複雑化も進展しています。インターネットや携帯電話、スマートフォン等の情報通信機器は消費者にとって身近なものとなってきましたが、他方で関連する消費者トラブルも生じてきています。

通信サービスに関する消費生活相談は2015年まで全体的に増加してきましたが、2016年以降は減少に転じています(図表I-1-3-5)。これは、2015年に光回線サービスの卸売が開始されたことにより、それに関連する相談が急増したことが要因の一つと考えられますが、2018年にあっても相談件数は依然として高水準にあり、通信サービスに関する相談は情報化の進展に伴い長期的には増えてきていることがうかがえます。

スマートフォンについては、近年の急速な普及を反映して関連する消費生活相談も増えてきています(図表I-1-3-6)。最近では高齢者からのスマートフォンに関する相談が増加傾向にあることから、スマートフォンを始めとした情報通信機器が全世代的に普及してきていることがうかがえます。

デジタルコンテンツに関する相談は足元では減少傾向

また、アダルト情報サイトやオンラインゲーム等のデジタルコンテンツに関する消費生活相談については、2015年にピークとなり、その後、減少傾向となっています。これは、デジタルコンテンツの相談の多くを占めていたアダルト情報サイトに関する相談が減少傾向にあるためですが、依然として全体の相談件数は多いことから、引き続きデジタル分野での消費者トラブルへの対応が求められていると考えられます(図表I-1-3-7)。

電子商取引に関する相談は増加傾向にあるも足元では減少している

電子商取引の市場規模の拡大に伴い、関連する消費生活相談も2010年と比べると増加しています。2015年以降、横ばいから減少傾向に転じていますが、これは相談の多数を占める「契約・解約」や「販売方法」に関する相談が落ち着いてきているためであり、信頼できる取引プラットフォームが整備されてきたことや、消費者側も契約や購入に際して慎重に対応するようになってきたこと等が要因として考えられます。

また、商品・サービス別にみると、デジタルコンテンツ等のサービスについては、近年は相談件数も落ち着きをみせていますが、商品に関する相談は増加傾向にあることが分かります(図表I-1-3-8)。これにはPF等を利用した電子商取引の市場の拡大も寄与していることが考えられるところ、当該市場は今後も拡大していくことが予想されることから、電子商取引に関する消費者トラブルへの対応もますます求められていくと考えられます。

SNSをきっかけとした相談は中高年層が大きく増加

SNSは若年層を中心に広まってきましたが、今や中高年層にも広く普及していると考えられます。SNSをきっかけとした消費生活相談の件数は、近年、40歳代から60歳代までの年齢層において大きく増加してきており、SNSに関連する消費者トラブルは必ずしも若年層のみの問題ではないことがうかがえます(図表I-1-3-9)。

SNSは便利なコミュニケーション手段や事業者のマーケティング手段として広く普及してきましたが、同時に悪質商法の勧誘等それを悪用する事業者の側にも便利なツールとなることから、SNSをきっかけとした消費者被害の防止の取組も求められていると考えられます。

決済手段の多様化に伴う消費生活相談

本章第2節でみたように、クレジットカードやデビットカード、電子マネー等のキャッシュレス決済の利用が増加していますが、これら「キャッシュレス決済」に関する消費生活相談の件数も2009年と比べて大きく増加しています(図表I-1-3-10)。

また、近年、支払・資金決済ツールや投資対象として利用される機会が増えてきている暗号資産(仮想通貨)に関しても、相談件数が2017年に急増しています(第2部第1章第4節(3)参照。)。相談の内容としては、暗号資産(仮想通貨)と関連付けた利殖商法や投資詐欺等の悪質商法に関するトラブルや、解約・返金等に関するトラブルがみられることから、投資に対する正しいリスク認識や知識を持つための金融教育、不適切な勧誘を行う悪質な事業者への対応も求められていると考えられます。

フリーローン・サラ金に関する相談は減少傾向

2010年の貸金業法等の改正による消費者金融への総量規制の導入等の規制強化を背景として、フリーローン・サラ金に関する消費生活相談件数も全世代的に減少してきています(図表I-1-3-11)。その一方で、近年は相談件数の減少幅が小さくなってきており、依然として一定数の相談が寄せられていることから、今後の動向を注視していく必要があると考えられます。

輸入品に関する相談は「契約・解約」についてのものが多い

本章第2節において、海外からの輸入品が増加し、国内でも浸透してきていることをみてきました。輸入品に関する消費生活相談について内容別の件数の推移をみると、全般的に2013年をピークに減少傾向にあります(図表I-1-3-12)。「品質・機能、役務品質」や「安全・衛生」等の輸入品の安全性や品質に関する消費者からの相談は減少傾向にあり、事業者側の努力により、より安全で品質の良い商品が取引されるようになってきたとも考えられます。

他方で、「契約・解約」や「販売方法」といった取引に関する相談件数については、海外の詐欺サイトで商品を購入しようとしたことによるトラブルの増加等を受けて2013年に急増しました。その後、「契約・解約」に関する相談件数は減少傾向にありますが、他の内容と比べて高水準で推移しています。

海外事業者との越境取引に関する消費者トラブル

国際化の進展に伴い、海外との越境取引も増加してきていますが、越境取引でトラブルに巻き込まれるケースも生じてきています。海外事業者との越境消費者取引でのトラブルに関する相談を受け付けている国民生活センター越境消費者センター(CCJ)に寄せられる相談は、ここ数年、約4,000件から6,000件の間で推移していますが、越境電子商取引市場の拡大等に伴い、今後更に増えていくことが予想されます(図表I-1-3-13)。また、相談の内容は「解約」が多数を占めていますが、「詐欺疑い」、「商品未到着」等の相談も増えてきており、越境取引における悪質商法等の消費者トラブルへの対応も求められているといえます(CCJに寄せられた相談の特徴については、第2部第1章第3節(2)参照。)。

外国人に関する相談件数は少数にとどまる

訪日外国人や日本に居住する外国人数の増加を背景に、外国人との接点も増えてきています。他方で、日本に在住している外国人に関する消費生活相談(外国人が契約当事者である相談)の件数は、年間600件未満で推移し、依然として比較的少ない状況にありますが、その要因としては言語の問題や消費生活相談窓口の認知度が低いこと等が考えられます(図表I-1-3-14)。外国人が増えている現状を踏まえると、外国人からの消費生活相談の潜在的なニーズは大きい可能性も考えられることから、今後はますます外国人の消費者トラブルへの対応も求められていくと考えられます。

同様に、訪日外国人の消費者トラブルについては、2018年12月、国民生活センターに「訪日観光客消費者ホットライン」が開設されるなどの対応が行われてきていますが(第1部第2章第2節(2)参照。)、まだ相談件数は少ないものの、外国人の増加を見据えて、外国人の消費者トラブルへの対応が求められていると考えられます。

これまでみてきたように、この10年では、高齢者からの消費生活相談の増加や通信サービスや電子商取引に関するトラブルの増加等、社会経済情勢の変化により、消費者問題の動向も変化してきました。次章では、このような社会経済情勢や消費者問題の動向の変化の中での消費者庁及び消費者委員会設置後の10年間について、これまでの取組を振り返り、その成果と課題を明らかにしていきます。


  • 注6:PIO-NETによる消費生活相談の検索可能期間は、当該年の前年から10年前までであるため、本報告では2009年から2018年までの間のデータを主に利用している。なお、キーワードの改定等により統計の連続性が取れない場合には、検索可能な年以降のデータを利用している。
  • 注7:振り込め詐欺は、オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺及び還付金等詐欺をいう。特殊詐欺は、振り込め詐欺及びそれ以外の特殊詐欺(例えば、金融商品等取引名目、ギャンブル必勝法情報提供名目、異性との交際あっせん名目等の詐欺)に分類される。定義の詳細については、国家公安委員会・警察庁「平成30年警察白書」32ページ参照。
  • 注8:前掲注7)国家公安委員会・警察庁「平成30年警察白書」32ページ参照。

担当:参事官(調査研究・国際担当)