文字サイズ
標準
メニュー

第1部 第1章 第2節 社会経済情勢の変化と消費生活

第1部 【特集】消費者庁及び消費者委員会設立10年~消費者政策の進化と今後の展望~

第1章 消費者を取り巻く環境の変化と消費者問題

第2節 社会経済情勢の変化と消費生活

情報通信技術の急速な発展等により世界的にも社会経済情勢が急速に変化してきましたが、それに伴い日本の消費者の消費生活も大きく変化してきました。本節では、消費者庁及び消費者委員会の設置以降を中心に、社会経済情勢の変化と消費者の消費生活について概観していきます。

少子・高齢化の進展と人口減少

現在の日本では出生率の低下により少子化が進行し、人口は減少局面を迎えています。他方で、平均寿命の延伸に伴い高齢人口は増加しており、超高齢社会(注2)を迎えています。このような少子・高齢化、人口減少は今後もますます進行していくことが予測されており、このような人口構造の変化に合わせて消費者の消費生活も変化していくことが考えられます(図表I-1-2-1)。特に人口構成に占める高齢者の割合の高まりは、高齢者による消費活動の拡大や高齢者向けの商品・サービスの充実に寄与する一方で、認知症等で判断力が低下した高齢者を狙った悪質商法の増加等、高齢者の消費者トラブルも増えていくことが懸念されます。

世帯の少人数化と経済格差の緩やかな拡大

晩婚化や未婚化の進行、核家族化等に伴い、世帯の少人数化が進み、単身世帯も増えてきています(図表I-1-2-2)。また、高齢化や経済の低成長等を背景に経済的格差も長期的には緩やかに広がってきており(図表I-1-2-3)、単身高齢者や障害者、貧困世帯等を中心に自立して消費生活を送ることが困難な消費者に対する消費者保護の在り方も課題となっています。

コンビニや外食・中食の利用が増加

世帯の小規模化や女性の社会進出による共働き世帯の増加を背景として、消費者の生活スタイルも変化してきました。手軽に買物ができるコンビニエンスストアやドラッグストア等の利用が増えているほか(図表I-1-2-4)、家事負担の軽減等のため、外食や調理食品を購入する中食の利用が増えています(図表I-1-2-5)。

地方・都市間格差:地方の過疎化と少子・高齢化

地方においては、少子化や東京等の大都市圏への人口流出により、急速な人口減少や過疎化が進んできています。このような人口減少や過疎化により、地域経済の規模が縮小するとともに、商品等の販売店舗数が減少すること等により、住んでいる地域で日常の買物をしたり、生活に必要なサービスを受けたりするのに困難を感じる「買物弱者」の問題が生じています。また、地域における住民の減少は、地域コミュニティの衰退等によって地域社会における人々のつながりを弱め、高齢単身者等自立困難な消費者の孤立につながるおそれもあります。そのため、高齢者の見守りネットワーク等、地域の消費者に対する消費者トラブルを防止するための取組が重要になってきています。

COLUMN4
過疎地域等の消費活動の特性について

自然災害と消費

自然災害も人々の消費生活を変化させる要因の一つです。消費者庁及び消費者委員会の設置後にも、2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震等の大地震、台風、豪雪・豪雨といった多くの自然災害が発生しました。自然災害により、被災した消費者の生活基盤が毀損され、生活関連物資の入手が難しくなるなど、消費者の消費生活に深刻な影響を及ぼすだけにとどまらず、自然災害の発生に乗じた悪質商法や義援金詐欺等の消費者トラブルも発生しています(注3)

また、2011年3月11日の東日本大震災により発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い、放射性物質の飛散による近隣地域の農畜産物等への風評被害や消費者の買い控えが起こりました。食品と放射性物質に関する消費者の不安は薄れつつありますが、いまだ解消したとはいえず(図表I-1-2-6)、食品の安全に関するリスクコミュニケーションの取組が引き続き求められているといえます。

規制改革等の進展

1990年代頃から政府において積極的に行われてきた規制改革等により、消費者に身近な分野においても規制の緩和や撤廃等が行われ、消費者にとって商品・サービスの選択肢が広がってきました(図表I-1-2-7)。政府によるこのような規制改革等は消費者の利便性の向上にも寄与してきたと考えられますが、他方で料金メニューや契約内容がより多様化・複雑化し、契約に関する十分な説明をしないなど、事業者による不適切な対応を起因とした消費者トラブルが生じることも懸念されています。そのため、事業者による不適切な対応への対策が求められるとともに、事業者側においても消費者にとって分かりやすい商品・サービスの提供のための消費者との双方向のコミュニケーションの強化が求められていると考えられます。

インターネットの普及とICT機器の発展

この30年では情報通信技術の高度化等の技術革新が急速に進展したことにより、消費者の消費生活は大きく変化してきました。特に消費者の消費生活を大きく変化させた情報通信技術としてインターネットの発展・普及が挙げられます。情報通信インフラの整備等により、インターネットは急速に普及し、その利用率は8割を超えるなど、消費者にとって身近な存在になっています(図表I-1-2-8)。また、インターネットを利用するパソコン等の情報通信機器(ICT機器)の技術革新も急速に進み、近年ではパソコンに代わり、持ち運びにも便利なタブレット型端末やスマートフォンも普及してきています(本章第1節(図表I-1-1-10)参照。)。

このようなインターネットやICT機器の発展・普及により、誰もが手軽にデジタル空間にアクセスできる環境が整ってきました。インターネット等の普及は消費者の利便性を向上させる一方で、個人情報の漏えいや迷惑メール、架空請求、インターネットを利用した詐欺等の消費者トラブルへの不安も増大しています。また、高齢者等のインターネットやICT機器を利用しない消費者との情報格差(デジタル・ディバイド)も生まれてきており、情報リテラシーが不十分であることに起因する消費者トラブルも生じてきています。

電子商取引の拡大

このような状況を背景に、オンラインサービスを介して誰もがどこでも商取引できる電子商取引が活発になってきました(図表I-1-2-9)。近年は、百貨店やスーパーマーケット等の実店舗での販売は頭打ちの傾向がみられる一方で、パソコンやモバイル端末を利用して手軽に購入できる電子商取引の利用が増えてきています。

デジタル・プラットフォームの発展

電子商取引の活発化の背景には、取引の基盤環境を提供するデジタル・プラットフォーム(以下「PF」という。)の発展により、より簡便かつ安全に取引することができるようになったことがあると考えられます(図表I-1-2-10)。他方で、GAFA(注4)等のPF事業者が提供するプラットフォームが巨大化し、利用者に対して優越的な立場を有するようになってきているのではないかと指摘されています。最近では、PFの利用と引き換えに、個人のパーソナルデータが利用者の十分な認識がないままに収集されたり、広告配信等で利用されたりするなどの個人情報の取扱いに関する課題も指摘されるようになってきており、PFにおける利用者保護の在り方についても注目されてきています。

SNSは若者を中心に普及

インターネットが手軽に利用できるようになったことで、若年層を中心にSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)も普及してきました(図表I-1-2-11)。SNSは利用者間における新たな情報交換の手段となり、SNSのクチコミ情報やSNSを通じたマーケティング、双方向コミュニケーション等が消費者の商品・サービスの選択に大きな影響を与えるようになりました。

COLUMN5
若者のSNSに対する意識について

新たなデジタル技術やシェアリング・エコノミーの登場

近年では、デジタル化の進展により、IoT(注5)や人工知能(AI)等の新技術が社会実装され、より便利な商品・サービスが提供されてきているほか、新技術を活用した今までにない新たなビジネスモデルも登場してきています。また、消費者間(CtoC)における取引市場の基盤となるPFの発展により、デジタル市場でのフリーマーケットや民泊等のシェアリング・エコノミー取引も発展してきており、個人間での売買が容易にできるようになりました。このような革新的な商品・サービスや新たなビジネスモデルの登場により、消費者の利便性はますます高まってきていますが、他方で新たな消費者問題も今後生じていくことが考えられます。

決済手段の多様化・高度化

技術革新により消費者の決済手段の多様化・高度化も進んできています。クレジットカードや電子マネーの利用も大きく増えてきており、現金以外での決済の利便性も消費者に認識されるようになりました(図表I-1-2-12)。また近年は、通貨のような機能を持つ電子データである「暗号資産(仮想通貨)」も支払・資金決済ツールとして利用されています。このような決済手段の多様化・高度化は消費者の利便性の向上に寄与していますが、他方でカード情報の漏えいや悪用、悪質商法の支払手段として利用されるなどの消費者トラブルも生じるようになってきました。

海外製品の輸入は増加傾向

ここ30年においてはますます国際化が進展してきています。日本と諸外国等との経済連携協定の締結等により貿易障壁が低下したことを受け、消費財の輸入は増加してきており、国内市場にも輸入品が浸透してきています(図表I-1-2-13)。消費者にとっても輸入品は身近な存在となっていますが、他方でサプライチェーンの国際化等により、越境的な消費者トラブルも生じるようになってきました。

越境電子商取引の市場は拡大傾向

インターネットの発展やPFの拡大等を背景に、越境的な電子商取引も増加しています(図表I-1-2-14)。外国との電子商取引の拡大により、消費者の商品・サービス選択の幅は広がりますが、他方で越境取引による消費者トラブルも増えていくことが考えられます。

訪日外国人と在留外国人

観光等を目的とした近隣のアジア諸国を中心とした諸外国からの訪日外国人の増加に伴い、訪日外国人の消費額も増加してきています(図表I-1-2-15)。また、日本に在留する外国人数も増加してきています(図表I-1-2-16)。店舗等においては多言語サポート等、外国人にも配慮した取組も進んでいますが、文化や言語の違い等を原因とした外国人との取引等における消費者トラブルも顕在化してきており、消費者問題の国際化も進んでいます。今後は、外国人との共生に向けた相互理解の取組がますます重要になると考えられます。

以上でみてきたように、人口減少や少子・高齢化、世帯の少人数化等の消費者をめぐる社会経済情勢の変化に合わせて、消費者の消費生活も変化してきました。規制改革、情報通信技術の高度化、国際化の進展等により、新しい商品やサービスが登場し、ますます消費者の利便性は向上してきていますが、他方で、消費者問題の複雑化や国際化、消費者トラブルに巻き込まれやすい消費者の増加等の新たな課題も生じてきたと考えられます。次節では、消費者庁及び消費者委員会の設置後を中心に消費者問題の動向をみていきます。


  • 注2:一般に、65歳以上人口の割合が7%超で「高齢化社会」、14%超で「高齢社会」、21%超で「超高齢社会」と分類されている。
  • 注3:例えば、熊本地震の発生後に、義援金に絡めた不審な電話や訪問に関する相談が寄せられた(国民生活センター「平成28年熊本地震に便乗した不審な電話や訪問にご注意ください!」(2016年4月21日)。災害に関連した消費生活相談については、第2部第1章第4節参照。
  • 注4:世界の巨大IT企業であるGoogle、Apple、Facebook、Amazonの頭文字をとったもの。
  • 注5:IoTとは、Internet of Thingsの略。インターネットに多様かつ多数の物が接続されて、それらの物から送信され、又はそれらの物に送信される大量の情報の活用に関する技術(官民データ活用推進基本法(平成28年法律第103号))を指す。

担当:参事官(調査研究・国際担当)