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第1部 第1章 第1節 家計の消費や消費者物価等の動向

第1部 【特集】消費者庁及び消費者委員会設立10年〜消費者政策の進化と今後の展望〜

第1章 消費者を取り巻く環境の変化と消費者問題

第1節 家計の消費や消費者物価等の動向

低成長が続いた日本経済

 まず、日本経済の動向をみていきます。経済の成長率を表す実質国内総生産(実質GDP)の成長率をみると、日本経済は1990年代初頭に起こったバブルの崩壊以降、基調として低成長が続いています。消費者庁及び消費者委員会が設置された2009年以降では、リーマンショックを契機とした世界的な金融危機が発生した2009年や東日本大震災等が発生した2011年を除き、実質GDPは改善傾向にありますが、G7諸国平均、中国及び韓国と比較すると依然として低い成長率にとどまっています(図表Ⅰ-1-1-1)。

家計による消費支出の低迷

 このような日本の低成長に寄与している大きな要因の一つとして、家計による消費支出の低迷が挙げられます。家計消費(家計最終消費支出)は、GDPの構成の中で最も大きな割合を占めるため、日本経済の動向に大きな影響を与えていますが(図表Ⅰ-1-1-2)、その成長率は低い水準で推移しています。G7諸国平均、韓国と比較してみても、1993年以降、世界的には家計の消費支出の高い伸びが経済を牽引してきたのに対し、日本では消費の力強さに欠けていることが分かります(図表Ⅰ-1-1-3)。

消費者物価は低位安定が続く

 消費者が購入する財・サービスの価格を表す消費者物価については、長らく下落傾向にありましたが、近年においては上昇基調に転じ、デフレではない状況にあります。しかし、消費者物価上昇率(消費者物価指数の前年比)は低い水準にとどまっており、G7諸国等と比べても低位で安定していることが分かります(図表Ⅰ-1-1-4)。なお、サービスの消費者物価指数は長期的には上昇していますが、耐久消費財については技術革新や輸入品の増加の影響等により大きく下落しており、消費者物価の下押し要因となってきたと考えられます(図表Ⅰ-1-1-5)。

COLUMN1
実質値上げ(ステルス値上げ)に関する消費者の意識(物価モニター調査結果より)

近年は雇用者報酬は増加傾向にあるも可処分所得の伸びは低調

 家計による消費支出の低迷の要因の一つとして、可処分所得の伸び悩みが挙げられます。近年は景気回復により企業の収益や雇用は改善し、雇用者報酬も増加傾向にあります。しかし、勤労世代における税・社会保障負担の増加や年金生活者等景気変動によって所得が大きく左右されることがない消費者の増加等によって、可処分所得については雇用者報酬の伸びよりも低調となっており(図表Ⅰ-1-1-6)、雇用者報酬の増加が家計の可処分所得増加に必ずしも結び付いていないことがうかがえます。消費者物価上昇率の低位安定により、実質的な購買力は下支えされているものの、家計の可処分所得が伸び悩んでいることが、家計による消費支出が低迷している要因となっているものと考えられます。

消費者の将来不安

 家計による消費支出が低迷するもう一つの要因として、将来不安等による消費者の日本経済の先行きに対する信頼感(コンフィデンス)の弱さも考えられます。少子・高齢化の進展や経済の低成長等を背景として、将来の収入や資産、老後の生活設計等に対する消費者の不安感は高い水準となっており(図表Ⅰ-1-1-7)、家計の可処分所得の伸び悩みとあいまって消費を下押しする要因となっていると考えられます。消費者の信頼感を高めるための方策として、安定的な経済成長と財政・社会保障制度の持続可能性の強化等が重要ですが、消費者政策の推進により、消費者が安心して消費できる市場環境を確保することも不可欠です。

家計消費の内訳の変化:通信費支出の大幅な増加

 次に、家計消費の内訳の変化についてみていきます。家計の消費支出では、特にサービスに関する支出が増えてきており、とりわけ通信費の支出が大きく増加しています(図表Ⅰ-1-1-8)。通信費の支出では、携帯電話・スマートフォン等の通信・通話使用料やインターネットの接続料等、情報通信サービス関連の必要経費への支出が年々増加しており(図表Ⅰ-1-1-9)、それに伴って家計の負担感も増加していることがうかがえます。

COLUMN2
携帯電話サービスについての消費者の意識(物価モニター調査結果より)

家計消費の内訳の変化:主要な耐久消費財は既に広く普及

 カラーテレビやルームエアコン等の白物・AV家電、乗用車等の主要な耐久消費財は既に広く家庭に普及しており、こうした従来からの製品の市場は飽和に近い状態にあります。近年はパソコンやスマートフォン、タブレット端末等の情報通信機器の普及率は伸びてきていますが(図表Ⅰ-1-1-10)、全体として消費を力強く牽引していく新しい耐久消費財があまり見当たらず、これも消費支出の低迷の一因となっていると考えられます。

家計の貯蓄率は減少傾向

 全ての家計を含む国民経済計算(SNA)ベースでみた家計の貯蓄率は、日本社会全体の高齢化を反映して減少傾向にある一方で、家計調査における勤労者世帯の動向をみると貯蓄率(黒字率)はおおむね横ばいとなっています(図表Ⅰ-1-1-11)。このことから、現役世代に対する税・社会保障負担が増加し、可処分所得が伸び悩む中にあっても、勤労者世帯は将来への備え等のために一定程度の貯蓄を維持している傾向がうかがえます。

金融資産は増加傾向にあり、預金の割合が高い

 家計の金融資産は長期的には増加傾向にあります。現金・預金の金融資産に占める割合が50%前後と高い状況のまま推移していますが、近年は株価の上昇等の影響から株式・投資信託の割合も緩やかに上昇している傾向にあります(図表Ⅰ-1-1-12)。日本の家計においては引き続き現金・預金志向が高い傾向にありますが、近年では低金利が長期化し、預金を通じた資金運用には厳しい状況が続く中で、高齢者等を中心に、株式・投資信託への投資のみならず、外国為替証拠金取引(FX)や先物取引等、リスクが高い取引への関心も高まってきていると考えられます。このため、個人の投資家が高リスク取引に対する正しいリスク認識や知識を持つための金融教育や、不適切な勧誘を行う悪質な事業者への対応も必要であると考えられます。

金融負債も緩やかに上昇

 家計の金融負債については住宅ローンが負債全体の6割超を占めており、全体として2011年以降から緩やかな上昇を続けています(図表Ⅰ-1-1-13)。また、いわゆる「総量規制」等をポイントとする貸金業の規制等に関する法律等の一部を改正する法律(平成18年法律第115号)が2006年12月に成立し、2010年6月に完全施行されたことにより、消費者金融からの借入が減少した一方、総量規制の対象外となる銀行カードローンによる貸付残高が増加する傾向がみられましたが、現在は銀行カードローンの貸付残高の増加は落ち着いてきています(図表Ⅰ-1-1-14)。

COLUMN3
今後の家計支出に関する消費者の意識(物価モニター調査結果より)

担当:参事官(調査・物価等担当)