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第1部 第2章 第4節 (1)事故情報を収集し、分析・原因究明を行う取組

第1部 消費者問題の動向と消費者意識・行動

第2章 【特集】子どもの事故防止に向けて

第4節 子どもの事故防止に向けた取組

(1)事故情報を収集し、分析・原因究明を行う取組

事故が発生してしまった場合には、事故情報を迅速に収集し、その内容に応じて、消費者への注意喚起や事業者への措置を適切に実施することが求められます。また、個別の事故への対応を超えてより幅広い安全の確保の観点から、事故の原因究明や収集された事故情報の分析を行い、その結果を踏まえた対策の実施が求められます。

1事故情報の収集

事故情報収集の仕組み

事故防止の取組においては、どのような事故が起きているのかを把握し、原因を知ることが重要です。その基盤となるのは事故情報の収集です。各府省庁等では、所管する行政分野について、法令等に基づき、あるいは制度の仕組みとして、様々な手法により事故情報の収集を行っています。

消費者庁設置につながる消費者行政一元化の議論の中で、従前の行政体制の問題として、子どもの事故を含め、消費者事故等に関する情報が各行政機関にそれぞれ個別に保有され、共有できるものとなっていないという指摘がありました。

2009年9月に施行された消費者安全法では、事業者が供給・提供等する商品等・役務の消費者による使用等に伴い生じた事故であって、消費者の生命・身体について死亡や30日以上の治療を要するなど被害が重大であったもの(重大事故等)が発生した旨の情報を行政機関の長、都道府県知事、市町村長及び国民生活センターの長が得たときは、消費者庁に通知することとされています(同法第12条第1項)(第1部第1章第1節参照。)。

消費者庁に通知された重大事故等に関する情報以外にも、生命・身体に係る消費生活上の事故の情報で関係行政機関等が保有しているものもあります。消費者庁は国民生活センターと連携して、関係行政機関が保有する生命・身体に係る消費生活上の事故の情報を集約し、インターネット上で事故情報を自由に閲覧・検索できる「事故情報データバンク」を運営しています(第1部第1章第2節参照。)。

子どもの事故には、通常予見される使用方法・利用方法とは明らかに異なる方法により商品等又は役務が使用等されたことによって生じた場合もありますが、そのような場合は、事故情報データバンクに事故の情報が登録されないこともあります。子どもは、大人には思いもよらぬ行動をとって事故に遭うこともあるため、通常予見される使用方法・利用方法とは明らかに異なる使用等によって生じた事故も分析する必要があります。

消費者庁は国民生活センターと協力して、参画した医療機関から受診した患者の事故等の詳細な情報を収集する「医療機関ネットワーク事業」を実施しています。同事業では、通常予見される使用方法・利用方法とは明らかに異なる使用等によって生じた事故の情報も収集しており、収集された情報は、消費者庁による事故防止の注意喚起等に活用され、一部は公表されています。

2事故についての分析や原因究明

収集された事故情報に基づき、事故についての分析や原因の究明、その結果を踏まえた対策の検討等が行われています。以下では、主な取組を紹介します。

消費者安全調査委員会による事故等原因調査等

消費者庁消費者安全調査委員会(以下「消費者事故調」という。)は、事故の責任追及(「誰が悪い」)ではなく、事故の予防・再発防止(「なぜ事故が起きたのか」、「どうすれば同じような事故が防げるのか」)を考える組織です(第2部第1章第2節(3)参照。)。事故等原因調査等の対象の選定指針の中で、乳幼児などの「要配慮者への集中」を一つの要素として掲げています。実際に、これまで調査対象に選定した15件のうち、「平成23年7月11日に神奈川県内の幼稚園で発生したプール事故」(2014年6月20日報告書公表)、「子供による医薬品誤飲事故」(2015年12月18日報告書公表)、「玩具による乳幼児の気道閉塞事故(2017年11月20日報告書公表)」の3件が子どもの事故に関するものです。

これらの調査においては、子どもの身体的特徴や行動特性に着目しています。例えば、プール事故では、幼児は、頭部が体の割に大きくて重たいため、高い位置に重心があることや目線の位置が低く視野が狭いことから、大人より転倒しやすく、また、自分の体重を支えるだけの腕力がないため、転倒してしまうと起き上がるのが困難であることを、幼児の特徴とリスクとして示しています。医薬品の誤飲事故では、身近にあるものを手に取り何でも口に運ぶといったおおむね生後6か月から1歳半にかけて見られる行動特性が、チューブ入りの塗り薬や包装容器入りの薬を口に運んでかむなどの本来の取り出し方でない方法での誤飲につながるといった、事故と行動特性の関連を示しました。玩具による気道閉塞事故では、口腔と喉の距離が近く、ものが口腔から喉に入りやすいこと、唾液が多いことなどを示し、乳幼児の喉と玩具の形状等との組合せによるコンピューターシミュレーションによって、玩具がどのように気道を閉塞するかといった気道閉塞のメカニズムを明らかにしました。

また、調査結果に基づき述べた意見については、フォローアップを行い、意見先の行政機関の取組状況を把握することとしています。例えば、プール事故に関しては、意見を受けて、毎年、関係行政機関によって、プール活動・水遊びのシーズン前に、事故防止に関する通知が都道府県等の関係者宛に発出されていることから、消費者事故調としても、2016年5月には、幼稚園におけるプール活動・水遊びを行う際の安全管理に関する実態を把握するため、サンプル調査を行い、結果を公表しました。

国民生活センターにおける商品テスト

国民生活センターでは、消費生活相談情報や医療機関ネットワーク等で収集した事故情報からテーマを選定し、人の生命・身体等に重大な影響を及ぼす商品や品質・表示等に問題ある商品について、商品テストを実施しています。子どもの事故に関するテーマも多く、最近では、乳幼児による加熱式たばこの誤飲(注86)、こんろのグリルでの子どものやけど(注87)などについて商品テストを実施しています。

テスト結果については、消費者に情報提供を行うほか、商品に安全性や品質・表示などの問題があれば、当該業界に商品等の改善を要望するとともに、関係府省庁に対し、テスト結果を踏まえた規格・基準の見直し、法令違反が疑われるものについての指導等を要望しています。例えば、発熱反応を伴い水素を発生するというパック型入浴剤について、やけどの事故が起こらないように製品の品質や表示の改善を製造販売業者に要望したところ、子どもの指が入らないような形状のケースへの変更という改善や、注意書きの表示箇所・内容の改善がなされました(注88)

NITEにおける事故情報の分析と原因の調査・究明

製品評価技術基盤機構(以下「NITE」という。)では、電気製品やガス・石油機器などの一般消費者が使用する消費生活用製品を対象に、消費生活用製品安全法などに基づいて事故情報を収集し、毎年約2,500件の事故情報について調査を実施し、原因究明を行っています。調査した製品事故の中には、子どもに関するものも多くあります。

原因究明の範囲は、製品の機械的な構造や強度、電子回路などの分析や化学物質による生体障害原因分析など多岐にわたります。原因究明の結果は、製造事業者による安全な製品作りに役立てられるとともに、製品のリコール判断など、製品事故の再発・未然防止に役立てられています。さらに、製品の事故情報やリコール情報を広く消費者・事業者などに提供しています。

また、子どもに関する製品事故については、製品の誤使用等に起因した事故が多くあります。例えば、「ベビーカーで出掛けていたところ、ハンドロックがきちんとできていなかったため、ロックが外れて転落した」などといった保護者等の確認不足による事故、子どもが家具や家電製品を転倒させる事故、高温部に触れてやけどをする事故等子どもが成長に伴い様々なものに好奇心や興味を持つことによる事故が発生しています。NITEでは、こうした事故を少しでも減らすために、保護者等に向けてウェブサイトやパンフレット、メディアを通じて製品事故の事例や気を付けるポイントを紹介しています。最近では、YouTubeで事故の再現映像を発信し、子どもが起こしがちな製品の誤った使い方等をより分かりやすく伝えています。さらに、Twitterでも、製品事故の再現映像と連動した注意喚起に取り組み始めています。

【データ解析に基づいた子どもの傷害予防の取組:産業技術総合研究所】

国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という。)では、2005年度から子どもの傷害予防の取組を開始し、事故情報の収集・解析、原因の究明と対策方法の開発、社会への情報発信等を実施しています。

これまでに、国立研究開発法人国立成育医療研究センターなどの協力の下、子どもの傷害データを収集し、性別やけがの種類等の条件を入力すると、体のどの部位にけがをすることが多いかを調べることができる機能や、事故に関連した物の名称、性別、年齢、事故が起きた時間等を条件にして傷害データを調べることができる機能を持つ「身体地図情報システム」(図表I-2-4-2)を公開しました。事業者等はこれらのシステムを活用し、製品等の開発・改良に役立てることが可能です。実際に、これらのシステムから得られた情報は、やけどを起こしにくい炊飯器、子どもの自転車用ヘルメット、曲がる歯ブラシ等の開発や、自転車のスポーク外傷の安全基準、遊具の安全基準の策定の際に活用されました。

産総研では、データを予防にいかす安全知識循環技術として、子どもの行動データや収集された傷害データを解析する技術、事故予防策を開発する事故・傷害シミュレーション技術、その予防策を社会に普及させるデジタルコンテンツ技術を研究しています。

図表1-2-4-1製品事故の事例・気を付けるポイント(NITE)

図表1-2-4-2身体地図情報システム


  • 注86:国民生活センター「乳幼児による加熱式たばこの誤飲に注意」(2017年11月16日公表)
  • 注87:国民生活センター「こんろのグリルでの子どものやけどに注意―使用後でもグリル窓は高温です―」(2017年9月21日公表)
  • 注88:国民生活センター「発熱反応を伴い水素を発生するというパック型入浴剤―使い方によっては、やけどのおそれも―」(2016年7月21日公表)

担当:参事官(調査研究・国際担当)