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第2部 第1章 第7節(1)地方消費者行政の現況

第2部 消費者政策の実施の状況

第1章 消費者庁における主な消費者政策

第7節 国や地方の消費者行政の体制整備

(1)地方消費者行政の現況

●改正消費者安全法が2016年4月1日から施行

消費生活相談体制の更なる充実・強化を図るとともに、地域社会において高齢者等の消費者被害に遭いやすい消費者を消費者被害から守るための見守りネットワークの整備を図ることを内容とする消費者安全法の改正法(以下「改正消費者安全法」といいます。)が2014年6月に成立し、一部の規定を除いて2016年4月1日に施行されました。

消費生活相談体制の充実・強化のための施策として、市区町村支援のための都道府県の役割の明確化や、広域連携等の活用による消費生活相談体制の整備について規定するとともに、消費生活相談等の事務を民間委託する際には要件を満たす者に委託することや、消費生活センターを設置する地方公共団体が消費生活センターの組織及び運営についての条例を整備すること等を定め、消費者が「どこに住んでいても、質の高い相談・救済が受けられる体制」を構築するために必要な改正を行ったものです。

また、消費者行政担当部局のみならず、福祉部局等の他部局や地域で活動する団体等との連携をより一層強化し、地域のネットワークによる消費者被害防止のための見守り体制の構築を図るべく、改正消費者安全法では、地方公共団体が「消費者安全確保地域協議会」を設置できることや、消費者安全の確保のための活動等を行っていただくために、地域で活動する民間の団体・個人の方を、「消費生活協力団体」又は「消費生活協力員」として委嘱できること等を定めています。

●第1回目の消費生活相談員資格試験を実施

消費生活相談員は、地方消費者行政において大きな役割を果たしていながらも、2014年改正前の消費者安全法においては、その法的位置付けが明確ではありませんでした。

改正消費者安全法では、地方公共団体における消費生活相談員の人材確保や質の向上のため、消費生活相談員の職を法律に位置付けました。さらに、内閣総理大臣の登録を受けた機関により実施される消費生活相談員に関する資格試験制度を創設し、新しい資格試験に合格すること(改正消費者安全法の施行の際、現に地方公共団体における消費生活相談の事務等に1年以上従事した経験を有する者が、新たな資格試験に合格した者とみなされる場合等を含む。)や、これと同等以上の専門的な知識及び技術を有すると都道府県知事又は市町村長に認められることを、消費生活相談員の要件としています。

2016年4月26日には、国民生活センター及び一般財団法人日本産業協会が登録試験機関として登録され、河野内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)(当時)から両機関に対し、登録通知書が交付されました。そして、同年10月以降、両機関により第1回目の消費生活相談員資格試験が実施され、併せて約1,200名が試験に合格しました。

なお、従来、両機関が独自の資格試験として行っていた「消費生活専門相談員資格認定試験」(国民生活センター)や「消費生活アドバイザー資格試験」(日本産業協会)については、それぞれ消費生活相談員資格試験と兼ねる形で実施されるため、消費生活相談員資格試験の合格者は、各機関の与える上記資格と国家資格である消費生活相談員資格の2つの資格を同時に付与されることになります(図表II-1-7-1)。

●消費者安全確保地域協議会の設置を促進

近年、とりわけ高齢者の消費者被害が深刻化しているところですが、高齢者の消費者被害の背景には、生活困窮や社会的孤立、認知力の低下などが潜んでいることが多く、また、高齢者本人からの相談が少なく、対応が遅れることで被害が拡大しているという面があります。このため、高齢者本人が消費生活センター等に相談することを待つだけでなく、周囲の人達が、高齢者の消費生活上の安全に常に気を配り、何らかの異変を察知した場合には、消費生活センター等の機関と連携する等、地域で見守る体制を構築することが高齢者の消費者被害の拡大防止や未然防止に極めて有効です。

改正消費者安全法では、地方公共団体が、関係機関を始めとする地域で活動する様々な団体や個人を構成員とした消費者安全確保地域協議会を設置し、消費生活上、特に配慮を要する消費者の見守り等必要な取組を行うことができることを定めるとともに、地域で活動する「消費生活協力団体」、「消費生活協力員」を育成確保すること等も規定し、地域の見守りネットワークの構築を図っています(図表II-1-7-2)。

改正消費者安全法の施行後、各地方公共団体において、消費者安全確保地域協議会の設置に向けた取組が進められ、2017年1月1日現在で、消費者安全確保地域協議会を設置していると回答した地方公共団体は、4道県、27市区町となっています(図表II-1-7-3)。

消費者庁では、消費者安全確保地域協議会の設置促進に資するよう、消費者安全確保地域協議会を設置した地方公共団体の先進事例を収集し、取りまとめ、2017年4月に公表しました。

●地方消費者行政の現況

消費者が、消費者事故やトラブルに巻き込まれた際には、各地方公共団体に置かれている消費生活センター等を利用することができます。消費者事故・トラブルを未然に防ぎ、また、被害回復を図る上では、地方公共団体の消費生活センター等、消費者行政の「現場」である地域で消費者に接する地方消費者行政の充実・強化が必要です。

地方消費者行政の充実・強化に関しては、これまで地方消費者行政推進交付金等(2008年度から2016年度までで約493億円)を活用し、消費生活センター・相談窓口の設置、消費生活相談員の配置・養成、消費者教育・啓発など地方公共団体の様々な取組を支援してきました。

さらに、2014年1月に「地方消費者行政強化作戦」を定め、相談窓口のない地方公共団体(市町村)の解消や、消費生活センターの設立を促進する等の目標を掲げ、どこに住んでいても質の高い相談・救済を受けられる地域体制を全国的に整備することを目指してきました。また、2015年3月には「地方消費者行政強化作戦」を改定し、新たに消費者教育の推進、改正消費者安全法の規定に基づく消費者安全確保地域協議会の設置に関する目標を定めました(図表II-1-7-4)。

これらの取組の結果、消費生活相談窓口が未設置の地方公共団体数は、2015年度には0となり、政策目標の一つである、相談体制の空白地域の解消を達成しました。また、消費者庁が設置された2009年から比較すると、消費生活センターは、501か所(2009年4月1日時点)から799か所(2016年4月1日時点)へ298か所増加しています(図表II-1-7-5)。さらに、消費生活相談員数は2,800名(2009年4月1日時点)から3,393名(2016年4月1日時点)へ593名増加し、消費者行政担当職員数は5,190名(2009年4月1日時点)から5,230名(2016年4月1日時点)へ40名増加しています。しかし、いまだ、特に小規模市町村を中心に、消費生活センターの設置や消費生活相談員の配置が進んでいない状況もあります(図表II-1-7-6及び図表II-1-7-7)。

「地方消費者行政強化作戦」の進捗状況をみると(図表II-1-7-8)、消費生活センターの設立促進について、人口5万人以上の地方公共団体(全市町村に消費生活センターを設置する目標)については24府県、人口5万人未満の小規模市町村(半数以上の市町村に消費生活センターを設置する目標)については15道府県が目標を達成しているのにとどまっています(図表II-1-7-9)。このほか、市町村の50%以上に消費生活相談員を配置すること、消費生活相談員の資格保有率や研修参加率を向上させること、適格消費者団体の空白地域を解消すること、消費者教育推進計画の策定や消費者教育推進地域協議会の設置、消費者安全確保地域協議会の設置といった「地方消費者行政強化作戦」に掲げられた目標の達成に向けて、引き続き地方公共団体の取組を促進する必要があります。

なお、地方消費者行政の予算規模は2008年度の約101億円(最終予算額)から、2016年度は約147億円(当初予算額)となっています。

●消費者ホットラインの運用・周知

消費生活センター等の消費生活相談窓口の存在や連絡先を御存じでない消費者の方に、お近くの消費生活相談窓口を御案内することにより、消費生活相談の最初の一歩をお手伝いするものとして、「消費者ホットライン」の運用を2010年1月12日から全国で開始し、誰もがアクセスしやすい一元的な相談窓口体制を整備しています(図表II-1-7-10)。

消費者ホットラインは共通の電話番号から、全国どこからでも身近な消費生活相談窓口につながります。当初、「0570-064-370(ゼロ・ゴー・ナナ・ゼロ守ろうよみんなを)」の10桁の電話番号で案内をしていましたが、より覚えやすくすることで、消費生活で困ったときにすぐ利用いただけるよう、2015年7月1日から、局番なしの3桁の電話番号「188番(いやや!)」での案内を開始しました。その結果、消費者ホットラインの入電件数は、2014年度の344,000件から2015年度には688,437件へと約2倍に増加しました。

一方で、消費者ホットラインの認知度については、「名前」、「番号」、「内容」の全てを知っている人は3.3%だったという調査結果(注21)もあり、活用の拡大に向けた周知が課題です。同調査では、「名前」、「番号」、「内容」の全てを知っていると回答した人の割合は、70歳以上が最も多く6.0%となっていますが、10歳代では、2.0%に留まっています。

これまで、消費者庁では、政府広報による高齢者詐欺・トラブル予防についてのキャンペーンやラジオ番組等でのPRや各種会議、イベント等におけるチラシの配布などを行うとともに、地方公共団体の協力も得て、テレビや映画館でのCM上映、広報誌への掲載や啓発グッズの配布等を通じ、啓発を行ってきたところですが、今後も上記のような手段と併せて、消費者月間ポスター等での呼び掛けや懸垂幕でのPRなど、あらゆる機会を捉えて更なる啓発に努めていきます。また、10歳代の回答者からは、消費者ホットラインの周知に効果的と思われる取組として、「学校等の教材」を挙げる割合が相対的に高かったことから(図表II-1-7-11)、2017年3月に作成した高校生向けの消費者教育のための教材に消費者ホットラインの紹介を盛り込むなどの取組を行うことで、若年層への周知も進めていきます。


  • (注21)消費者庁「消費者意識基本調査」(2016年度)

担当:参事官(調査研究・国際担当)