文字サイズ
標準
メニュー

第1部 第3章 第3節(3)現場の連携の取組

第1部 消費者行動・意識と消費者問題の現状

第3章 【特集】若者の消費

第3節 若者の自立支援に向けた取組

(3)現場の連携の取組

消費者教育をより実効性のあるものにするためには、行政、学校関係者、消費生活センター等の多様な関係者の連携・協働が必要です。以下、連携の担い手を置く取組例を紹介します。

●消費者教育コーディネーターの活躍:岡山県

岡山県は、自ら考え行動する、自立した消費者を育成するために、「岡山県消費者教育推進計画」(2014年度から2018年度まで)を策定しました。この計画では、岡山県消費生活センターを消費者教育の拠点に位置付け、消費者教育コーディネーター(以下「コーディネーター」といいます。)を配置することとされました。これを受け、岡山県は、県の消費生活センターで相談業務、消費者教育講座・啓発活動を実施しており、さらに、学校現場で社会科等の非常勤講師経験を持っている職員を2014年4月にコーディネーターに選任し、コーディネーターを中心とした消費者教育の推進体制を整備しました。若年層に向けた消費者教育の取組を整理しながら、コーディネーターの役割をみていきます。

○若年層に向けた消費者教育の取組

岡山県では、2015年度から3か年計画で、コーディネーターを中心とした若年層向け消費者教育の新しい試みを行っています。この事業を企画するに当たっては、法的リテラシーを踏まえた、幼児期から高校生までを対象とする体系的な消費者教育教材を作成し、自立した消費者を育成するという目標を設定しました。

1消費者教育教材研究会の設置

教材作成に当たり、消費者教育教材研究会(以下「教材研究会」といいます。)を設置しました。コーディネーターの人脈も活用し、委員には、法律や教育等を専門とする大学教員、幼稚園園長、私立中学・高等学校副校長、金融広報委員会、消費者団体会員、岡山県や岡山市の消費生活センター・教育委員会といった多様な関係者が選任されました。2015年度、2016年度に、それぞれ3回開催され、教材の内容について議論を重ねました。

2発達段階に応じた教材作成

教材研究会での議論を踏まえ、コーディネーターが中心となって、2015年度はテーマを消費者教育の基本となる「契約」に設定し、2016年度は「情報モラル」と「消費者の責任」に設定し、発達段階に応じた教材を作成しました。

幼児向け教材では、消費者団体会員が原案を作成し幼稚園園長と内容を調整した紙芝居を作成し、小学生向け教材では、コーディネーターが消費生活相談員としての自身の視点を入れて「オンラインゲーム」を取り上げ、インターネットを便利な点と危険な点から考える教材を作成しました。

中・高校生向け教材は、岡山大学法学部の学生が中心となって、2015年度は契約自由の原則と、知識や交渉力等に格差のある当事者間の契約について考える教材を作成しました。2016年度は、肖像権について学ぶ教材として「写真をSNSにアップしてもいいですか」、消費者の責任を考える教材として「どこまで売買は認められるの」の2つを作成しました。大学生には、法学部生として得た法的視点を反映した教材を作成することで、社会における法の役割について、改めて学び直す機会となりました。

3教材を検証するモデル授業の実施

教材について、生徒の反応や使いやすさを検証するためモデル授業を実施しました。学生が講師となった例もあり、2015年度は県立高校3年生を対象に「現代社会」の授業時間を使って、岡山大学の学生が未成年者契約について授業を行いました。2016年度は、町立中学校と私立中学校の2校の3年生を対象に、社会科「公民」の授業時間を使い、大学生が中心となって、グループワーク形式で実施しました(図表I-3-3-16)。教材作成に加えて、モデル授業を実施したことにより、大学生自身の消費者市民社会への参画意識の醸成が図られ、消費者教育の担い手を育成する貴重な機会となりました。

○コーディネーターの役割

この事業を通して整理すると、コーディネーターには、新たな協力機関を見出し、異なる団体の当事者同士を結び付け、消費者教育を広めるため新たな消費者教育の場を企画・提案をする役割と、消費者教育に関する経験等を通してより良い方向に向かうように牽引し、当事者相互の要望や消費者教育の資源を上手く利用できるように調整する役割があるといえます。このため、コーディネーターの資質としては、「専門性」、「ネットワーク」、「人間性」の3つの要素が求められると考えられます(注77)

○コーディネーター設置による影響・効果

コーディネーターの設置は、教育を行う側、受ける側等、多方面へ様々な効果を生んでいます。例えば、教材研究会では、教育関係者と消費者行政関係者が教材を検討する中で、それぞれの発達段階での教材内容や指導の注意点が共有されました。モデル授業を実施することにより、消費者行政担当部署と各学校等との連携が強化され、学校教育現場や消費者教育に対する相互理解も深まっています。

コーディネーターが中心となって、行政職員や消費生活相談員、関係機関と連携・協働が進むことにより、消費者が主役になる「場」の実情に応じた消費者教育が展開される(注78)と期待されています。

●現役教員が消費者行政の現場で1年間研修勤務する制度:徳島県

徳島県では、県立学校の現役教員が毎年度1人、「研修生」として県消費者情報センターに勤務する制度があります。この制度は2003年度からスタートし、「研修生」は消費者トラブルの実態や相談員の相談対応から日々学んだことをいかして消費者教育の教材を作成し、県下全域の小・中学校、高校、特別支援学校、大学・専門学校に出前授業を届けています。

○授業のプロが出前講座で最新の情報や知識を伝える

この制度の大きな特長は、現役の教員が、その能力とノウハウをいかして、出前授業の中で、センターでの勤務で得た消費者トラブルに関する最新の情報や消費生活に関する知識を多くの子供たちに効率良く効果的に伝えられることです。

現在の学校現場は、消費者教育を始め主権者教育・食育など今後推進すべき教育が増加しており、教員の負担増につながっていると考えられます。消費者教育については、相談員による出前授業を導入することが、学校現場の負担軽減につながると考えられる一方で、相談員の多くは出前授業を負担に感じています。「研修生」が2016年度に実施した、出前講座の講師経験がある相談員へのアンケートでは、「出前授業を負担に感じる」という回答が約75%に上りました。また、出前講座で困ったこととして、「参加者の状況の把握や集団への伝達法と教育の手法についての悩み」が挙げられました。事前に子供の状況を学校側から聞くことができたとしても限界があり、また、正しい情報や知識をただ伝えるだけの授業では、単調なテンポになってしまい、子供たちの集中力が切れてしまいます。

この点、2016年度の「研修生」によると、現役の教員であることから、毎回初めて会う子供たちを前に授業することに戸惑いつつも、苦痛には感じなかったそうです。子供たちの反応を見ながら、クラスへの影響力を持つ子供を見つけて授業のテンポを変える「発問」でその子を指名して学習を良い方向にリードしたり、子供に発表させることで大人も驚かされるような着眼点を引き出したり、笑いを起こしたりしながら、集中力を高める工夫を繰り出して授業を進行したそうです。また、指導要領を踏まえた授業計画作りなど、学校の担当教諭との打合せもスムーズに行うことができました。

○県と県教育委員会の連携事業

2014年度からは、この特長を一層大きくいかすための取組として、徳島県と県教育委員会との連携事業が始まりました。TOKUSHIMA消費者教育活性化事業「学校における消費者教育を支援するための講演・出前授業」という名称のこの取組では、年度初めに県教育委員会から小・中学校・高校・特別支援学校に依頼文書を送り、各校及び市町村教育委員会から「研修生」による講演や出前授業の実施の希望を募ります。講演・出前授業の実施回数が、2012年度は22回でしたが、連携事業実施後の2013年度は29回となりました。2014年度以降は講演と出前講座両方について希望を取り始め、同年度は89回、2015年度は63回、2016年度は75回と増加している傾向から、連携事業の効果は大きいと考えられます。

○行政職員、相談員、教員の三者連携の推進、強化

連携事業の成果を踏まえて、消費者教育に携わる教員、相談員、行政職員の三者がそれぞれの強みをいかしてさらに連携することでより効率良く効果的に消費者教育を推進できる仕組みの構築も試みています。

2016年度は、教員、相談員、行政職員の三者が参加する研修「学ぼう!実践しよう!消費者教育」を実施し、「児童生徒が消費者トラブルに遭わないために、私たちにできることは何か」をテーマに、アクティブ・ラーニング(注79)の手法を用いながら、それぞれの立場の強みをいかした連携方法についての意見の集約を行いました。愛媛県で実施された同様の研修にも、「研修生」が講師として参加しました。お互いの顔と名前を一致させることが連携の第一歩になります。アンケート結果をみると、「参考になった」と感じている研修参加者が大部分を占めており、お互いの仕事内容や悩みを知ることができ、どのようにすれば連携できるか考える機会になったようでした。

○2016年度「研修生」による提言

今後の更なる三者連携の強化について、2016年度の「研修生」が提言をまとめました。具体的には、1最新の消費者問題の情報共有、2三者が参加する研修の実施、3各学校の担当教員と相談員によるチームティーチングによる出前授業の実施、4学校行事を通した地域のつながり作り、です(図表I-3-3-17)。この提言は、2016年第32回ACAP消費者問題に関する「わたしの提言」でACAP理事長賞として表彰されました。今後、「研修生」が、行政職員や消費生活相談員と一緒に勤務して得られた知識、経験やお互いの信頼関係をいかして橋渡し役となり、これらの取組を進めていくことが期待されています。

図表I-3-3-16大学生が中学生のグループワークを指導

図表I-3-3-17「研修生」が小学生に出前授業を行っている様子


  • (注77)公益社団法人全国消費生活相談員協会「全相協つうしんJACAS JOURNAL」174号
  • (注78)公益社団法人消費者教育支援センター「消費者教育研究」174号
  • (注79)グループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等による課題解決型の能動的学修。

担当:参事官(調査研究・国際担当)