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第1部 第3章 第3節(2)若者自身が参画する取組

第1部 消費者行動・意識と消費者問題の現状

第3章 【特集】若者の消費

第3節 若者の自立支援に向けた取組

(2)若者自身が参画する取組

若者自らの活動は、自身の消費者市民社会の一員としての理解や自覚を深め、消費者教育の担い手育成としての効果を生むとともに、特に身近な同世代への効果を呼び起こします。また、数は少ないものの、若者自身が主体的に同世代や他世代に向けて、啓発に取り組んでいる事例もみられます。以下、高校生、大学生らが消費者教育・啓発を行っている取組例を紹介します。

●高校生による小中学校での出前講座:茨城県立神栖高等学校

高等学校家庭科の課程には、授業で学んだことを発展させ、より良い生活を目指す問題解決型の学習として、グループや学校単位の活動で学校や地域社会の充実・向上を図る「学校家庭クラブ活動」があります。

茨城県立神栖高等学校の学校家庭クラブ活動では、2014年度から神栖市消費生活センターと連携を図りながら近隣の小中学生にSNSトラブル予防の出前講座を行っています。高校生が、ネットトラブルの現状や予防策について、学校で実施された神栖市消費生活センターの出前講座を受けた際、小学生も被害に遭っているという現実を知りました。そこで、高校生が講座で学んだことをいかし、地域の消費者被害の未然防止を図り、消費者市民社会の形成に貢献しようと活動が始まりました。

出前講座以外にも消費生活センター主催のイベントへの参加等、連携活動に取り組んでいます。

○出前講座の準備・実施

1消費生活センターと連携して準備

出前講座に当たっては、まず、神栖市が企画している「かみす出前講座」の実施を依頼し、高校生自身が、神栖市消費生活センターから近年のスマートフォンに関するトラブルの実態や問題点を更に詳しく把握し、予防策を学びます。次に、小中高生では特に「オンラインゲームの課金」、「SNSを利用したいじめ」、「不適切な画像投稿」の相談が多いなどの、講座を通して学んだことを踏まえて、学校家庭クラブ活動で出前講座の準備をします。「SNSトラブル予防寸劇出前講座」寸劇の台本は、学校家庭クラブ員で案を作成した後、神栖市消費生活センターからの助言を受けて完成させました。

2「SNSトラブル予防寸劇出前講座」実施

2014年度、2015年度は、高校生による出前講座を、神栖市立大野原西小学校と神栖市立神栖第四中学校で実施しました(図表I-3-3-7)。大野原西小学校では、5年生69名、神栖第四中学校では1年生120名を対象に実施し、事前と事後にはアンケート調査を実施して、受講者の小中学生の意識の変化を調べました。

小学校では、ゲームで多額の課金を費やしてしまう「ゲームオーバー」と、SNSで友達の悪口を言ってしまい、いじめを受けてしまう「SNSいじめ」の寸劇や、スマートフォンに関する○×ゲームを行いました。

中学校では、小学校と同じ「SNSいじめ」と、友達の写真を勝手に投稿したことが原因で嫌がらせを受けてしまう「間違ったつぶやき方」の寸劇を行いました。さらに、「中学生と高校生のトークタイム」を行い、「不適切な画像」、「架空請求」、「なりすまし」に関する3つの再現画像を提示しながら、中学生と一緒にその問題点や対応策について考えました。

講座前後のアンケート調査の結果から、小学生も中学生も、スマートフォンやSNSに対して「怖い」、「危ない」と感じた生徒が講座後には約30%増加していたなどの認識の変化がみられました(図表I-3-3-8)。また、多くの児童生徒は「寸劇を見てSNSの怖さや正しい使い方を知り、楽しく学ぶことができた」という感想を述べていました。出前講座によって、スマートフォンやSNSは、楽しくて便利であるだけではなく、気を付けて利用しなければならないものであるということが小中学生に伝わったと考えられます。

小学校の教員からは、「小中学生にとって高校生は『身近なお兄さん・お姉さん』であり、子どもたちは興味を持って聞いていた」との話がありました。小中学生と年齢が近い高校生が話すことで、より身近な問題に感じられ、また、寸劇を取り入れたことにより楽しく分かりやすく伝わったと考えられます。

○「消費者トラブル予防カルタ」作成

2016年度は、高校生自身が消費者としての自覚を持ち、消費者トラブルの知識や予防方法を身に付けるため、「消費者トラブル予防カルタ」を作成しました(図表I-3-3-9)。

学校家庭クラブ員の1年生160名全員で読み札の標語や絵札を考案した後、優れたものを選んで仕上げ、家庭科の授業時間に、カルタ遊びに取り組みました。カルタ作成を通じて楽しみながら消費者問題の現状や予防法について自ら考え、学べたという効果がありました。

また、神栖市消費生活センターによる高齢者対象の出前講座に参加した高齢者と、このカルタで遊びながら消費者トラブルの未然予防を呼び掛けました。福祉施設の担当者からは、「参加した高齢者は孫と触れ合うような感覚で高校生と接し、普段にはないいきいきとした姿が見られた」との話が聞かれました。高校生が講師となることで、トラブル防止のみならず、地域社会に活気を与える役割も果たしていると考えられます。

○活動の効果と今後の展望

活動を行う高校生自身には、専門家と活動することで消費生活についての知識が身に付くだけでなく、自分の地域に貢献したいという気持ちが向上し、さらに、地域に受け入れられ活動を評価されることを通じて自分に対する自信が高まる傾向がみられています。高校生からは、「他の学校にもこの活動を参考にしてもらい、活動の輪を広げていきたい」との声も聞かれました。

今後も高校生と専門的な知識を持った消費生活センターが連携し、消費者市民社会の構築に貢献していくことが期待されます。

●大学生に消費者教育の企画立案及び実践を委託:名古屋市

名古屋市では、「名古屋市消費者行政推進プラン」を策定し、市民の消費生活の安定及び向上を確保するための施策を推進しています。その中で、若者に対する啓発のための連携強化を課題と位置付け、大学生に対する消費者教育として、大学への消費者教育・啓発委託事業を実施しています。この事業は、消費者啓発についての企画立案及びその実践を大学に委託し、大学生自らが消費者問題についての知識を深め、関心を高めてもらう機会とするとともに、若者の視点やアイディアにより消費者問題について効果的な普及啓発を図ることを目的としています。2016年度は市内の6大学に委託し、様々なテーマの取組が行われました(図表I-3-3-10)。そのうち、具体的に2つの実践例を紹介します。

○実施例1:中学校家庭科授業の実施

椙山女学園大学では、併設中学校の1年生7クラス(256人)を対象に、大学生による家庭科の授業(単元:よりよい消費生活のために、本時(注75):契約と消費生活のトラブル)を行いました。授業の準備から実施に至るプロセスを紹介します。

1授業の実施計画に関する事前打合せ

中学校家庭科の年間指導計画を踏まえ、大学生の指導教員と併設中学校の家庭科教員が、大学生が実施する授業の単元、本時の内容、実施クラス及び日時について協議しました。

2大学生による授業の準備

授業準備は、現代マネジメント学部3年生12人で次の手順で行いました。まず、社会情勢及び生徒たちの実態を踏まえ、単元設定の理由、単元の目標及び指導計画等を明らかにしました。次に、大学生の視点をいかし、若者の共感を得やすい効果的な教材を選定、作成しました。そして、教材を活用し、ディスカッションを重視した指導計画を考え、事後の評価項目を設定しました。また、模擬授業を繰り返し、教材や指導計画に修正を加えました。

●授業の実施

当日は、グループ形式の座席配置とし、教師役1名、補助2~3名(パソコン操作、ディスカッション補助)により授業を実施しました。授業後、評価項目に基づきながら指導教員と授業実施者による反省会を行い、以後の授業に向け改善点を確認しました。

○実施例2:消費者教育啓発パンフレット作成

中京大学法学部3年の学生は、名古屋市消費生活フェアに出展し、さらに、来場者とのやり取りから学んだことも参考にして、消費者啓発パンフレットとしてまとめました(図表I-3-3-11)。それに先立ち、一部の学生は、名古屋市消費生活センターの相談員に聴取り調査も実施しました。

●次世代の消費者リーダーによる消費者市民社会に向けた取組:兵庫県

兵庫県における大学生ら次世代の消費者リーダーによる消費者市民社会に向けた取組は、県と大学生協神戸事業連合(現大学生協関西北陸事業連合。以下この項において「大学生協」といいます。)との連携から始まり、事業者等の協力を得ながら充実してきた中で、大学生による主体的な活動へとつながっています。以下その歩みを紹介します。

○兵庫県と大学生協との間で協定締結

2010年5月に、兵庫県と大学生協との間で「次世代の消費者教育・学習に関する協定」が締結されました。以来、消費者教育セミナーやワークショップの開催、「スマコン(注76)(賢い消費者)になるためのチカラ養成Handbookシリーズ」等の教材作成(製本版、電子版)など様々な事業を展開の上、次世代の消費者リーダーとなる「くらしのヤングクリエーター」の養成について、共同で取り組んできました(図表I-3-3-12)。

○大学生による大学生に向けた啓発活動

2010年度から2011年度にかけては、大学生を対象に消費者問題に関する研修会等を実施し、「くらしのヤングクリエーター」を養成しました。2012年からは、この「くらしのヤングクリエーター」らを中心に、新入生歓迎イベントや学園祭等での消費者被害事例の紹介など、大学生による大学生に向けた啓発活動やセミナー等を展開しています(図表I-3-3-13)。

○「くらしのヤングクリエーター認定証」の交付

2013年度からは、このような消費者啓発活動を顕著に実践したと認められる大学生に対し、県知事から「くらしのヤングクリエーター活動認定証」の交付を始め、2016年度までに130人の大学生を認定しました。認定証を交付された大学生らは「消費者市民社会への取組をより多くの人に広めていきたい」と更に意欲的に活動に取り組んでいます。

○大学生企画・運営による「消費者・事業者・行政ワークショップ』の開催

また、2013年度からは、「くらしのヤングクリエーター」らが実行委員会を結成し、「消費者」、「事業者」、「行政」の三者によるワークショップを中心となって開催し、消費者市民社会の実現に向け、それぞれの役割や連携による取組を考える機会を持っています。2015年度からは高校生も参加し、2017年2月に開催した5回目となるワークショップでは、総勢126人が消費者市民社会の実現に向け、ともに実践できることについて討議しました(図表I-3-3-14)。「賢い若者の消費者を創る合宿で『食』について語り合う」、「高校生のための消費者教育教材コンテストを開催する」などのアイディアが支持を集めました。

○「学生団体スマセレ」設立

2016年度に設立された「学生団体スマセレ」は、様々な形で消費者教育に関わってきた「くらしのヤングクリエーター」らが力を合わせ、これからの未来を自分たちの手で「スマート・セレクト(Smart Select:賢い選択)」し、切り開くことを目標に立ち上げた協議会で、若者の消費者力アップに向けた新たな原動力となっています(2017年2月末現在、19大学、49人加盟。)(図表I-3-3-15)。

「学生団体スマセレ」提案による大学生による姫路駅前での消費者ホットライン「188」啓発活動を始め、兵庫県と大学生協がコラボしたウェブサイト「ひょうご発!くらしのヤングクリエーター」の作成・運営、新入生向けリーフレットの作成など、新たな試みも展開されています。さらに、事業者との連携も広がっています。2016年10月には日本ハム株式会社の協力を得て「大学生が企業と創る消費者市民社会」をテーマとしたワークショップを、同年12月には大阪ガス株式会社の協力により「『かしこい選択』"E"ライフ!~"Eco"や"Ethical"な行動から明日を考える~」をテーマとしたエコ・クッキングやワークショップ等を開催しました。2017年3月には消費者庁や日清製粉グループ等の協力を得て、「工場見学から学ぶ食品安全に関する取組とリスクコミュニケーション」を開催しました。

○今後の展望

これまでの消費者教育に関わってきた経験等をいかし、事業者や地域等とのつながりを大切に、様々な社会問題に向け、将来にわたって継続していこうという若者の力に大いに期待が寄せられています。2017年度以降も「身近な人に伝える」「共有する」などをキーワードに、若者目線でのエシカル消費など新しい事業にも取り組んでいきたいとの提案が「くらしのヤングクリエーター」らから兵庫県に次々と寄せられています。

今後も大学生ら若者の、消費者市民社会の形成に向け、多様な主体と連携した様々な取組の展開が期待されます。


  • (注75)学習指導案に授業展開などを記述する1コマの授業そのもののこと
  • (注76)スマート・コンシューマー(smart consumer)の略の造語。

担当:参事官(調査研究・国際担当)