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第1部 第3章 第2節(2)若者に多い消費者問題

第1部 消費者行動・意識と消費者問題の現状

第3章 【特集】若者の消費

第2節 若者の消費者トラブル

(2)若者に多い消費者問題

ここでは、若者に目立つ最近の消費者トラブルについて、紹介していきます。

●若者で多いマルチ取引はSNSや海外に関する内容が目立つ

若者に関する消費生活相談の特徴として、「マルチ取引」(まがい取引も含む。)(注73)の相談の多さが挙げられます。2007年以降の年齢層別の「マルチ取引」の相談件数の推移をみると、20歳代が他の年齢層と比べ突出しています(図表I-3-2-7)。全体の傾向としては、2011年までは減少し、その後、20歳代は増加傾向に転じています。20歳代の相談をみると、2016年には、2007年の約6割ではあるものの、4,000件を超える相談が寄せられています。

若者における「マルチ取引」でのトラブルのきっかけとしては、成人直後に友人や同僚等から勧誘されることが多く、具体的な商品・サービスは、これまで「健康食品」や「化粧品」が主流でしたが、ここ数年をみると投資用DVD教材が目立つようになりました。また、2015年以降、SNSをきっかけとしたものや、海外事業者に関するものが多くみられるようになってきています。

例えば、最近みられる相談内容の中には、SNSで知り合った人からのメッセージで「海外のインターネット上のカジノのアフィリエイトで稼げる、新たな会員を紹介すると紹介料も受け取れるので一緒にやろう」と誘われるケースなど、友人だけではなく、実際には会ったことがない人からSNSを通じて勧誘されるものがみられます。他には、SNSで実業家を名のる人から「海外のホテルを格安で利用できるとリゾート会員権の契約を勧められ、さらに人を紹介するとお金が入ると説明された」として契約する例もみられます。そして指示された海外事業者のサイトにアクセスして会員登録し、登録料をクレジットカード決済したものの、説明のように簡単にはもうからず、解約したい、等の内容が寄せられています。

こうしたSNS上での出会いがトラブルのきっかけとなるケースや、対象となる商材がインターネット上で取引を行えるものであること、トラブルの相手が海外事業者であることなど、従来のような対面での勧誘に加え、インターネット等を介しての広がりがみられるため、注意が必要です。

なお、図表I-3-2-6でみたように、若者の年齢層を3つに区分すると、2016年の相談件数は20歳代前半が10歳代後半及び20歳代後半に比べて多いものの、10歳代後半及び20歳代後半も前年より相談件数が増加しているため、これらの年齢層についても注意が必要です。

●美容に関連する相談は20歳代で多い

「エステティックサービス」や「美容医療」に関する消費生活相談件数は、女性の占める割合が、2016年にはそれぞれ約95%、約78%であるとおり、女性に多くみられるものです。

2016年の「エステティックサービス」の相談を女性について年齢層別にみると、「脱毛エステ」、「痩身エステ」、「美顔エステ」、「他のエステティックサービス」の種類別でそれぞれ20歳代の相談件数が最も多くなっています(図表I-3-2-8)。

20歳代の相談のうちでは、「脱毛エステ」に関する相談が最も多く、次いで「痩身エステ」、「美顔エステ」という順です。アロマセラピーやリラクゼーションマッサージ等の「他のエステティックサービス」は30歳代、40歳代と大きな差はありません。また10歳代は「脱毛エステ」の相談が目立っています。

寄せられた相談のうち、「同級生に誘われてエステに行き契約したが、家族に反対されたので中途解約したい」、「脱毛エステを中途解約したが、店が色々なことを理由に精算金を返金しない」など、解約に関する事例が約9割と多くみられます。また、数は少ないものの、第1部第1章第2節で紹介した、エステサロンの施術で熱傷になった例などの生命・身体に関する相談も寄せられています。

医療脱毛、豊胸手術、二重まぶた手術など、医師による医療のうち「もっぱら美容の向上を目的として行われる医療サービス」を「美容医療」といいます。2016年の相談件数全体のうち約8割が女性の相談ですが、10歳代、20歳代、30歳代は他の年齢層と比べると性別による差がやや小さくなっています(図表I-3-2-9)。年齢層別にみると、20歳代が男女共に最も相談が多く、特に20歳代女性は30歳代女性、40歳代女性と比べても2倍近い相談が寄せられています。なお、20歳代女性の相談は、2016年には2012年と比べて1.4倍となっており、他の年齢層より大きく増加しています。

主な相談事例は、女性は「無料脱毛のチケットをもらい出かけたクリニックで、高額の全身脱毛を契約してしまったが、解約したい」、「ケミカルピーリングの施術により、顔中に発疹が出た」、男性は「包茎手術をしたが、高額な上、手術結果に納得できない」といったものがみられます。

その他、美容に関連する内容でも、施術を受ける側ではなく、主に施術をする側の養成に関するサービスについても相談が寄せられています。エステティシャン、ネイリスト、メイクアップ、まつ毛エクステンション施術、アロマセラピー教室等の「美容関連教室」に関する相談件数は、年齢層別では、20歳代女性が30歳代女性と共に最も多くなっています。

消費者庁では、2016年8月に「脱毛エステ契約のポイント」についてのチラシを公表しています(図表I-3-2-10)。情報を集めることは大事ですが、広告をう呑みにせず、正しい情報収集をしましょう。1施術の勧誘にも慌てて契約せず、よく考えることが重要です。21か月、5万円を超えるエステティックサービスの契約を締結した場合は契約書面を受け取った日から起算して8日間はクーリング・オフができます。3契約書面を受け取ってから起算して8日間が経過した後も、止めたい場合は、中途解約ができます。また、同年9月には、厚生労働省と協力・連携し、「美容医療を受ける前に確認したい事項と相談窓口について」を公表し、注意喚起を行っています(コラム参照)。美容医療などの施術を受ける場合は、医師などから十分な説明を受けた上で、落ち着いてよく考えてから施術を受けるか決めましょう。

COLUMN12
美容医療を受ける前に確認したい事項と相談窓口について

●タレント・モデル契約に関連したトラブル

美容に関するトラブルのほか、若者を中心として、タレント・モデル契約関連の様々なトラブルも発生しています(注74)。相談は20歳代を中心に、女性のみならず男性の相談も寄せられています(図表I-3-2-11)。

トラブルのきっかけは、以前多くみられた繁華街等でのスカウトに加え、最近では、スマートフォン等で検索して見付けたオーディションに申し込んだり、SNSに書き込まれているタレント事務所の募集広告を見て自ら連絡を取ったり、SNSで知り合った人からの紹介を受ける等、様変わりしています。ここでもSNSが何らかの形で関係するケースが増えています。

タレントやモデルになるために必要だと、商品購入やサービス利用を勧められることがあり、これに関する相談もよくみられますが、相談内容は多岐にわたります。例えば、「オーディションの合否にかかわらず高額なマネジメント契約やタレント養成教室等の契約を求められる」、「プロフィール写真のために必要と高額な撮影料を請求される」、「仕事に必要だからと高額なエステ契約をさせられる」などの様々なトラブルが発生しています。

また、「高額な契約をしたものの仕事を紹介されない」、「レッスン内容のレベルが低い」という相談や、「解約時に高額な違約金を請求された」などの事例もみられます。

悪質事業者の場合、若者の、タレントやモデルに憧れる気持ちにつけ込んで甘い言葉をかけてくることがありますが、金銭の負担を求められる場合は特に注意が必要です。

その他、「モデル事務所の面接に行ったところ、アダルトDVDへの出演を勧められた」というケースもあります。

こういったことから、消費者庁、国民生活センターは2017年4月に「タレント・モデル契約のトラブルに注意!!」として注意喚起を行っています(図表I-3-2-12)。

●一人暮らしをきっかけにしたトラブル

高校を卒業し大学に入学するときや、学生から社会人になるときなど、新生活が始まるタイミングで一人暮らしを始める若者は多く、それまで実家で生活していたときは保護者が対応していたような、世帯ベースで発生する消費生活上の契約について、若者が当事者として判断するようになる中でトラブルに発展するケースがみられます。

例えば、図表I-3-2-4でも上位商品に挙がっていたアパート等を借りるなどの不動産貸借や、テレビの受信料支払、新聞購読、インターネット接続回線の契約等についての相談が寄せられています。

不動産貸借については、契約終了時に引き払う際の原状回復における敷金等について、貸主とトラブルになる事例が主な相談内容として挙げられます。

またテレビの受信料支払や新聞購読、インターネット接続回線契約等の訪問勧誘については、強引に支払・契約を求められた等の相談が多く寄せられています。

●若者に多いその他のトラブル事例

その他、図表I-3-2-4でも上位商品に挙がっていた「オンラインゲーム」に関する相談は、10歳代後半の男性で多くなっています。

20歳代後半になると主に結婚式場予約のキャンセル等の「結婚式」に関する相談が目立つようになります。一般的には、人生の中で結婚式に関する契約を頻繁に経験することはありません。そこに事業者と消費者との間に情報の質・量や交渉力の格差が生まれやすい要因があります。また、かかる費用も決して安くはありません。自分に合ったサービスを適切に選択するのは難しく、トラブルが発生しやすい状況となります。

また、留学に関連する「留学等斡旋サービス」に関する相談は2016年には20歳代で最も多い状況です。

成人になると、未成年ではほとんどみられなかった融資に関わる相談も多く寄せられるようになります。「フリーローン・サラ金」についての相談では、「ネットで検索した金融業者にスマートフォンを購入して送れば融資すると言われ送ったが、融資されない」などの内容がみられます。

他に、大学生が就職活動を迎える時期に、就職に役立つ等の説明で、いわゆる就活塾や自己啓発セミナー、起業家育成セミナー等の勧誘を受けたという相談がみられます。中には、「大学生の友人から起業家育成講座に誘われ、100万円以上もする代金を消費者金融で借金して支払い、契約したが、解約したい」などと、高額な契約トラブルになっているケースもあります。

●若者のトラブルを相談につなげるために

これまでみてきた具体的なトラブルの例から、若者はインターネットやSNSを利用する頻度が多く、最近はこれらにまつわるトラブルに巻き込まれる機会が増えていることが推測されます。特に目立つのは、SNSを介して知り合った人を信じて、その勧誘に応じたことがきっかけになるケースや、インターネット上の広告を見て、慎重に検討せずに申し込んでしまうなどのケースです。

若者は、成熟した成人と比べて「知識」、「社会経験」が乏しく、人からの誘いを断るという判断をしにくいことからトラブルに巻き込まれやすく、また、トラブルに巻き込まれた後も、自分自身での解決が難しいことが予想されます。さらに、自身の「お金(資力)」が乏しいことから、将来に向けての仕事などに結び付く誘いなどにも乗ってしまいがちです。

消費者庁「消費者意識基本調査」(2016年度)では、自身の消費行動で「強く勧められると断れない」という回答が全体平均で18.1%のところ、10歳代後半では25.2%、20歳代では23.9%と、他の年齢層を上回り、10歳代後半の女性では30.4%と、特に高い結果でした(図表I-3-2-13)。前述した美容関連のサービスの勧誘や、タレント・モデルになるために必要と言われる勧誘、友人等の誘いがきっかけとなるマルチ取引などをきっぱり断れずに、トラブルに巻き込まれてしまうことがうかがえます。

他に、消費者庁「消費生活に関する意識調査」(2016年度)で、商品の購入やサービスの利用でトラブルに遭った際、どのような行動を取るかを尋ねたところ、「何もしない」との回答が全体平均で13.9%であるのに対し、20歳代前半の回答は23.1%と高く、「どうしたらよいかわからない」ということを表している可能性があります。また、「知識」や「社会経験」の乏しさから、本人に「消費者トラブルに遭っている」という認識に欠けていることも考えられます。

若者に関する消費生活相談を誰からの相談かという視点でみると、10歳代後半に関する相談は、本人からの相談が約4割と、相談全体では約8割であることと比較すると低い状況です。20歳代前半では約7割、20歳代後半では約8割と、年齢が上がるにつれ、本人から相談が寄せられることが多くなっています。また、性別では男性は女性より本人からの相談割合が低い傾向がみられます。

特に10歳代後半については、高齢者と同様に、本人が自身で行動を起こせるよう、消費者教育・啓発により一層力を入れる必要があるとともに、家族、友人、教師等、周囲の人に気軽に相談できる状況や、周りが気付く環境を整えることが重要です。

第1部第1章第4節の図表I-1-4-2でみたように、「アダルト情報サイト」に関する相談は若者では顕著に減少しており、若者の大部分がスマートフォン等を利用している中、こういったトラブルへの対応方法が浸透してきていると考えられます。他方、インターネットでトラブルへの対応方法について情報を収集し、トラブル解決をうたう探偵業者等へ慌てて連絡してしまうという相談が、他の年齢層より比較的多く(図表I-1-4-4)、サイト検索で画面の上位に表示された内容をう呑みにしてしまう傾向が強いこともうかがわれます。

他に、消費者庁「消費者意識基本調査」(2016年度)で、民法に定められている契約の未成年者取消権の認知度を聞いたところ、全体では「知っていた」との回答が68.8%でしたが、未成年者での回答は51.2%にとどまりました。消費者契約のルールについても、若者への教育により力を注いでいくことが求められます。

他方、若者は他の世代と比べて吸収力に優れ、行動力があることが多く、適切な情報が届き、それを理解できれば、今後の消費者トラブルを自ら回避することも十分可能となると期待できます。これは、長く続く消費生活において大きな力となることでしょう。

子供の頃から情報通信が発達した社会で過ごし、情報の収集や発信力にたけた若者に寄り添った手段を検討し、これからの社会を担う若者の消費者被害の予防と対策に向けて、消費者教育・啓発の関係機関はより一層連携を強化していく必要があります。


  • (注73)国民生活センターによると、「マルチ取引は「商品・サービスを契約して、次は自分が買い手を探し、買い手が増えるごとにマージンが入る取引形態。買い手が次のその販売組織の売り手となり、組織が拡大していく」取引と定義されている」ため、「「マルチ取引」は、特定商取引法の「連鎖販売取引」とは必ずしも一致しない」(消費者委員会成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グループ報告書(2017年1月 3頁参照))。
  • (注74)国民生活センター「タレント・モデル契約のトラブルに注意してください!―10代・20代の女性を中心にトラブル発生中―」(2016年11月30日公表)

担当:参事官(調査研究・国際担当)