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第1部 第1章 第5節(2)消費者被害・トラブル額の推計

消費者意識・行動と消費者問題の動向

第1章 消費者事故等に関する情報の集約及び分析の取りまとめ結果等

第5節 消費者被害・トラブルの経験と被害・トラブル額の推計

(2)消費者被害・トラブル額の推計

●消費者被害・トラブル額の推計の考え方

消費者被害・トラブルの状況を把握するための一つの指標として、全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談情報があります。これは、消費者被害・トラブルの端緒やトレンドを把握するためには極めて有効な情報ですが、あくまで消費者やその家族等から相談があったものだけに限られており、相談情報に表れない消費者被害の実態やその規模はこれだけでは明らかにすることはできません。

そこで消費者庁では、消費者被害・トラブル全体のおおまかな規模を明らかにするため、2013年度に「消費者被害に関連する数値指標の整備に関する検討会」を開催し、消費者被害・トラブル額の推計を試みました。

推計は、消費者被害・トラブルの推計件数に消費者被害・トラブル1件当たりの平均金額を乗じる手法により実施しました。具体的には、まず全国の満15歳以上から無作為抽出して意識調査(注40)を行い消費者被害・トラブルの「発生確率」を求めた上で消費者被害・トラブルの総数を推計し、これに消費生活相談情報から計算される平均金額を乗じ、所要の補正を行って推計値を算出するという手法をとっています。

「消費者被害・トラブル1件当たりの平均金額」は、消費生活相談情報の「契約購入金額」、「既支払額」といった項目により算出しています。実際には、消費者は小さな消費者被害・トラブルではわざわざ消費生活センター等に相談をすることはせず、より深刻な場合ほど相談率は高いものと考えられることから、消費生活相談情報から得られる平均金額は実態より相当高い水準にあるものと推測されます。そこでこうした相談情報の特性を考慮し、トラブル金額が少額のものと高額のものとを分けて推計することで推計値の補正を行っています。

また、近年、高齢者の消費者被害・トラブルが大幅に増加していますが、高齢者の特性として、本人が被害に気付かず相談しないということがあり、特に認知症等の高齢者に顕著にみられる傾向があります。このため、本人が自ら回答することが前提の意識調査では、本人が認識していない消費者被害・トラブルを十分に把握できない可能性があります。そこで高齢者の潜在被害が一定数存在するものと仮定し、その分を推計値に上乗せする形で補正を行っています。

推計結果としては「契約購入金額」、「既支払額(信用供与を含む。)」、「既支払額」の3つの推計値を示しています。このうち、「既支払額」(実際に消費者が事業者に支払った金額)に「信用供与」(クレジットカード等で決済しており、まだ支払は発生していないもののいずれ引き落とされる金額)を加えた「既支払額(信用供与を含む。)」を、消費者が負担した金額の実態に近いものとして取り扱っています。

なお、「消費者意識基本調査」では被害相当額、派生的な被害額、問題対応費用等についても尋ねていますが、サンプルが少ないことと回答の正確性の問題から、推計に用いるには精度が不十分なものと判断し、推計には含めていません。したがって、本推計は、厳密には「消費者被害・トラブルに関する商品・サービスへの支出総額」と称すべきものですが、便宜上「消費者被害・トラブル額」と表現しています。

●2016年の消費者被害・トラブル額

前述の手法により推計したところ、2016年1年間に支出が発生した消費者被害・トラブル件数は約905万件となり、消費者被害・トラブル額は、約5.2兆円(4.7~5.6兆円(注41)、「既支払額(信用供与を含む。)」ベース)となりました(図表I-1-5-4)。

約6.7兆円(「既支払額(信用供与を含む。)」ベース)であった2015年よりも総額が減少しました。推計した2016年の消費者被害・トラブル件数が2015年と比較して減少しているためで、前述のように、消費者被害・トラブルに遭ったと認識している消費者の割合が減ったことが影響しています。

今後、継続的に推計を実施していくことにより、消費者行政の成果を測定する上で効果的な指標となると考えられます。


  • 注40:消費者庁「消費者意識基本調査」(2016年度)において、層化2段無作為抽出法により抽出した全国の満15歳以上1万人(全国400地点)を対象に訪問留置・訪問回収法により調査を実施。調査時期は2016年11月4日から11月30日まで、回収率は60.1%。
  • 注41:既支払額(信用供与を含む。)ベースでの消費者被害・トラブル額の推定額は約5.2兆円であるが、この数字には誤差が含まれており、同基準の消費者被害・トラブル額は95%の確率で4.7~5.6兆円の幅の中にあると推定される。

担当:参事官(調査研究・国際担当)