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第1部 第1章 第2節(3)生命・身体に関する事故情報の事例

消費者意識・行動と消費者問題の動向

第1章 消費者事故等に関する情報の集約及び分析の取りまとめ結果等

第2節 消費者庁に集約された生命・身体に関する事故情報等

(3)生命・身体に関する事故情報の事例

2016年度に全国の消費生活センター等に寄せられた相談情報のうち、実際に危害を負ったという相談である危害情報の割合を年齢層別、事故発生場所別にみると、全ての年齢層で「家庭」、「店舗等」を合わせた割合が7割を超えています(図表I-1-2-8)。「家庭」と「店舗等」のどちらの割合が高いかは年齢層によって異なり、例えば5歳未満では「家庭」の割合が最も高く、20歳代では「店舗等」の割合が最も高くなっています。

5歳未満の「家庭」で発生した危害情報の主なものとしては、家具やベビー用品の可動部やバリ等で傷を負ったものや、食料品のアレルギー表示の不備等により誤って食べてしまい、アレルギー症状が出たものがあります。20~50歳代の「店舗等」では、美容医療やエステサロン等(注)で受けた施術により傷を負ったという事例が多くみられます。60~70歳代と年齢層が高くなるにつれ、「店舗等」の危害情報として医療関係のものが増えます。80歳以上では60~70歳代と比較して「店舗等」の割合が高くなっています。これは医療関係に加え老人福祉・サービスでの危害情報が増えるためです。

このように、年齢層によって活動する場所が変わるため、それに伴って発生する生命・身体に関する事故の内容も変わってきていると考えられます。5歳未満や60~70歳代では他の年齢層に比較して「家庭」の割合が高くなっています。特に子供の場合、家庭での日常的な場面に危険が隠れており、思わぬことが事故のきっかけになっていると考えられます。

以降では、2016年度に注意喚起を行った事例について紹介します。

●エステサロン等での施術による危害

サロン等でHIFUという「高密度焦点式超音波」や、それに類する超音波技術を応用したという機器(以下総称して「HIFU機器」という。)で施術を受けたところ、「熱傷になり、治るまでに半年かかると言われた」、「神経の一部を損傷した」等で治療に数か月を要する危害を負ったといった相談が寄せられています。このことから、2017年3月に国民生活センターが注意喚起を行っています(注14)

HIFU機器は、人体の表面を傷付けずに、超音波を体内の特定部位に集中させることで加熱し、熱変性を生じさせることができることから、医療で前立腺の治療等に用いられています(図表I-1-2-9)。

HIFU施術は、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある医行為(注15)に当たると考えられます。しかし、エステサロン等ではウェブサイトや施術前の説明でHIFU機器を用いて「脂肪細胞を溶解させる」、「肌の土台である筋膜に直接ダメージを与える」等、皮下組織に直接影響を与えることで小顔、痩身や美顔等の施術ができるといわれており、医師法に抵触するおそれが指摘されています。

HIFU施術による侵襲(注16)行為は、医師の医学的知識や技能を必要とする施術であり、医師以外の者による施術は絶対に受けてはいけません。美容医療クリニック等でHIFU施術を受ける場合であっても、施術者は医師である必要があり、施術前には医師による十分な診断と本人が納得した上での同意が必要です。施術に当たっては、メリットだけでなく、リスクについても事前に十分説明を受けましょう。

もし、エステサロン等でHIFU施術を受け危害を負った場合には、速やかに医師の診察、治療を受けましょう。HIFU施術による危害は表面からは判断がつきにくいこともあるため、受診の際にはエステサロン等の広告やウェブサイトの施術内容を印刷して持っていくなどして、自分がどのような施術を受けたのかを医師に正確に伝える必要があります。また、HIFU施術を行ったエステサロン等と治療費などについて交渉するためには、施術内容との因果関係が明白となる診断書が重要となるため、詳細な診断書を作成してもらいましょう。

●店舗・商業施設で買物中の転倒事故

2009年9月から2016年10月末までの間、事故情報データバンクに消費者の店舗・商業施設(注17)での事故情報が845件寄せられています。このうち7割以上の602件が、買物中に滑る、つまずく等によって起きた転倒事故です(図表I-1-2-10)。転倒以外の事故(243件)では、「自動ドアに挟まれた」、「エレベータに閉じ込められた」、「トイレの便座でやけどをした」、「棚の商品が落下し当たった」等の事故が起きています。消費者庁では、店舗・商業施設での買物中の事故について2016年12月に注意喚起を行っています(注18)

転倒事故は、床面での滑り事故が最も多く、次いで店舗内床面の段差や凹凸によるつまずき、駐車場の路面の段差や凹凸によるつまずき、床に置かれた商品や荷物用台車等でのつまずきの順になっています。また、店員が回収中のショッピングカートや移動中の荷物用台車に衝突されたことよる転倒事故も起きています。

転倒事故の年齢層別・性別の件数をみると、女性が7割以上(男性の3倍)を占めています(図表I-1-2-11)。また、高齢になるにつれて、骨折など治療期間が1か月以上のけがになる割合が高い傾向にあります。高齢者は、足元や周囲に想定外の変化があった時、その対応が遅れがちになるため、特に注意が必要です。

店舗での転倒事故は、店舗のフロアーや駐車場等の状態(水濡れ、凹凸等)だけが原因ではなく、消費者自身が注意を十分に払っていないことも関係しています。買物中は商品に気を取られがちですが、次のような点に注意を払い、事故に遭わないよう買物をしましょう。1床の水濡れや野菜等の落下物に注意、2足元の段差や床に置かれた商品や台車に注意、3搬送中のショッピングカートや荷物用台車の動きに注意、4駐車場の路面やマンホールや側溝の蓋に注意。また、もし危険だと感じた時は、お店の方に申し出て、安全策をとってもらいましょう。

●店舗用ショッピングカートでの子供の事故

店舗・商業施設での事故のうち、前述の転倒事故以外のものとして、店舗用ショッピングカート(以下「ショッピングカート」という。)での子供の事故があります。

スーパーマーケットやショッピングモール等の店舗には、購入する商品を運ぶためのショッピングカートがあり、日常的に多くの消費者に利用されています。ショッピングカートには商品だけを載せるもののほか、幼児座席のあるもの、乳児も乗せられるものなど複数の種類があり、子供を座席に乗せて買物をする姿もよく見受けられます。そのような状況の中、子供がショッピングカートから落ちてしまった、ショッピングカートに乗ったまま転倒してしまったなどの事例が医療機関ネットワークに多く寄せられています。頭部や顔面にけがを負ったり、中には骨折や頭蓋内損傷などの重症になったりした事例も寄せられており、国民生活センターが注意喚起を行っています(注19)

医療機関ネットワークには、「スーパーマーケットで買物中に転倒した」、「ショッピングセンターの金属の扉に走っていてぶつかった」など、スーパーマーケットやショッピングモール等の店舗内での事故情報が2011年4月から2016年10月末までの間に295件寄せられています(図表I-1-2-12)。そのうち、ショッピングカートに関わる事故は118件と4割を占めていました。年度別にみると2015年度が31件と最も多く寄せられており、2016年度も多くの事故が発生しています。

ショッピングカートに関わる事故の被害者を年齢別にみると、1歳の事故が35件と最も多く、次いで2歳が31件となっており、1歳以上3歳以下の幼児が7割以上(85件)を占めていました。

6歳以下の子供のショッピングカートに関わる事故108件を危害部位別にみると、頭部が61件と最も多く、次いで顔面が20件であり、その他鼻や口に危害を生じたという事例を合わせると、8割以上(91件)が頭部から顔面の範囲に危害を生じていました(図表I-1-2-13)。特に頭部への危害が目立ち、中には硬膜外血腫を生じた重症事故も報告されています。乳幼児はまだ頭部が柔らかく損傷を受けやすいことから、重大な事故につながる可能性があると考えられます。

子供をショッピングカートの幼児用座席に乗せている時は、立ち上がったり身を乗り出したりしないよう注意し、ベルトやハーネスがあればしっかり装着するなど、幼児用座席から転落しないよう防止策をとりましょう。利用時には注意表示や座席の対象年齢・月齢等をよく確認し、子供を座席以外の部分に乗せたり、ショッピングカートで遊ばせたりしないようにしましょう。

●子供の歯磨き中の喉突き事故

虫歯予防や口の中の衛生のため、歯磨きは大切な生活習慣です。また、乳幼児期から子供用歯ブラシを使用して歯磨きをするなど、子供にとっても歯磨きは毎日の習慣である一方で、歯ブラシをくわえたまま転倒し、喉を突くなどの事故が発生しています。このようなことから、東京都(注20)、消費者庁及び国民生活センター(注21)では、注意喚起を行っています。

消費者庁と国民生活センターの共同事業である医療機関ネットワーク事業の参画医療機関からは、6歳以下の子供が歯磨き中に歯ブラシをくわえたまま転倒して喉を突き、口の中に刺さってけがをし、入院するなどの事故報告が寄せられています。2010年12月から2016年12月末までに、6歳以下の子供の事故情報が139件報告されています。年齢別では、1歳児が最も多い64件、次いで2歳児が42件、3歳児が17件でした(図表I-1-2-14)。

発育途上にある子供は身体のバランスが悪く転倒しやすく、歯ブラシによる喉突きなどの事故は、ちょっとした間に起きてしまいます。事故防止のために、特に、事故が多い1歳から3歳頃の子供が自分で歯磨きをする時は、次のことを注意しましょう。1保護者がそばで見守り、床に座らせて歯磨きをさせましょう。子供が、歯ブラシを口に入れたり手に持ったりしたまま歩き回ると、転倒してけがをする危険があるので、気を付けましょう。2子供用歯ブラシは、喉突き防止カバーなどの安全対策を施したものを選ぶようにしましょう。3保護者が仕上げ磨きをする際は、子供用歯ブラシはきれいにする効果が不十分なので、仕上げ用歯ブラシを使用しましょう。ただし、仕上げ用歯ブラシは、喉突きなどの危険性が高いため、子供には持たせず、使用後は子供の手の届かない場所に置きましょう。また、箸やフォークなど歯ブラシ以外の場合でも喉突き事故の危険性があるので、口に入れたまま歩いたり、走ったりさせないようにしましょう。

●ブラインド等のひもによる事故

経済協力開発機構(以下「OECD」という。)は2016年6月23日から同月30日までを「ブラインド等窓カバーのひもの安全性に関する国際啓発週間」とし、日本、米国、EU、オーストラリア等の25の国と地域が参加し、啓発に取り組みました(第2部第1章第6節を参照。)。このOECD国際啓発キャンペーンの一環として、消費者庁でも注意喚起を行っています(注22)

消費者庁が、厚生労働省「人口動態調査」の調査票情報を入手・分析したところ、ブラインド等のひもによる事故について、国内でも2010年から2014年までの5年間で3件の死亡事故(5歳未満)が確認されました(図表I-1-2-15)。死亡事故以外にも、2007年以降、7件の事故が確認されており、死亡事故を含めると計10件の事故が確認されています。子供が、寝返りをしてベッドから落ちた際に、ブラインドのひもが首に食い込んだと推測される事例や、かくれんぼをしていたところ、誤ってブラインドのひもに首を掛け、締められてしまった事例がありました。また、2016年6月のOECDの調査では、世界15か国で、1996年以降に死亡事故が250件以上把握されていることが分かっています。

家庭におけるブラインド類やスクリーン類のひも部分、カーテン留め等のひも状部分などが、子供の首に絡まると、気道閉塞による窒息又は酸素欠乏による神経障害が起こり、これによって15秒以内に気絶し、2~3分で死亡する可能性があります。事故は、保護者等が普段は安全だと思っていた寝室やリビング等で、突然、静かに発生するため、保護者は事故が発生しても気付かない可能性があります。

子供が過ごす部屋のブラインド等には、ひも部分がない等の安全性の高い商品を選びましょう。また、既にひものあるブラインド等を設置済みの場合は、クリップを取り付けて、子供の手の届かない位置にひもをまとめたり、ソファやベッドをブラインド等のひもの近くに設置しないようにしましょう。


  • (注13)美顔エステ、脱毛エステ、痩身エステ、ネイルサロン、まつ毛エクステ、マッサージなど。
  • (注14)国民生活センター「エステサロン等でのHIFU機器による施術でトラブル発生!―熱傷や神経損傷を生じた事例も―」(2017年3月2日公表)
  • (注15)「医行為」とは、「当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」と解釈されており、反6復継続する意思をもって医行為行う医業は、医師でなければなしてはならないと定められている(医師法(昭和23年法律第201号)第17条)。
  • (注16)生体に傷害を与えること。
  • (注17)店舗・商業施設には、買物を主としたスーパー、コンビニエンスストアー、ショッピングモール等、百貨店、量販店、ホームセンター、ドラッグストアー、ディスカウントショップ、個人商店を含み、飲食店、店内のフードコート及びゲームコーナー、スポーツ施設、ホテル・旅館等、主に買物以外を目的とする店舗は含まない。
  • (注18)消費者庁「店舗・商業施設で買い物中の転倒事故に注意しましょう~師走・クリスマス・お正月の買い物は注意して~」(2016年12月7日公表)
  • (注19)国民生活センター「医療機関ネットワークにみる店舗用ショッピングカートでの子どもの事故―転落時の頭部損傷のリスクが高く、危険です!―」(2016年12月7日公表)
  • (注20)東京都「子供の歯みがき中の事故に注意!」(2016年8月30日公表)
  • (注21)消費者庁、国民生活センター「子供の歯磨き中の喉突き事故などに気を付けましょう!―6歳以下の子供の事故が多数発生しています―」(2017年2月15日公表)
  • (注22)消費者庁「ブラインド等のひもの事故に気を付けて!―平成22年から26年までに3件の死亡事故―」(2016年6月29日公表)

担当:参事官(調査研究・国際担当)