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消費者を取り巻く環境は、少子高齢化の進行、情報化の進展、消費生活のグローバル化等により変化し、これらに伴い、消費者の意識や行動、消費者トラブルや消費者被害等も変化しています。これらに適切に対応するべく、消費者行政は、施策の実施体制の充実・強化、整備してきた制度の積極的な活用等、実際に消費者の利益の擁護・増進が図られるように努めています。

「消費者政策の実施の状況」は、2012年の消費者基本法改正を受けて2013年度から作成・報告しており、今回が5回目の報告です。併せて、消費者安全法の規定に基づく「消費者事故等に関する情報の集約及び分析の取りまとめの結果の報告」を行っています。

これまでの消費者白書では、消費者の消費者被害・トラブルについての分析に重点を置いてきましたが、今回は、経済の好循環の実現には消費の拡大が不可欠であることや、さらに真に豊かな暮らしの実現という観点から、消費者の消費行動にも焦点を当てています。特に若者の消費行動や意識は、時代を先取りしており、今後幅広い世代に広まる可能性があることから、特集テーマを「若者の消費」としています。

第1部「消費者意識・行動と消費者問題の動向」では、第1章「消費者事故等に関する情報の集約及び分析の取りまとめ結果等」において、消費者安全法に基づいて、消費者庁に通知された消費者事故等を始めとした事故情報等や、全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談情報に基づく、消費者被害・トラブルの状況、さらに消費者被害・トラブル額の推計等について取り上げています。

消費者安全法に基づき、2016年度に消費者庁に通知された消費者事故等は、1万186件です。内訳では、生命身体事故等が2,905件で、うち重大事故等が1,286件であり、財産事案が7,281件です。消費者庁には、この消費者安全法に基づく通知に加えて、様々な機関からの事故情報等が集約されます。これらの情報等を活用し、消費者庁は消費者に対する安全対策を行っています。2016年度には、子供についての日常生活の思わぬ事故を防ぐ観点から、ブラインド等のひもによる事故や子供の歯磨き中の喉突き事故についての注意喚起等を実施しました。

2016年の消費生活相談件数は、88.7万件と、前年を下回ったものの、依然として高水準です。人口当たりの相談件数の推移をみると、長期的な傾向としては、若者は減少傾向、高齢者は増加傾向となっています。

相談内容をみると、近年の傾向として、通信サービスの相談が約26万件と、相談全体の約3割を占めています。幅広い年齢層から、デジタルコンテンツ、インターネット接続回線、携帯電話サービス等に関する相談が寄せられています。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)をきっかけとした相談は増加傾向にあり、2016年では、インターネット通販等で「お試し」のつもりが「定期購入」となる健康食品等の相談が急増しています。通信サービスの中でも、相談件数の多いアダルト情報サイトに関する相談について、若者では減少している一方で、中高年層では増加しており、スマートフォン等情報機器の操作に不慣れな消費者がトラブルに巻き込まれていると考えられます。

消費者庁「消費者意識基本調査」(2016年度)によると、この1年間に何らかの消費者被害・トラブルを受けた経験があると回答した消費者の割合は、7.7%で前年より低下しています。このような調査結果を活用して、消費者被害・トラブル額を推計したところ、約5.2兆円となりました。

第2章「消費者を取り巻く社会経済情勢と消費者意識・行動」では、家計消費や消費者の生活に身近な物価や公共料金の動向、情報化の現状、さらに、消費者庁「消費者意識基本調査」などを基に、消費者の行動や意識等について、紹介しています。

情報化が進展する中で、消費者のインターネット利用やスマートフォンの利用は、中高齢年層を含め、幅広い年齢層に普及しています。ITを活用したフィンテック(FinTech)やシェアリングエコノミーといった新しいサービスの普及が海外で進んでおり、今後、日本でも利用者が増えると見込まれます。これらのサービスについて、国内ではまだ消費者の認知度が低く、また、フィンテックであれば個人情報の流出等、シェアリングエコノミーであれば安全性やトラブル対応等について、消費者が不安を感じているとみられます。消費者の生活を豊かにするものとして広く利用されていくためには、サービスの内容や性質について消費者が理解を深めるとともに、事業者の取組や行政による適切な対応が必要です。

消費者の意識について調査結果からみると、消費者は、現在、「食べること」にお金を掛けており、50歳代までの年齢層では、今後、「貯金」、又は「老後の準備」といった将来の備えに関わるものにお金を掛けたい一方で、「通信(電話・インターネット等)」を節約したい、といった傾向がみられました。消費者トラブルに遭わないための情報の入手経路は、30歳代までは「インターネット(SNSを含む。)」が最も高い割合で、「テレビ」を上回っています。

また、日本国内の食品ロスについては、家庭から発生する量がおよそ半分を占めると推計されており、食品ロスの削減には、消費者の意識の改革やそれに向けた取組が必要です。食品ロス削減に向けた、消費者庁を始めとした関係府省、学生、地方公共団体、各種団体等の取組を紹介しています。

第3章では、特集のテーマとして「若者の消費」を取り上げました。日本経済は緩やかな回復基調が続いていますが、雇用・所得環境の改善に比べ、消費の回復は力強さを欠いています。こうした状況下で、「若者が消費に消極的」、「若者の消費離れ」と言われることがあります。所得に占める消費の割合である平均消費性向の推移をみると、勤労者世帯全体が長期的に低下傾向になる中、若者は全体より低下幅が大きくなっています。若者が消費に慎重になっている背景としては、現代の若者は、長期的な低成長の中で育ち、将来の生活に対する不安を感じていること等が考えられます。

また、現代の若者は、情報化の進展する中で、幼い頃からインターネットや携帯電話などが身の回りにある環境で育っています。消費行動においても、インターネットからの情報収集を多用していると考えられ、SNSをきっかけとした消費行動をとることも年齢層の高い世代に比べて多いことも示されました。

若者の消費生活相談をみると、進学や就職、一人暮らしの開始といった成人に達する前後の年代に特有の消費者トラブルや、SNSをきっかけとしたトラブル、美容にまつわるトラブル等、情報化の進展や若者の嗜好の変化に関連した消費者トラブルが生じています。

このようなトラブルを防止し、さらに若者が次代を担う消費者市民としての力量をつけていくことをも視野に入れて、各地では様々な消費者教育等の取組が実践されています。先進的な取組からは、社会人生活の開始時期に合わせた実施、「お笑い」や「インターネット」の活用など、若者のニーズや興味を捉えることの重要性がうかがえます。また、高校生や大学生など若者が活動に参画している取組からは、若者が自ら消費者教育の担い手となることで、参画した若者自身の理解が深まるとともに、同世代やより若い世代に伝わりやすくなるといった効果もみられます。若者が情報技術を使った発信に慣れ親しんでいること等も踏まえれば、今後は、若者の参画によって、若者だけでなく幅広い世代に伝わりやすい啓発活動等につながっていくことも期待されます。

少子高齢化が進む中で、若者の人口全体に占める割合は低下が見込まれます。しかし、真に豊かな暮らしの実現に向けては、若者の存在が非常に重要です。若者は今後の消費行動を先取りしていると考えられ、その状況を的確に捉えて、企業が事業活動を行い、行政が政策を展開することが、消費の拡大を通じた経済の好循環の実現につながると考えられます。また、近い将来において、IoT(Internet of Things)、人工知能(AI)等のIT技術を使用した革新的な商品やサービスの開発が期待されています。これらの新しい商品・サービスは、まず、情報化の中で育った若者によって活用が進み、幅広い世代に普及すると考えられます。

第2部「消費者政策の実施の状況」は、消費者基本法に基づき、政府の消費者政策の実施状況について報告するものです。

第1章では、消費者庁が取り組んだ最近の消費者行政の主要政策について紹介しています。2016年度には、地域の見守りネットワークの展開等を内容とする改正消費者安全法、課徴金制度を導入する改正景品表示法、集団的消費者被害回復制度を創設した消費者裁判手続特例法が施行され、また、衣類等の「洗濯表示」が国内外で統一される等、新しい制度が導入・運用されました。食品表示については、機能性表示食品制度や加工食品の原料原産地表示制度等についての有識者検討会の各種報告書が取りまとめられており、これらを踏まえた、食品表示基準の改正など制度への反映も進んでいます。倫理的消費の促進を含めた消費者教育の推進、消費者志向経営の普及については、消費者や事業者と連携・協働しながら、取組を進めています。また、2017年度には、新たな消費者行政の発展・創造の拠点として、徳島県に「消費者行政新未来創造オフィス」を開設します。

第2章では、2016年度における消費者政策の実施状況について、消費者基本計画に規定された項目に沿って、消費者庁及び関係府省が分担執筆しており、消費者行政の各分野の取組を報告しています。本報告は、消費者基本計画の実施状況の検証・評価(フォローアップ)としての機能も兼ねています。

また、資料編として、消費者事故等の状況、消費者庁が行った法執行・行政処分・各種情報提供についても掲載しています。

消費者を取り巻く環境は、今後も、更に変化していくことが予想されます。本報告からも、社会経済環境の変化、情報化の進展等により、消費者の情報収集の方法や購入の方法が変化しているのみならず、消費者が情報の発信者となる、消費者自身が評価の対象となる、商品やサービスの提供者になる等、従来の消費者像を超える消費者の行動をみることができます。今後の技術革新等に伴い、これまでにない高い利便性や楽しさ、体験をもたらす新たな商品・サービスが誕生し、消費者の行動に変革をもたらすとともに、新たな消費者トラブルや被害も生じると考えられます。消費者を取り巻く社会経済環境の変化や新たな課題に対して、消費者行政が柔軟に対応し、さらに、消費者、事業者、行政がそれぞれの役割を深化させ、連携・協働していくことが、真に豊かな暮らしの実現につながると考えられます。

担当:参事官(調査研究・国際担当)