国民生活審議会


第2章 新国民生活指標(PLI)の概念と体系


第2章 新国民生活指標(PLI)の概念と体系

前章で述べた経済社会の変化、NSIの問題点を踏まえ、国民生活審議会総合政策部会のもとに設けられた調査委員会において、平成3年7月から1カ年近くにわたって新しい国民生活指標の検討が行われた。その暫定的な結論として、以下のようにNSIを大幅に改定し、近年急速に進んでいる国民生活をとりまく環境変化、国民の意識の変化等に対応し国民の生活実感をより適切に表す指標として新国民生活指標(PLI:People's Life Indicators)を提案する。

新国民生活指標(PLI)は生活指標としての「活動領域別指標」及び生活を取り巻く「構造変化指標」の2つの指標群から構成されている。

(活動領域別指標)

1. PLIのフレームワークの基本的考え方

(1) 個人の生活を活動領域で把握

生活の豊かさ、質を的確に把握するためには、最近の国民生活の重点が衣食住といったベーシックな分野に加えて、s「遊ぶ」「学ぶ」「交わる」といった自由時間の活用と密接に関連する分野に移行していること等を踏まえて、ますます拡がりをみせている生活の状況を多面的にとらえることが必要となっている。そこでPLIでは個人の生活の活動に着目し「住む」、「費やす」、「働く」、「育てる」、「癒す」、「遊ぶ」、「学ぶ」、「交わる」の8活動領域を設定した。

(2) 異なる評価軸の導入

個人の生活に対する満足度は社会の経済的発展等により、より高次の欲求の実現度に左右されるようになる。すなわち豊かさとはある1つの視点からの評価だけではなく、様々な軸から総合的に評価して捉えることが大切である。PLIでは、評価軸として「安全・安心」、「公正」、「自由」、「快適」の4つの評価軸を設定し各活動領域を重層的に捉えられるようにしている。この評価軸の選定にあたっては、個人の欲求としてより基本的なレベルである「安全・安心」から選択の幅を示す「自由」、より気持ちよく生活できるかを示す「快適」というより高次の欲求を表す3つの軸に加えて、近年ますますその重要性が指摘されている「公正」という軸を採用した。

本来、各個人の豊かさに対する評価は、その人を取り巻く環境等様々な要因によって個々人で異なる。このことからすれば、国民全体の生活に対する主観的評価、たとえば「豊かさの実感」レベルを測定するということは個々人の主観評価を総て合成していくことが考えられる。しかし、これは諸個人の選好から社会の厚生判断を導くことはできないとする有名なアローの「一般不可能性定理」によって不可能であることが知られている。そこで、今回の指標改定では、抽象的な「個人」を設定し、評価軸による判断もあくまでも社会一般的な評価を基礎とすることとしている。

(3) 個々の指標の評価は大人である個人の視点に統一

PLIにおいて、生活をとらえるフレームワークは成人した個人の視点に統一している。NSIの問題点として指摘したように、個人に関わる指標と社会全体に関わる指標のように性格の異なる指標を区別することなく採用することは、生活を統一的にとらえる際に混乱を生じかねないことから、成人である個人の視点から再構成する立場を取っている。例えば、年金給付については個人の視点からは給付額は多ければ多いほどよいということになる。その反面、社会全体の視点からは各世代間の負担の問題がでてくることになり、社会全体の福祉の向上にとっての政策のプライオリティの問題となる。また、経済成長への影響や労働供給への影響といったマクロ経済的側面の問題もでてこよう。マクロ的視点に立った社会的豊かさを考える場合には、当然個人の豊かさを合計したものと単純に考えることはできず、社会全体としての構造的仕組みを別途みる指標体系が必要となってくる。

2. 個別指標の選択

PLIにおける活動領域別個別指標は第1表PLI構成表のとおりであるが、指標選択にあたっては、以下の点に留意した。

(1) PLIの活動領域と構成要素

「住む」、「費やす」等の各活動領域に分類される指標を選択する場合、各活動領域を規定する要素毎に各種の指標を整理し抽出した(参考第1表参照)。
PLIの活動領域とそれを規定する要素との対応は以下のとおりである。

活動領域 構成要素
「住む」 住居、住環境
「費やす」 収入等、支出等、資産等
「働く」 賃金・時間、就業機会、就業環境
「育てる」 客体(注)、支出等、施設・環境
「癒す」 主体、支出、施設・環境
「遊ぶ」 時間、支出等、施設等
「学ぶ」 主体、時間等、施設等
「交わる」 家族等、地域等、国際化
(注)

PLIでは生活活動を成人の個人の視点から統一的に評価することとしており、ここでの客体とは、養育される対象となる被養育者、すなわち18歳以下の子供を意味している。「育てる」で評価される豊かさは子供自身が感じる豊かさではなく、子供を育てている親の豊かさである。

(2) 個別指標の選定

個別指標の選定については、成人の個人の視点から上記構成要素毎に各種の指標の代表性を検討した。その際、NSIの採用指標を参考としたが、新しい生活活動領域等になじまないもの、最近の社会動向に照らして重要性が低下しているとみられるものは除外した(PLIとNSIとの対照は参考第2表参照)。また、比較的新しく登場してきた財・サービスでも個人の生活にとって関わりの深い指標はできる限り採り入れるよう努めた。

(3) 「重複指標」の設定

同一指標を異なる評価軸でそれぞれに評価する「重複指標」を採用した。すなわち、「離婚率」、「転職率」、「総病床数に対する差額ベッド数の割合」の3つを「重複指標」として採用した。「離婚率」についてはNSIにおいて「家庭生活」の規範指標としてマイナスと評価していた。この評価に関しては近年、議論の分かれるところであり、安心という側面からみれば家庭の解体はマイナスであろうが、自由という側面からは夫婦としての存在基盤がなくなった夫妻が関係を正式に断ち切ることは新たな選択の幅が拡がるということでプラスと認識できよう。すなわち、選択の自由が豊かさを測る重要なメルクマールとなっているという考え方からすれば、自由という観点からはプラスと評価できよう。「転職率」についても、中高年層を中心に企業倒産、出向等による非自発的な転職の場合には安全・安心の観点からはマイナス評価となる反面、若年層をはじめとして自分により合った職業、職場へ替わることは、就業機会の選択の幅が拡がる等の点で自由の観点からはプラスと評価することができる。「総病床数に対する差額ベッド数の割合」は公平という観点からはマイナスである一方、自己の裁量でより快適な療養環境を選択できるという点では自由の観点からプラスと評価できよう。

3. 総合指標の試算方法

総合指標の試算方法については、NSIにおいて行われていた変化率標準化指数を用いた時系列・全国ベースでの試算方法に以下のような改良を加えた。

(1) 国民生活選好度調査結果を活動領域間の主観ウェイトとして採用

個人々人の主観的評価を取り入れていくための1つの手法として、「平成2年度国民生活選好度調査」の各質問項目のニーズ得点を活用することとし、選好度生活領域分野別に各質問項目のニーズ得点を平均し、その偏差値を求め活動分野別のウェイトづけを行うこととした(活動領域と選好度調査の生活領域の対応は第2表参照)。

(2) 時系列試算

時系列試算においては、NSIと同様に変化率標準化指数を用いている。標準化指数は、昭和55年から平成2年に至る10年間の各年の変化率の絶対値の平均が1となるように変化率を標準化した上で、基準年(昭和55年)の水準が100となるようにした。

(3) 地域別試算

地域別総合指標の試算については次のように行っている。各指標を全国平均を50として偏差値化することにより、指標間の総合化ができるよう指標の標準化を行う。また、活動領域ごとに指標数が異なる影響を除くため、指標数で指標の偏差値を割る。このようにして求めた各指標の偏差値に対して(1)で述べたように活動領域別にウェイトづけを行う。

(構造変化指標)

PLIにおいては、生活指標の作成に際して生活をとらえる視点を成人した個人においている。したがって、個人の生活を取り巻く構造変化の動きは十分にとらえられないものとなっている。そこで個々人の活動領域では把握しきれない国民生活自体を規定とするような変化を示す指標として「構造変化指標」の作成を検討した(参考第3表参照)。

構造変化指標の領域は「高齢化」、「国際化」、「集中化」、「情報・サービス化」、「クリーン化」の5つの領域とし、各領域の個々の指標については以下のような項目に沿って指標の選択を考えた。高齢化、国際化、情報化についてはNSIでも関心領域別指標の項目としてとりあげられていたが、PLIでは構造変化指標の項目としてとりあげている。更に、NSIの都市化については気大都市集中を端的に把握するため「集中化」に改め、東京圏集中に焦点をあてた。また、近年の地球環境問題への関心の高まり等にみられるように資源環境問題の重要性に鑑みて「クリーン化」を掲げた。

構造変化指標 項目
「高齢化」 (人口、世帯等)、(社会保障)、(施設)
「国際化」 (人的交流)、(物、情報の移動)、(その他の国際化)
「集中化」 (人口集中)、(物、情報の集中)
「情報・サービス化」 (全般的動向)、(家庭内)
  (社会一般)
「クリーン化」 (環境的側面)、(資源的側面)

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