国民生活審議会


III 倉庫寄託約款


III 倉庫寄託約款

1. トランクルームの現状と倉庫寄託約款の問題点

(1)

近年,一般消費者が引越,家屋の増改築,海外転勤等の際に,あるいは盗難予防,防災等保管上の理由から家財道具,貴重品,毛皮等を引越運送業者,倉庫業者,クリーニング業者等に預けるケースが増加している。

(2)

我が国で,一般消費者を対象とした物品保管が業として行われたのは,昭和6年に倉庫業者によって「トランクルーム」が開設されたのが始まりである。これはアメリカで当時発達していた個人の家財等を扱う専門倉庫をモデルとしたものである。そして,昭和50年代になって経営の効率化を図る観点等からトランクルームを開設する業者が増加し,普通倉庫業者2,585社(昭和58年3月末現在)中約25社が現在営業を行っており,その営業面積は約10万m2(普通倉庫業者の全営業面積の約0.5%)となっている。これらの施設には,設備,機能面において温湿度調整機能,防犯システムを具備し,防火,耐震設計が施された本格的なものから,単に既存の保管スペースを利用しただけのものまで様々あり*,その大半は東京,大阪等大都市に集中している。


トランクルームは倉庫の一形態であり,トランクルームとしての機能,施設に関する基準は特になく,その内容は様々である。また,トランクルームでは,一般消費者を対象に家財等を保管するほか,法人を対象に磁気テープ,書類等も保管している。しかし,昭和6年に開設された施設等先発企業の有する施設は温湿度調整機能等十分な機能を備えたものであることから,本報告では,どうした施設を「トランクルーム」としてとらえ,一般消費者を相手方とする取引の適正化について検討した。

(3)

ところで現在までのところ,トランクルーム利用に関する消費者からの苦情はほとんど出ていない。しかしながら,トランクルームの利用に適用される倉庫寄託約款をみると,貨物運送約款などと同様事業者間取引を念頭において定められたものであり,倉荷証券,混合保管に関する規定等消費者取引には通常用いられない条項があるほか,損害賠償責任に関する規定等民商法の任意規定と著しくかけ離れた条項,不明確な表現を用いているため解釈によっては利用者が不利となる条項,規定内容が専門的にすぎ,一般消費者には理解が困難である条項が含まれているなどの問題点がある。したがって,今後,一般消費者のトランクルーム利用が増加することと予想されるので,トラブルの未然防止を図るため,その約款の適正化について検討することとした。
 なお,トランクルーム以外の一般消費者を取引相手とする物品保管施設については,多くの場合その契約条件が明確でないので,本適正化の方向で示す考え方に沿って早急に適正な約款の整備を図る必要がある。

2. 適正化の方向

上記1で述べたとおり,トランクルーム利用に適用される倉庫寄託約款は事業者間取引を念頭に置いて制定されたものであり,一般消費者をも相手方とする取引に用いるには様々の問題点がある。したがって,消費者トラブルの未然防止を図るためには,こうした問題点を考慮して,別途トランクルーム取引に関する消費者向けの約款を作成する必要がある。また,約款作成に当たっては,極力,約款内容の平易化,明瞭化を図る必要がある。更に,現在,倉庫業法では約款は営業所等に掲示すれば足りることになっているが,この種の取引に不慣れな一般消費者の十分な理解を得るためには,約款及び約款条項中の重要事項を記載したパンフレットを交付するなど適切かつ十分な開示を行う必要がある。

以下では,現在各社で用いられている倉庫寄託約款について,消費者保護の観点から適正化の方向を述べる。

(1) 寄託の引受等

ア 寄託引受の取消及び契約の解除

倉庫業者は「やむを得ない事由があるとき」には寄託引受の取消又は契約の解除ができ(11条1項1号),更にこれによる損害については責任を負わない(11条3項)と規定されている。しかしながら,解釈によっては,「やむを得ない事由」に倉庫業者の責めに帰すべき事由も含まれることがあり得るので,適切な表現に改めるとともに,倉庫業者に故意・過失があって寄託引受の取消等を行う場合には損害賠償責任を負うべきである。

イ 再寄託

現行約款には「やむを得ない事由」があるときは,寄託者の承諾を得ないで他の倉庫業者に受寄物を再寄託することができる(18条)と規定されている。しかしながら,この規定は,寄託者の承諾を必要とする民法の原則に反するので,再寄託をする際には事前に寄託者の承諾を得ることとするとともに,災害等緊急の際に承諾を得すに再寄託した場合には,再寄託先等を迅速に寄託者に通知すべきである。

(2) 倉庫業者の責任

ア 賠償事由及び挙証責任

寄託者に対して倉庫業者が賠償責任を負う損害は,倉庫業者又はその使用人の故意又は重大な過失によって生じた場合に限るとされている(38条1項)。更に,損害賠償を請求しようとする者は,その損害が倉庫業者又はその使用人の故意又は重大な過失によって生じたものであることを証明しなければならないと,挙証責任の転換が行われている(38条2項)。しかしながら,この規定は,「倉庫営業者は自己又はその使用人が受寄物の保管に関し注意を怠らなかったことを証明しない限りその滅失又はき損について損害賠償の責めを負う」とする商法の規定とも著しくかけ離れ,消費者が一方的に不利益を被る内容となっているので,改めるべきである。

イ 損害てん補
(ア)

現行約款上,倉庫業者は,反対の意思表示がない限り,寄託者のために受寄物を火災保険に付けることとなっている(32条1項)。

この保険は,いわゆる第三者のためにする保険となっており,保険料は倉庫業者が負担するものとなってはいるものの,保険料はもともと保管料に含めて収受していることから,実質的には寄託者が負担していることになる。また,たとえ寄託者が火災保険に付けない旨の意思表示をしても,保険料相当分の料金の返還は行われない。

(イ)

現行約款上,火災により損害が発生した場合,火災保険により支払われる金額が支払限度となり,この金額を超える損害が発生した場合であっても,超えた部分の損害について倉庫業者は免責となっている(40条2号)。また,寄託者の申出によって火災保険に付けなかった受寄物の火災による損害についても倉庫業者は免責となっている(40条2号)。

したがって,倉庫業者は,その保険に関して何らの出費もしていないにもかかわらず,自己に賠償責任が生ずる損害についても火災保険からのてん補によって免責されるのと同一の結果を享受するとととなっている。

(ウ)

寄託価額は,[1]保管料算出の基礎となる,[2]火災保険に付する際の保険金額となる(33条1項),[3]受寄物に滅失又は損傷の事故が生じたときは,損害賠償額決定の基礎となる(42条)ものである。

トランクルーム取引における寄託価額は,(ア)で述べたとおり保管料には火災保険の保険料が含まれていること,一方,パンフレットには火災の不安がないと記載してあること等から,保管料が余り高くならないように寄託価額を低目に設定している場合が多いようである。このため,(イ)で述べたように火災により損害が生じた場合には一部保険となっているため十分な補償が得られないし,また,火災以外の受寄物の滅失又は損傷による事故の場合にも保険の場合と同様に比例てん補の原則に従って損害のてん補を行うこととなっている(42条)ため,消費者が十分な補償を受けられないこととなる。

(エ)

(ア)~(ウ)で述べたように,この火災保険による損害のてん補には十分な補償が得られないなど消費者保護の観点から問題があり,また,トランクルームについては,耐火構造及び十分な防火管理をセールスポイントとしていることから,消費者の負担によって特に火災への危険のみに対処する必要性は薄いものと考えられる。したがって,賄償責任保険を活用すること等を含め広く火災以外の危険にも対処するとともに,効果的な損害てん補のあり方について検討する必要がある。

(オ)

このほか,倉庫業者の故意,過失による火災であっても免責となると解される第40条第2号の規定,同様に倉庫業者の故意,過失による受寄物の滅失又は損傷による損害であっても責任制限となると解される第42条の規定について改める必要がある。

ウ 無留保受取

現行約款には,倉庫業者は寄託者が留保しないで寄託物を受け取った後は,その貨物の損害について責任を負わない(44条)と規定されている。したがって,寄託者は,寄託物を受け取る際には必ずその場で梱包をあけて内容を確認する必要が生じてくる。しかしながら,寄託物について常にこうした確認をすることは困難な場合が多いため,一般消費者との取引においては,留保せずに受け取っても,損害賠償請求権は,直ちに消滅しないこととすべきである。

(3) 寄託者の賠償責任

現行約款では,寄託者は,寄託物の性質若しくは欠陥により生じた損害については,過失の有無にかかわらず賠償の責めを負わねばならない(45条)とされている。

しかしながら,この規定は,倉庫業者は,自らに故意又は重過失のあった場合にのみ賠償責任を負うとする倉庫業者の賠償責任に関する規定と比較しても著しく不均衡となっているばかりでなく,「寄託者が過失なくして寄託物の性質若しくは瑕疵を知らなかったとき又は受寄者がこれを知っていたときには寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害は賠償しなくてもよい」旨規定する民法の原則とも著しくかけ離れた内容となっているので,改める必要がある。

(4) パンフレット及び預り証等と約款規定との相違

パンフレットには「内容品のお入替え,お手入れは営業時間中,ご自由にできます」と記載されているにもかかわらず,約款上は,やむを得ない場合には見本の摘出,寄託物の点検を拒絶することができる(23条3項)と規定されている。

また,パンフレットでは盗難,害虫,カビ等の対策が万全であるとしているにもかかわらず,約款にはそ害,虫害によって生じた損害については責任を負わない(40条1号)と規定されている。

パンフレットは寄託する際の意思決定や契約内容の重要な要素となっており,このように約款の規定がパンフレットの記載に反すると,いったん事故が生じた場合にはその取扱いをめぐってトラブルが発生することが予想される。したがって,トランクルームでの保管実態をみると,パンフレットの記載どおりの運用がなされていることから,実態に即して約款の規定を改める必要がある。

なお,預り証等には「天災その他不可抗力による預り品の損害に対しては当会社はその責を負いません」とし,軽過失によって生じた損害についても倉庫業者は賠償責任を負うと解し得る文言が記載されている場合もみられる。しかしながら,この文言は,軽過失免責を規定した約款条項(38条)との関係が不明確であるので,例えば,約款規定と整合性のとれたものとする等によって,これを明らかにする必要がある。

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