国民生活審議会


第2章 個別約款の適正化 IV 銀行における消費者ローン契約書

第2章 個別約款の適正化


IV 銀行における消費者ローン契約書

1 消費者ローンの現状

銀行における消費者ローンは,昭和30年代後半から銀行の大衆化の一環として開始されたが,当初は預金獲得の一手段としての色彩の強いものであったっその後40年代にかけて各種耐久消費財購入のための提携ローンが定着し,更に,コンピュータによる事務の大量処理が可能となったため,次第に提携・非提携の住宅ローンの取扱高も増加し,消費者ローンは,銀行の資金運用先として重要な地位を占めるようになった。

このように銀行の消費者ローンは著しい拡充を見せ,消費者に広く利用されるようになっている。しかしながら,そこで用いられているローン契約書は,事業者間取引で用いられている銀行取引約定書を踏襲した内容のものであり,消費者向けの契約書としては必ずしも適切なものとはいえない状況であった。

そのため,これまでにも,銀行の消費者ローンについては行政管理庁勧告(昭和46年10月),本審議会の答申(昭和48年2月)等において消費者保護の観点からのいくつかの問題点が指摘されている。

これらの指摘を受けて,昭和49年7月には全国銀行協会連合会(以下「全銀協」という)によって,各方面の意見を聴取するための一方策として「提携月利方式」(注)のローン契約書のひな型試案が発表された。この49年ひな型試案は従来の消費者ローン契約書と異なり,銀行取引約定書の手直しではなく,表示方法や契約条項について消費者ローン固有の契約書としての内容を備えるための配慮がなされており,その後の動向が注目されていた。

しかし,昭和52年に銀行取引約定書が改定されたこと,その他消費者ローンを取り巻く環境が非常に流動的であったことなどにより,非提携ローン等その他の方式についてのローン契約書ひな型(試案)の発表はなく,また,上記提携月利方式についても現在なお「全銀協ひな型」としては取りまとめられていない。

消費者ローン額の推移(全国銀行)


全貸出残高
A(億円)
消費者ローン
貸出残高
B(億円)
B/A
(%)
う    ち
住宅ローン
C(億円)
C/B
(%)
その他の
ローン
(億円)
41年 220,460 1,060 0.5 567 53.5 493
46 490,480 13,170 2.7 9,873 75.0 3,297
51 986,722 81,039 8.2 76,507 64.4 4,532
52 1,081,046 99,464 9.2 94,325 94.8 5,139
53 1,194,977 121,154 10.1 114,292 94.3 6,862
54 1,272,550 140,798 11.1 132,911 94.4 7,887
55 1,364,746 152,972 11.2 145,091 94.8 7,881

資料 日本銀行統計局「経済統計年報」

そのため各銀行における契約書は,49年ひな型試案の内容を部分的に取り入れているものもあるが,依然として,銀行取引約定書に従った消費者ローン契約書としては不適切な条項が残されているものが多い。

(注) 銀行における消費者ローンは,[1]提携・非提携,[2]利息計算方式によって以下の積類に分けられる

(1) 提携・非提携の別
(ア)

提携ローン・・・・・・銀行が特定の販売業者(提携会社)と融資に関して提携契約を結び銀行が消費者に購入資金を融資する。

(実質的には,銀行は提携会社の口座に振込を行い,消費者への融資という性格のほか提携先への販売促進のための支援という性格も強いものである。)

(イ)
非提携ローン・・・・・・銀行が自らの責任と危検をもって直接消費者に融資する。
(2) 利息計算による区分
(ア)
月利方式・・・・・・利息後取方式であり,各返済期に残債務に応じて利息を支払う。
(イ)

アドオン方式・・・・・・あらかじめ返済期間に応じた利息を計算し,その元利合計について,各返済日に均等分割して返済する。(繰り上げ返済をすれば戻し利息が生ずる。)

現在では,[1]提携月利方式,[2]提携アドオン方式,[3]非提携月利方式の三方式が用いられており,それぞれについて各銀行が独自に契約書を作成し使用している。

2 消費者ローンの特性から見た契約書のあり方

消費者ローン契約書は以下に示す消費者ローンの特性に即した内容のものとすることによりその適正化を図る必要がある。

(1)
消費者ローンは,事業者に対する融資に比べ,借主の信用状態の把握が難しい面があるものの,その返済は借主の給与・賞与などの収入によって行われることが一般的であるため,借主である消費者の信用は事業者のように急激に悪化する可能性が小さい。また,消費者は同時に他の債権者に対して多くの債務を負っている場合は少ない。したがって,銀行の債権保全に関する規定は,このような消費者ローンの借主の特性から考えられる合理的な範囲にとどめる必要がある。
(2)

消費者ローンは,住宅等消費者が基本的な生活を営む上で不可欠なものの購入に充てられることが多い。

そのため,消費者が複数の債務を負っている場合はどの債務から返済するかについての消費者の選択の余地ができるだけ残される必要があり,銀行の債務保全上の理由のみにより,消費者の選択を銀行から変更できるとすることは適当ではない。

(3)

消費者ローンは,コンピュータによる一括処理を前提としているため,繰り上げ返済を制限する規定等消費者の一般的理解と乖離する規定が設けられている。また,これらの規定の中には,判例等に反するものも含まれている。

したがって,これらについては,消費者の一般的理解に合致するよう,可能な限りの改善が望まれ,少なくともその内容に関する十分な情報を提供する必要がある。

(4)
消費者ローンは法律知識や取引経験の乏しい消費者を対象とするものであり,用語,文章についてはできるだけ平易,明確化するとともに,条項全体をできるだけ短くし,理解しやすいものにする必要がある。

3 適正化の方向

消費者ローン契約において必要な条項を最も多く含み,かつ現在全銀協における検討が最も進んでいる非提携ローン契約書ひな型検討案を中心に,2で述べた消費者ローン契約書のあり方に照らし,その適正化の方向を以下に示す。。

(1) 期限前残額一括返済義務

借主が返済を遅延し督促しても次の返済日までに返済がないときは,借主は期限前に残額を一括して返済する義務を負うと定められているが,この督促は書面によるものとし,かつ督促到達後合理的期間が経過しても返済がなかった場合に限定すべきである。

(ア)

住宅ローンについては,その賦払額が大きいため,この合理的期間としては,宅地建物取引業法に定める「30日以上の相当な期間」が考えられる。そのため,「次の返済日まで」という期間は,督促が直ちに行われたとしても30日に満たず妥当ではない。

(イ)

その他のローンについての合理的な期間としては,割賦販売法に定める「20日以上の相当な期間」が考えられ,これについては現在の検討案に遅滞なく督促する(遅くとも返済日の10日後までには書面による督促が到達する)旨を追加することも考えられる。

銀行からの請求によって借主が期限前に残額を一括して返済する義務を負う事由として「借主が銀行取引上の他の債務について期限前に残額を一括して返済する義務を負ったとき」を定めている。

しかし,消費者は,複数の債務のすべての返済はできないが,そのうちのいくつかについての返済が可能な場合には,自己の基本的生活に係る重要なものだけは確保したいとし,それについては,分割返済を続けたいと考えることが多い。このため本規定の適用は極力制限する必要がある。

保証人の信用不安等に対し銀行からの請求があった場合保証人の変更又は追加等に応じないときは,借主は期限前に残額を一括して返済する義務を負うとしているが,銀行が指定する保証会社が保証人の場合は,これを適用しない旨明確に規定すべきである。

(2) 銀行からの相殺

本ひな型検討案では,借主の債務の返済日が到来すれば,銀行は何ら督促することなく直ちに借主の領金等の債権との相殺を行うことを可能とする旨規定されている。

銀行からの相殺は担保機能を実質的に果たすものであり,債権回収上銀行にとって有力な手段であるが,消費者ローンにおいては,その性格上一定の制限が加えられるべきである。

したがって,相殺される借主の債権が満期前の定期預金のように期限が未到来のものである場合には,借主に期限前残額一括返済義務が生じている場合を除き,銀行は借主に対し相殺する旨の通知をあらかじめ行うことを要件とする必要がある。

(3) 債務の返済等に充てる順序

銀行に対する複数の債務がある場合その返済等に充てる順序に関して本ひな型検討案では,[1]銀行からの相殺については,借主はその指定に対して異議を述べない旨,[2]借主からの返済・相殺については,銀行は借主の指定に対して異議を述べかつ指定替えすることができる旨,また,借主からの指定がない場合には銀行は指定することができかつ借主はその指定に対して異議を述べない旨,更に,これらの場合銀行は債務の期限が未到来のものについても指定できる旨,が規定されている。

これらの規定は,民法の返済等に充てる順序に関する規定(注)を排除するものであるが,消費者ローンは住宅のように消費者の生活に不可欠なものの購入に充てられることが多いため,債務の返済等に充てる順序には,消費者の選択の余地を当然残すべきであると考えられ,銀行からの指定については,その範囲を制限する必要がある。

このため,銀行が指定替え等を行うことができる要件を「借主が他に延滞している債務があるにもかかわらず,繰り上げ返済の申し出を行った場合」等,実質的に見て相当な理由がある場合に限定し,これを具体的に規定する必要がある。

(注)
民法の弁済の充当順序に関する規定
[1]
債務者が数口の債務を有している場合は,弁済者の指定による。
[2]
弁済者が指定しないときは,弁済受領者が指定できる。
[3]
[2]の指定に対し弁済者が直ちに異議を述べた場合又は両者とも指定をしなかった場合には,法定充当となる。
(法定充当)
[i]
弁済期が到来しているものから
[ii]
弁済者に利益の多いものから
[iii]
弁済期到来の早いものから
[iv]
これらが同一の場合債務額で按分する
(4) 代り証書等の差し入れ

証書等が天災事変等により喪失した場合,代り証書等の差し入れを借主に義務付けている。当然ながら銀行の責に帰すべき事由によって生じた損害については,銀行が負担する必要があるが,不可抗力等による場合でも証書等は銀行の管理下にあることを考えると借主に代り証書等の提出を求める場合の費用は銀行が負担することが妥当であり,その旨明記する必要がある。

(5) コンピュータ処理に伴う規定

コンピュータの導入に伴う大量かつ画一的な消費者ローンの処理は,処理費用の低減を通じて低利融資を可能としている。その反面,返済用口座残額が返済額に一部でも満たない場合は引落しをしないとする規定や,繰り上げ返済については事前通知,返済期日,返済額等の制限を設ける規定等消費者の一般的理解と乖離した非弾力的な運用が規定されることとなる。

これらのコンピュータ処理に伴う非弾力的規定については,あらかじめパンフレット等によって十分な情報を消費者に提供することにより消費者の理解を深めるとともに,可能な限のり弾力化を図るための検討が望まれる。

消費者ローンにおいては,通常債務引落しの通知を行わないこともあり,消費者は督促によって初めて返済用口座残額が不足していたことを認識するといった結果を招くことが多い。このため,一部引落しを行わないとする規定を置くに当たっては,引落しができなかった場合の督促は遅滞なく行う旨規定する必要がある。

一部繰り上げ返済の制限についてはこれを緩和し,借主の選択の幅を広げるよう各銀行による努力が望まれる。なお,全額繰り上げ返済については,返済期日,事前通知等の制限を設けることの合理性は乏しいので,このような制限は削除すべきである(借主からの相殺に関する制限についても同様なことが言えるのでこれについての改善も必要である。)。

また,繰り上げ返済に伴う手数料はペナルティーではなく,事務処理上必要な手数料である旨明記し,別表等に明定する必要がある。

(6) 提携ローンに係る条項

このほか提携ローン契約書においては,次の点の改善・検討が望まれる。

ア 代り担保の提供
(ア)
保証人である提携販売会社の信用状態が悪化した場合には,代り担保を提供する義務を一方的に消費者に課しているが,銀行は自らの信用調査に基づいて提携販売会社を選定しているわけであるから,提携販売会社の信用状態の悪化に伴う危険については消費者に一方的に負担させるべきではない。
(イ)
なお,銀行が指定する保証会社等を保証人とする提携ローンが住宅ローン等で増加しているが,このような消費者に保証人を選択する余地がないものについては,この代り担保の提供に関する規定を適用すべきではない。
イ 銀行と売主の共同責任

ローン提携販売においては購入した商品の瑕疵について売主が十分な対応を取らない場合でも,銀行からの支払請求に対し,売主に対する抗弁をもって対抗することができないとされている。

従来から,消費者信用販売契約における抗弁権の接続については,OECD理事会勧告や本審議会消費者政策部会の累次の報告で指摘がなされている。

特に他のこうした契約に比べて,売主と信用供与者とがより密接な経済的関係にあることが通常である銀行の提携ローンにおいては,その経済的力関係を通じて,売主の瑕疵に対する責任を遂行させることが可能と思われるので,瑕疵に対する十分な対応が売主によって取られない場合には,銀行の支払請求に対抗できるような方向への検討が望まれる。

(7) その他
ア 金利変更条項

金利については,原則固定金利となっているものの銀行の判断でその変更を行うことを可能としている。住宅ローンのような長期ローンにおいては,融資期間の金融情勢を予見することは,困難であり,本条項を規定することもやむを得ないと思われるが,当然一定の制限が設けられるべきであり,社会的コンセンサスを得た上での運用が必要である。

なお,長期ローンを除いては,金利変更を行う合理的理由は認められず,金利変更条項は不必要である。

イ 個人信用情報センター

登録された個人からの申し出があればその情報を開示する旨契約書上明記するほか,契約書の写しの交付の際には,個人信用情報センターに関するパンフレットの交付を義務付ける必要がある。

以上,現段階における全銀協消費者ローン契約書ひな型検討案に対する適正化の方向を述べてきたが,現行の各銀行における契約書は,一部の銀行を除き合意管轄裁判所に関する規定,期限前残額一括返済義務に関する規定,保証人に関する規定等ひな型検討案において改善が図られているものより消費者に厳しい内容を含んだものが多く,昭和46年の行政管理庁勧告以来10年を経過する現在,早急な適正化が要請されている状況にある。

銀行における消費者ローン契約は,他の消費者金融契約やローン提携販売契約等消費者信用契約全体の根幹となるものであり,銀行における消費者ローン契約書の適正化は,消費者信用契約全体の適正化のための必須条件であると思われる。こうした事情も考慮に入れ,上記考え方に沿って早急に各銀行の消費者ローン契約書の適正化が図られることが望まれる。

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