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第1部 第2章 第4節 (2)法令や任意規格等、社会におけるルールを定める取組

第1部 消費者問題の動向と消費者意識・行動

第2章 【特集】子どもの事故防止に向けて

第4節 子どもの事故防止に向けた取組

(2)法令や任意規格等、社会におけるルールを定める取組

安全な商品・サービスを消費者が利用できるよう、様々な法令や基準・規格により、製造・販売の規制や安全確保のための仕様等が定められています。このようなルールは、社会経済情勢の変化や事故等の原因究明等を踏まえ、整備・見直しが行われています。ここでは、消費生活における子どもの事故防止に向けた最近の動きを紹介します。

1法令による安全の確保:消費生活用製品安全法における安全規制の強化

危険性のある商品・サービス等については、個別の業法を始めとする法令により安全基準が定められ、必要に応じて改正されています。以下では、子どもの事故が発生していたことを踏まえ、消費生活用製品安全法に、製造、輸入及び販売を規制する品目の追加等が行われていることを紹介します。

消費生活用製品安全法における危険性のある製品の規制

消費生活用製品安全法では、主として一般消費者の生活の用に供される「消費生活用製品(他の法令で個別に安全規制が設けられている製品(注89)は除外)」の中で、消費者の生命・身体に対して特に危害を及ぼすおそれが多いと認められる製品について、消費生活用製品安全法施行令(昭和49年政令第48号)で「特定製品」、「特別特定製品」に指定し、製造、輸入及び販売を規制しています。

これらの製品については、国の定めた技術上の基準に適合したことを示す「PSCマーク」(本節(3)3参照。)を表示しなければ販売できず、PSCマークのない製品が出回ったときは、経済産業省は、製造事業者等に回収等の措置を命じることができるという規制がなされています。

規制の追加:レーザーポインター、ライター、乳児用ベッドの事例

レーザーポインター等の携帯用のレーザー応用製品については、カプセル玩具等で出力過大な粗悪品が出回り、レーザー光線が目に入ってしまった子どもがほぼ失明する事故が発生していたことから、2001年1月に政令で定める「特別特定製品」として規制対象に追加され、当該政令は同年3月に完全施行されました。これにより、レーザー光線の出力が基準以下である、レーザー光線の放出状態を維持する機能がないなどの安全基準を満たしたことを示すPSCマークを表示した製品以外は販売できなくなりました。レーザー出力の規制に加え、流通・販売の規制により安全性に欠けた品をカプセル玩具として販売できなくなったことで、粗悪品の流通が減少し、規制前に年間数件程度発生していた子どもの事故が、規制後は報告されなくなりました。

ライターについては、子どもによるライターの火遊びに伴う火災事故が多発していたことから、2010年12月に、いわゆる使い捨てライター及び多目的ライターが政令で定める「特別特定製品」として規制対象に追加され、当該政令は2011年9月に完全施行されました。これにより、子どもが簡単に操作できない「幼児対策(チャイルドレジスタンス)」機能等の安全基準を満たしたことを示すPSCマークを表示したライター以外は販売できなくなりました。

また、乳児用ベッドについては、「特別特定製品」として指定されていましたが、使用者が誤った方法で使用したことなどにより、子どもが寝返りやつかまり立ちをして柵を乗り越えてベッドから転落する事故が発生していたことから、2013年4月に「消費生活用製品安全法特定製品関係の運用及び解釈について」が改正され、満たすべき安全基準の中に子どもの転落を未然に防止するための注意表記が追加されました(2014年4月施行)。具体的には、使用後は前枠を所定の位置に戻さなければ危険である旨、つかまり立ちができるようになる時期(おおむね生後5か月以上)の目安等のほか、使用者が認識しやすい図表示(図表I-2-4-3)が、使用上の注意事項として表示すべきことに追加されました。

2基準による安全の確保

法令だけではなく、JIS(日本工業規格)等の任意規格に沿って、事業者が製品を製造することにより、製品の安全性は高められています。以下では、個別の製品による子どもの事故をきっかけにした新たなJIS規格の制定、また、多種多様な子ども用の製品、子ども用でなくても子どもが接触する可能性のある全ての製品において、子どもの安全が配慮されるように、国際規格の制定や、規格の体系化が進んでいることを紹介します。

JIS規格による製品の安全性の確保

JISとは、鉱工業品の品質の改善、性能・安全性の向上、生産効率の増進等のため、工業標準化法(昭和24年法律第185号)に基づき制定される国家規格です。JISは、製品の種類・寸法や品質・性能、安全性等を定めており、事業者がJISに沿って標準化された製品を製造することによって、消費者は一定の品質や安全性等が確保された商品を入手することができます。JISに適合する製品には、「JISマーク」(本節(3)3参照。)を表示することができます。

新たな規格制定:子ども服のひも、ブラインドのひもの事例

子ども服のひもやフードについては、重篤な事故事例は報告されていなかったものの、「ひもの引っ掛かり」に関してのヒヤリハットの経験が多いとする保護者の声がありました。欧米では、子ども服のひもに起因する死亡事故が発生していますが、公的な規格を制定したところ、事故事例が大きく減少したとの報告もあります(注90)。一部のメーカーでは首回りにひものある子ども服の製造・販売を禁止するなどの対策を採っていたものの、基準が統一されていなかったことから、2015年12月にJISL4129(よいふく)「子ども用衣料の安全性―子ども用衣料に附属するひもの要求事項」が制定されました(図表I-2-4-4)。年齢層別・身体部位別にひもの有無、長さの制限などがJISに規定されたことにより、今まで各団体やメーカーごとに定めていたルールが統一的なものになりました。

また、ブラインドやカーテンのひもについても、子どもの首に絡まり窒息する事故が発生していたことを踏まえ、2017年12月に、JISA4811「家庭用室内ブラインドに附属するコードの要求事項―子どもの安全性」が制定されました。

規格の体系化:NITEによる「乳幼児用製品の安全規格体系」

乳幼児向け製品は多種多様あり、子どもの安全に関して個別製品ごとに対策を行うには限界があることから、NITEでは、「乳幼児用製品の安全規格体系」を策定しました(図表I-2-4-5)。これは、A規格(基本規格)、B規格(グループ規格)、C規格(個別製品規格)の三階層で構成されるもので、頂点であるA規格には、後述する国際規格ISO/IEC Guide 50(JISZ8050)及びJISZ8150(子どもの安全性―設計―開発のための一般原則)が位置付けられています。B規格は、子どもを取り巻く様々なハザードに対する具体的な安全基準や試験方法を記載した製品横断的な規格です。C規格は、例えば、木製ベビーベッドや子ども用衣料、幼児用自転車等個別製品ごとに安全要件を定めた規格です。

C規格が存在する場合は、それを優先して使用すれば安全を確保することが可能となります。C規格が存在しない製品であっても、この規格体系によりA規格、B規格を活用することで、乳幼児を取り巻く様々なハザードに対してリスクを低減することが可能となります。

現在、NITEでは、特に事故が多いハザード(身体挟み込み、部品の外れ、製品破損等)についてB規格案を作成しており、2017年から、JIS制定に向けた審議も開始されています。

国際規格ISO/IEC Guide 50

国際規格ISO/IEC Guide 50(以下「ガイド50」という。)は、子どもを傷害事故から守るための基本安全規格です。日本では、ガイド50改訂第3版(2014年12月発行)を翻訳したJIS規格(JISZ8050)「安全側面―規格及びその他の仕様書における子どもの安全の指針」が2016年12月に制定・発行されました。

ガイド50は、「子どもは小さな大人ではない」という考え方の下、子どもの安全を社会全体で共有すべき責任と位置付け、子ども向けの製品に限定して考えるのではなく、子どもが接触する可能性のある全ての製品・プロセス・サービスを対象に考えるべきとしています。そして、子どもの安全を考えるには、子どもの特性を考慮しなければならないとし、子どもの運動能力や生理機能、認識力の発達、探究心などの特徴を系統立てて解説し、どのようなけがのリスクがあり得るか、どのように対処すべきかを様々な事例を挙げて詳細に記述しています。

事業者団体等による自主基準

製品の安全のための基準については、例えば、14歳以下の子ども向け玩具に付けられる「STマーク」のように、事業者団体等が製品安全に関する自主基準を定め、基準に適合する商品にマークを表示しています。中には、マーク付の製品の欠陥により事故が起こった場合に備えた制度となっているものもあります。(図表I-2-4-9参照。)。また、個別事業者が自らの製品に関して自主基準を設けているものもあります。

【公園や教育・保育施設での事故防止に関する取組】

子どもの事故を防止するために、公園や学校、保育施設等の子どもが過ごす環境の安全について検討され、ガイドライン等が示されています。

(都市公園における遊具の安全確保に関する指針)

都市公園における遊具の安全確保に関する基本的な考え方を示すものとして、国土交通省は、2002年に「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」をまとめ、地方公共団体等の公園管理者に対する国の技術的助言として周知しました。都市公園における遊具等の設置状況の変化等に対応して改訂し、2014年には、最近公園で設置が増加している健康器具系施設(図表I-2-4-6)について、主に大人を利用対象者としているところ、子どもが利用して事故に遭う可能性があること等から、安全確保を図るために改訂しました。同指針の改訂に合わせて、遊具メーカー団体の一般社団法人日本公園施設業協会が定める自主基準も改訂されています。

(教育・保育施設等の関係者に向けた取組)

事故の再発防止を図るためには、過去の事故情報の共有や現場での活用が重要ですが、教育・保育施設等における事故情報の集約及び情報共有は十分に図られてきませんでした。

子ども・子育て支援新制度の下、2014年9月に内閣府、文部科学省、厚生労働省が共同で「教育・保育施設等における重大事故の再発防止策に関する検討会」を設置しました。2014年11月に中間取りまとめ(重大事故の集約範囲・方法・公表の在り方について)、2015年12月に最終取りまとめ(重大事故の発生防止のための今後の取組について)を公表しています。これを踏まえ、同府省は特に重大事故が発生しやすい場面ごとの注意事項や、事故が発生した場合の具体的な対応方法等について、各施設・事業者、地方公共団体の参考となるよう、2016年3月に「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」を公表しました。

検討会での検討を踏まえた体制整備が進んでいます。中間取りまとめを踏まえ、同府省は、2015年4月から重大事故が発生した場合に、地方公共団体から国へ報告される仕組み等を整備しました。最終取りまとめを踏まえ、2016年4月からは、死亡事故等が発生した場合に、地方公共団体は検証を実施し、必要な再発防止策を検討することとし、国の技術的助言として周知しました。地方公共団体の検証報告等を踏まえた再発防止策を検討するため「教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議」が開催されています。

また、認可外保育施設又は児童福祉法に基づく一時預かり事業を行う者等に対しても、事故が発生した場合は速やかに都道府県知事への報告を義務付けること等を内容とする、児童福祉法施行規則の改正を行いました。

図表1-2-4-3乳児用ベッドの使用上の注意事項(図表示・例)

図表1-2-4-4JIS L4129(具体的事例)

図表1-2-4-5乳幼児用製品の安全規格体系

図表1-2-4-6健康器具系施設の例


  • 注89:船舶、消火器具等、食品、毒物・劇物、自動車・原動機付自転車などの道路運送車両、高圧ガス容器、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療器具など
  • 注90:CPSC「CPSC Issues New Drawstring Safety Rule for Children's Outerwear Drawstrings at Neck and Waist Present Strangulation Hazard and Other Dangers」(2011年7月1日公表)

担当:参事官(調査研究・国際担当)