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第1部 第2章 第2節 (1)統計データからみる子どもの事故

第1部 消費者問題の動向と消費者意識・行動

第2章 【特集】子どもの事故防止に向けて

第2節 子どもの事故状況

(1)統計データからみる子どもの事故

事故の危害の程度は、ヒヤッとしたけれど無傷なものから、死亡という最悪の事態に至るものまで様々です。本節では、子どもにどのような事故が起きているのかについて、子どもが死亡した、あるいは、救急搬送を要請したという、防止の必要性が高い危害が重い事故について、統計データを用いて概観します。具体的には、日本全国の死亡について全数を対象に分析することができる厚生労働省「人口動態統計」における「不慮の事故」と、東京消防庁管内に限られますが、救急搬送されたケースの事故直後の状況について、全救急搬送について情報を得ることができる東京消防庁の救急搬送に関する統計の「救急搬送データ」(注66)を主に用いて、子どもの事故の現状をみていきます。

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厚生労働省「人口動態統計」:戸籍法(昭和22年法律第224号)等に基づく出生、死亡、婚姻、離婚及び死産を対象とした全数調査により作成される統計。2016年は日本における死亡の総数が約131万人。全年齢での死因は「悪性新生物」、「心疾患」、「肺炎」の三つで5割を超え、「不慮の事故」は約3%。不慮の事故とは、例えば、階段からの転落や浴槽内での溺死、食品の誤えんによる窒息、火災での死亡、交通事故等が含まれる。本節では、「交通事故」は、交通安全政策として総合的に対策が講じられていること、また、警察庁「交通事故統計」等が別途あることを踏まえ、「交通事故」を除いた。また、震災等が含まれ、平時の事故とは対策が異なると考えられる「自然災害」も除いた。「交通事故」と「自然災害」を除いた「不慮の事故」について2007年から2016年までの10年分を統合した調査票情報を消費者庁が特別集計した結果(以下「人口動態特別集計結果」という。)を用いている。

東京消防庁の救急搬送に関する統計:東京消防庁管内(東京都のうち稲城市と島しょ部を除く地域)での救急搬送されたもの全てが登録されており、幅広い範囲の事故情報を得ることができる。2016年の救急搬送人員(注67)は約69万人、うち「日常生活事故」によるものは約13万人(注68)。東京消防庁のデータは日本全国を対象としたものではないが、データの数が多いこと、事故の状況等に関する記録が得られることから、2012年から2016年までの5年分の「日常生活事故」による救急搬送人員を統合したデータ(以下「救急搬送データ」という。)について分析を行っている。

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0歳の人口当たり死亡数は他の子どもに比較して多い

子どもの事故の状況は、子どもの発達段階が関係しています。まず、年齢層別に、人口当たりでどの程度事故が起きているのかをみていきます。

人口動態特別集計結果によれば、人口当たりの「不慮の事故(交通事故、自然災害を除く)」の死亡数は、「0歳」は、9.9人/10万人と他の年齢層より多くなっています。「1歳」で3.7人/10万人に半減、「7-14歳」では1.0人/10万人と、年齢層が高くなるにつれ減少しています(図表I-2-2-1)。「15-64歳」では6.6人/10万人と増加し、「65歳以上」では80.8人/10万人と圧倒的に多くなっています。

「0歳」は、後述する救急搬送データ(図表I-2-2-2)をみても、死亡や重篤につながる事故が、年齢の高い子どもに比べて多く発生しています。「0歳」は、発達が未熟で身体機能が弱く、事故に対してより脆弱であると言えます。

15歳から64歳までの年齢層と比べて、子どもの人口当たり救急搬送人員数は多い

救急搬送データで、日常生活事故による人口当たりの救急搬送人員数を、年齢層別にみると、「1歳」が232.5人/万人と最も多く、「0歳」が155.4人/万人、「2歳」が190.1人/万人、「3歳」が148.9人/万人、「4-6歳」が87.2人/万人、「7-14歳」が61.5人/万人と、いずれの年齢層も、「15-64歳」(52.3人/万人)と比較すると多くなっています(図表I-2-2-2)。

子どもは、救急搬送されるような日常生活事故に遭う機会が多いと推測されます。中でも「1歳」が多いのは、自分で歩けるようになる等の発達が顕著である一方、危険を察知する、身体の動きを自分で制御するといったことでは未熟であることが関係している可能性が考えられます。

なお、「65歳以上」は、220.0人/万人と「1歳」に次いで多く、高齢者の事故防止も大きな課題であることが分かります。

0歳の重篤以上の割合は他の子どもに比較して高い

日常生活事故の初診時危害程度(注69)をみると、「軽症」の割合が、6歳以下では85%以上ですが、7歳以降では年齢層が高くなるにつれ、「7-14歳」77.1%、「15-64歳」69.1%、「65歳以上」56.7%と小さくなっていきます(図表I-2-2-2)。また、6歳以下では「中等症」の割合が10%台前半にとどまることに対し、「65歳以上」では39.9%と約4割になっています。6歳以下では、7歳以上の年齢層と比べれば、より軽い危害であっても、救急を要請する傾向があると考えられます。

14歳以下を詳しくみると、1歳から14歳までのそれぞれの年齢層では、生命に危険が及ぶような「重篤」の割合は0.1%から0.3%までの範囲内に、「死亡」の割合は0.1%未満となっています。一方、「0歳」ではそれぞれ0.6%、0.2%と1歳から14歳までのそれぞれの年齢層と比較すると2倍以上大きくなっています。0歳は子どもの中でも、「重篤」や「死亡」につながる日常生活事故が発生する頻度が高いと考えられます。

女性より男性の方が事故が多い

性別に、子どもの日常生活事故による人口当たり救急搬送人員数をみると、いずれの年齢層でも女性より男性の方が多くなっています(図表I-2-2-3)。また、女性に対する男性の倍率は年齢が高くなるにつれ増加していき、「0歳」では「男性」が160.5人/万人、「女性」が150.1人/万人で男性は女性の1.1倍ですが、「7-14歳」では「男性」が87.3人/万人、「女性」が34.5人/万人と2.5倍です。

また、事故が屋内と屋外のどちらで起こったかを「屋内率」としてみると、男女共に年齢が高くなるにつれ「屋内率」が減少していき、その減少率は男性の方が高くなっています。行動範囲が屋外に広がって事故に遭う機会が増えることを背景に、成長と共に男女の行動の違いが表れている可能性が考えられます。事故に遭った人数が女性よりも男性が多い傾向は、人口動態特別集計結果でも確認できます。

子どもの事故は「ころぶ」、「落ちる」、「ものがつまる等」が多い

次に、年齢別にどのような事故が多いかを、救急搬送データの事故種別(注70)の割合からみてみます(図表I-2-2-4)。

「ころぶ」については、「0歳」では11.2%と約1割ですが、「1歳」では25.3%と倍以上の割合を占め、2歳以上では3割以上を占めます。「ぶつかる」も年齢が高くなるほど割合が大きくなり、「0歳」では5.3%ですが、年齢と共に徐々に増え、「7-14歳」では24.0%と救急搬送人員数の約4分の1を占めています。

一方、「落ちる」、「ものがつまる等」、「やけど」は年齢と共に割合が小さくなる傾向があります。「落ちる」については、「0歳」では31.2%と約3割を占めますが、「7-14歳」では15.1%にまで割合が半減しています。また、「ものがつまる等」、「やけど」はそれぞれ、「0歳」で26.1%、8.2%に対し、「7-14歳」では1.6%、1.5%と大きく減少しています。

「ころぶ」と「落ちる」は各年齢を通じて割合が大きく、1歳から6歳まででは合わせて半分以上を占め、「0歳」、「7-14歳」でもそれぞれ42.4%、48.6%と4割を超えます。「0歳」では、「ものがつまる等」が26.1%で、最も多い「落ちる」の31.2%に続き、2番目に大きな割合を占めています。

「おぼれる」、「やけど」は重症以上の割合が高い

救急搬送人員数の多い子どもの事故に着目する一方、事故に遭った際の危害程度も重要であると考えられます。救急搬送データで事故種別の初診時危害程度をみると、「おぼれる」では、生命の危険が強いと認められる状況である「重症」以上の割合が28.2%と顕著に高く、救急搬送人員数は少ないものの重症化しやすいと考えられます(図表I-2-2-5)。次に、「重症以上率」が高い「やけど」は2.6%と、「おぼれる」と比較するとかなり低い割合ですが、それ以外の事故種別と比較すると依然として高いと言えます。


  • 注66:例えば「事故情報データバンク」は消費生活上の事故、「特定教育・保育施設等における事故情報データベース」は保育施設等での事故に限られる一方、救急搬送データは救急搬送されたもの全てが登録されており、幅広い範囲の事故情報を得ることができる。日本全国のデータではあるが詳細な情報は含まれない総務省消防庁のデータと比較し、救急搬送データは事故の状況を把握できる情報も含み、地方公共団体としては規模も大きい。
  • 注67:救急搬送人員は、「急病(66.2%)」、「一般負傷(17.5%)」、「交通事故(7.0%)」、「転院搬送(6.3%)」、「加害(0.8%)」、「運動競技(0.8%)」、「自損行為(0.5%)」、「労働災害(0.7%)」、「火災(0.1%)」、「水難事故(0.1%)」、「自然災害(0.0%)」に種別される。このうち、「一般負傷」、「運動競技」、「労働災害」、「水難事故」、「自然災害」に該当するものを「日常生活事故」とし、「交通事故」は含まない。
  • 注68:東京消防庁「救急活動の現況」(2016年)
  • 注69:救急搬送データでは「初診時所見程度」とされている。「死亡」:初診時死亡が確認されたもの、「重篤」:生命の危険が切迫しているもの、「重症」:生命の危険が強いと認められたもの、「中等症」:生命の危険はないが入院を要するもの、「軽症」:軽易で入院を要しないもの。
  • 注70:「落ちる」:倒れた際に高低差の移動を伴って受傷したもの、「ころぶ」:倒れた際に高低差の移動を伴わず受傷したもの、「ものがつまる等」:食品又は、食品以外のものを飲み込んで受傷したもの(目・耳・鼻へ異物が入ったものを含む)、「ぶつかる」:人と人、人と物との衝突により受傷したもの、「はさむ・はさまれる」:物体間又は物体内に挟まれたもの、「やけど」:高温の液体、気体等により受傷したもの、「切る・刺さる」:刃物や鋭利物等により受傷したもの、「かまれる・刺される」:動物や虫などにかまれた、刺された等により受傷したもの、「おぼれる」:浴槽、プール、河川等で溺れたもの

担当:参事官(調査研究・国際担当)