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第1部 第2章 第1節 子どもの事故を社会全体で防ぐ

第1部 消費者問題の動向と消費者意識・行動

第2章 【特集】子どもの事故防止に向けて

第1節 子どもの事故を社会全体で防ぐ

子どもの死因の上位は、「不慮の事故」

日本の子ども(以下本章では特に断りが層のいずれでも4位以内に入っていますない限り14歳以下を指す。)の死亡について、厚生労働省「人口動態統計(注61)」により、子どもの死因の上位は、「不慮の病気を含む全ての死因別の上位をみると、事故」「不慮の事故(注62)」は14歳以下の四つの年齢層のいずれでも4位以内に入っています(図表I-2-1-1)。

「不慮の事故」による死亡数は、「0歳」で73人、「1-4歳」で85人、「5-9歳」で68人、「10-14歳」で66人と、合わせて2016年に292人の命が失われています。「1-4歳」、「5-9歳」、「10-14歳」のそれぞれの年齢層について、死因の1割を超えており、「0歳」では3.8%であるものの年齢ごとの死亡数としては最も多くなっています。

各年齢層における死因1位の「先天奇形、変形及び染色体異常」や「悪性新生物」に比べれば、「不慮の事故」は対策を講じることによって発生のリスクを軽減することが可能です。子どもの死亡を防ぐためには、事故を防止することが重要です。

子どもの「不慮の事故(交通事故、自然災害を除く)」による死亡数は、長期的には大幅に減少

子どもの「不慮の事故(交通事故、自然災害(注63)を除く)」による死亡数の長期的な推移をみると、1980年の2,545人から減少傾向にあり、2015年には247人と35年間で10分の1以下と大幅に減少しています(図表I-2-1-2)。

減少の要因を把握するため、2016年とその20年前である1996年について、子どもの「不慮の事故(交通事故、自然災害を除く)」の死因内訳をみてみます。子どもの「不慮の事故(交通事故、自然災害を除く)」による死亡数は1996年の826人から2016年の198人へと20年間で4分の1以下に減少しています(図表I-2-1-3)。死因別(注64)でみると、全ての項目で減少しており、特に減少数が多いのは「溺水」、「窒息」で、それぞれ211人、206人減少しています。1996年の死亡数は死因によって大きく異なるため、どの程度減少したのかを1996年からの減少率でみてみます。全体の減少率が76.0%であるのに対し、最も減少率が小さい「窒息」でも68.7%と、どの死因も6割以上減少しており、死亡数全体の減少は特定の要因によるものではないと考えられます。この間の医療技術の進歩や、製品の改善、子どもの生活環境の改善等が、事故の発生を抑制したと推測されます。

2016年の「不慮の事故(交通事故、自然災害を除く)」の死因内訳について年齢層別にみると、「0歳」では「窒息」が約9割を占めています(図表I-2-1-4)。1歳以上では、「溺水」の割合が最も大きく、「1-4歳」で45.6%、「5-9歳」で52.9%、「10-14歳」で52.6%と、約半数を占めています。このように、年齢層によって大きい割合を占める死因が変化することから、年齢層別に分析を行うことが重要と考えられます。

国際的には、OECD諸国平均程度

子どもの死亡数を国際的にみると、単純な比較はできませんが、WHO「Global Health Observatory data repository」によれば、2016年のOECD加盟各国の5歳未満の人口1,000人当たりの死亡数は、日本は2.7人であり、少ない方から6番目です。(図表I-2-1-5)。

子どもの日常生活事故による救急搬送人員数は増加傾向

事故には、死亡には至らない場合でも、危害の程度は重いものがあります。死亡以外の事故についても傾向を把握するため、東京消防庁「救急搬送データ」により、子どもの日常生活事故(注65)による救急搬送人員数の推移をみると、2012年の14,007人から2016年の15,706人(2012年比12.1%増)へと増加しています(図表I-2-1-6)。

なお、この間65歳以上の日常生活事故による救急搬送人員数も増加(2012年5万9401人、2016年7万2198人)していますが、15歳から64歳までの年齢層では減少(2012年4万5906人、2016年4万4021人)しています。これらの傾向は人口当たりの人数に換算しても変わりません。

救急搬送の人員数には、発生した事故について救急搬送を要請するかどうかが影響し、また、救急隊数が増加(2012年233隊、2016年251隊)していることや、データが東京消防庁の管内に限られていること等を考慮する必要がありますが、不慮の事故による死亡数が大幅に減少している一方で、子どもの周囲にいる大人が救急搬送を要請するような日常生活における事故は増加傾向にあります。子どもの事故を防ぐために、一層の取組が必要とされています。

子どもの事故を社会で防ぐ

子どもが事故に遭った時に、往々にして、保護者の責任が全てであるかにように受け取られ、保護者も自身の責任と感じ、事故の原因究明がうやむやになってしまうことがあります。しかし、事業者が安全な製品を供給していたら、行政が適切に安全の基準を設けていたら、保護者に事故の危険性やそれを防ぐ方法を伝えていたら、事故は起きなかったかもしれません。事故は、保護者だけでなく、社会全体で防ぐものです。

子どもの事故防止に向けて行うべきは、事故情報を収集し、類似の事故が起きないように幅広く注意喚起を実施することです。同時に、事故情報の内容について分析し、原因究明を行い、事故が再び起きないよう、改善できることは何か、どのような手段が有効か、更には関係者で連携を図る等、対策を考えることです。そして、対策を実行に移し、その効果について検証するということが、社会全体での事故防止への仕組みにつながります(図表I-2-1-7)。

改善できるもの、又は手段としての要素は、安全に配慮した製品の普及や家庭内等の「環境」、保護者や子ども本人、保育士等周囲に対する「教育」、行政機関による「法(基準)整備」と言われています。


  • 注61:戸籍法(昭和22年法律第224号)等に基づく出生、死亡、婚姻、離婚及び死産を対象とした全数調査により作成される統計。2016年は日本における死亡の総数が約131万人。全年齢での死因は「悪性新生物」、「心疾患」、「肺炎」の三つで5割を超え、「不慮の事故」は約3%。不慮の事故とは、例えば、階段からの転落や浴槽内での溺死、食品の誤えんによる窒息、火災での死亡、交通事故等が含まれる。
  • 注62:厚生労働省「人口動態統計」(2016年)で死因基本分類がV01~X59のもの。交通事故、転倒・転落、窒息などによる死亡が含まれる。
  • 注63:厚生労働省「人口動態統計」では「自然の力への曝露(X30~X39)」であるが、ここでは「自然災害」とした。
  • 注64:厚生労働省「人口動態統計」の死因基本分類表からここでは、「転倒・転落」:(転倒・転落)、「機械的な力への暴露」:(生物によらない機械的な力への曝露)、(生物による機械的な力への曝露)、「溺水」:(不慮の溺死及び溺水)、「窒息」:(その他の不慮の窒息)、「火災」:(煙,火及び火炎への曝露)、「その他」:(電流,放射線並びに極端な気温及び気圧への曝露)、(熱及び高温物質との接触)、(有毒動植物との接触)、(有害物質による不慮の中毒及び有害物質への曝露)、(無理ながんばり,旅行及び欠乏状態)、(その他及び詳細不明の要因への不慮の曝露)、とした。
  • 注65:救急事故のうち、運動競技事故、自然災害事故、水難事故、労働災害事故、一般負傷に該当するものをいう。

担当:参事官(調査研究・国際担当)