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「誰一人取り残されない」社会の実現を目指し、持続可能な世界を構築するために、2015年9月に国連で、2030年までの国際目標として持続可能な開発目標(SDGs)が採択されました。SDGsは発展途上国のみならず、先進国も取り組むものであり、全ての関係者の役割を重視しています。日本政府は、「持続可能で強靱、そして誰一人取り残さない、経済、社会、環境の統合的向上が実現された未来への先駆者を目指す」ことをビジョンとして、2016年12月に「SDGs実施指針」を策定するなど、積極的に取り組んでいます。

SDGsのビジョンは、消費者行政が目指すものに通じます。消費者を取り巻く環境は、少子高齢化が一層進行し、情報化が著しく進展していること等により変化しており、これに伴い消費生活や消費行動、消費者トラブルや消費者被害の内容も変化しています。これらの変化に、消費者行政として適切に対応していくために、経済、社会、環境といった持続可能な社会の構築に向けた要素を考慮した上で、消費者行政の実施体制を充実・強化し、また、整備してきた制度を積極的に活用するなど、消費者の利益の擁護・増進を図ることが必要です。その際、消費者トラブルや消費者被害に遭った消費者に寄り添いながら、相談、被害回復、拡大・再発防止等に取り組むことが重要です。

2018年の消費者月間のテーマは、「ともに築こう豊かな消費社会~誰一人取り残さない~」です。消費者庁は、安全・安心で豊かな社会の実現に向けた取組を通じて、SDGsの達成に寄与します。また、こうした社会の実現に向けては、行政のみならず、消費者、事業者といった様々な主体がそれぞれの役割について考え、行動することが重要です。

「消費者政策の実施の状況」は、2012年の消費者基本法改正を受けて2013年度から作成・報告しており、今回が6回目の報告です。併せて、消費者安全法の規定に基づく「消費者事故等に関する情報の集約及び分析の取りまとめの結果の報告」を行っています。

第1部「消費者問題の動向と消費者意識・行動」では、第1章「消費者事故等に関する情報の集約及び分析の取りまとめ結果等」において、消費者安全法の規定に基づいて消費者庁に通知された消費者事故等を始めとした事故情報等や、全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談情報に基づく、消費者被害・トラブルの状況、さらに消費者被害・トラブル額の推計等について取り上げています。

消費者安全法の規定に基づき2017年度に消費者庁に通知された消費者事故等は、1万952件です。生命身体事故等については、重大事故等が1,280件であり、通知を端緒に歩行型除雪機による事故について注意喚起を実施しています。財産事案については、消費者安全法の規定に基づき、有名な組織等をかたる手口等について事業者名公表の注意喚起を実施しています。消費者庁には、この消費者安全法の規定に基づく通知に加えて、様々な機関からの事故情報等が集約されています。集約された情報を活用し、2017年度には、ゆたんぽによる事故、ライターの残り火等による事故、女性ホルモン様作用のある物質を含んだ健康食品による危害等について、注意喚起を実施しました。

2017年に全国各地の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談件数は、91.1万件と、前年(89.1万件)を上回り、依然として高水準です。2017年は、法務省等をかたる架空請求のはがきに関する相談が多数寄せられました。また、近年の傾向として、デジタルコンテンツやインターネット接続回線等、情報通信に関連するトラブルの相談が24.7万件と突出しており、相談全体の約3割を占めています。インターネットが消費者の生活に一層浸透し、特にスマートフォンの普及により、高齢者を含めた幅広い年齢層で、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じたコミュニケーション、インターネット通販の利用、インターネットを利用した個人間売買等が行われるようになりました。これに伴って、関連するトラブルの相談が増加します。また、仮想通貨に関するトラブルや、高齢者を中心に、不要品を整理・処分しようとした際の訪問購入によるトラブル、かつて原野商法の被害に遭った者が所有している土地の売却に関する二次被害に遭う等のトラブルが目立っています。

消費者庁「消費者意識基本調査」(2017年度)によると、この1年間に何らかの消費者被害・トラブルを受けた経験があると回答した消費者の割合は、9.5%です。このような調査結果を活用して、消費者被害・トラブル額を推計したところ、「既支払額(信用供与を含む。)」ベースで約5.3兆円となりました。

第2章では、特集のテーマとして「子どもの事故防止」を取り上げました。少子高齢化が進展する中で、未来を担う子どもたちが健やかに育っていくことは、社会全体の願いです。子どもが事故により亡くなるという状況は年々減少していますが、子どもの死因の中では、いまだに上位を占めます。子どもの事故防止に向けては、更なる取組を進めていく必要があります。

子どもは小さな大人ではありません。子どもの事故には、発達段階に応じて、起こりやすい事故の傾向があります。0歳では、ベッドや抱っこひもからの「落ちる」、就寝時の窒息といった事故、歩き出した1~3歳では、おぼつかない足取りから「ころぶ」、階段から「落ちる」、風呂で「おぼれる」、口に物を入れて「つまる」といった事故、走り回るようになった4~6歳では、「ころぶ」、「落ちる」といった事故、自分で行動できる範囲が広がる7~14歳では、高所から「落ちる」、海・河川などで「おぼれる」といった事故など、事故の内容は、子どもの運動機能、日々の過ごし方と関わりがあります。

大人にとっては思いもよらぬ行動であっても、子どもにとっては自然な行動であることがあり、子どもの事故の特徴等を理解することで、「想定外と認識されていた事故」を「予測できる事故」として、安全対策を講じ、事故のリスクを軽減することができます。このため、事故情報の収集・分析、原因究明、その結果を踏まえた、法令・規格等の整備・見直し、消費者への注意喚起等の対策を講じていく必要があります。

子どもの事故を始め、生命身体に関する事故情報は、前述のように、消費者安全法の規定に基づく通知、「事故情報データバンク」、医療機関ネットワーク事業等を通じて、様々な機関から消費者庁に集約されています。こうした事故情報等に基づき原因究明が行われ、消費者安全対策調査委員会では、例えば、玩具がどのように乳幼児の気道を閉塞するかといった気道閉塞のメカニズムを明らかにしています。

消費者が安全な商品・サービスを利用できるよう、法令や基準・規格により、製造・販売の規制や安全確保のための仕様等が定められています。これらは、子どもの事故の発生等に応じて、整備・見直しがされています。例えば、消費生活用製品安全法については、子どもの事故を踏まえ、ライターが規制対象品目に追加されました。また、乳児用ベッドについては、表記すべき使用上の注意事項が追加される等、安全運用基準の改正が行われました。規格についても整備・見直しが行われており、例えば、JIS(日本工業規格)では、子ども服のひも・フードについて、新たな規格が制定されました。また、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)では、子どもを傷害事故から守るための国際規格ISO/IEC Guide50等を基本規格として、乳幼児用製品の安全規格の体系を策定しました。事業者団体が、製品安全に関する自主基準を定め、適合する製品にマークを表示する取組もあります。

事業者においては、このような法令等に定められた安全基準を遵守して、製造・販売することが必要ですが、さらに、自らの創意工夫によって、より消費者のニーズに寄り添って、より安全な商品・サービスの開発・提供を行っています。こうした安全に配慮された優れた製品を、社会に普及・啓発させるために、民間団体による顕彰等の取組も行われています。

子どもの事故に関する情報、事故を防ぐための知識等についての消費者に対する周知や啓発活動は、国、地方公共団体、民間団体等により、様々な形で行われています。国では、関係府省庁が連携し、2017年度から、「子どもの事故防止週間」を設け、共通テーマを掲げて集中的に広報等を実施しています。地方公共団体では、子育てイベントでの啓発活動、出張講座、子育て支援者への講習、事故の教訓をいかした取組等がみられます。また、医療関係者等が、診療において集められた情報や専門知識を活用した情報発信等を行っている取組もあります。

こうした様々な情報提供は、子どもの月齢や年齢等、成長に合わせて実施されることで、より効果的になると考えられます。今後、新しい技術・サービスの開発等により、子ども一人一人の成長に合わせて、必要な情報が必要とされるタイミングで届けられるようになることが期待されます。

また、消費者庁「消費者意識基本調査」(2017年度)及び「子どもの事故防止調査」(2017年度・保護者アンケート)では、現在、子どもがいる人の方が、全体平均に比べて、また、母親の方が父親に比べて事故防止に関する認識が強いことが分かりました。母親は父親に比べて事故防止に関する情報源として、「行政」や「学校等」からの情報を利用している割合が高く、情報がどちらかといえば母親に届きやすくなっていると考えられます。母親だけではなく、父親、祖父母、地域の人が子育てを担うようになってきたことを踏まえると、より幅広い人に必要な情報を届けることが求められています。

子どもの事故防止について、保護者は「目を離さないでください」と言われがちです。しかし、子育てで多忙な時期に、常時、目を離さないでいることは事実上困難です。子どもの事故は保護者だけで防ぐのではなく、様々な関係者が、事故情報を収集、原因究明、対策の検討・実行、効果検証にそれぞれ取り組み、これらが社会全体として事故を防止する取組として有機的に機能することが求められます。取組は多岐にわたるため、関係者の連携を図っていくことが重要です。例えば、京都府亀岡市では、保育園に通う園児を対象として、地域の関係者で連携した包括的な取組を実施し、効果を上げています。

子どもを取り巻く生活環境、子どもの身の回りにある商品・サービスは、時代と共に変わります。これに応じて、子どもの事故の様態やリスクも変わります。子どもが安全・安心な社会で健やかに育つために、行政、事業者、保護者、保育関係者、医療関係者、地域社会等、子どもの安全に関わるあらゆる主体が当事者として、継続的に行動していくことが求められます。

第2部「消費者政策の実施の状況」は、消費者基本法の規定に基づき、政府の消費者政策の実施状況について報告するものです。

第1章では、消費者庁が取り組んだ最近の消費者行政の主要政策について紹介しています。2017年度には、特定商取引法の一部を改正する法律が施行されました。消費者団体訴訟制度の機能強化については、国民生活センター法等の一部を改正する法律が成立・施行されたほか、新たに、特定適格消費者団体として1団体、適格消費者団体として3団体を認定しています。また、景品表示法、特定商取引法、預託法については、厳正かつ適切に執行しています。食品表示制度については、2017年9月から全ての加工食品に原料原産地表示を導入する新たな表示制度を開始しました。消費者志向経営の取組については、2018年3月末時点で、78事業者が自主宣言を公表しています。地方消費者行政の一層の強化については、2018年度から、「地方消費者行政強化交付金」を創設し、これまでの消費生活相談体制の整備等と共に、国として取り組むべき重要消費者政策への取組を支援します。さらに、2017年7月には、「消費者行政新未来創造オフィス」を開設し、様々な分析・研究、実証実験等のプロジェクトを進めています。プロジェクトの一つとして、公益通報者保護制度については、徳島県及び県内市町村との連携による公益通報の受付窓口の整備を進めました。

第2章では、2017年度の消費者政策の実施状況について、消費者基本計画に規定された項目に沿って、消費者庁及び関係府省が分担執筆しており、消費者行政の各分野の取組を報告しています。本報告は、消費者基本計画の実施状況の検証・評価(フォローアップ)としての機能も兼ねています。

また、資料編として、消費者事故等の状況、消費者庁が行った法執行・行政処分・各種情報提供についても掲載しています。

担当:参事官(調査研究・国際担当)