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第2部 第1章 第6節(1)消費者裁判手続特例法の施行

第2部 消費者政策の実施の状況

第1章 消費者庁における主な消費者政策

第6節 消費者の被害救済、利益保護の枠組みの整備

(1)消費者裁判手続特例法の施行

●消費者裁判手続特例法の概要

消費者被害については、消費者と事業者との間の情報の質・量や交渉力の格差のため、消費者が自ら被害回復を図ることが難しく、多くの消費者が「泣き寝入り」をしてしまっている状況にあります。特に、訴訟制度を利用するには相応の費用や労力を要する上に、少額の請求となる場合が多いことから、個々の消費者が訴訟を提起することは困難です。

消費者裁判手続特例法は、このように「泣き寝入り」となりやすい消費者被害の回復を図るため、内閣総理大臣の認定を受けた特定適格消費者団体が、消費者に代わり、消費者被害の集団的な回復を図るための裁判手続を行うことができる制度を創設したものです。この法律は、2013年12月11日に公布され、2016年10月1日に施行されました。2016年12月27日には、特定非営利活動法人消費者機構日本が、第一号の特定適格消費者団体として認定されました。

●消費者裁判手続特例法における訴訟制度の概要

この制度では、二段階の手続により消費者被害の回復が図られます。1一段階目の手続(共通義務確認訴訟)では、特定適格消費者団体が原告となり、相当多数の消費者に生じた財産的被害について、事業者が金銭の支払義務を負うか否かを裁判所が判断します。2一段階目の手続で事業者の義務が認められた場合、二段階目の手続(対象債権の確定手続)が申し立てられ、個々の消費者が特定適格消費者団体に授権する形で加入して、簡易な手続でそれぞれの債権の有無や金額が迅速に決定されます。この決定に対して異議が申し立てられた場合には、通常の訴訟により債権の有無、額が判断されます(図表II-1-6-1)。

この制度では、消費者団体の専門的知識や交渉力を活用することができ、消費者は事業者に金銭の支払義務があることが確定してから手続に参加することができるので、消費者の負担は軽減されます。また、多数の消費者の被害回復を一つの手続で行うため、費用も低減されます。事業者にとっても、紛争を迅速にまとめて解決できるというメリットがあると考えられます。

●適格消費者団体・特定適格消費者団体に対する支援

消費者団体訴訟制度には、上記の特定適格消費者団体による被害回復制度に加え、適格消費者団体による差止請求制度があります。これは、事業者の不当な勧誘行為や不当な契約条項を含む契約の締結などについて適格消費者団体が差止請求をすることができるとする制度で、2007年に施行された消費者契約法の改正により導入されました。

このような消費者団体訴訟制度のより実効的な運用を実現するため、消費者庁では、2015年10月から2016年6月にかけて、「消費者団体訴訟制度の実効的な運用に資する支援の在り方に関する検討会」を開催し、情報面の支援、財政面の支援及び仮差押えの担保に係る措置を講ずる内容の取りまとめを行いました(図表II-1-6-2)。現在、その取りまとめに従い、特定適格消費者団体による仮差押えを国民生活センターがバックアップする仕組みを整備するため第193回国会において「独立行政法人国民生活センター法等の一部を改正する法律案」を提出するなど所要の取組を行っています。

また、消費者庁では、消費者裁判手続特例法に関して、消費者庁ウェブサイトで制度を分かりやすく解説する動画を配信しているほか、政府広報によるテレビ番組やラジオ番組の放送、パンフレットの配布等、様々な周知活動を行っています。消費者裁判手続特例法施行後間もない2016年11月に実施された「消費者意識基本調査」では、13.3%の人が、特定適格消費者団体や消費者団体訴訟制度について知っていると回答しました。

今後、消費者団体訴訟制度が消費者に活用され、消費者被害が適切に防止、回復されるよう、引き続き制度の実効的な運用及び周知活動に積極的に取り組む予定です。

【適格消費者団体・特定適格消費者団体とは】

適格消費者団体とは、不特定かつ多数の消費者の利益のために、消費者契約法の規定による差止請求権を行使するのに必要な適格性を有する法人である消費者団体として、内閣総理大臣の認定を受けた者をいいます。2017年4月末時点で、全国に15団体が認定されており、今後も各地に設立されていくことが期待されます。

特定適格消費者団体とは、適格消費者団体の中から、消費者裁判手続特例法の被害回復裁判手続を行うのに必要な適格性を有する法人であるとして、内閣総理大臣の認定を受けた者をいいます。特定適格消費者団体として認定されるためには、適格消費者団体であることに加え、被害回復関係業務を適正に遂行できる体制や経理的基礎を有していることなど新たな要件を満たす必要があります。

図表II-1-6-1二段階型の訴訟制度

図表II-1-6-2「消費者団体訴訟制度の実効的な運用に資する支援の在り方に関する検討会」報告書概要(2016年6月公表)

担当:参事官(調査研究・国際担当)