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第2部 第1章 第5節(4)公益通報者保護

第2部 消費者政策の実施の状況

第1章 消費者庁における主な消費者政策

第5節 消費者が主役となって選択・行動できる社会の形成

(4)公益通報者保護

●制度の実効性の向上のための取組

食品偽装やリコール隠し等、消費者の安全・安心を損なう企業不祥事が、事業者の内部からの通報を契機として相次いで明らかになったことから、通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産の保護に係る法令の遵守を図り、国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的として、公益通報者保護法が制定されました(2004年6月公布、2006年4月施行)(図表II-1-5-10)。

その後、大企業等を中心に内部通報制度の整備が進み、各事業者におけるコンプライアンス経営等の取組が強化されるなど、一定の成果は上がってきましたが、中小企業等における制度の整備状況や労働者等における法の認知度はいまだ不十分であるほか、近年においても、企業の内部通報制度が機能せず、国民生活の安全・安心を損なう不祥事に発展した事例や、通報を受けた行政機関において不適切な対応が行われた事例が発生するなど、公益通報者保護制度の実効性の向上を図ることが重要な課題となっています。

これらを背景として、消費者庁では2015年6月から「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」(以下「公益通報検討会」といいます。)を開催し、制度の見直しを含む実効性の向上に必要な措置について、各界の有識者による検討を行ってきました。この結果、まず、2016年3月には公益通報検討会の第1次報告書が取りまとめられ、民間事業者の更なる取組を促進するためのガイドラインの改正やインセンティブ(認証制度、公共調達での評価)の導入、国の行政機関向けガイドラインの改正や地方公共団体向けガイドラインの策定等が提言されるとともに、通報者の範囲、通報対象事実の範囲など制度的な手当てが必要な事項については、更に専門的観点からより精緻な検討を行うことが必要との指摘がなされました。これを受け、公益通報検討会の下に設置したワーキング・グループにおいて法改正に係る各論点についての検討が行われ、2016年11月に法改正の方向性や課題を示したワーキング・グループ報告書が取りまとめられました。第1次報告書及びワーキング・グループ報告書を踏まえて、公益通報検討会において今後の取組の方向性等について改めて審議を行った結果、2016年12月に最終報告書が取りまとめられました(図表II-1-5-11)。

消費者庁は、最終報告書における提言を踏まえ、各種ガイドラインの改正・策定やその推進、民間事業者に対するインセンティブ(実効性の高い内部通報制度を整備・運用する民間事業者を評価・認証する制度)の導入等、制度の運用改善を図るための取組を進めるとともに、法改正が必要な事項については、最終報告書の提言内容を広く周知して法改正に向けた議論を喚起して、各関係団体や国民からの意見の集約を図り、この結果等を十分に踏まえた上で、法改正の内容を具体化するための検討を進めていくこととしています。

●内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン等の改正について

事業者において適切な内部通報制度の整備・運用が進むことは、組織の自浄作用の向上やコンプライアンス経営の推進に寄与するほか、消費者を始めとするステークホルダーからの信頼獲得に資するなど、事業者自身の利益や企業価値の向上につながるものです。また、これにより、安全・安心な商品・サービスが提供され、国民生活の向上にも資するなど、社会経済全体の利益を図る上でも有用と考えられます。

実際に、2016年度に消費者庁が行った調査(注7)によれば、事業者における不正発見の端緒として内部通報を挙げる割合は内部監査等を上回って一番多くなっているほか、内部通報制度導入の効果として、違法行為の抑止や自浄作用による違法行為の是正等を挙げる事業者の割合が高くなっています(図表II-1-5-12)。また、消費者・事業者・労働者のいずれの主体も、自らと関係を有する事業者の内部通報制度の実効性に高い関心を有していることが明らかになっています(図表II-1-5-13)。

他方、同調査からは、勤務先の不正を知った場合の最初の通報先として、勤務先以外(行政機関、報道機関等)を選択すると回答した労働者の割合が半数近くに上ることも明らかになっており、その理由としては、「通報しても十分対応してくれない」、「不利益を受けるおそれがある」等が多く挙げられています(図表II-1-5-14)。これは、勤務先の内部通報制度に対する従業員の信頼度は必ずしも高いものとはなっておらず、制度の実効性の面に課題があることを示唆しています。

消費者庁では、これまでも事業者が内部からの通報に適切に対応するための指針として「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン」の普及・促進に努めてきましたが、以上の調査結果にも示されるような状況を踏まえ、同ガイドラインの改正案の作成を進め、パブリックコメント手続等を経て、2016年12月に改正ガイドライン(「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」)を公表しました。

改正ガイドラインは、公益通報検討会の第1次報告書における提言を踏まえ、「1通報者の視点」、「2経営者の視点」、「3中小事業者の視点」、「4国民・消費者の視点」の4つの視点から従来のガイドラインの大幅な見直し・拡充を行い、内部通報制度の実効性の向上に向け、事業者が自主的に取り組むことが推奨される事項を具体化・明確化したものとなっています(図表II-1-5-15)。

消費者庁は、改正ガイドライン公表後、民間事業者向け説明会を実施するなど、その周知・広報に努めているところですが、引き続き、各事業者において改正ガイドラインを踏まえた内部通報制度の整備・改善を進めていただくよう、積極的に働き掛けを行っていくこととしています。

また、国の行政機関における通報対応の実効性の向上を図るため、国の行政機関向けガイドライン(「公益通報者保護法を踏まえた国の行政機関の通報対応に関するガイドライン」(内部の職員等からの通報及び外部の労働者等からの通報))を、関係省庁の申合わせにより2017年3月に改正しました。これにより、通報対応状況に関する通報者への通知、通報者や通報受付範囲の拡大、調査方法の改善、通報に係る秘密保護、通報対応の仕組みについての職員への周知・研修、通報対応の仕組みの評価・改善等の面において、国の行政機関における更なる取組の推進を図ることとしています(図表II-1-5-16)。


  • (注7)消費者庁「労働者における公益通報者保護制度に関する意識等のインターネット調査」(2016年度)、「民間事業者における内部通報制度の実態調査」(2016年度)。

担当:参事官(調査研究・国際担当)